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【書籍化】異世界に聖女として召喚されましたが、私はただのアラサー女です   作者: ユタニ


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22.名案とイケメンの笑顔

***


そうだ、室内案内図作ろ。


外廊下を歩きながら、私は、はた、と膝を打つ。



ごきげんよう、アンズです。

図書室受付の実態を聞いて、へラルドさんより受付から外してもらって2週間ほど経ち、図書室では主に返却された本や、閲覧後まとめて受付に返される本をパタパタと棚に戻しております。


お城に居た頃は図書室に入り浸っていたので、棚や本の配置は把握済みで、滞りなく業務にあたっていますわよ。へラルドさんからも、「仕事、早いねえ、来てもらって本当に良かった」とお褒めいただき、燃えてる私。

もう少ししたら、目録の作成や、見直しについても教えてもらう予定だ。


そんな中、少し頭を悩ませているのが、作業中に本の場所を聞かれたり、本が変な場所に戻されている事だ。

もちろん、場所を教え、正しい位置に戻すのは私の仕事。


ええ、歴とした、私の仕事だ。


仕事なんだけれども、、、、その数が多い。


「地図を探してるんですが、、、、」

「魔法関係ってどこですか、、、、」

「過去の貴族年鑑を、、、、」

「北の地方の家庭料理を調べたくて、、、」


どしどしと掛けられる声、そして、ありとあらゆる場所に何となーく戻された本達。


だあっっ、多いわ。

ってなる。

それくらい、多い。


室内をウロウロしている私は、もちろん声を掛けやすく、とにかく、お声がかかる。

そういや、短い受付人生でも、本の場所は皆聞いてきてたな、と思う。受付が6人も居たから気にならなかったんだ。


そして、声を掛けてくる人の中には

「受付でも聞いたんだけど、分からないって言われて、、、」

「受付の方もさっき一緒に探してくれたんですけど、見つけられなくて、、、」


なんて方々もおられる。


本の位置くらい把握しろや、、、、。

私は、ギンッと受付を睨む。


まあ、そんな感じで、とにかくご案内業務で作業を中断させられる事が多い。

いちいち手を止めて、案内するのは、仕事なんだけど!仕事なんだけども!ストレスだ。



今日は気分転換にと、侍女長さんへの本の返却催促に向かいながら、私は最近のこれらのストレスの解決法について考えていた。


ところで、なぜ、私が侍女長さんへの催促に行ってるのか、というと、受付のレディ達は、侍女長さんの所へはもちろん行かないからだ。

侍女長さんのお部屋、そこに殿方との出会いは、ない。

出会いがない所へは、受付レディ達は行かない。

貸し出し中リストの、侍女長さんへの確認と催促のチェック欄にずっとチェックがないので、なら、私が行くか、と思ってフラフラと図書室を出てきてみた次第だ。


もちろん、ラッキーローズ(ローズと偶然ばったり会う事)を狙っての下心はありありですよ。


そうして、残念ながらラッキーローズはなかったけど、侍女長さんよりご本を返していただいての帰り道で、私は膝を打ったのだ。


そうだ、室内案内図作ろ。


である。

思い付いてみると、何で、案内図ないんだろう、と不思議に思う。変に魔法なんかが存在してるから、作業の効率化に目が向かないのかな。

まあいいや、案内図、早急に作ろう。立て看板と、手元で見れる紙のやつと作ろう。

ついでに本棚に数字も打とう。あのどっしりした素敵な本棚、全部一緒で何の印もないから見分けがつかないんだよ。

大まかなジャンルの案内板も作ったら良くない?

うん、そうしよう。戻ったら早速へラルドさんに相談しよう。よし!


そんな風に私が自分の名案に勢いづいていると、後ろから声が掛かった。


「こんな所で、何してるんだ?」

お、この声、知ってるよ。本日も良いお声だ。


「こんにちは、カサンディオ団長。侍女長さんへ本の返却催促に行った帰りです」

私は振り向いてにっこりする。


背後にいらっしゃった、本日もドンピシャ好みのカサンディオ団長は、すぐに険しいお顔になった。

「それは受付の仕事だろう?図書室長へは、あんたは受付から外すように言ったんだが」


「外してもらってますよ。でも、侍女長さんには催促、全然行ってないみたいだったので、気分転換にやって来ました」

「ほう、、、」


そして、私はカサンディオ団長と何となく並んで歩く。


、、、、、、おや?

なぜ並んで歩いてるんだ?


「カサンディオ団長は図書室にご用ですか?」

「いや。、、、その本、俺が持とう」

図書室へのご用は否定したけど、カサンディオ団長はそう言うと、私の持つ本へと手を伸ばした。


「えっ、あ、いや、分厚いけど1冊だけですし、いいです」

断るけれども、ひょいっと取られる。


おっと、これは、まさか、あれですか?「これで、用事が出来たな?」(ニヤリ)的なやつですか?

王子様風にするなら「これで、用事が出来たね?」(ニッコリ)ですね。


「、、、、“爬虫類の食べ方について”すごい本だな」

私から取った本を見て、驚くカサンディオ団長。

あ、タイトル気になった感じでしたね。


分かりますよ、私も侍女長さんからこちらを受け取った時は3度見くらいしました。


「ええ、詳細な図解付きです」

「読んだのか?」

「タイトルが気になって、廊下でぱらぱらっと見ただけですけど、中々、興味深くはありました」


カサンディオ団長もぱらぱらっと”爬虫類の食べ方について“を捲る。

そこには、けっこうリアルな爬虫類達の姿が描かれ、さばき方まで図解されている。

人によっては、本を落とすレベルのリアルさだと思う。私は、虫はダメだけど、爬虫類はいけるから平気だ。


「これを、侍女長が、、、、」


「ええ、、、絶対に、、、秘密ですよ」


信じられないな、というようにカサンディオ団長が言うので、私が殊更重々しく、顔までそれっぽくしっかり作ってそう返すと、カサンディオ団長は、ふっと笑った。


おっと、その、笑顔、すごく良いですね。

笑顔、初めてかも。あんまり笑わないもんね。


私もつられて笑う。

そして、何だろう、イケメンの笑顔をいただいたからか、ちょっとふわふわしながらカサンディオ団長と図書室へと向かう。


「あ、そういえば、明後日より聖女様の遠征に合流するんですよね?」

ふわふわしながら、思い出してそう聞く。


第一騎士団は明後日、聖女リサちゃんの瘴気を払う遠征に合流すべく、出立する予定なのだ。

我が家では、ロイ君がパタパタと準備をしている。


「その予定だ」

「うちのロイ君と聖女様をよろしくお願いしますね、あ、もちろん、カサンディオ団長もお気を付けて行ってきてください」

そう伝えると、今度は微笑まれた。

本日はこの人、よく笑うわ。


カサンディオ団長は、微笑みながら「ああ」と言い、そこで図書室に着いたので、いつものごとく「じゃあな」とすたすたと去っていった。


私の手元に、“爬虫類の食べ方について”を残して。





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