18.嫉妬に狂うロイ君(妄想)
「あんた、何考えてるんだ、、、」
『アン、、、、一体何を考えてるんですか』
ダイニングにて、ロイ君とフローラちゃん、そして2人の後から帰ってきたサイファも見守る中、ロイ君と私は白い結婚であり、穏便な離縁を目指している事と、フローラちゃんを養子として迎えた経緯を私から聞いた団長さんは、頭を抱えた。
私への呼び掛けが、“あなた”から”あんた“になってしまっている事からも、私に呆れているようだ。
「それでいいのか?爵位も何も残らんぞ」
『全て持ってかれるのですよ?』
「私は住む所と、生活に困らないお金があればいいので、いいです」
「ライズ商会のモス・ライズはやり手だ、この屋敷をあんたから巻き上げるくらいの事は簡単だろう」
『屋敷の所有権など、どうとでもなってしまうんですよ』
団長さんのライズさんへの物言いに、フローラちゃんが団長さんを睨む。おお、これはこれで結構怖い。その後ろのサイファの目もめっちゃ怖くなった、それがあなたの本気の悪い顔なのね、サイファ。
因みに、団長さんのセリフの後の『』の言葉は、少し前にローズに同じ告白をした時に、ローズより戴いたお言葉だ。
「ライズさんにはお会いしましたが、悪い方という感じはなかったですよ」
「悪どい事をする能力はある男だ。そこの養子の女に子供でも出来たら、モス・ライズの考え方も、アンダーソンの考え方も変わるだろう。何も2人が悪人になると言ってる訳ではない、あんたはこの家に居づらくなるかもしれない、と言ってるんだ」
『アンダーソン様とフローラさんの間に子供が出来れば、環境も変わります。それは良い方に変わらないかもしれません』
団長さんの言う事がいちいち、前にローズに言われた事と一致する。
すごいわ、ローズ。あなた、侯爵家嫡男と思考や洞察が一緒よ。
「んー、まあ、正直、この庭に小屋でも建てて、そこで1人で暮らすとかでも全然いいんで平気です。そして、団長さん、フローラちゃんを“養子の女”呼ばわりするのは止めてください。フローラちゃん、です」
養子の女、には、さすがにロイ君が気色ばんだし、サイファから殺気が出てきた。私も心中穏やかではない。
私もちょっと団長さんを睨む。
団長さんはぐっと黙ると、フローラちゃんに頭を下げた。ちょっと怖そうだけど、素直に謝れる人のようだ。
「失礼な言い方だった、すまない、アンダーソン嬢」
「私は気にしてません、何と言われようと平気です。それで私がアンズさんを大切に思う気持ちが変わる訳ではないので」
毅然とした態度のフローラちゃん。
本当に17才かしら?やっぱりこっちの世界、精神年齢高くない?たぶん17才だった私はこんなに堂々とはしてなかったぞ。
「はあ、、、、しかしだな、何なんだこれは、、、」
『何なんですか、、、もう!』
途方に暮れる団長さん。片手で顔を覆い、いろいろ考え込まれてる様子だ。
ローズもそうでしたよ、団長さん。
「僕も、アンズさんから話を持ち掛けられた時は、反対したんですけどね」
ロイ君が苦笑いだ。
「押し切られてどうする」
「はは、面目ないです」
「笑い事ではない」
「でも、団長、僕はアンズさんが僕にフローラを諦めるな、と言ってくれた時から、この人を一生大切にすると決めてます。だから信じてください、彼女を不幸になんかしません」
ドキューン!!!!
ロイ君の言葉に、団長さんは目を丸くし、私は心臓を撃ち抜かれた。思わず胸を押さえる私。
くうっっっ、、、、
それ、もうプロポーズの言葉だよ、ロイ君。
、、、、、、ぐぅ、本当に君はなんて危険な子なんだ。
あ、フローラちゃんが白い目でロイ君見てる。
「フローラちゃん、大丈夫よ、ダメージは大きいけど、勘違いはしないからね」
「本当に無自覚ですみません」
「いいのよ、平気」
「アンダーソン、お前、、、、、危険な奴だな」
団長さんも呆れておられる。ですよねー。
とにかくいい子なんですけどねー。
「ロイ君はこう見えて結構な、たらしなんですよ、団長さん」
私がそう言うと、団長さんは私を睨んだ。
おや?何かしら?睨まれるような事は言ってないと思う。
「グレイ・カサンディオだ」
睨みながら名乗られた。
えーと、これは、つまり、、、
「、、、、カサンディオ団長?」
「、、、ああ」
少し不満そうだが、ちゃんと名前を呼ぶ、で合ってたみたいだ。
「しかし、、、あんたはそんなに無防備で大丈夫か?」
私の事は、あんた呼び継続ですか。
「大丈夫ですよ、ちゃんと手に職を付けようともしております」
私は、きりりとしながら手紙の内職を指し示す。
「それは何だ?」
「手紙の代筆の内職です」
「は?アンダーソン、どういう事だ?」
カサンディオ団長が再び気色ばみ、ここで、前にローズとやったやり取りに似たものが繰り返される。
ついでに、召喚されてからの私の歴史もざっとお話しする。
「、、、という訳で、目指すのは自立した職業婦人なのです」
「いや、どうしてそうなる」
「前の世界で、社会人として生きていたので、当然の帰結です」
「シャカイジン?」
「あ、職業婦人みたいなものです」
「はあ、、、よく分からないが、分かった。昼休みも終わるし、そろそろ失礼する。また来る」
ん?
「じゃあな、見送りはいらん。アンダーソン、邪魔したな」
カサンディオ団長は席を立つと、スタスタと帰って行く。
ばたん、と玄関の扉が閉まる音がした。
しーん。
「また来るって、何で?」
しばしの静寂の後、私はロイ君に聞く。
「うーん、多分ですけど、アンズさんを心配してるんじゃないですかね、責任感が強い方なので」
「カサンディオ団長に私への責任はなくない?」
「部下の僕が、お仕えをするべき聖女様の従者様ですから」
「、、、、な、なるほど?」
「でも、あのカサンディオ団長が部下の家まで来るなんて、意外だわ、、、、あの方、そういう踏み込み方はしなさそうなのに」
フローラちゃんが言い、それにはロイ君も「僕もびっくりした」と同意する。
「そうなの?」
「騎士団へは商会絡みで時々顔を出すんですけど、少し冷たいというか、他人とは距離があって、私もお話したのは今日が初めてです」
「頼れるいい人だよ、僕は信頼してるし、第一団の皆もそうだよ」
「でも、こういう熱い方ではないわよね」
「まあ、確かに、、、、」
「女性のお噂もそれなりにある方だけど、特別、女に優しいわけでもないし、、、」
「あら、そうなの?お噂あるの? モテるのね?カッコいいもんね」
自分の好みのタイプがモテるってなんか嬉しい。
「アンズさんの好みってああいう方なんですね。カサンディオ団長はモテますよ、高級娼婦のアマリリスさんとの事は有名でしたし、他にも未亡人の方とか、歌姫とか、、、後腐れない、いい女と主に付き合ってます。逆に本気のご令嬢達には一線引いてるらしいです。今はフリーじゃないかな」
「へえぇ、確かに侯爵家嫡男で騎士団長であの見た目、そらモテるよね」
「フロー、やけに詳しいんだね」
おや、何だろう、急にちょっとひんやりしますね。
「騎士団に納品に行ったら、いろんな騎士の方達が話してくれるのよ、皆さん、そういう噂話、お好きだし」
「ふーん」
気のせいではないわね、明らかにロイ君から、ひんやりオーラが出てますね。
おっ、微笑みも怖いね。
これは、あれだね、嫉妬だね。
「そんなの、初めて聞いたな。よく話しかけられるの?」
ひやっ、フローラちゃん、これ、返答気を付けなくちゃダメだよ!
「詰所に居る人とは話すわよ、重たい物とか、品物の量が多い時は人数集めて運ぶの手伝ってくれるし、そういう時に世間話的にいろいろ話すの。そもそも、ロイと仲良くなったのだって、運ぶのを手伝ってくれたからでしょう」
うお、フローラちゃん、さては少しぼんやり系なのか?もしくは自分の魅力に無自覚系か?
それ、絶対、ロイ君はわざわざ手伝ったんだよ?手伝って仲良くなったんじゃなくて、仲良くなるために手伝ったんだよ。
だから今、手伝ってくれてる騎士の中にも下心ありの奴、きっといるよ、わざわざ世間話で恋愛の話するなんて絶対そうだよー、ロイ君もそれ察してるよー。
それにしても、今のこの状況、チャンスなのでは、、、、
ああ、今すぐにこの2人を寝室に閉じ込めたい。今のロイ君なら、多分、いける。
「この可愛い唇で、他の男としゃべったの?」
とか
「この肩に、手を置かれたりしたんじゃないの?」
とか
「この腰に、腕を回されたりなんかしてないよね?」
とか
とか、とか、とか~~~!
きゃー、いいわね!ここは何とかして2人っきりで部屋に、、、
「アンズさん?変な事考えてますね?」
冷ややかなロイ君の声に、はっと我に返る私。
ロイ君を見ると、目がちょっと怖い。
「あっ、いや、決してそんな事は、、、、そうだ!私、お昼まだだった。た、食べよーっと」
私はあわあわしながら、おにぎりを掴んだ。
そしてその2日後、予告通り、カサンディオ団長がまたやって来た。私にお仕事のお話を持って。




