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20.お仕事します

嵐のようだったカサンディオ団長の訪問から、わずか2日後、そのワイルド系イケメンは再びやって来た。


やって来たカサンディオ団長を、本日はちゃんとサイファがお出迎えして、応接室へお通しする。

お茶を出そうとすると断られて、ぴらりと1枚の紙を渡してくれた。


「城の図書室の司書の仕事だ、条件はここに書いておいた。先方はまずは週3日ほどから来てほしい、と言っている。あんたさえ良ければ司書として働ける」


「、、、、これは、、、お城での働き口を探してくれたんですか?」

私は驚きながら、渡された紙に目を通す。

職業婦人を目指している、と言った事を気にかけてくれたようだ。


「ああ、たまたま図書室長と知り合いだからな」

たまたまのお知り合いが図書室長とは、さすが、侯爵家嫡男騎士団長見た目良し、だ。

そしてたった2日で、私の働き口を用意してくるなんて、さすが、侯爵家嫡男騎士団長見た目良し、だ。


「その、、、、図書室が好きだったのだろう?ちょうど良いかと思った」

カサンディオ団長は、ちょっともごもごとそう付け加える。

おや?この感じ、たまたまではなく、わざわざ私の事を考えて図書室で探してくれたのかしら?

ちらり、とカサンディオ団長を見ると、ふいっと目を逸らされた。

む、可愛いじゃないか、、、、、。


「ふふ、ありがとうございます、私がお城で図書室に入り浸っていた事も知ってるんですね」

「あんたの事は、調書が上がってきていたからな」

目を逸らされたまま会話が続く。


「あー、なるほど」

「あんただって、国の都合で呼び出された聖女だ、その希望は出来るだけ叶えられるべきだ」

再び、私を聖女扱いしてくれるカサンディオ団長。

そう言えば、ロイ君が責任感が強い人だって言ってたな。騎士団長だし、侯爵家だし、勝手に呼び出す事になった私に責任を感じてくれているのかな?


「聖女の力はないんですけどねー」

「それは関係ない。来てくれたのだから、感謝している」


あ、これ、嬉しいなあ。


「そのような言葉、ありがとうございます」

「ところで、1つ、確認しておきたいんだが」

「へっ?はい、何ですか?」

「あんたは、アンダーソンの事は本当に何とも思ってないのか?男として、という事だが。王子の命で仕方なく結婚したとはいえ、アンダーソンは悪い男ではないだろう」


「、、、、ひょっとして、カサンディオ団長が推薦したりしました?」

そうだったら何かヤだな、、、、、。好みの男が、自分の夫、推薦してた、は傷付くな。

あり得るよね、「聖女の従者を押し付けるにあたって、ちょうどいい奴いるか?」とか聞かれてさ、、、、あり得るよねえ。


そして、推薦したから責任感じるとかさ、あるよね。


「していない。俺は王子から、決まった事として聞かされた」


「あ、へー、そうですか」

「なぜ笑う?」

「何でもないですう、ロイ君でしたね。あれはワンコです。油断ならないワンコではありますけどね。

人としては、もちろん好きですが、私はフローラちゃんも好きなのでロイ君を男として見る事はないでしょう」


「そうか」

カサンディオ団長が、ほっと息を吐く。


「あっ、でも世間的には夫婦なので、あの」

「別に言いふらすつもりはない、益もないしな。アンダーソン嬢は元平民だ、アンダーソンとの婚約も内々の物だったから、貴族達のほとんどは知らない、大丈夫だろう」

「良かった」


「あんたは、やはり少し無防備すぎるな」

「えー、そうですかね」

「司書の件、アンダーソンとも相談して、返答は奴を通してくれたらいい。やる気があるなら来週から勤務になる。初日は迎えに来る、じゃあな」


「はい。、、、、え?迎えに来」

聞き返した時には、カサンディオ団長は部屋を後にしていて、すぐに、ばたん、と玄関の閉まる音もした。

相変わらず、帰るの早い、、、、。






***


ガラガラガラ、、、、

我が家の前に、侯爵家の紋付きの瀟洒な馬車が止まる。

私達はそれを玄関の横の小窓から見ていた。


「うわ、アンズさん、本当に迎えに来ましたよ!侯爵家の馬車ですよ!」

「見えてるよー、私にも見えてます、フローラちゃん。あれに乗って行くのかあ、、、なんか目立たない?」

「目立つでしょうねえ、、、、あの女誰だってなるでしょうねえ」

「ええー、やだ」

「まあ、でも、アンズさんの目の色で聖女様の従者様だって分かるだろうし、そうなると、勝手にいろいろ納得してくれますよ」

「そうかなあ、だといいな」


「大丈夫ですよ、それにしても、ここまでとなると、私的には、カサンディオ団長は本当に召喚の責任だけ感じて、こんな事してるのか疑問ではありますけどね」

「他に理由があると?」

「ええ」

「どんな?」

フローラちゃんが、私を見て微笑む。こちらがドキリ、とするような含みのある微笑み。


「それは、自分で考えましょうね」


「フローラちゃん、何か今の、すごく大人っぽい」

「私は大人ですよ、アンズさん。あ、降りてきた」

馬車からカサンディオ団長が降りてきたので、私とフローラちゃんは窓から離れた。


そう、今日は図書室司書としての初出勤日。

カサンディオ団長からお話をいただき、私はすぐにロイ君とフローラちゃんにも相談して、司書として働いてみる事にしたのだ。


お給料、良かったし。図書室なら入り浸ってたから、馴染みはあるし。

お城は苦手だったけど、それはあんな飼い殺しみたいな環境だったからで、勤めるとなれば話は別だし。

それに、、、、、ふふふ、それに、お城で働くという事は、ローズに会えるという事だし。

いや、もちろん、仕事しに行くんだけどね。

でも、もうお昼を一緒に食べる約束もしてるんだ。



ビーッ、と外国おしゃれアパート風の呼び鈴が鳴る。


がちゃり、と扉を開けると、本日も朝から凛々しいカサンディオ団長だ。

「おはようございます。カサンディオ団長、わざわざすみません」

私はにっこりと挨拶する。


「、、、、おはよう。もう行けるか?」

おや、耳が赤いですよ。照れるとこありましたかね。

「はい、行けます」

「ならいい。アンダーソン、お前も乗っていけ」

「えっ?僕もですか?」

「どうせ同じ所に行くだろう」

「、、、、、お邪魔では?」

「何のだ?」

「あ、いえ、では、お言葉に甘えて」


そうして、3人で侯爵家の瀟洒な馬車に揺られて、私は職場となったお城へ向かった。



侯爵家の馬車から、ロイ君に華麗なエスコートしてもらって降り立ち(これ、ちょっと照れる)、カサンディオ団長の後を注目を浴びながら付いて歩いて、城の図書室へと向かう。


「えっ、カサンディオ団長が女を連れてるわよ」

「何あの地味な女、誰?」

「あの黒い目、あれじゃない、ほら、」

「ああー、オマケの、、、」

「しっ、その言い方、聞かれたらどうするの」

「反省文でしょ」

「反省文?」

「従者様の悪口は反省文なのよ」

「ふーん、優しいんだ」

「はっ、地味で弱気なだけよ」

「それにしても、何でカサンディオ団長と居るのかしら?」

「あれじゃない?また聖女様頼ったんじゃない?」

「あー、なるほどね」

「騎士団付きの侍女でもするのかしら?」

「えー、ずるい、いいなあ」


みたいなヒソヒソが聞こえてくる。

少し感じは悪いけど、強い悪意はなさそうで、ほっとする。大丈夫よ、向かうのは図書室よ、と私は微笑む。


そして着いた図書室で、図書室長のへラルドさんに紹介してもらった。

へラルドさんは、カサンディオ団長の叔父にあたるらしい。銀髪に青い目のおそらく30代後半と思われる穏やかそうな人だ。

いわゆるイケメンではないけれど、笑顔が優しくてなかなか良い。

上司としての第一印象は花マルだわ。


「昼に顔を出す。食堂を案内しよう」

紹介が終わると、カサンディオ団長はそう言ってまたさっさと立ち去ろうとしたので、これは慌てて止めた。お昼はローズと食べるのだ、カサンディオ団長に来られては困る。

ローズとのお昼を死守しなくては!


「待って、待って!、、、ちょっっ、こら!待て!!、、、あ、すみません、えーと、あの、お昼はローズと約束してるので大丈夫です」

「ローズ?」

「お城の侍女をしているローズです」

「、、、、なるほど、分かった。じゃあな」

すたすたと立ち去るカサンディオ団長。

ふうー、ローズ、あなたとのお昼、死守したわ!


「グレイは随分と、あなたを気に入っているようですねえ」

のんびりとへラルドさんが言う。

「はい、気にかけていただいております」

聖女の従者としてね。


「珍しいなあ、いろいろ楽しめそうです。さて、アンズさん、で良いですか?ここでのお仕事を説明しますね」

「はい、よろしくお願いします」

そうしてその午前中は、司書の仕事をざっと教わって終わった。



お昼休みになり、今日の最重要最大イベント、ローズとのお昼だ。

食堂の片隅でお昼にする。


「私には出来なかった、アンへの仕事の紹介をこんなに簡単にしてくるなんて、、、、」

初っぱなからローズはぎりぎりと悔しそうに言う。


「ローズ、相手は侯爵家嫡男騎士団長見た目良し、なのよ。張り合っちゃダメよ」

「それにしても、もっと早くこうしていれば、アンが変な結婚する事もなかったのに、、、」

「そうなると、ロイ君とフローラちゃんに会えなかったもの、それは寂しいかな」

「、、、、いい子達ですけどね」

ローズがため息をつく。


「2年経てば、きっと丸く納まるわよ」

「だといいんですけどね。、、、あと、アンが働く図書室司書なんですけど」

「ん?」

「ひょっとしたら、アンが勿体ないかもしれません」


「私が、勿体ない?」

「、、、、いえ、止めときましょう、何でも無いです。アンであれば、それがどこであれ、必ず頭角を現すでしょうし大丈夫です」

「頭角?現さないよ。私は図書室の片隅でひっそり咲くよ」

「アンがそれを望むならそれも良しですが、そうなるときっと、あなたには物足りないと思いますよ」


ふーん、どういう事かしら、とこの時は思ったのだが、その理由を私は司書2日目にして知る事となる。




お読みいただきありがとうございます。


ブクマ、評価、いいね!、嬉しいです。

誤字脱字もいつもありがとうございます。


そして、感想、とても嬉しいです。

ただ、返信がネタバレしそうになってしまうので、返信を止めております。

ニコニコしたり、なるほど!と思ったり、バレてる!と焦ったり、楽しく読ませていただいておりますので、書いていただける方は是非、お待ちしております。

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