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24.とどまらないマスターの力

***


どうやら言語マスターらしい事が発覚し、スミスくんから羨望の眼差しで見られる中、私のマスターっぷりはとどまる事を知らなかった。

これでもか、これでもか、と持ってくるスミスくんの、ナンとか語、や、カンとか語、全て読めた。そして、聞き取れた。


「外交部門へ異動しますか?紹介状を書きますよ」

なんて、へラルドさんは驚きながら提案してくれたけれど、

「言葉は分かっても、こちらのマナーや常識が覚束ない私に外交は無理です」

と、素晴らしくまともな理由で私は辞退した。

外交なんて、責任重そうな所、絶対やだ。異世界人なんだぞ。


「どうしても、誰も読めない書状でも来たら、相談してください。読めるんだと思います。私はせっかく慣れてきた図書室がいいです」

「ははは、分かりました。でも図書室には勿体ない気もしますねえ。その気になれば、いつでも言ってくださいね」

へラルドさんは、まずはあっさり引き下がってくれて、ほっと胸を撫で下ろす。


そんな感じでその後も、時々、スミスくんの趣味に付き合う以外は変わらずな司書生活を送っている。


本日は久しぶりに、貸し出し中リストをじっくり見直し中だ。

お、カサンディオ団長の名前発見。

さすがだ、レディ達の確認行ったよチェックがめっちゃ多い。

この1ヶ月程は、遠征に行ってしまっているから空欄だけども。

お元気かしら?ちらっとあの時の笑顔が、頭に浮かぶ。


そしてロイ君は、野営での飯ごう炊飯、ちゃんと出来たかな。我が家では完璧に炊けてたけど、外となるとまた違うもんね。

上手に炊けてるといいなあ。


ああ、そうだ。

リサちゃんに、イン(米)の事、教えたいんだったなあ、、、、、。

飯ごう炊飯してるロイ君とリサちゃんが、出会ったりしてないかな。


などと、ぼんやりしながらリストをどんどん捲っていくと、前の方のページに1人で5冊も借りてる人が居た。

おまけに3年も借りっぱなしで、その間、一度も確認が成されていない。


何だこれ?


5冊借りっぱなしの人は、イオ、という名前で、所属は古代魔法及び歴史研究室となっている。

古代魔法及び歴史研究室、って何だ。お城の組織にそんな物あっただろうか。


ううむ、気になる、、、、、。

気になるけど、触っちゃいけない気もする、、、。

私はすぐにへラルドさんに確認してみた。


「ああ、それねえ、、、、そうだね、まあ特例ではあるんだけど、3年も確認してないのか、なら一度、所在確認はしておいた方がいいね」

「私が行ってきてもいいですか?」

「構わないよ、見てきた方が、納得出来るだろうしね」

「納得?」

「特例の理由がね」

「何だか、面白そうですね。では、行って参ります」


私はへラルドさんに、古代魔法及び歴史研究室、の場所を教えて貰い、リストを片手にそこへと向かった。




古代魔法及び歴史研究室、は騎士団の詰所の近くの棟の地下にあった。

地下と言っても、半地下なので、カツーン、カツーンと階段を降りたりはしない。たたたたっと4段ほどの階段をかけ降りればそこが、古代魔法及び歴史研究室、だ。


扉には、呼び鈴なんて不粋なものではなく、獅子を象った真鍮製のドアノッカーが鎮座している。

ううむ、さすがは、古代魔法及び歴史研究室。

それっぽい。


私は、カンカン、とドアノッカーを鳴らす。

「はい」

久しぶりに声を出したような掠れた声での返事があったので、「失礼します」と扉を開けた。


薄暗い半地下の部屋は、恐ろしく雑然と物が積まれていて、奥の机の小さな卓上ランプの元に、ぼさぼさの金髪で顔の大部分が隠れた、おそらく男性が座っていた。


「何のご用ですか?」

ぼさぼさがしゃべる。着ているシャツはよれよれで、金髪はくすんでいて、何となくだけど、お風呂、毎日入ってない気がする。


「図書室司書のアンズと申します。イオさんでよろしいでしょうか?」

「ええ、そうです」

「図書室の本の所在の確認で参りました」

「、、、、図書室の本?」


「お忘れですか?図書室の本を借りられてるんですよ。“狩りの記録”の①から③までと、“神殿での儀式”、“星座”です。貸し出し希望は全くないものばかりなので、返却までは求めませんが、本が実際にあるかは確認させていただきたいんです」


「、、、、、あぁ」

イオさんは、心底どうでも良さそうに相槌を打つ。

悪意は無さそうだ。根っからの研究者気質の方なのかもしれない。

古代魔法と、古代の歴史以外に興味ないんだ、たぶん、きっと。


「えーと、お手元にあるのが、“狩りの記録”①と②、ですね」

私がそう言うと、イオさんは、びくり、と体を強ばらせた。ぼさぼさ金髪の下の顔は驚愕していたのだが、私からは見えない。


「そして、その机の端に積んであるのが“星座”ですね、後は、、、」

ガターンッ、と大きな音をたてて、椅子が倒れる。

イオさんが勢いよく立ち上がったのだ。


「わっ、何です?む、虫ですか!?虫ですかね!?」

こんな雑然とした部屋で突然立ち上がるなんて、もう虫しか考えられないよね!?


虫だね!?


ざざざざざっと後ずさるが、物凄い速さでこちらに来たイオさんにがしっと手を掴まれて止められる。


そしてここ最近、散々スミスくんから聞いた言葉が、イオさんからも発せられた。

「読めるんですか!?」(くわっ)


虫ではなかったようだ。


「あー、はい、読めるんだと思いますよ」

はいはい、読めますよー。

このくだりもスミスくんと散々やったので、慣れっこだ。


「そんなっ、嘘だ!」

「うーん、なら、嘘でいいです」

これは、ややこしいヤツだな、と直感して私はそう返す。


「嘘だ!読んでたじゃないか!」

えー?


「あの、、、まず、手が痛いです」

そう伝えると、イオさんは、はっとして手を離してくれた。


「すみません、取り乱しました。、、、、あなた、その黒い瞳、、、、」

「はい、聖女の従者のアンズです」

「お噂は少しお聞きしてます、アンズさんですね。、、、、、すみませんが、これ、読めますか?」

イオさんは、“狩りの記録”②の最初のページを開ける。


「、、、えーと、“本日の獲物は、うさぎ?かな?、、、兎1匹と鹿1匹です”」

ずいぶん読みにくかったが、何とか読めた。


「読めてる、信じられない」

「でも、すごく読みにくいですよ、これは一体何ですか?」

そう、とても読みにくい。

読もうとすると、カタカナと平仮名と当て字の漢字がごちゃ混ぜになって見えるのだ。

句読点や前後の音から、文を組み立てる必要があって、非常に読みづらい。


「これは、古代の魔法文字です。見るたびに文字の配置が変わるんです。配置のパターンはおそらく10通りくらいあって、私は一行読むだけでも至難の技です」

「何ですか、それ、読めないものが本になってるんですか?」

「古代の人々は、読む、というより、見て、いたんだろうというのが、私の推察です」

「へえぇ」

うん、へえぇ、しかない。


「やはり、読めるんですね」

ここでまた私の手が、ぎゅうっと握られる。


「そのようですね」

「何ということだ!私が1ヶ月かかった一行を、あなたは一瞬でっ、、、、」

ぎゅううっと、イオさんの手に力がはいる。


「私はあなたがとても憎いです!とても!!

そして、私は、あなたが欲しい!!」


「、、、、、」




「、、、、、人妻ですので」

私は、そっとイオさんの手を振り払った。




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― 新着の感想 ―
人妻の肩書き便利やな!笑
[一言] 正直、こんなに人妻であることが防御になってるやつ初めて見たわ笑
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