85/728
フローレンスのお話
フローレンスは、鬘を作る職人の家で産まれた
職人の家である事は、彼女自身何の不都合もなかった
父が働き、母はそれを助ける
父は腕の良い職人で、食うに困ることはなく
職人が多いその街では、不自由という自覚もなく幸せな幼児期を過ごしていたと思っている
彼女の中に、何かが生まれたとすれば、弟の誕生ではなかったか?
数年経って生まれた弟は、それだけで、この職人の家を継ぐ権利を持っているかのようだった
『これで、この家は安泰だ』とか
『女将さん、頑張った!よくやった』と、職人仲間で普通に会話される賞賛の中で
フローレンスは、ただ呆然としていた
フローレンス自身は手先が器用で、弟が産まれるまでは
『この子は、気が効くね』
『このまま、跡取りが産まれなくても、こんな筋の良い子がいたら安心だ!』
と、言われ続けてきた
でも、その度に顔を見合わせて、微妙に笑う両親の顔を見ていて…
フローレンスは思う
『自分が、母のようになれれば良かったのかな』と…




