そのいち
穏やかな午後の光の中で、その授業は粛々と進んでいた。
ハウシュヴェルン王国の首都にある医療福祉学園の教室は静かな熱気に満ちている。
真摯に学ぶ学生たちは瞳をきらめかせ、教鞭をとる老人の言葉に耳を傾けていた。
若者たちの表情が明るく砕けたものであるのは、本日の講義が憧れのローゼリア・シュテインの軌跡だったからだ。
他国にも誇れるほどの充実した医療福祉学園を作り上げたのも、ローゼリアである。
薬学や医療を学ぶための学院に身を置く若者たちは、実のところ創始者にあこがれを抱いているので、すでに彼女の人生を教科書以上に知っていた。
だからといって、いまさら? と繰り返し学ぶことに疑問を抱く者は在籍していない。
「先生は本物のティタリムを見たことがあるのですか?」
「先生も討伐隊の一員だったというのは本当ですか?」
「先生、真実は教科書通りだったのですか?」
先生! 先生! とさえずるような若者たちに、老人は苦笑する。
ローゼリアが歴史に躍り出ることになったきっかけ。
悲劇の現場を知る「生きた記録者」だから、こうなることは予想していた。
なにより、同じ時期に同じ講義で同じ質問の洪水で溺れそうになるのは、毎年の恒例行事と化していた。
だから決めごとのように、同じ言葉を返す。
「語れるほどの真実はないが、君たちにもわずかばかりの事実を教えてあげよう」