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15.人形劇の衝撃

続編です。

お楽しみいただけると嬉しいです。


フローラちゃんを養子に迎え、親子3人(書類上ね)にサイファをいれて4人の生活を始めてから1週間。

本日、私は月に一度の花市という、住んでる地区のお祭りのようなものにサイファと来ている。


何でも、花市とは建国の記念日と同じ日にちを毎月小さくお祝いする日らしく、各地区にていつもの朝市の広場で少し大がかりな市が開かれ、屋台やら出し物やらが出る日らしい。朝市は昼までだけど、花市は夕方まで続く。


仕事が休みの人も多く、ロイ君とフローラちゃんも本日はお休みで4人で花市に来たのだが、着いて速攻で「私はサイファと2人で回るわね、ほほほ、ごゆっくりー」と別行動にした。

ふふふ、若人よ、デートを楽しみたまえよ。


そしてサイファとうろうろしているのだけれど、何だかチラチラ見られている。

気のせいではなく、絶対に視線を感じる。


「ねえ、サイファ、何か見られてると思うの、何だろう?」

「アンズさんは、市井で暮らされている聖女様の従者様として、この辺りでは有名ですからね」


「まあ少しはね」

この国は、聖女リサちゃんの召喚に成功した時、それを大々的に発表した。「聖女様とその従者の召喚に成功した」と。

そう、従者って私ね。違うけどね、召喚の時にリサちゃんと初対面だしね。

でも国としては、関係ない私を召喚の巻き添えにしちゃった、なんて言えないもんね。


そして、魔力も魔法も、何にも無い私は、お城や貴族達には見向きもされなかったけど、平民達からは割りと支持がある。もちろん聖女リサちゃんには遠く及ばないけれど。

雲の上の聖女様も素敵だけど、身近な従者様も素敵よね、よく見ると黒い瞳も神秘的、、、という訳だ。

だから、こちらに引っ越して来た時は結構興味津々で見られたり、話しかけられたりしたけど、最近は皆さん慣れたみたいで落ち着いてきていたのだ。


「アンズさんは黒髪黒目で目立ちますし」

「黒髪はこっちにも時々いるじゃん、黒目なんて遠目だったら分からなくない?それに私の黒目、よく見ると、ほら、端っこちょっと焦げ茶なの、ほら、ほら、光の当たり具合でさ」


サイファが目を細めて確認してくれる。

サイファの目はきれいな藍色だ、いいなあ。


「、、、、、真っ黒ですね」

「えー」

「真っ黒です」

「えー」

とか何とかやりながら、屋台で生搾りオレンジジュースを買って花市の中心の広場にて、サイファといただく事にする。


広場にはたくさんのベンチが置かれ、いくつかの見せ物が出ていた。

ジャグリングみたいな事をしている人、猿?猿にしては不気味な手足がやたら長い謎の動物にいろいろ芸をさせている人、絵を書いてる人、いろいろだ。


バイオリンを弾いてる人もいる。

そのフォルムと音色は前の世界と同じで懐かしい。こっちにもバイオリンあるんだ、楽器は同じなのかな、ピアノもどこかにあるのかなあ、、、と、前の世界での唯一の特技のようなものにも想いを馳せる。


こちらにもし、ピアノがあるならまた弾いてみたいなあ。

なんて、ちょっとしんみりしながら、私はサイファとハンドパペットを使った人形劇の近くに座った。


人形劇は始まったばかりのようだ、何だか寂しい音楽と共に茶髪の男の子と赤髪の女の子が夕日をバックに涙しながら抱き合っている。

悲恋ものかしら?


悲恋ものはあまり好きじゃないので、のめり込まないようにして、サイファと「いい天気ね」なんて言いながら、のんびりオレンジジュースをすする。


やがて舞台の背景が変わり、今度は黒髪黒目の(ん?)女の子と、茶髪の男の子が何やらやり取りしだした。


「ロイ君とフローラちゃん、楽しんでるかなあ」

人形劇が気になりつつも、私はサイファに話しかける。

「きっと楽しんでいるでしょう」

相槌を打って、黒く笑う小柄なメイド。

完全に゛楽しんでいる゛の意味が違うように聞こえる黒い笑顔だ。


ここで、劇の観衆から「よっ、待ってました従者様!」と劇の舞台にかけ声が飛ぶ。

ん?


「やっぱり、花市でデートするとかは定番なの?」

かけ声は気になったが、会話を続ける。

「定番ですね、月に一度、というのは程よく気軽な非日常ですしね、誘いやすいんですよ」


「本人を連れて来なさい!」

人形劇の黒髪黒目の女の子が叫ぶ。

んん?何か今のは聞いた事あるような、、ないような、、。


「なるほどねえ、建国記念日の当日はもっと大きな催しになるの?」

「年に一度の建国記念日当日ともなると、王都の中心でパレードもあって完全に国のお祭りですよ」

「へえ」

そこでサイファは、花市では白い薔薇を贈って想いを告げる風習がある事も教えてくれる。

笑みをどす黒くしながら、ロイ君がフローラちゃんに告白したのも花市で、ちゃんと白い薔薇を捧げた事も教えてくれる。


「おー、さすがロイ君、ばっちり王道を行くねえ」

その様子を想像してニマニマしながらジュースをすすっていると、人形劇の舞台よりひときわ大きな高笑いがして、聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。


「のしを付けて差し上げますわ!オーホッホッホッ!!!」


ぶーーっ


私は盛大にオレンジジュースを吹いた。

「アンズ様、大丈夫ですか?」

吹いた事には全く動じずに、サイファがすっとハンカチを取り出して私の服を拭いてくれる。


「うっ、ごほっ、だい、じょぶ、げほげほ。え?サイファ、何この人形劇、、、、」

私は手で口を拭いながら、人形劇を見る。

今はまた背景が変わって、茶髪の男の子と、赤髪の女の子がやり取りしている。

信じられない思いで私が見つめる中、やがて赤髪の女の子が「バカ、、、、待ってる」と言って、男の子が優しく抱き締めた。


ええええ!?


「サイファ、、、、これ」

「最近、人気の人形劇です。タイトルは゛引き裂かれた恋人達は従者様によって愛を取り戻す゛」


ぶーーっ

もう吹くオレンジジュースはないけど、気持ち的に私はもう一度、エアで吹く。


アンダーソン家(うち)の話じゃん!?え?何で?」

「人気の噂話はこうして人形劇になりやすいんですよ、娯楽の1つですね」

「ええっ、でも、何でこんなリアルに再現されてるの?」

セリフが実際に言ったまんまだよ?


「あー、、、それは、、」

私の疑問に、サイファがちょっと言い淀む。


「まさか、サイファ、私達を売ったの?」

信じられない思いでサイファを見ると、サイファは決心したようにこう言った。


「お庭で、アンズ様がよく、私とフローラお嬢様に向けて1人演劇されてたでしょう。うちのお庭、狭いですからね、筒抜けです」


、、、、、、。


、、、、、、。


っっがーん!!


「、、、、わたし」

「ええ、情報の出所は庭でのアンズ様の1人演劇です。私は人形の造作にアドバイスはしましたが、内情は話してません」

ちゅーっとサイファはオレンジジュースをすする。


「うそぉ、、、」

私は涙目で劇を見る。

終盤の盛り上がり部分だ、フローラちゃんと思われる赤髪の女の子は、養子ではなく、住み込みのメイドとして屋敷で仲良く過ごす事になるようだ。フローラちゃんの髪色も変えてるし、さすがに全部が全部同じにはしなかったみたいだけど、それでも、それでもだ、誰が見たって、アンダーソン家の事じゃん。

役の名前も皆違うけど、もうアンダーソン家の事じゃん。

それで今日、チラチラ見られてたんだ、「ほら、あれ、さっきの人形劇の人よ」って。絶対そうだ。


「これ、、、ロイ君とフローラちゃんは知って、、、」

「知ってますね」

「がーん!」

「よくある事ですよ。噂が変わればまた違う演目になります」

「ううぅ、、、でもこんな辱め、、、、どんな顔して謝ったら」

「元気だしてください、場合によってはアンズさんの役は完全に悪役で、この劇も悲恋ものだったかもしれないんですよ、ハッピーエンドですし良かったです」

ね、とここでサイファがせせら笑う。


私には分かる。これきっと、サイファ的には慰めの笑顔なんだろうな。




お読みいただきありがとうございます。


たくさんのブクマに評価、いいね、ありがとうございます!こんなに応援いただいたのは初めてで舞い上がっております。

感想もとても嬉しい。

誤字脱字報告、めっちゃ助かります。


ますます精進しますので、よろしくお願いします。

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