物言わぬは腹ふくるるわざ
食堂は、誰かが片付けてくれたのか、昨日より空気がきれい
ハリーくんは、ニコニコ笑って待っていてくれた
昨日グズってた子とは思えないくらい、爽やか少年になっている
「おはよう、よく眠れた?」
「ありがとう、さっぱりしたせいか本当によく眠れた
ハリーくんのおかげだね」
と、浄化魔法を褒める
「お役に立てて嬉しいよ」
ハリーくんはそう言って、椅子をすすめてくれた
こうしていると仲良さそう、さすが真実の愛っていうところだろうけれど
ほぼ見知らぬ他人です
いきがかり上、最も身近ではあってもだ
とても不思議
「髪が短くなって、そんなシンプルな装いをしていると
まるで…」
ハリーくんが話し出す
「まるで何?」
「妖精と取り替えられたみたいだ」
『ブッ』
お茶を吹き出す
汚い汚い
「誰が妖精やねん…ゴホ、ゴホ、妖怪とか?変化したとか?
髪切っただけじゃない…げほげほ」
ハリーくんが変なこと言うから、しっちゃかめっちゃかだ
「ベス、大丈夫?」
誰のせいだよ
周りの人も、布巾やら何やら持ってきてくれた
本当に何から何までお世話になりまする
そんなことより気になっている事がある
「後で気がついたんだけれど、鬘にする髪の毛ってもっと大量に必要だったんじゃないかな…って」
それなら、1番気になる部分だけ、フワフワピンクのヘアーピースを作るのも面白いけど
頭頂部とか、前頭部とか
「多分、大丈夫だと思う…」
と、ハリーくんは言うが…
「色々な契約とか取り決めとかあるんだろうけれど、増やすことはできると思うよ」
「えー?それじゃ、鬘必要ないじゃない!」
と私が言うと
「詳しい技法は門外不出だけれど、ああやって、自分の意志で切り落としたものだったり
特別な技法で切り落としたものは、体の一部であって、もう一部ではない
悪用されたら大変だけれど、そういう意味も含めてうまく加工されていくのではないかな…?」
「ちょっと、何言ってるか分かりません」
「取引の契約は上手くいったので、心配ないってことだよ」
「?…了解です、気にしない事にする」
「納得いかない?」
「そういう、こちらの現実を聞かされると、返す言葉がないので、へえ〜そっすか〜って感じです」
ついでに、鼻ホジ〜って
鼻くそ深追いしすぎて鼻血たら〜な気分です
数日後、鬘屋の主人がこの前と同じ助手とともに、再びこの屋敷にやって来たのは数日後だった
鬘の出来を見せてくれるという
それまでの間は、簡単な数式や図形の問題を作ったり、掃除をしながら過ごしていた
ハリーくんは不慣れだけれど、新鮮なのか、それなりに楽しんでいた
王家には王家のプレッシャーはあったのだろうさ
まぁ、庶民には庶民の苦労は尽きないだろうし
『上見りゃ切りない、下見りゃ切りない』と、誰かが言っててな…
切りがないって、限度がないって事らしい
『その時その時の地図描いてかなしゃあない』
その時その時に応じて計画立てていかないと、自分の思ったようにはいかないって事らしい
あーこれ、入れ替わる前の自分の、母方のひいばあのお話だわ
亡くなって久しいのに、覚えているものだな
そして、鬘の日がやってきた
黙っていたらお腹いっぱい…不満が溜まってきましたよ
ということみたいで