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21.私がもったいない

***


図書室司書、、、、ヒマ。

図書室司書生活2日目にして、私は受付カウンターに顎を乗せてふて腐れていた。


いや、仕事はあるのだ。仕事はね。

まず受付、入口すぐのカウンターに前の世界と同じように受付があって、ここで来室者の受付や、探してる本の案内なんかをする。


受付では本の返却と貸し出しも行う。でもここで違うのは、こちらでは本が高価なので(感覚的には前の世界の10~20倍くらい)、本を借りれるのは文官や高位の侍女、任務で必要となる騎士だけで、借りれる冊数も原則2冊まで、といろいろ制限がある事だ。

なのでこの返却、貸し出し業務はけっこう少ない。

ここまでが受付の主な仕事。


そして、返却された本の戻しや、本の補修作業、見回りしての棚の整理や、目録の見直し、新しく購入する本の検討とその為の予算入手、その他いろいろの裏方作業、、、、をする奥の作業室での仕事がある。


私がへラルドさんからお願いされたのは、受付だった。

ここが、ヒマだ。


受付って、なぜか常時6人も居る。

でも、前の世界の図書室受付のメインであるはずの返却貸し出しは少ない。

だから、そのほとんどの時間を座って過ごす。


えー、ヒマ。

奥をチラリ、と覗くとパタパタ黙々と忙しそうだ。

顔を戻して、受付カウンターを見る。こちらに座っているのは、若いレディ達ばかりだ。

司書の制服は着ているけれど、あら?髪型とか、お化粧とか、がかなり華やかなような、、、、。

来室者があればにっこり微笑んで、その方にお探しの本なんかがあれば、優雅に立ち上がって雑談しながらご案内する。


来室者が見目麗しい男性の場合、受付はにわかに殺気だつ。

カーン!とゴングの空耳まで聞こえるくらい殺気だつ。皆さんの微笑みには力が入る。


逆に、経験豊富な侍女長さんなんかがお越しの場合は、すうっと皆さんの気配が消える。


そして、お仕事中なのに、受付レディの皆様はちょくちょく席を立ってフラフラと図書室から出ていったりする。


ううむ、、、、、ローズの言ってた、私が勿体ない、ってこれか。

確かに、これは、、、、、私、勿体なくない?




「仕事をください」

私は早々に奥の作業室のへラルドさんに直談判した。


「これ、この積んである本、戻しの本ですよね。私にやらせてください」

「いいの?助かるなあ」


新人は大人しく受付で寝てな!

とか、言われるかと思っていたのに、へラルドさんは嬉しそうだ。


「もしかして、奥は人が足りてないんですか?」

「いやあ、足りてはいるんだけど、そうだなあ、補修作業は後回しになっちゃってるかな」

「え?じゃあ何で、受付に6人も置いてるんですか?あんなに要らないでしょう」

驚いてそう聞くと、へラルドさんは苦笑いで事情を説明してくれた。


何でも受付のレディ達のほとんどは、主にお城での文官や騎士達との“出会い”が目的で勤めている貴族令嬢達らしい。

「侍女の試験はダメだったレディが、家の口利きで来るんだよねえ、司書は試験ないから」

だから、出会いに関係なさそうな仕事はやってくれないし、やってくれても作業がずさんだったりする。

なので受付は”出会い“に特化した仕事だけをやってもらっている、との事。


「何ですかそれは、あんなヒマな受付、嫌です。仕事ください」と言うと、ごめんごめんと謝られた。


「いやあ、グレイからは、アンズさんは受付に出さなくていいと聞いてたんだけど、そうは言ってもお若いレディだし、やっぱり受付がいいかなあ、と勝手に受付をお願いしたんだ、私の見当違いだったね」

「はい。私、結婚もしておりますし」

「ええっ、そうなの?いやはや、、、、これは失礼を」

驚愕するへラルドさん。採用する私の身の上を知らないなんて、大分のんびりした方だ。


「いいえ。それにしても、受付は無駄ですね、口利き、断れないんですか?」

「うーん、難しいかな。城の人事官もこっちの事情は分かってくれてて、採用に文句は来ないし」

「でも、仕事しないなんて腹立ちませんか?」

「いや、あれで結構助かる時もあるよ。本の所在確認と返却催促なんかは彼女達がいないと出来てないと思う」


「所在確認と返却催促?」

「あ、言ってなかったか。図書室の本は城の外への持ち出し禁止なのは知ってるよね?だから本は城のどこかにはあるんだよ、貸し出しの期限はないから、定期的に所在を確認して、人気の本なんかは返却の催促もしないと駄目なんだけど、それは受付レディ達が積極的にやってくれるんだ」


「あー、あの、フラフラ席を立ってたの、仕事だったんですね!」

なるほど!


「うん。文官の執務室とか騎士団詰所とか、出会いの宝庫だからねえ。でも助かるんだよ、結構高位貴族のレディも居るから、私では催促しにくい宰相閣下のとことかも行ってくれるし、ちょっと近寄り難い騎士なんかも、ほら、麗しいレディが行くと話を聞いてくれるしね。

所在不明の本を一緒に探してくれたりもするみたいでいい事もあるんだよ。

あと、めでたくご縁があった場合は、親御さんから貴重な本の寄贈なんかもあるからね」

ばちん☆と、最後はウインクで締めくくるへラルドさん。

やだ、可愛い、、、、。


「事情は理解しました。彼女達には彼女達の戦場がある、という事ですね。了解です、では、私には主に奥のお仕事ください」


「助かるなあ」

とへラルドさんは言った。





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