見つけた
彼らとの出会いは春先の電車の中、確か「木」曜日だった。
私は行きつけの美容室に向かっていた。
彼らは扉のそばで立ち話をしており、その正面に一人分の空席があったので私はそこに座った。
「もうリアルにYouTubeしかないですよ」
「前からやってみたい気持ちはあるけど…」
彼らが10代なら聞き流していたと思う。けれど目の前にいる二人はどうみてもいい大人だった。
「このままやったらマジで未来ないっす」
「でもなあ…」
ノリという感じではなく、何か暗い事情があるように思えた。
電車はなんば駅に着き、彼らは降車した。これから昼食をとりに行くようだった。私も降車し、美容室にキャンセルの電話を入れた。
彼らに興味を持った。
彼らはCoCo壱に足を運び、テーブル席に着いた。向かい側のカウンター席に私も座った。
CoCo壱へ向かう道中、彼らの会話から二人の名前を把握した。
太っちょの方が「たつや」、ノッポの方が「ササノ」らしかった。
「僕も、前からYouTubeは考えてたんですよ。でも一人でやるのはどうかなって思ってて、誰か一緒にやる相手を探してたんすよ」
たつやは言った。
「やっぱり誰でもいいわけじゃないんで、まだ誰にも声かけたことなかったっすけど、ササノさんとならいけるっす。やりましょうよ」
事情が深刻なのはササノで、彼の状況を好転させるためにたつやがYouTubeをやろうと提案しているようだった。
YouTubeで一獲千金など実際、雲を掴むような話だろう。本気か?と思いながらも、私はササノが決断することを期待した。
頭ではある策略を思い描いていた。
「そう…すね!やってみな何も変わらんっすもんね!やりますか!」
ササノの返事は自分に言い聞かせるようにも聞こえたが、私には関係ない。とにかく彼らがYouTubeをやることがこの瞬間に決まった。