砂漠に魔法の水を
「砂漠に水をやったってさ金の無駄」
母は父に言った。私はそうは思わない。地を柔らかく出来たら芽吹くことがあると思う。
「砂漠ってどういうことだよ⁉︎ちゃんと生えてるだろ!」
確かに生えてるっちゃ生えてる。けど真ん中がぽっかり空いてて周りにうっすらあるそれは何と弱々しいことか。
毎日父は砂漠に水をやっている。「生えろー!生えろー!」と魔法を唱えながら。そう父は魔術師なのだ。まぁその魔法の効力は置いといて、父が砂漠にやっている水はただの水ではない。
枯れ果てた大地に苦しんでいる人々のために開発された希望の水。その希望の水に金を注ぎ込む人は何千、何万と数え切れないほどいる。まさに魔法に魅せらているようだ。だから魔法の水。
魔法の水の名は…そう育毛剤だ。
父は長年、ハゲに悩まされてきた。髪が枯れ果てていくたびにストレスを感じ、またそのストレスで抜けていく。何という地獄のループ!いつになったら終わるのやら。でも父は開き直ったらしい。もう別に良い。気にしてないと。その割には毎朝魔法の水をかけている。ちなみに母はそれを見て腹が窒息すると言っていた。
友達が授業参観の時必ず言った言葉がある。
「お母さんはめっちゃ美人だけどお父さんは、あの頭がハがつくやつだったね…ハゲ」
友達は遠回しに言ったつもりかもしれない。でもな最後にハゲって呟いてるんだよ。お父さん可哀想!ここで断言しておく私は笑ってない。決して腹を抱えて笑って呼吸困難になったり、もう正直に言っちゃていいよってハゲを勧めたわけでもない。うん、ない。
でも父はかなり良い人だ。こうやってハゲについてからかわれても怒鳴らない。弟が「おっさんハゲてますね〜」と父の肩に腕を回しても「何でそんなこと言うの⁉︎お前も将来ハゲるからな」と言って笑うぐらいだ。弟は母に似ていて、母型の両親や祖父母は髪がフッサフッサなので多分ハゲない。
たまに優しすぎて損したり、変なこだわりを語られて困るときもあるけど、優しくて面白い父が私達は大好きだ。