エスコンみたいなこと
先日、グリルズが救出された山岳地帯に存在する巨大な渓谷。
曇り空の下、その深い谷間をシーニー隊のF-16とタイフーンは失速寸前の低速で飛んでいた。
「きつ・・・」
F-16の操縦桿を握るヒロアキが左右の岩壁の圧に耐えかねて言葉を漏らす。
「グリルズもよく一人でやりましたわね。」
タイフーンに乗るメイブが感心する。
「ああ。まさかエスコンみたいなことをリアルでやることになるとは・・・」
グリルズは先日の偵察任務でこの渓谷を単機で飛んでいる。
ヒロアキ達の任務は渓谷を抜けた先にある敵のミサイル基地の破壊だ。そして、渓谷の外は敵防空レーダーの探知圏内であるため、外に出ることは出来ない。
「こちら空中管制機ポラリス、地上部隊から目標が移動を開始したとの情報があった。」
空中管制機からの通信に緊張が走る。
「現在、目標は谷底の道路を貴隊のいる方向に向け前進中とのことだ。対地警戒を厳にせよ。」
「シーニーリーダー、了解。」
「アールグレイ、了解。」
新たな情報に対し返答した二人は、前後の距離を広げると交互に機体を横に傾け谷底を走る道路に目を光らせた。
「・・・目標発見!ロケットポッドスタンバイ。」
四度目の側面飛行で道路のずっと先に車輌と思われる物体をヒロアキが見つけ、主翼に吊っている多連装ロケットの発射態勢を取る。
「アールグレイ、スタンバイ。」
メイブのコールが聞こえる。物体は既に巨大な弾道ミサイルを背負った六台の装輪式発射機を形作っていた。
「シーニーリーダー、ロケット発射。」
発射機の進行方向に照準を重ねたヒロアキは発射スイッチを押す。すると、両翼からロケット弾が連続で吐き出され発射機めがけて飛んでいく。
しかし、着弾する頃には上空を通過してしまうため、ヒロアキ本人には戦果は分からない。
「目標の破壊を確認しましたわ。」
ヒロアキに代わりメイブが戦果を報告する。
「了解した。先にある施設も頼む。撃ち漏らすな。」
「了解。」「了解。」
谷間を抜けると一気に視界が開け、周囲を山に囲まれた平地に出た。
やや広い平地の中心部には、複数の格納庫や宿舎と思われる三階建ての四角い建造物が建っており、格納庫の前でさらに五台の発射機が出発を待っていた。
「発射機を殺りますわ。」
「じゃあ、俺は格納庫を・・・」
離れていくタイフーンを見送ったヒロアキは機体を加速させ、地上に設置された複数の対空機銃から盛大に放たれる銃弾を掻い潜り、複雑な軌道を描きながら不揃いに建つ格納庫を一直線に通過できる位置からロケット弾を発射した。
そして、戦果を確認するため旋回すると、炎上する発射機と火柱を上げる格納庫が見えた。周囲に弾道ミサイルらしき物も無い。
仕事を終えたタイフーンが再び編隊を構成するため後方に接近する。
「こちらシーニーリーダー、目標の破壊を確認。」
「こちらポラリス、了解。高度制限を解除する。なお、迎撃機と思われる機影が四、接近中。直ちに帰還せよ。」
「シーニーリーダー、了解。」
「アールグレイ、了解。」
F-16とタイフーンは機首を上に向けると垂直に上昇し、もと来た方向に向けアフターバーナーを焚きながら高速で離脱を開始した。