16.運命の出会い
すみません、意味深なタイトルですが、ヒーローはまだです。
***
人形劇ショックが落ち着き、私はサイファと引き続き花市を楽しんでいる。
相変わらず、チラッチラッ見られてるけど、もういいや。おらおら、聖女様の従者様のお通りだよぉ、私があの人形劇のあれだよぉ、と開き直って歩いている。
そして、出会ったのだ。
サイファとお揃いで買ったブレスレットを付けて、スパイシーな焼鳥みたいな串焼きを食べながら、私は出会ったのだ。
出会ってまず、言葉を失った。
え?あれは?
ごしごしと目をこする。
見間違い?
半透明で白く輝くボディ。さらさらと手のひらを滑っていくであろう流れるような流線型。
違う、見間違いなんかじゃない、あれは、、、
私は、その愛しい人へと震える足で向かう。
今の今まで、この人をこんなに愛しいと思った事はない。そう、こんなにも愛してたなんて知らなかった。初めて溢れ出る、自分のあまりに大きな愛にびっくりするけれども、この気持ちに嘘はない。
だって、好きなんだもの、こんなにも好きなんだもの。もし、この人が本当にあの愛しい人なら泣くかもしれない。
「アンズ様?」
私の明らかに変な様子にサイファが無表情だけど心配そうに呼び掛けてくる。
大丈夫、大丈夫よ、サイファ。何でもないわ、と言おうとするけど期待と不安で頭がぐちゃぐちゃで言葉にならない。
私はふらふらと、愛しい人の居る屋台に近付き、愛しい人で溢れるその麻袋にそっと手を突っ込んだ。
屋台のおじちゃんがびっくりしているけれど、構うもんか。
サラサラサラサラ、、、、
愛しい人達が一斉に私の肌を撫でる。
この感触、間違いない!
「サイファ!この人の名前は何っ?」
興奮しながらサイファに聞く。
「、、、、えーと、屋台のご主人の名前までは知りません」
あっ、間違った。
「間違ったわ、サイファ。この白くて固い穀物の名前は何かしら?」
「ああ、そちらでしたか、それはインという穀物ですよ、この国の西の方で栽培されているものです」
「イン、そう、こちらでは、あなたは、インと言うのね」
私はインを一粒取って頬擦りした。
はあぁーーーー
こんな所で会えるなんて、嬉しすぎる。こっちの世界に来て一番嬉しいかもしれない。
そう、これは、米だ。
まごうことなき、米だ。
ちょっと見慣れてるヤツよりも細長いけど、でも絶対に米だ、白米だ。
米だーーーーーーーーーー!!!!
リサちゃん!米だよーーー!!
今、すごくリサちゃんに会いたい、会って伝えたい。米、あったよ!って伝えたい。
米!
「おじさん、これ、このイン、袋ごと下さい」
「えっ、本気かい嬢ちゃん?多すぎると思うぞ?」
「えっ、そうですか?ぱっと見た感じだと、、、、5キロないくらいですよね、全然多すぎないですよ」
なめんなよ、米を主食とする民族を。2キロと5キロの袋は感覚で分かるんだぞ。
「アンズ様、インは炒めてスープに入れて食感を楽しんだりするものですよ、そんなに沢山使い切れませんよ」
サイファがそう説明してくれる。
なるほど、こっちの世界で米は主食じゃないんだ。前の世界の粟とか、きび的な立ち位置みたい。
「心配しないで、サイファ。前の世界でよく食べてた物よ、他の食べ方があるの。5キロないくらいなら、ギリギリ持って帰れるわね。おじさん、全部貰ってもいいですか?」
「おう、いいよ。全部売れるならこっちも嬉しいぜ、少し安くしといてやるよ」
「ありがとうございます!」
そうして私は、約5キロのイン(米)を手に入れた。
ほくほくで、自ら5キロの麻袋を担ぐ。
サイファが、「お願いですから私に持たせてください」と言ってくるけど、誰にも渡したくない。それくらい愛しい。
帰り道で、ロイ君とフローラちゃんと会い、2人にもぎょっとされたけど構わない。
でも麻袋はロイ君に無理矢理取られてしまった。
ロイ君め、よくも私の愛しい人を。
帰宅後、さっそくイン(米)を炊いてみる。
ロイ君とフローラちゃんとサイファも興味津々で見守る中、失敗したら嫌だから、何となく二合くらいでチャレンジ!
前の世界で一時期、土鍋で炊くご飯にはまっていたので、鍋でも何となく米は炊ける。早く炊きたいから、水に浸すのは潔く諦める。
そして、
大体30分後、蒸らし終わった鍋の蓋を、パカリ、と開ける。
ふわあっと、出てきた湯気の向こう、
艶々と輝く白く愛しい人達、、、、、、。
「うぅっ、、、、」
私はこの対面で自分でもびっくりな事に、ぽろぽろと思わず泣いてしまった。
「え?、、、アンズさん、泣いてるんですか?」
フローラちゃんが、若干引いてる声だ。
サイファが優しく私の背中をさすさすしてくれる。
「ふぐぅ、、、、うぇっ、ううぅ」
サイファのさすさすに大号泣してしまう私。
「ええぇ」
ドン引きのフローラちゃん。
そしてさすがのロイ君、さっとハンカチを差し出してくれる。
「はりはと、、うっ、ぐううっ、ぐひっ」
泣き崩れる私。
唖然とするロイ君とフローラちゃん。
説明してくれたのは、サイファだった。
「私にも詳細は不明ですが、どうやら前の世界で特別思い入れのある食べ物のようです」
それを聞いたロイ君とフローラちゃんがはっとなる。
うん、私、米にすごい思い入れのあったみたい。当たり前に食べてたから知らなかったけど。すごく懐かしいし、また会えてすごく嬉しい。
うわーん、なつかしいよーー、いろいろ思い出してしまう。皆、元気かな?疎遠だった家族、少ない友人、会社の同僚達、元気かな?
私、何とか元気だよ。こうして、ソウルフードの米とも会えたよ。夫(仮)と子供(書類上)も居るよ、割りと幸せだよ。
ううううっ
***
「、、、、ふぅ、ごめんね、取り乱しまして」
不覚にも大号泣だった私。
やっと落ち着いて、ダイニングにてサイファの淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
向かいには気まずい顔のロイ君にフローラちゃんだ。うーむ、困ったぞ、明るく、出来るだけ明るく取り繕う。
「あー、、、、その、大丈夫よ、もう、戻りたいとか戻れないとか、そういうのは吹っ切れてるからさ☆」
「っ、、、、僕が抱き締めてあげられると良かったんですけど」
変に明るくしたのが逆効果だったようだ。ロイ君が苦し気にそんな事を言ってくる。
本当に油断大敵だよ、君は。
「いやいや、ダメだよ、そんな事しなくてもだ、」
そこで、ガタンっとフローラちゃんが立ち上がると、早足で私の側までやって来て、ぎゅううううっと抱き締めてくれた。
「ロイの意気地無し、バカッッ」
そして何故か責められるロイ君。
「アンズさん!私、アンズさんの子供だからね、ちゃんと一生、一緒に居るからね!」
ぎゅううううっ。
「フローラちゃん、、、、」
涙腺ゆるゆるになってる私はまたもや大号泣だ。フローラちゃんと2人でわんわん泣いた。
「ぐすっ」
「ずびっ」
そして出来上がった、目を腫らし、鼻を真っ赤にした女2人。
そこに、ことり、と運ばれて来たのは、私が大泣きして握れなかったので、私の指示に従ってサイファが握ってくれた、そう、おにぎり(おにぎりぃーーーーー!!!!)だ。
「、、、、白い」
不思議な感想を漏らすフローラちゃん。
「塩むすびだもの、海苔とか、おかかとかあれば、 いろいろ出来るんだけど」
私はもちろん、いただきます、をしてから、そっとおにぎり(しつこいけど、おにぎりぃーーーーー!!!!)を手に取り、口に入れる。
はむ!
ちょっと固くてぱさっとしてるけど、これは、おにぎりだ。まごうことなき、おにぎりだ!
「美味しい、、、、ありがとう、サイファ」
私のお礼に、もちろん黒い笑顔で応える小柄なメイド。
大号泣した後のおにぎりは、かなり沁みた。




