帰路にたって(※)
とりあえずメリを連れて、皆はアジトに戻ることにした。アシードに呼ばれて一人待機していたアンジェリーナは皆のところに駆けつけた。
目の見えないジーマ、立ち上がれないヒズミにメリ、まだ杖がないと立てないシエナを支えながら、全員はアンジェリーナに乗り込んだ。
上空から、壊滅したウォールベルトを見下ろす。
残っていたシャドウ、異常動物たちは皆、瓦礫の下だろうな…。
その国は、跡形もなく、崩れ去っていた。
アグはメリを抱えていた。
「で、誰なんだよその女は」
レインがアグに近づいた。
「メリです…」
「メリって…敵のシャドウじゃねえのかよ」
「そうです……」
すると、ジーマが声をかける。
「レイン。落ち着いて。話はアジトについてからでいい」
「わかったよ…」
レインはアグに小声で言った。
「思い出したのか?」
アグは小さく頷いた。
「それにしても、皆よく生きておったのう!」
「ほんと奇跡的だぜ。この傷でよ…。まあこれも、ベルのおかげ…」
「皆、ごめんなさい!」
突然、ベルが頭を下げた。膝を曲げて、深く土下座をする。
「私…私……本当はここにいる資格なんて……」
「おい、ベル? どうした?」
何も知らないレインたちは不思議そうに彼女を見る。
「私なんです…皆さんの情報をウォールベルトに流したのは」
皆は驚いて、彼女を見た。
ヌゥはベルの元に駆け寄った。
「ベルちゃんを責めないで! ベルちゃんは奴らに命令されて、仕方なくやったんだ…!」
「ベル、お前……」
「ウソでしょ…ベル……」
ベルは頭を上げた。
「ごめんなさい。皆を、裏切って…。死んで、償います」
すると、ベルはアンジェリーナから飛び降りた。
「ベル!」
皆……ごめんなさい……
ベルは涙しながら、皆のことを見たまま、背中から落ちていく。
「ベルちゃん!!」
ヌゥは無我夢中で飛び降りた。
「ヌゥ!!」
アグは空に落ちた彼を見て叫んだ。
皆も彼の名前を呼びながら、アンジェリーナから下を見下ろす。
ヌゥは手を伸ばすと、ベルの腕を掴んで、身体を引き寄せた。
「ぬ、ヌゥさん…なんで……」
ベルはヌゥのことを見ながら呟いた。
駄目…もう…死んでしまう…!
アシードは叫ぶ。
「おい!アンジェリーナ! 二人を助けるんだ!」
「グワグワっ!!」
「皆アンジェリーナに捕まるのだ!」
アンジェリーナは二人めがけて急降下した。
「駄目だ! 間に合わねえ!」
「土の柱で受けられませんか?!」
「この速度でぶつかったら死んでしまう」
「そんな…!」
ベーラはロープを創造し、放出した。
「ヌゥ! 掴まれ!!」
ヌゥはベルを抱いたまま、ベーラのロープを掴んだ。
「動けるやつは引っ張れ!」
「おっしゃあ!!!」
「うおおおお!!!!!」
(くっそ! あと少しなのに!)
もう少しで地面に衝突するという時、アグの落とした風爆弾の爆風で身体が浮かんだ。
「うっ!」
「よっしゃ! 耐えたぞ!」
「皆、引っ張るのだぁぁ!」
何とか衝突を免れ、二人は引き上げられた。
「何やってんだよ!」
「ご、ごめんなさい…」
レインに怒鳴られ、ベルはびくっとしながら謝った。
「ほんま無事でよかったで…」
「ヌゥ、お前も無茶して…」
「いいじゃん。助かったんだから…」
「よくねえっつーの!」
「ヌゥさんは悪くないんです…私が全部…悪いんです…」
泣いているベルを見て、皆口をつぐんだ。
「皆……ベルちゃんを責めないで……」
「最初から誰も責めてねえよ…」
「なんや事情があるんやろ…?」
シエナはベルに近づくと、彼女の頬を引っぱたいた。
「ちょ、シエナ…!」
「あんたのせいで皆が…酷い目にあったんだとしたら…私は許さないわよ! でもね! あんたは皆を助けたじゃない! ジーマさんも、ヒズミも、そこのメリって子も、あんたがいなかったら死んでいたのよ! 他の皆だってそう! 何度もあんたが助けてくれたじゃない!」
「シエナさん……」
「私たちにはあんたが必要なのよ! わかるでしょ?! 死ぬなんて許さないわよ! 裏切ったことを悪いと思うなら、あんたが死ぬまで、これからもずっと、私達を助け続けなさいよ!」
シエナはベルを抱きしめた。
「もうこんなこと…しないでよ…」
「ご……ごめんなさい……」
ベルは泣きながら、シエナにもたれかかった。
(ありがとう…シエナさん…)
シエナはベルを支えながら、アンジェリーナの端の方に行って、ベルの背中をとんとんとたたいていた。
(なんだ…友達…いるじゃんか……。ベル…無事で良かった…)
アグもその様子を見て、ほっと息をついた。
「…皆、話したいこともたくさんあるだろうけど、アジトについて、落ち着いてから話そう」
ジーマが言うと、皆は頷いた。
各々好きな場所に座って、空の旅を続けた。
「お前も、少しでも楽にしてろ。致命傷なんだから」
ベーラはジーマの隣に座ると、ぼそっと言った。
「うん、ありがとう。ベーラは? 大丈夫なの?」
「私は術を使いすぎただけだ。傷は浅い。腹は減ってるけどな」
「そう。ならよかった。アジトについたら好きなだけ食べなよ」
「無論、そのつもりだ」
ベーラはシエナとベルを見ながら、言った。
「あの子は……いい子だね」
「うん…。ベルも誰かに叱ってもらわないと、辛かっただろうしね…。本当は僕がやらなきゃいけなかったんだけどな…。シエナに助けられたよ」
「ふ…。お前があの子を好きになるのも、よくわかるよ」
「はは……そう?」
「ああ。私もたまに、思うことがあるよ。あの子みたいになれたらって」
「え? 君が…? どうして?」
「さあ。どうしてだろうね」
ベーラは目の見えない彼を見ながら、少し笑った。
「ベーラはベーラのままで、いいじゃないか」
「ふふ…まあそれでもいいよ」
ベーラは立ち上がって、目を閉じた。
風を身体に感じる。
気持ちいいなぁ…。
わかっている。私はあの子みたいにはなれない。
だから私は、私にできることをしよう。
私にしかできないことで、皆を守るよ。
レインはハルクの隣に座って、彼に話しかけた。
「お前、大丈夫だったか。聞いたぜ。薬の作り方吐かせようと、拷問されたってよ…」
「私は大丈夫ですよ。他の皆さんのケガに比べれば」
「言えばよかったじゃねえかよ。そんな目に合うくらいならさ」
「言えませんよ…。あれは皆を守るための切り札ですから…」
「はぁ…皆あったまおかしいよ。なんでそんなボロボロになってんの」
ハルクはクスッと笑った。
「そんなの、決まってるじゃないですか。部隊の仲間のことが、大好きだからですよ」
レインはきょとんとしてハルクを見た。
「はっ…お前の口からとうとうそんな言葉がでるとはな」
「…いけませんか?」
「べっつに…いいんじゃね」
まあ、あなたのおかげですけどね。
こんな気持ちに、なれたのも…。
アグは、メリをそっとアンジェリーナの上に横にすると、ヒズミのところへ行った。
ヒズミは横になっていたが、アグを見ると、起き上がった。
「ああ、いいですよ。そのまま横になってて…」
「もう起きてもたわ。何やの」
「その…お礼が言いたくて。かばってくれて、ありがとうございました……」
「別にあんたのためやない。ヌゥに頼まれたから、守っただけや」
アグは彼の隣に座った。
「それでも…ありがとうございます…」
「はいはい。もうええって」
「…何でヌゥとケンカしてたんですか?」
「はぁ?!」
「あいつ出発前からずっと気にしてたんですよ。ヒズミさんに何かしたんじゃないかって…。あいつヘラヘラしてるようで、そういうのに敏感なんですよ」
「別にケンカなんかしてへんし! 大体なぁ、やめえそういう、ヌゥのこと俺が一番よく知ってるんです〜みたいなやつ!」
「そんなこと言ってないですけど…」
(何で…怒ってるんだろう。出発の日からなんだか様子が変なんだよなあ…ヒズミさん)
「わいにはそう聞こえるねん! わいの前でそういうの、ほんまやめ!」
「…何でそんなに怒ってるんですか? 俺、ヒズミさんに何かしましたっけ…。何かしたんなら謝ります…」
「別に、怒ってへんし…。もう! ええから! わいに構わんといて! あっち行け!」
「何話してーるの! 俺も入ーれて!」
ヌゥがにこやかな表情で二人の間に割り込んだ。
「うわっ! なんやの!」
「二人で仲良く何話してるのかなーと思って!」
「仲良さそうに見えたんか? 面倒くさいから、あんたもあっち行っとけ!」
「ええー?! ひっどい! さっきは仲良くハグしたじゃん! なんなの? ツンデレ?」
「うるさいなあ! あっち行け言うてるやろ!」
するとアシードもやってきて、ヌゥとヒズミ二人の頭をがしっと掴んだ。
「がーっはっは! ケンカは行かんぞ若僧たちよ! 我らは同士! 何よりも熱い絆で結ばれておるのだ! 仲良くせんか!」
(暑苦しいおっさんまできてもうた! もう最悪! 頼むから少しだけ一人にしてーや…てか髪の毛ぬけてまうし…痛ててて)
「アシード痛いよ離して! ケンカなんてしてないし!」
「そうかのう。それだったら問題はあるまい! がーっはっはっはぁ!!!」
なんだかんだで、和気あいあいと帰路にたった。
やがてアジトにたどり着いた皆は、ジーマの命令で、話し合いは明日にするから、今日はもう休むようにと言われた。
各々自由な時間を過ごし、のんびりとした時を過ごした。




