規矩作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな
αβさんは、期待を胸に帰路に着く
私とフローレンスさんは
「今後とも、良いお付き合いを…」
とか言って、彼らを見送る
フェルト様も
「少し仕事をして来る」
と、馬に乗って出掛けて行く
王宮で報告しなければならない事ができたのでしょう…(他人事)
鬘のご主人とフローレンスさん、そして、フローレンスさんの弟は切り取った髪を処理している
ダリウスたちは、訓練について話し合っているようだ
ハリーくんが率先して、意見を述べている
何とも言えない、凪の時間だ
私は一問でも多く、代数の問題を作ろうと頑張っていたが、
幾何学がやりたい
計算問題は数式で、私の古文に見えるという説明文を回避する事ができるのだけれど
なんか物足りない
そうなってくると欲が出てくる
『コンパスと定規が欲しい!』
いや、あの100円均一ショップで買える様な、安価で性能の良いものを求めているわけではなく
むしろ、家紋を描く様な、あの美しい技術
半径のぶれない素敵な技術があるはずだと思っていた
中心が確定した円が描きたい
いっぱい描きたい
原理としては理解できる
2本の棒を固定して糸で長さを決めれば良いのだろう
でも違うの
一個描いて満足できる状態ではなく、曼荼羅でも描くのかというくらいいっぱい描きたい
これは、幾何学とは関係なくない?
きっとそうだ
ストレスから来るのだろうか?
イライラしていたのだろうか?してるしてる
「ベス様?」
「はい!」
食い気味にいいお返事をする
「どうなさいました?」
優しく、呆れた声のフローレンスさんがこっちを見てる
いや、皆さま此方を伺っていらっしゃるではありませんか
「えーっと?」
自覚はなかった
「気付いていない様ですが…髪が伸びてますよ?」
あらま、先程までショートカットだった髪が、肩より長くなっていた
どこの妖怪だ
そのうち、あれか?
髪、飛ぶのか?
何か見つけたら髪立つのか?アンテナか?
さりげなく、正義の味方に寄せようってか?しゃらくせ〜わ自分!
「というわけで、コンパス?ぶん回し?
とにかく、円が描ける道具が欲しいなぁという欲望が、暴走し始めた次第でございます
多分」
指先で、くるりくるりと丸を描いて伝える
フローレンスさんは、鬘屋のご主人と顔を見合わせて頷く
「円…丸を正確に描く道具ですね?心当たりがあります
うちの鋏をお願いしている、腕の良い職人に問い合わせてみましょう」
「ありがとうございます、フローレンスさん!そしてマスター!」
「ま、マスター…」
フローレンスさんの手を取って、感謝の気持ちを表し、ご主人にもお礼を言うつもりが
勝手に『マスター』に変換されてた
ご主人は、困惑しているけど『ダメ?』と言う顔をすると
「いいでしょう」
と、納得してくれた
どうやらこのクソピンクは、顔だけは可愛いらしく
髪がいい感じに長いと、女子力が上がるようだ(ケッタクソワルイ!)
「それから、もうひとつ!
定規も欲しいです
本当は、一緒に勉強している子たちにもセットで持たせたいです、全員に」
「えー?」
久々聞くぞ、地鳴り
あんまり分かってない気もするけど、言いたいだけ?
ただ、ハリーくんには心当たりがあるのか、私を見てニコッと微笑んだ




