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接触

注文したカレーを食べながら、彼らは早速企画会議を始めた。


「YouTuberの動画とか観ながら、自分やったらどんな企画やるやろ?って暇つぶしに考えたことがあって…」


そう言ってササノが出してきた案は以下の通りだ。


・ただの何気ない日常を撮影するVlog的な内容(コンビニへ行く、電車に乗る、街をぶらつく、など)

・尺は1〜2分のショート動画

・1本につき1回、どこかの場面で一瞬だけ、馬の被り物をした人物が映り込む

・演者は馬に気付かない


イメージとしては心霊動画で、心霊の代わりに馬が映り込むといった内容だった。


率直に気持ち悪い企画だと思ったが、なるほどたつやがササノを選んだ理由はちゃんとあるのかもしれない。良し悪しはさておき、暇つぶしでそんな奇妙なことを考える奴に、少なくとも私は出会ったことがなかった。


彼らは今回話した内容を、改めて場を設けて話し合おうという事で落ち着いた。


「場所どこでします?」

「いいとこないですかね?」


私はカレーを食べながらYouTubeアプリを開き、登録者の少ないYouTuberを適当に探した。


CoCo壱を出ると2人は解散した。たつやには予定があるらしかった。私は駅の方へ向かうササノを追った。タイミングを見て彼に話しかけた。


「ちょっとすみません、ごめんなさい」


ササノは戸惑いながらも足を止めた。


「突然すみません、いきなりなんですけど私いまYouTubeをやってまして…」


「…YouTube?」


「はい!全然登録者とか少なくて、こうしてストリートでお声かけして登録をお願いしてまして…」


「マジっすか?」


ササノからすればタイムリーな話だ。マスク越しでも充分に食い付いていることがその瞳から見てとれた。


「よければ、チャンネル登録お願いできないでしょうか?」


「ああ…いいっすよ」


「ありがとうございます!!『MaCherieBand』ていうチャンネルです!」


私は先ほどCoCo壱で適当に探し出したYouTubeチャンネルを伝えた。

当然私はこのチャンネルに何の関わりもなかった。

ササノはアプリを開き、すんなり登録してくれた。その間、私は動画には出ておらず、編集や撮影場所を手配したりする裏方だと嘘の説明を付け加えた。


「そういうのってどうやるんすか?」


「編集ですか?」


「いや、場所とか」


「場所ですか?」


私はわざとシラを切ってみせた。


「いや、ちょうど僕も友達と二人でYouTubeやろうかって話になってて、参考にできればと思いまして」


「どんな企画をするかにもよりますけど…」


「まずその企画を話し合う場所がほしいなってなってるんですよ」


電車で彼らの話を聞いたとき、私が算段したのは編集者として一枚噛めないかということだった。今の時代、動画編集のスキルは金になる。後発なのは重々承知だが、私は本職の傍ら、空いた時間を編集スキルを磨く時間に充てていた。

つまりあのとき、私は彼らに動画編集の営業を持ちかけようと考えたのだ。


「話し合う場所、レンタル会議室とかどうですか?」


考えるより先に提案していた。

営業のことなど一瞬で掻き消えるほど、魅力的な案が浮かんだからだった。


「そんなんあるんですか?」


レンタル会議室とはその名の通り、お金を払い会議室を借りられるというサービスだ。ネットで予約し、予約した日時に指定のビルへ行けばその建物内にある一室を使用できる。

私はスマホで検索し、ササノに説明してみせた。


「これいいっすね」


「よかったら紹介しますよ。知り合いがやってるんで安く貸せると思います」


「えーマジっすか!めっちゃいいじゃないっすか!」


実際これは本当だった。ササノに見せたのも、その知り合いの業者のサイトだ。


「え、ほんまに借りていいっすか?」


「もちろんもちろん」


じゃあ、とその場で連絡先を交換し、私はササノと別れた。

「YouTube観ときますね」と調子の良いことを言われ、嘘つけと思ったが愛想良く返事してその場を離れた。

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