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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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復讐のわけ

ある日、メリは真面目な顔で、話をした。


「ねえ、お金をためて、この街を出て、一緒にお店をだそうよ。私が剣を打って、アグが道具や薬を作るの。どうかな…」

「店か。いいね。絶対うまく行くと思う」


メリはアグの顔を見ると、顔を赤くした。


「あ……」


アグも今のメリの言葉にハっとして、赤面して目をそらした。


「それって、私とずっと、一緒にいてくれるってこと…?」

「うん……」

「ねぇアグ、私のこと、好き?」

「うん…好きだよ…」

「私も……好き…」


アグが彼女の方を見ると、彼女もこっちを見てくれていて、目があった。そしてその目を、そらすこともできない。


「こういうとき、大人は…キスするのかな…」

「……するかも…」

「私たちも、してもいいのかな…」


アグはメリの顔に手をかけると、そっとキスをした。


生まれてきて、一番、心臓が鳴ってると思う。


ずっと一緒にいよう。この子と。

そう、思った。


それから数カ月たつと、謎の疫病が流行り、貧困の街の子どもたちが死亡することが相次いだ。死亡した子供たちは疫病の解決策のためと、城に強制的に連れて行かれた。

病気にかかると、身体中が火傷のあとのようにだんだん変色していき、その症状が起これば1週間ほどで死ぬのだという。

俺とメリは無事であったが、ただ事ではないと恐怖した。


「こわいね……どうして子どもたちだけなの?」

「わからない……医者によれば、うつる病気ではないらしい…。何か原因があるのかもしれない…」


ある日、仕事から帰った2人だっが、メリは自分のお金の入った袋を忘れたことに気づいた。


「すぐとってくるから、先に帰っていて!」

「うん…」


メリはダンネの家まで戻った。ドアの鍵は空いていて、メリは中に入ったが、部屋の電気は真っ暗だ。

奥の研究室の電気がついている。

中からは、ダンネと別の男の声がしていた。

メリはそっと聞き耳を立てた。


「おいダンネ! 何やってんだよ。お前のとこのガキにも早く飲ませろよ」

「わ、わかっておる…だが…しかし…」

「貴族1人につき1人差し出せって言われてんだろ。そうじゃねえと、お前の首が飛ぶともな!」

「1人……1人だな…仕方ない……」

「さっさとやれよ。国王命令だぞ」


男がそう言って部屋から出ようとしたので、メリは急いで家から逃げ出した。


(なに?! なんの話?! 飲ませるって…一体何を?)


メリは必死で走ってアグのところに帰った。


(あの城には…秘密がある…)


メリは、勘付いていた。

子供たちの疫病は、城の実験なんじゃないかって。

何のためかはわからない。

でも、貴族たちは、子供に何かを飲ませて、差し出すようにと言われている。


もしかしてダンネさん……


「メリ、どうした? 血相変えて」

「…何でもない」


メリは頭の中がぐるぐるとまわったまま、アグにも何も言えずにいた。


次の日、2人はいつものように仕事場に行った。


「おはよう、メリにアグ君」


ダンネはいつもと変わらぬ表情で、彼を迎えた。

午前中、いつもと同じように仕事をした。

メリは剣を打ち、アグは研究室で実験をしている。


すると、ダンネは水を持って、アグの元へ向かった。

ダンネの様子がおかしかったのに、メリは気づいた。


「喉が乾いたろう、アグ君。お水、置いておくよ」

「ありがとうございます」


アグはその水に手をかけた。


「アグ!! 飲まないで!!!」


メリはすかさずその水を奪い取ると、自分が飲んだ。


「メリ! 何を! 何をしているんだ!」


ダンネは焦った様子でメリにかけよった。


「吐き出しなさい! 今すぐ! 吐きなさい!!!」


(な、なんだ? 何がおこったんだ…?)


アグは状況が飲み込めず、立ち尽くした。


メリはダンネのことを見ると、言った。


「アグを殺さないで。私を城に渡して」

「メリ…なんで……なんでそのことを……」

「聞いちゃったの。昨日話しているのを。そうしないと、ダンネさんが殺されちゃうんでしょう?」

「そんな…だからって…メリが……死ぬこと……」

「ダンネさんには、すごく感謝しているの。平民の私にこんなに良くしてくれて、今までずっと働かせてくれて、ありがとう」

「メリ…メリ……」


ダンネは泣き崩れた。メリのことは、娘のように可愛がっていた。彼女が死ぬなんて……。


すると、メリの身体から病気の症状が現れた。


「メリ…お前……疫病が……」

「この薬はね、疫病を発症させるものだったのよ。貴族たちは子供にこれを飲ませ、城に差し出すことを強要された。もちろんみんな、自分のところの貧困層の奴隷に目をつけたわ…」


メリはだんだん苦しそうになって、横に倒れた。


「アグ、お願い…ダンネさんを責めないで」

「なんで……だからって、なんでお前が……」

「2人共、助けてあげたかったの……」


そう言って、メリは気を失った。


「アグ君……」

「メリを…あなたには渡さない…」


ダンネは彼を見て何も言えなかった。ダンネは自分がメリを殺したことにショックを受け、それどころではなかった。アグはダンネを睨みつけたあと、メリを抱えて貧困の街に帰った。


俺は絶望した。


メリが、死ぬのか?


俺たちは家と呼んでいるその場所に着くと、メリを横にした。


なんで突然、こんなことになった?

実験ってなんなんだ…?

なんでこんな、酷いことを……。


許さない。絶対に…。

城の奴らも……貴族の奴らも……もろとも……

殺してやる…………。


俺はもう仕事にも行かないで、ずっとメリのそばにいた。

メリはもう寝たきりになって、なんの治療の手立てすらなく、ただ時間だけが過ぎていった。


しかしある日、そいつがやって来た。


「見つけたよ。メリ・ラグネル」


黒髪の細目の男は、突然俺たちの前に現れて、そう言った。


「だ、誰ですか…? あなた?」

「俺はヒルカ。メリを助けにきたんだよ」

「メリを……助ける………?」


絶望のどん底にいた俺は、そいつが誰なのかも知らないけれど、何か希望があるのかと思って、彼の話を聞いた。


「シャドウ…?って、なんですか?」

「まあ、くわしく説明すると長くなってしまうけど、メリはシャドウになれる可能性を持っている子なんだ。人間の中に呪人の核っていうものをいれるとね、シャドウになっちゃうんだけど、まあでもあんまり人間と変わらないよ。シャドウになれば、病気で死ぬことはないんだよ。だからメリを助けるには、メリをシャドウにするしかないんだ。わかるかい?」


ヒルカは子供向けに話をわかりやすく話そうとしたようだが、アグにとっては逆にわかりにくかった。

まあでもとにかく、シャドウにしてもらえばメリは死なずに済むらしい。

それが嘘でも、本当でも、俺はもう、すがるしかない。


「わかりました。それじゃあ、メリをシャドウにしてください。メリを助けてください」

「ああ! 良かった。話のわかる子で」

「あなたは、何でメリを知っているんですか?」

「はは…メリはね、元々私の児童施設にいたんだよ。そこではシャドウになれる子を見つける実験なんかもしてるんだ。でもね、ある日子どもたちがみんないなくなってしまったんだ」

「そう…なの? メリ…」

「知らない。覚えてない」

「メリはまだ小さかったからね。でも大丈夫、子どもたちがどこにいるかは、俺にはわかるんだ」

「…? どうして?」


ヒルカは笑みを浮かべるだけで、何も答えはしなかった。


「まあとにかく、メリのことは治そう」

「ありがとうございます!」

「しかし、条件がある」

「条件…?」


ヒルカは頷いた。


「条件は、君からメリの記憶を消すこと。俺の話したことも、全部ね」


アグは目を見開いて、沈黙した。


「そんなことが、出来るんですか…?」

「ああ。俺には特別そういう力があってね。まあ詳しいことを話しても仕方ない。君はもう全部忘れてしまうから。これから君は、メリのことを考えるだけで、酷い痛みを感じることになる。思い出すことを君の身体が拒否する。やがて君は、彼女のことを思い出すことさえしなくなる。そしてメリもまた、同じように君の記憶を消す。もう二度と、会うことはない」


でも、仕方ないのか…。

メリ、君をたすけられるなら、俺は…俺は…


アグは、条件を飲んだ。

この男に、メリを委ねることを決意した。


「ありがとう。準備をして、明日の朝、また迎えに来るよ。それまで2人で、最後の夜を」


ヒルカはそう言って、立ち去った。


「アグ…私…嫌よ……あなたのことを、忘れるなんて…」

「作るから…俺…あいつの術を解く方法を見つけるから。」

「無理よ、そんなの…」


アグは、横たわるメリに顔を近づけ、キスをした。


「お願い…メリ…生きて……。必ず、会いに行くから」

「アグ……」


そして次の日になった。2人の別れの時間が近づいている。


アグはメリの左の薬指に、シルバーリングをはめた。


「これ……」

「婚約指輪。約束したから…大人になったらメリと結婚するって。昨日作った…即席だけど…」


メリは手を開いて、顔の前に持ってくると、その指輪をまじまじと見ていた。


「綺麗ね……」

「メリの打った、銀で作ったんだ」

「ありがとう…アグ……」


メリは涙した。

ヒルカがやって来ると、メリは先に馬車に入れられた。


「じゃあアグ君、これから君の記憶を消す。じっとしていてね」


アグは頷いた。

ヒルカはアグの頭に手を軽く添えた。


「……!!!!」


頭の中に、何かが流れ込んで来るようだ。


「くぁっ!!」

「動かないで」


アグの頭の中の、メリの顔がだんだんと消えていくのがわかる。

メリ…メリ……

駄目だ……消えるな……

メリ……! メリ……!


メリ……って、誰だ?


「終わったよ、アグ君」


アグは頭を抱えて、その場にへなへなと座り込み、倒れてしまった。


「それじゃあね」


ヒルカはアグのことを見ながら、馬車に乗り込み、どこかへ行った。


そしてアグは目を覚ますと、メリのことを、すっかり忘れていた。

そして彼の頭の中には、たった1つのことだけが残っていた。


城を、壊そう。

跡形もなく。


アグは職場にむかったが、誰もいなかった。

ダンネは王の命令を守れなかったとされ、既に殺されていたのだ。


アグはその研究所で、何食わぬ顔で爆弾を作り始めた。


アグはそのことだけに、夢中になっていた。


もっとすごいのを作ってやる…。

あの城が、粉々になって、吹っ飛ぶくらいの、最強の爆弾を。



そこからの記憶なら、全て覚えている。



アグは一瞬のうちに、あの街で起こったすべての記憶を取り戻した。


ハァ…ハァ…


今まで…全部……忘れていたんだ……


アグはその驚きに、興奮が止まらなかった。


しかし、落ち着くまもなく、ヌゥはすぐさまメリに剣を向けた。


「やっ、やめろっ……!!」


アグは叫んだが、ヌゥはメリの腹を突き刺した。

メリは立てなくなって、その場に倒れた。


「きゃは……駄目だ…ヌゥ君、強すぎ……」

「苦しませてやるよ…。その上で、殺す」

「うう……げほっ…げほっ…」


メリは血を吐いた。

アグはメリに、駆け寄ると、彼女を支えた。


「メリ……メリなんだろ?」

「何…あんた……」


アグはメリに、禁術解呪の薬を飲ませた。


「……!」


メリもまた、記憶を取り戻したようだ。


「私…私は……何を……? げほっげほっ」

「メリ…俺だよ! アグだよ!」

「アグ…アグなの? ううっ」

「しっかりしろ! メリ!」

「アグ…アグ……会いたかった……ううっ! かはっ」


メリはそのまま気絶した。

2人は再会を分かち合う暇もなかった。

ヌゥはまた、メリに剣を向けたのだ。


「やめろ…ヌゥ…!」


アグはメリの前に立って、彼女をかばった。


「アグ……どいて………その子は敵だよ……」

「違うんだっ! メリは…違うんだ…。お願いだ、正気に戻れ!」

「何を、言ってるの……?」


(だめだ! ヌゥのやつ…戻らない……)


「早く、どいて。とどめ、さすから」

「やめろ! メリはもう、敵じゃない! メリは俺の大切な人なんだ……お願いだ……元に戻ってくれ……ヌゥ……」


アグは泣きながら彼に訴えたが、彼の覚醒したその姿が元に戻ることはなかった。


「どけ…」

「どかない!」

「どけええええ!!!!!」


ヌゥはその赤い目を大きく開いて、アグに襲いかかってきた。











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