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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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特別編・サンタへの手紙①

「ねえアグ! 明日何の日か知ってる?」

「な、何……?」

「クリスマス・イブだよぉ〜!!」

「えっ……」


4年間この特別独房に1人きりだったヌゥのところに、アグがやってきてもう数カ月が経った。大量殺人鬼であるヌゥを前に怯えた生活を送っていたアグだったが、少しずつ彼にも慣れてきたところだ。


この前、彼が読んでいる本のタイトルをこっそり見た。

どうやらヌゥは、俺と友達になりたいらしい。


(ってことは、俺のことを殺す気はないんだよ……な………?)


ヘラヘラ笑っているヌゥをちらりと見る。

あの笑顔、まじでサイコ的だ……。


(やっぱ信用できない……。家族だって殺したんだ。友達だって殺すに違いない)


そうさ。友達になっても殺される可能性は充分にある。

全てこいつの気分次第に違いない。

ていうか、そんな奴と、誰が友達になんかなるかよ…。


「クリスマス楽しみだねぇ!」

「別に独房(ここ)じゃ何もないだろ…」

「あるある! だってクリスマスの晩御飯にはね…」

「うん……?」


まさかケーキとか出たりすんのか?

そんな大盤振る舞いしちゃう?


「バニラアイスがつくんだよ!」

「そ、そうなんだ……(しょっぼー……)」


まあ甘いものはそんなに好きじゃないからな。

何が来たって喜びやしないよ。


ヌゥはあぐらをかいて、壁にもたれかかった。


「でもねぇ、独房(ここ)に来てからサンタさん来てくれたことがないんだ〜」

「……」


いや、当たり前だろ。来るわけねえだろ。

馬鹿なやつだ。お前のサンタはな、お前が殺したんだよ。

クソイカれ野郎が。


ていうか、ちゃんとサンタ信じてんだな。

やっぱ脳内ガキだなこいつ。

俺なんて孤児だったからな、サンタなんて来るはずもなかったよ。


「やっぱりあれかな! 悪いことした子のところにはサンタは来ないっていうの、本当なのかな!」

「……」


悪いことどころじゃねえよ、俺たちがやったのはな……。


「だけど今年もお願いしてみようと思うの! ダメ元で!」

「そ、そう……」

「毎年ね、サンタさんに手紙を書いてるんだ!」

「へ、へぇ……でも書いたあとどうするの?」

「どうって、枕元に置いとくんだよ! サンタさんがもしここに来てくれたら、手紙を読んで俺の欲しいものをくれるはずだからね!」

「なるほど……」


魔法使いだな。こいつの中のサンタは、マジ魔法使い。


「アグも一緒に書かない?」

「え……俺はいいよ……」

「な、何で?! 諦めないでよ! 2人でお願いしたらさ、ほら、サンタさんが来る確率が上がるかも!!」


(確率て……何を言ってんだこいつは)


もし仮にサンタがいても、殺人犯のところになんて来やしねえよ。しかもそれが2人もいるんだ。もっと来ねえよ。

サンタはアホじゃないはずだ。殺されたくねえから逃げてくよ。特にお前からは。


「はいどうぞ」


ヌゥはびりっと破ったノートの1ページを俺に渡した。

そして俺に、拒否権などない。


(はぁ……)


いるはずのないサンタに手紙を書くなんて、何と虚しい。

まあいいや。欲しいものなぁ……そうだなぁ……。


ていうかサンタへの手紙って、そんなギリギリに書くもんなのか。もう23日だぞ。

こいつの母親よく対応できたな。


「何をお願いしようかな〜……」


ヌゥは鉛筆を顎に当てて、ニコニコしながらプレゼントを考えている。彼は真剣だ。


そういや、明日がクリスマス・イブってことは…。


「あ……」

「何なに?! 何か欲しいもの思いついたの?!」

「いや、そうじゃないけど……」

「えー? でも何か思いついたような声出してたよ?」

「いや、その……明後日、俺の誕生日だ……」


アグ・テリー、11歳の誕生日だ。


それを聞いたヌゥは、パアっと目を輝かせた。


「そうなの?! おめでとう!!」

「いや、まだだけど……」

「そっかあ! アグの誕生日はクリスマスなんだね!!」

「うん。まあ……」

「俺もね、冬生まれなんだよ!」

「へえ。いつなの?」

「12月31日!!」


大晦日かよ………。

1年の終わりに最悪の殺人鬼が産まれちまったんだな……。

まあ母親に罪はないんだろうが。というかもう、死んでるし…。


「結構近いんだな…」

「そうだね! 奇跡だねぇ!!」

「いや、奇跡ってほどじゃないだろ……別に同じじゃないんだし」

「えー? そっかあ…。まあでも、親近感がわくね! 冬生まれ同士! 仲良くなれそうだね!!」

「……(いや、全く)」


まあでもよく考えたら、春生まれだとしたら俺は事件を起こす前に11歳か。危うく死刑になるとこだったよ。

いや、こいつと一生一緒に過ごすくらいなら、死刑になった方がましだったろうか。なんてね。


「ああ、でも独房(ここ)にいたんじゃ、アグにあげられるものが何もないよ〜」

「別に何もいらないよ…」

「えー? アグの欲しいものって何? あ、手紙もう書いたの? 見せて!」

「ちょっ…勝手にみんなよ!!」


ヌゥに紙を奪われそうになったので、アグはクシャクシャにそれを握ってポケットに隠した。


「ケチー!」

「いいから!」


ヌゥは再び自分のメモに向かい合うと、スラスラと何かを書いた。


「今年こそプレゼントもらえますように…!! サンタさんお願い!!」


ヌゥはその手紙をぎゅっと握りしめて、神頼みをするようにサンタさんにお祈りをした。


(だから、来ねえってのに……)


「ヌゥは何がほしいの」

「教えなーい!」


ヌゥは右目の下まぶたを引き下げて、べーっと舌を出した。


「あっそ……」


俺はそっぽを向いて、カンちゃんに図書室から借りてきてもらった気難しい本を、暇つぶしに読み始めた。


「アグは本当に読書が好きだね! 俺も読ーもう!」


ヌゥは例の本を取り出して、読み始めた。


(まだその本読んでんのかよ……)


ヌゥが読んでいるのは、本の最初の方だった。


(何周目なんだよ……)


そうして12月23日は、終わりを迎えた。



翌日、世間で言うクリスマス・イブがやってくる。

といっても、俺達には何の関係もない。

クリスマスも元は神様の誕生を祝う神聖なイベントだ。俺達みたいな極悪人が関わっていいものじゃない。なんて思ったり。


「ねぇ、何でクリスマス・イブっていうの?」

「クリスマスイブニングの略だよ」

「クリスマスの夜ってこと?」


ちなみにこの世界には、俺たちが話す言葉とは別に、とある国が独自に生んだ伝統言語のエイ語ってやつが存在する。俺たちもそれを授業で習ったりもするから、簡単な言葉ならその訳を知っている。というわけだ。


「そうだよ」


ヌゥはうーんと頭をひねった。


「クリスマスの夜って、25日(あした)の夜なんじゃないの? なんで今日がイブなの?」

「エイ語を作った国、あそこじゃ日没から日没までを1日と数えるんだってよ」

「うん?」

「だから、日が暮れてから1日を数え始めるんだよ。何時とかじゃなくってさ。つまりその国じゃあ1日は夜から始まるってわけ。つまり俺たちがいう24日の夜は、その国にとってはもう25日(クリスマス)の夜ってわけ」

「ふうん……」

「何だよ。わかんなかったのか? つまりだな……」


アグはノートに図まで書いて説明しようと試みるが、ヌゥはもうその話にはあんまり興味がないようだ。


「ねぇ、聞いてんの?」

「もうわかったからいいよ〜」


(なんだよもう……)


「はあ〜! でも今夜だね! サンタさんお願いだよ〜! 一度でいいから独房にも来てよ〜!」

「独房にはサンタは来ねえよ…」

「来るよ! 絶対来るの! 俺が5歳の時まではね、毎年ちゃんと来たんだよ! 最後のプレゼントは人形だったよ! でもねぇ、イライラした時にぎゅっと握ったら、身体が潰れて目玉も飛び出てどっかいっちゃった! 気持ち悪いからすぐ捨てちゃったよ。あはははは!!」


(こ〜わ〜い〜……もうやめてぇ……怖いんだよぉ……笑うなし……)


何で人形なんてもらうんだよ……お前男だろ……。


「手紙に人形って書いたんだな」

「書いてないよ」

「え? じゃあ何て書いたの?」

「……友達」

「……」


どんだけ友達が欲しいんだよ……。

気持ち悪いなもう……。


母親もあげるの人形て。いや、まあ人間はあげられないからな…。なかなか考えたじゃねえか。


そして案の定、人形(ともだち)壊されてるし…。


「毎年書いたんだ〜。友達くださいって」

「そ、そうなんだ……」

「去年も、一昨年も、先一昨年も!」

「……」


サンタが仮に独房に来ててもあげられねえなあ、そんなものはよ。


「でもやっとね、俺のところにアグが来てくれたよ」

「……いや、それはたまたまだろ…」

「そうかもしれないけどさ……」


ヌゥはなんだかもじもじしている。


「ねえアグ…」

「うん?」

「俺と……と、と、とも……」


アグもゴクリと息を呑んで、彼のことを見ていた。


「ヌゥ・アルバート、入浴の時間だ」


急に放送が入って、ヌゥは心臓が飛び出そうになった。

俺もなんだかホっとした。


「い、いってくるね…」

「いってらっしゃい……」


この殺人鬼に友達になってと言われたら、俺はどうするんだろう…。

怒らせたら怖いから、とりあえずイエスと言うんだろうか。


でもそんなのって、友達なんかじゃないよな…。


「……」


ヌゥは入浴に行ってしまった。

独房に1人になったアグは、考える。


(ヌゥは何が欲しいんだろう。まさかまた友達とか書いてねえだろうな…)


そしてアグは、覗き見の常習犯になりつつあった。


(ええい!)


アグはヌゥの枕元に置かれたサンタへの手紙を開いて読んだ。


『サンタさん アグの欲しいものを1つ、俺にください』


「……」


俺はそっとその手紙をたたんで元の場所に戻した。


はぁ……とため息をついて、自分が書いたメモを見る。

アイルドクレースと書いた。この前本で読んだ、ある山の山頂でたまにしか採れないという、珍しい鉱石の名前だ。


(はぁ……)


アグはその文字を消して、書き直した。


そしてヌゥが風呂から帰ってくる前に眠りについた。

フリをしただけど……。


「あれー? もう寝ちゃったの〜?」


ヌゥが独房に帰ってきて、檻の鍵が閉まった音がした。


「何だ〜つまんないの。俺も寝よ〜」


そしてヌゥも、眠りについた。










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