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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第2章

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それぞれの小夜

アジトについた皆は、いったんそれぞれの部屋に戻った。


メリはアグの部屋に運んだ。

何かあったら呼んでくれとベルに言われ、アグは頷いた。


「メリ…やっと…会えたな」


アグは眠っている彼女の頬に手を当てた。


「ごめんな。こんなに時間がかかっちゃって……」


禁術解呪の薬を飲んだメリの顔からは、殺気がなくなって、あの頃のメリが大きくなった姿だと、よくわかった。


(ずっと忘れていたんだ…君のこと…)


アグは椅子に座ると、ベッドに横になっている彼女に近寄って、ベッドに両肘をついて、彼女をまじまじと見ていた。


「うう……」


すると、メリの顔がしかめるように動いた。


「メリ?! メリ!!」


アグが彼女に呼びかけると、メリはゆっくりと目を開いた。


「ア…グ……」

「メリ……」

「やっと会えたね…遅いよ…アグ……」


メリだ…。間違いない…。

あの頃の、メリだ…。


「ごめん…。今まで、思い出せなくて……」

「ふふ…いいよ。私だって、思い出せなかったもの。核が私に入ってね、イカれた呪人の核よ…。覚えているわ。そいつにとりつかれたように、私、酷いことばかりしていた」

「そんなの…メリのせいじゃない……」

「私の中に、まだそいつはいるわ…。でも、アグの薬が、抑え込んでくれている…」


メリは自分の心臓のあるところに手を当てた。


「アグ、大きくなったね」

「お前も……」


随分、綺麗になったよ…。


メリはニコっと笑った。


「これ…」


メリは左手の薬指の指輪を見せた。


「指が大きくなって、抜けなくなっちゃった」

「それのおかげで、思い出せたよ…」

「ねえ、約束は覚えてる?」


一緒に店をだす…。そして、結婚すると…。


「覚えてる。だけど…今俺は、終身刑なんだ」

「うん。ヒルカやベルが言っていたのを聞いたわ。あの城を、破壊したんでしょう」

「うん…。たくさんの人を、死なせてしまった」

「だけど、あの城をそのままにしておいたら、もっとたくさんの人が死んでいたかもしれないわ…。国王は何かを企んでいた…。それは間違いない」

「そうかもしれない…。だけど、そのせいで無関係な人たちも、たくさん死んだんだ。俺の仲間の一人も、そのせいで大切な人を失って、悲しませてしまった…」


メリはアグを抱きしめた。


「辛かったね……アグ……」


アグは首を振ったが、メリは彼を優しく抱きしめ続けた。


「そんな仲間がいるのに、君と結婚だなんて、できない」

「うん…いいよ…その代わり、そばにいさせてほしい…」

「……俺はこの部隊で一生働かなければならない。働きたいとも思っている。俺といたいなら、君も…」

「私も、部隊に入れないかな」

「明日、皆に相談してみる」

「ありがとう…」


メリは笑った。


彼女のこの笑顔が、また見れるなんて。

時間はたちすぎてしまったけど、またこうして会えて、俺の気持ちはあの時のままだ。


「メリ…」


俺はメリの顔に手をやると、彼女にキスをした。

彼女も目を閉じて、彼の背中に手をまわした。



「おい! アシードとハルクと飲むんだよ! ヌゥ、お前も来んだろ?」


レインはヌゥの部屋にやって来ると、声をかけた。


「え? 今から飲むの? 元気だね!」

「あんな、お前らは前夜祭やってたみたいだけど、俺らは何もやってねえの! さっさと来いよ!」

「わかったよ」

「他のやつにも声かけっから。まあケガしてるやつは無理だけど! アシードたちはもう待ってっから。先に行ってろよ」


ヌゥは部屋を出て食堂へ向かった。


「おい! ベル!」


レインにドアをノックされ、ベルは返事をした。レインはドアを開いた。


「お前も食堂来いよ! 宴会すんぜ」

「わ、私は飲めませんから…」

「いいから! 部屋にいても暇だろ! 来いって!」


レインはベルの腕を掴んだ。


「私なんかが行ったら、皆気まづくなっちゃいます」

「はぁ?! なんねーよ。いいから来いって」


ベルは半ば強引に部屋をだされ、しぶしぶ階段を降りた。

そこには食堂へ向かうヌゥの姿があった。


「あ、ベルちゃんも行くの? 一緒に行こ!」

「あ、あの…」

「どうしたの?」

「あの…さっきは…助けてくれて…」

「ああ。スカイダイビングってやつ? 初めてやったけど、結構怖かったね〜!」


ヌゥはそう言ってにっこり笑った。


「本当に…ごめんなさい…」

「ベルちゃん…」


ヌゥはベルの頭を撫でた。


「ありがとう。皆を助けてくれて!」

「ヌゥさん……」

「みんな待ってるよ! 行こ!」

「は、はい!」


二人は食堂へと向かった。


レインはアグの部屋にもノックした。


「な、なんですか?」


アグの声が聞こえた。

鍵がかかってドアは開かない。


「飲み会やるから来いよ!」

「えっと…メリが目を覚ますまで、付いてます…」

「わかったよ。食堂でやってっから、気が向いたら来いよ」

「わかりました」


その時ベーラは、一番奥にあるジーマの部屋へ行こうと廊下にでていたが、彼の部屋にシエナが杖を付きながら、食事を運んでいくのを見つけて、行くのをやめた。


「あれ、ベーラ」

「なんだ、レインか」

「あ、シエナのやつ…」


レインもシエナに気がついた。


ベーラはレインの前を通って部屋へ戻ろうとした。


「ああ! ちょっと待てよ! ベーラも来いって! 宴会!」

「私はいいよ。さっき夜ご飯は食べたし」

「いいからとりあえず来いって! な! もう元気になったんだろ?」

「元気にはなっていない。疲れている」

「んもー! いいから行こうぜ! お前がいないとつまんねえからさ!」

「どうしてだ?」

「どうしてもだよ! ほら、行くぞ!」


レインは彼女の手を引いて、食堂へ降りた。


宴会場では既にアシードが悪酔いして、ハルクに無理やり飲ませていた。

ハルクが見たこともないくらいベロベロになっていて、レインは驚いた。


「おい! ペース早すぎか! 何やってんだよおっさん!」

「がーっはっは! わしのせいではないぞ! ハルクが飲みたいと言ったから飲ませたんだ」

「くはぁ〜レイン〜………」


ハルクはレインにフラフラと近づいてきた。

そのまま彼に倒れ込んだ。


「おいおい! どうすんの! まだ始まってねえって!」

「レイン〜……」


ハルクはニヤつきながらレインを見た。


(こりゃ随分なこったよ…絶対覚えてねーんだろうなぁ…この醜態知ったらショック受けんぞハルクのやつ…)


「こらこら、とりあえず水飲めって……」

「うう〜……」


ハルクの顔は真っ赤になって、目がクラクラしていた。


「よーし! さあ若僧も飲むのじゃ! ベルはジュースだぞ!」


アシードはヌゥにお酒を注いだ。ベルにはジュースの入った缶を渡す。


「俺もジュースでいいよ…まずいもん…」

「何を言っておる! 仕事のあとの酒はうまいぞぉ!」


ヌゥはお酒を、ベルはジュースをアシードから受け取った。

レインもハルクを支えながら急いで駆け寄った。


「ああ! ちょっと待てよ! 俺も俺も! ベーラ、お前は? ジュースでいいの?」

「……酒、飲む」

「飲むの?!」


アシードは大笑いしながら二人にもお酒をついだ。


「ようっしゃあ!!! まあここに来れないけが人もでてしまったが、部隊みんなの活躍により、ウォールベルト国の壊滅に成功したぞぉぉ!!! 今夜は祭りじゃあ!! 我が同士たちよ! カンパーイ!!!」

「カンパーイ!!!」


食堂では大宴会が始まった。


あっという間にヌゥもレインも酔っ払って、バカさわぎした。

ベーラは案の定わけもわからずあんあん泣いて、ベルはそれをなだめた。


「うう!! ベルちゃあん!!!」

「よしよし…」


(ベーラさん、酔っ払うと本当に人が変わりますねぇ…可愛いからいいですけど…)


「ほらほら! もうくたばんのかぁ? 先輩の酒が飲めねえとは言わせねえぞ!」


レインは完全に悪酔いして、ヌゥに激強の酒を割らずに渡す。


「はぁー? 誰がくたばるって? 貸してっ!」

「一気だぞー! 一気ぃ!」

「おおー! やるなぁ若僧!!」


ヌゥはその透明なお酒を、一気に飲みきった。


「くはぁー! げろまずぅ〜〜!!」

「おいおいおい! 先輩のついだ酒にげろまずはねえだろ!」

「だったらレインもおんなじの飲んでよ!」


ヌゥはレインの口に彼の手の酒瓶を押し込む。


「てんめっ!うがっっ」


レインも同じものを飲まされて、二人共更に酔った。


ハルクとベーラは既に気絶、というか眠っていた。


ベルはお菓子をつまみながら、1人座っていると、悪酔い三人組がやってきた。


「ねえねえベルちゃん! この中で1番強いのは誰だと思う? 俺だよね? 絶対俺でしょ!」

「いやいや、わしに決まっとろうが! 見るのじゃ!この筋肉をぉ!!!」

「バーカ! ライオン様にお前ら人間が敵うかよ!」


ベルは困ったように笑うしかなく。


「み、皆さんお強いですよ…」

「あぁ〜もう! そういうこと聞いてんじゃねえの!」

「先輩に気遣わないでいんだよ! 正直に! ね!ベルちゃん」

「わしのこの筋肉をよーーく見るのだ!! なんなら触ってみるがいいぞぉ!!」


すると突然、ベルは泣き出した。


「え?! 何で?!何で?!」

「んもう! アシードが気持ち悪いからだよ!」

「何故わしのせいなのだ!」


ベルはうっうっと泣いて、涙を拭った。


「皆さんが、今までみたいに話してくれるのが、嬉しくて……」

「ベルちゃん……」


レインはベルの肩に手をやった。


「バーカ! 当たり前だろ!仲間じゃねえか!」

「うう…ひっく……」

「我々は同士! 一度の過ちで、その絆が壊れることなどない!」


ヌゥはベルに笑いかけると言った。


「ねえベルちゃん。俺たちがこうやって笑い合えるのは、誰も死なずに生きて帰ってこれたから。それって、ベルちゃんのおかげだよ」


ベルは顔を真っ赤にして、涙を拭った。


「皆さん…ありがとうございます……」

「ようし! じゃあ続きだ続き!」

「祭りはこれからよぉ!!!」

「おおー!」


そして3人は朝方まで騒いで、ベルはその様子を笑ってみていた。



ヒズミは1人、部屋でベッドに横たわっていた。


(はぁ……ほんま何やってんやろ自分…)


あんなわかりやすーしてたら完全にバレてんちゃうか…。

みんな引くやろなぁ…わいがヌゥのこと好きやなんて知ったら…。


「はぁ〜…」


彼は大きなため息をついた。


いっそのこと、シエナみたいにオープンで行ったほうがいいんちゃう。

いや、あかんか…。そんなん余計引かれるか。


「あぁ〜もう!」


ヒズミは布団を抱きまくらみたいにしてごろごろ転がった。


やっぱり内緒にせなあかん!

あの子に嫉妬もしたあかん!

よし!もうやめや!

どうせ叶わへんねん……これまでみたいに笑って話せたらそれでええ。

たまにちょーっと、ギューってしてくれたら、更にいいわぁ〜。


ヒズミは誰にも見せられないようなニヤついた顔で、布団を更にぎゅっと抱いて眠った。



ジーマはベッドの上で身体を起こすと、そっと包帯を外して、右目だけを覆うように付け替えた。

ゆっくり左目を開けると、ぼんやりだけれど部屋の景色が見えた。

何日かすれば今よりも見えるようになると、ベルは言っていたけど…。


すると、トントンとドアがノックされた。


「ジーマさん……?」

「シエナ…? どうぞ……」


シエナが食事を持って入ってきた。杖をつきながらだったので、かなり慎重に入ってきた。


「だ、大丈夫…?!」

「はい…すみません。あの…一人じゃ食べられないと思って…それで…」


シエナはジーマの左目が開いていることに気づいた。


「み、見えますか…?」

「うーん…ぼんやり…。でもシエナのことはわかるよ」

「そ、そうですか…」


(ジーマさん……もう本当に片目が見えないんだ…。左目も…少ししか見えなくなって…)


「シエナ、足は大丈夫なの?」

「はい…まだ杖がいりますけど、ゆっくりなら…」


シエナは机の上に食事をおいた。


「食べます…?」

「うーん……後で食べようかな」

「わかりました…」


目だけじゃなくて、身体も傷だらけ…。

レインとアシードとウォールベルトに駆けつけたとき、あなたが酷い姿でエントランスで倒れていて、もう死んだんじゃないかと、頭が真っ白になったわ。


「無理しないでって…言ったじゃないですか……」

「うん。ごめん…」

「うう…うう…でも、生きていて良かった…生きていてくれて…」


彼女はまた泣いた。

君は僕のために、こんなに泣いてくれるんだね…。


「情けない姿、見せちゃったね…」

「何言ってるんですか…情けなくなんて…ジーマさんじゃなかったらダハムを倒せなかったって、皆言ってましたよ。すごく強いやつだって…」

「うん。強かった」


死ななくて、良かった。

みんなを信じて、良かった。

君にまた、会えたから。


もうこの気持ちに、嘘なんてない。

曖昧なことはしない。

君のことが大好きで、君のそばにずっといたい。


「シエナ…こっち来て…」


ジーマはシエナを手招きする。

近づくほど、ぼんやりとした彼女の姿が、よく見えてきた。


「もっと近く…来て……」


シエナがベッドに手をかけると、ジーマは彼女の身体を引き寄せて、キスをした。


「んんん!」


シエナはびっくりして、目を大きく開いたままだった。


(何? 何?! 何?! え? これ何? キス? キスよね? 私、ジーマさんとキスしてる?!)


ジーマは唇を離すと、彼女の顔をまじまじと見ていた。


「好きだよ…シエナ」


はっきりと彼にそう言われて、シエナは顔を真っ赤にして、何も言えなくなった。


(う、嘘……何これ…夢? 夢なの? え? え? ジーマさんの方から、好きって? え?)


ジーマは少し微笑んで、彼女の顔に右手を添えた。


「もう一回、してもいい?」


シエナは赤面しながら頷いて、目を閉じた。


ジーマはまた、彼女にキスした。


(んん…何…? し、舌が……あう……ど、どうしたらいいの…)


シエナは初めての大人のキスに戸惑いながらも、ジーマの身体に手をやって、彼にこたえようとした。


彼はシエナの唇を何度も咥えて、長いキスをしたあと、ゆっくりと顔を離した。


今にも昇天しそうな彼女を見て、ジーマは微笑んだ。

彼女の頭を撫でながら、言った。


「今日はここまで、ね。続きはシエナが大人になってから」

「え…? は、はい……」


(続きってなんだろ……)


頭がぼーっとする。

私、ジーマさんとキスしたんだ。

キスって唇が触れ合うだけじゃないんだ…。

あんなに激しいものだなんて…知らなかった…。

今もドキドキして、心臓が破裂しそう。


「どうしたの?」

「えっ? いや、その…嬉しくて……」


ジーマは彼女の方を見てまた笑っていた。


「ちゃんと、言うから。皆にも」

「え?」

「僕も君のことが好きなんだって。ごめんね、今まで…君の片思いみたいに、皆に見られていたよね…」

「私はそんな…気にしてなんか…」

「でも、言うから」


嬉しかった。

いつも、どこかで不安だったから。


シエナはふと部屋の時計を見た。

もう21時だ。


「あ、じ、ジーマさん、もう遅いから…寝ないと…」

「え? まだ21時だよ?」

「21時は寝る時間ですよ!」

「はは…子供だなあ」

「こ、子供じゃありません! ジーマさん身体もボロボロなんですから、よく休まないと…!」


部屋に帰ろうとしたシエナの腕を、ジーマは掴んだ。


「な、なんですか?」

「一緒に寝よ」


ジーマは彼女を引っ張って、無理やり自分の隣に寝かすと、彼女を覆うように横になって、そのまま目を閉じた。


「おやすみ」

「え?! ちょ、ちょっと…」


彼は彼女の口に人差し指を当てて、黙らせた。

そして彼女と手の平をあわせ、双方の指を交互に重ねるように手を繋いだ。


(ね、寝れるわけないじゃない!!)


シエナは、既に眠りについた彼を見ながら、その日はなかなか眠りにつけなかった。



















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