鬼憑きと呼ばれた男
その黒刀、持つ者全て、鬼に食われる。
鬼の宿りしその刀、人を食い、力を蓄え、息をする。
ただ1人、鬼に食われず、その鬼を斬った男がいた。
刀は男に付き従い、彼と共に生きる道を選んだ。
男は、鬼よりも無慈悲で、鬼よりも強く、鬼よりも恐れられた。
男はその昔、鬼憑きと呼ばれていた。
男は、自分が最強だと知っていた。
だから他の弱い奴らのことを、いつも心の中で見下していた。
その力を国のために使うことにはなったが、彼はいつも1人でいることを望んだ。
仲間なんて要らない。
自分1人いれば、誰だって倒せる。
自分より強い奴なんていない。
そういつも考えていた彼は、これまで誰かを信じたことなんてなかった。
誰かに助けを求めることもなかった。
自分さえいれば、何とでもなると。
【あ〜あ〜あ〜〜!!! 何やってんのよぉ!! 目んたまやられちゃってんじゃねえかぁ!!! 俺のことを勿体ぶるからだぞ?! わかってんの?! あほ! あほ! このあほジーマ!】
「黙れ………」
くそ……駄目だ……ほとんどもう、何も見えない……。
「終わりだ! ジーマ・クリータス!」
ダハムはジーマに向かって、斬りかかった。
カキン!!!
と、刃が噛み合う音がした。
「何……?!」
ジーマはその真っ黒な刃の刀で、ダハムの剣を受け止めた。
【ぎゃーっはっはっはっ!!! ついに、ついにきたぞぉ!!! 俺の出番がよぉぉ!!! 腹ペコだぁ! 食うぞぉ! 食うぞぉ! 食うぞぉ!!!!!!】
黒刀は、ダハムの剣を押し返すと、凄い速さで斬りかかった。
(な、何なんだ?! 見えているのか?! いや…奴の目はもう駄目だ……。なら、どうして…)
ダハムは必死で剣を受けようとする。
【どうしたどうしたぁぁ!!!!! …………あ、あ、ぁ、ぁ……】
急に、その刀の急速が落ち始めた。
(おい。何やってんの…せっかく抜いてやったんだ。ちゃんと働けよ)
【ぁぁ……駄目だ………腹が減って、力が出ない………】
ジーマはダハムに身体を斬られ、倒れ込んだ。
ジーマの身体から、血がにじみ出る。
「ざけんなよ……てめぇ………」
(うん……なんだ?! 様子が変わった……?)
ダハムは、身体を支えながら、ゆっくりと起き上がるジーマを見ている。
【仕方ねえだろ〜! 何年も何にも食べてないんだからよぉぉ!!! お前ら人間だって、食べなきゃ生きていけねえだろぉぉ〜〜?!?!】
「この……クソ刀……俺がお前を生かしてやってんだ……だったらちゃんと働けよ……」
【わぁかってるよぉぉ!!! 怒るなよ!! 俺だってちゃんとやりたい気持ちでいっぱいだっての!! でも腹が減って……動けないんだってぇぇ!】
(誰と……話しているんだ………?!)
ダハムが様子を伺っていると、ジーマはその刀で、自分の右目を突き刺した。
それを見てダハムは唖然とした。
「食えよ……早く……」
ジーマはその刀を更に差し込んで、右目をぐりぐりとえぐった。
刀は、まるで幽霊のような、鬼の姿を現して、ジーマの目を食べ始めた。
【お、お、おおおお!!!!! やべぇ!やべえぇ!!!! めちゃめちゃ美味いぃぃぃ!!!!!! とろけるような食感!!! でも弾力もあってぇ、血が絡んでぇ、美味い!! 美味い美味い美味いィィ!!!】
刀はジーマの右目を綺麗に食べた。
ジーマは刀をその目から抜いた。
右目があったその顔の部位はもう、跡形もなく、ボロボロである。
【ごちそうさまでしたぁぁぁ!!!!】
刀はすっかり元気になって、その黒さは光を増した。
ジーマはダハムに刀を向ける。
「お前……何をしている……血迷ったのか…?」
「はっ…てめぇもよく…やってくれたな…おかげで何にも見えねえよ……まあいいか……お前はもう死ぬ……」
(なんなんだ……あの刀を抜いてから、別人みたいになった……凄まじい殺気だ……この俺が……恐れているのか………この男を……)
ダハムはジーマの威圧に押しつぶされそうだった。
【さぁさぁさぁ! お楽しみの時間だぜぇ?!?! 前菜食ったからあとはメインかぁ! 待ち遠しい!! 食べごたえのありそうな身体してやがるなぁぁ!!! それじゃあ、行くぜぇぇ!!!!】
ジーマはその黒刀を手に、ダハムに斬りかかった。
(は、速すぎるっ!!)
ダハムはあっという間に腕を斬り落とされたが、そこからまた腕が生えてきた。
刀から鬼がまた現れて、斬り落とした腕を食べた。
【なんだぁ?!ありゃ!!! また生えてきたぞ!】
「再生すんだ……やるなら一撃だ」
【なんだよもうぅ!!! まあでも、待てよ。食べても食べても生えてくるなら、無限に食べられるってことじゃあないのぉ!! まじバイキングレストランかよぉ!!!】
ジーマは黒刀を地面に押し付け、がりがりと削った。
【痛い痛い痛い痛い!!! おい!!!やめろ!!! わかった! わかった! 冗談だって!】
「殺せ……早く………」
【わーかった! わぁかったからぁ!!!】
黒刀はダハムに向かって、鬼の姿を現した。
(な、なんなんだ……こいつは………鬼………?!?!)
鬼は、ダハムよりも遥かに大きくなって、彼を、丸飲みした。
ダハムには、そのように見えていた。
黒刀はダハムの心臓を一突きして、あっという間に鬼に食われて消えた。
【ごっちそうさまぁぁ!!! こいつも美味い!! 強い奴はやっぱり格別に美味いなぁ!!! ジーマ、俺を連れてきてくれて本当感謝するぜ!! これからも俺たち一緒に…】
ジーマは刀を鞘にしまうと、その場に倒れた。
【何だよぉ…もう力尽きたのか? 仕方ねえなあ……】
刀はもう、喋らなくなった。
傷口が、痛む……。
だいぶ深く……斬られたな……。
はぁ……ほんとに見えないな……
結局またこの刀を……使ってしまった……
良かった……誰もいなくて……
昔のような姿を……仲間に見られたくなかったし……
こんな僕を見たら……
皆…どう思うかな……
皆は僕を優しい奴だと思っているかもしれないけど……
本当は違う……
そんな風に見てもらいたくて……
取り繕っていただけなんだ……
この刀を持つと……
やっぱり戻ってしまうね……
でもいいか…それで皆を…
守れるなら……
いや……守りきれてないか……
こいつを倒すだけで……精一杯……
皆に期待されてるほど、僕は強くなんてないから……
皆、ごめん………
「ジーマさん!」
頭の中で、彼女が僕を呼ぶ声が聞こえた。
昔、彼女に言われた。
「私、もっともっと、強くなりますから…! ジーマさんも、私たちのこと、信じてくださいね!!」
シエナはニコっと笑った。
そうだ……僕は……
心の中で……皆のことを信じきれてなかった……
自分が一番強い……
自分が皆を守らないとって……
自分さえいれば、何とかなるだなんて……
いつも、皆を派遣にいかすたびに、心配ばかりが先走って…
やっぱり自分が行ったら良かったんじゃないかって…
でもそれじゃ駄目だって、ベーラやアシードによく怒られたりもして…
皆は……いつだって、僕の期待にこたえてくれていたのに。
「任せてください! 私たちを信じてください!」
彼女はいつも、僕のことを見てくれていた。
僕のために自分を変えようだなんて努力してくれた彼女も、僕なんかのことを好きだと何度も伝えてくれる彼女も、全部全部、好きだったけど……
本当は、ただ1人、僕に自分を認めてもらおうと、安心させようと、必死で強くなろうとする君が、好きだった……
君は僕に、教えてくれようとしたんだ。
「ジーマさんは、1人じゃないんですからね! 皆、仲間なんですから! ジーマさんからしたら私なんて頼りないと思われるかもしれないけど…辛いときは頼ってくださいね!」
ジーマは無線に手をかけた。
ゆっくりとボタンに手をかける。
ジーと、雑音が鳴り響く。
「じ、ジーマさん?!」
まだ声も出していないのに、すぐにシエナの声が聞こえた。
ずっと無線、持っていたの……
「ジーマさん? どうしたんですか?!」
「……………助……けて………」
「ジーマさん?! ウォールベルトの中ですか?! 一体何がっ?!」
無線は切れてしまった。
ボタンを押す力も、なくなって。
皆……ごめん……
僕が何とかするって言ったのに……
駄目な隊長だよね……
でももう、僕が皆を助けられないなら……
もう先に行った皆を……信じるしかない………
もう残ってる皆に、頼るしかない……。
僕は僕の仲間を……信じる……。
ジーマはそのまま、気を失った。




