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26.翻訳生活


どうも、アンズです。

本日も図書室よりお送りしております。


ええ、私はお城の図書室司書、今日も今日とて、司書として働いてる、、、筈なんですが、、、、


「アンズ殿!」

カウンターから奥まで通る、明るい声。

カサンディオ団長の低い声も素敵だけれども、こちらの声も中々良いですね。

ええ、良いお声なんですけどねー。


私は目録のチェックの手を止めて、カウンターへと顔を出した。

そこに立っているのは、いかにもやり手という雰囲気のイケオジで、外交官のユウキ・ハンク副長官だ。


「アンズ殿、いらっしゃって良かった」

ハンク副長官は甘やかな笑顔でにっこりされる。


「ハンク副長官、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「本日もアンズ殿は美しい」

これはこの人の挨拶みたいなものなので、もちろんスルーだ。


「ありがとうございます、それでご用件は」

「手紙の翻訳を頼みたい」

「でしょうね、マダト族のですか?」

「ああ、調整が大詰めでね、このやり取りの後、現地に行けそうなんだ。アンズ殿のおかげで今回のやり取りは実にスムーズだった。少数民族の言葉はお手上げなものがほとんどだからね、どうだろう?是非、現地にも」


「それは、お断りします、現地になら、通訳もいらっしゃるんでしょう?私の言葉まで通じるかは不明ですしね」

「残念だなあ、まあ、口説き落とすのは次回にしよう。ではこちらを、出来れば夕方までに」

「夕方かあ、、、」

「アンズ殿なら、昼まででも出来そうだがね」

手紙の束を渡され、ばちん☆とウインクを残してハンク副長官は去っていく。


私はその後ろ姿を見送ってから、奥の作業室に戻る。


「聞こえてましたよ、目録は私が引き継ぐので、アンズさんはお手紙の翻訳をしてあげてくださいね」

へラルドさんが、すいっと私の行っていた目録チェックを手に取った。


「すみません、最近はこんなんばっかりですね」

「大丈夫です、そもそも、私が困ってるハンク副長官にアンズさんの事を伝えてしまったのですからね」

「それにしても図々しくないですかね」

「外交官は図々しくないとやってけないですしねえ、ああ見えて、アンズさんにはとても感謝しているようでしたよ」

「どうでしょうね、では、翻訳にかかりますね」

私は腕まくりをして、ペンを手に取る。

翻訳、というか私に取っては、書き写し、なので多分、昼過ぎには終わるだろう。


むん!


こんな感じで、最近は図書室に居ながら、ひたすらマダト族の手紙を書き写している。もちろん、返事も私が書く。


マダト族は北部の森林に住む少数民族で、ハンク副長官は近々そこへ、その集落近くの鉱石の採取の事で視察と交渉に行くらしく、手紙で日程調整や、現地からの要望の調整、その他諸々のやり取りをしているのだ。


因みに、本当に因みに、ハンク副長官の奥様は、侍女長さんである。


ひょっとして、“爬虫類の食べ方について”は、マダト族の集落に出立されるハンク副長官の為に借りたのかしら?

あちらでは、コウモリやカエル、ヘビを食べるらしいし、、、、

やだ、ラブラブね、、、もう、やだやだ、お熱いわ。

なんて1人で楽しむ。



図書室司書として働く日は、マダト族の手紙を翻訳し、古代魔法及び歴史研究室助手(助手になりましたのよ)として働く日も、魔法文字を翻訳して、、、、と翻訳ずくめの毎日だ。


研究室助手(長いから、これからは省略形で)の方は、イオさんの眩しさにも慣れ、最近は調子がいい。


イオさんが第三王子と分かった時には、どうなる事かと思ったけれど、笑顔が眩しい以外は古代人に異様な憧れと執着のある変な人なので、大丈夫だった。

後から知ったけど、図書室には、たまに来てたようで、へラルドさん始め、わりと経験のある司書の皆さんとは少ーしだけ親しい仲でもあった。

スミスくんも「あの方、王子っぽくないんです、僕もイオさんって呼んでます」と言っていた。


犯行声明文を読むのは相変わらず大変だが、古代の生活は前の世界での、ザ・スローライフみたいな生活で結構素敵。読んでて、じわじわくる。

昨日、読んだのは梅干のような物を丁寧に作っている所で、思わず生唾が出てしまった。


そこには、隠された魔法の真髄とか、失われた伝説の魔法の知識、なんてものはない。

暮らしのための最低限の魔法を使い、手間をかけて生活する人々の日常がある。


なので、研究室ではイオさんと2人で、いつもただ、じわじわほっこりしている。

これ、仕事でいいのかなあ。


まあでもイオさんは、彼らの食生活を分析して、集落の人数を把握しようとしたり、獲物の傾向や気候から住んでた地域なんかを考察したり、とそれっぽい事も、もちろんやっている。


「アンズさんのお陰で作業が捗ります」と輝く笑顔で言ってくれて、油断してる時はその笑顔に未だに心臓を貫かれている不甲斐ない私だ。



おっと、マダト族に集中しなくては、本日の大詰めのお手紙には、集落に来る時に持って来て欲しい物が書いてある。

私はせっせと、それをこの国の言葉で書き写す。


「アンズさん、またマダト族の手紙ですか?」

スミスくんが、私の手元を見てやって来た。


「そうよ、今回はお土産に、良い馬が欲しいって書いてきてる」

「ちなみに、馬、はどれです?」

「馬は、ここ、これで、馬」

「へー、これで、馬かあ、、、、いいなあ、簡単に読めて、外交部門ではアンズさん、すっかり有名人みたいですよ」

「えっ、そうなの?」

「もちろんですよ、言語マスターなんて、外交からしたら夢のような話です」


スミスくんが言うには、水面下で私の引き抜きの話が出ているらしい。


「え、嫌だよ、司書がいいよ」

異世界で、異国にまでは行きたくない。


「それを、イオさんが止めてます」

「イオさんが?」

「外交部門なんか行ったら、忙しいですからね、出張も多いし、魔法文字の翻訳は出来なくなるでしょう?あの方、何と言っても王子ですからね、今回は苦手な権力の振りかざしをしているようです」

「おお」

「だから、アンズさんはきっとこのままだと思います」

「良かったー。イオさんの助手になってなかったら、今頃、ハンク副長官に拐われてたね、危なかった」


すごいぞ、イオさん。その辺はさすが王子だ。

今回は存分に権力を振りかざして欲しい。


「図書室としては、アンズさんに居て欲しいし、本当に良かったです」

「ふふふ、ありがとう、スミスくん」

ほっこり、にっこりする私。


昼過ぎには、ちゃんと翻訳作業は終わり、私は書き上がった手紙をハンク副長官へ届けた。




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