再戦・メリ
ふふん、ふふん。
鼻歌を歌いながら、メリはスキップしていた。
「ヌゥ君は、どっこかなあ〜〜」
メリは牢屋にやってきた。
ナキアが倒れている。
「あれ…ナキア…??」
メリはハっとしてナキアに駆け寄った。
気絶しているようだ。
メリが牢屋を見ると、ハルクがいなくなっているのに気がついた。
「役立たず!! 死ね!死ね!死ね!」
メリはそう言って、身体から大量のトゲをだすと、ナキアをギタギタに引き裂いた。
「はぁ〜ヒルカに知らせないとじゃん〜」
メリはナキアを乱暴に捨てさると、ヒルカの元に向かった。
「ここで、何してるの?」
アグは声のする方を振り返った。
そこには、黒髪の細目の男が立っていた。彼は白衣を着ていた。その服は赤い染みがたくさんついていた。
「ははは……君か……」
男はアグを見ると、笑っていた。
アグは後ろに下がりながら、手榴弾を取り出そうとした。
「おいおい。やめろ。ここはシャドウの記録の宝庫だぞ。この部屋を爆発させる気か」
「……ああ……やってやるよ……」
男は笑った。
「ははは…君ならやりかねないね! あの時みたいに、この研究所ごと爆発させたりとかね!」
「……」
この男は、俺のことを知っている…。
「お前は…誰だ……」
「おや、覚えていないのか。メリのことと一緒に、俺のことも忘れてしまったようだな…」
……どういう意味だ?
「俺はヒルカ。君と会うのは10年ぶりか」
「……?!」
こいつがヒルカ…。
シャドウを作った張本人か……。
「ヒルカ〜!!!」
バンっとドアが開いて、メリが中に入ってきた。
メリとアグはばっちり目があった。
「あれ〜誰だっけ?」
「アグ君だよ、メリ」
「ふ〜ーん? それじゃあ敵だぁ! リウムが言ってたわよね! ねぇ、殺していい?」
メリはアグに殺気を放った。
アグはその殺気に恐怖したが、懐から手榴弾を取り出した。
「く…来るな! 近づいたら、この部屋を爆発させる! お前らの研究資料もろとも吹っ飛ぶぞ!!」
メリは高笑いした。
「きゃっはっは!!! 面白いねぇ君!! いいよぉ! やってみれば?!?!」
くそ……はったりがきく相手じゃない……
やるか……? 本当に………
アグはビスに手を近づけた。
「きゃははは!!! お前がビスを引くより速く、お前の首を引きちぎってあげる!!」
「できるもんなら……やってみろ……」
アグがビスを引こうとすると、メリはアグに襲いかかった。
その速さは尋常ではなく、そしてその狂気にアグは身動きが取れなくなった。
む…無理だ! 殺されるっ!!
「アグに触るなぁぁ!!!!!」
何が起こったのかわからなかった。
ただ、ヌゥの声が聞こえて、気づいたらメリはふっ飛ばされていた。
メリは部屋の壁にぶつかって床に倒れ込んだが、すぐに起き上がった。
ヌゥはメリを睨みつけた。
「ヌゥ君……また会えたね……」
「今度は殺すよ……君を……」
「きゃは……! いいねぇ! いいよぉ〜!!」
メリは興奮していた。
「おっと…ここで暴れないでくれよ!」
ヒルカが部屋の壁に隠されていたボタンを押すと、急に床がなくなって、下の階に落ちた。
「うわっ」
俺は尻もちをついた。
下の階に降りたようだ。
どうなってんだあの部屋は……。
それよりここは……。
今まで見た中で、一番だだっ広い部屋だった。
壁も床も真っ白で、何もない。
「きゃは……始めるよ…ヌゥ君!」
「おい、メリ!」
「わかってるよぉ、ヒルカ……」
(殺さないよ……あの方の命令だもんね…!死なない程度に、遊んであげる!!)
メリはその両手からギザギザの刃の剣を作り出すと、ヌゥに向かってきた。
アグはメリが武器を生み出すのを見て、驚いた。
(なんだ?! 禁術なのか…? そうか……アリマの大量の武器も、こいつが……)
ヒルカは両腕を組んで、メリが戦うのをみている。
(あいつは戦わないのか……シャドウに全部やらせて、高みの見物ってわけか…)
ヌゥは長剣でメリの攻撃を受ける。
(それにしても、ヌゥのやつ……またキレてるな……)
メリは自分の剣で、ヌゥの剣を強く押し込んだ。
「きゃはは……ヌゥ君、君は、どんな怪我をしても、治っちゃうんでしょう?! だったら、いいよね! ボロボロにしても、いいよねぇ!!」
「黙れ……俺は、お前達を許さない」
メリは腹の中から槍を生み出し、そのまま突きだした。
ヌゥは後ろに高く飛んでそれを避けた。
(やっぱり楽だな……キレてる時は……考えるより先に、身体が動く…)
「きゃはっ」
メリは笑いながら、ギザギザの双剣をヌゥに投げつけた。
ヌゥは軽々とそれをかわし、メリに向かって剣を振るう。
メリは自分よりも大きな盾を生み出してヌゥの剣を受けると、その後ろに隠れた。
続いてメリはマシンガンを生み出し、盾の上から銃口をヌゥにむけると、撃ちまくった。
(なんだありゃ……あの身体からどんだけ武器が出てくるんだ…?!)
ヌゥは右に走ってマシンガンを避けた。
ズダダダダダダダ!!!
マシンガンの激しい銃声が部屋に鳴り響いた。
カスっカスっと、弾切れの音がなると、メリはマシンガンを捨て、短剣を生みだし、ヌゥに向かった。
「きゃはっ! 避けてるだけじゃあ、私を倒せないよぉ〜?!?!」
(くそ…ヌゥを助けたいけど、俺が手を出せる状況じゃない……足手まといになるだけだ……)
ヌゥとメリは切り合いを続けた。
(互角だ……! 多種多様な武器を生み出せるメリの方が、優勢なのか?!)
メリは銃剣を作り出した。
遠距離からでも弾をうてるし、近づけば剣としても扱える。
(便利だな……どれだけ武器を熟知してるんだ…? それにしても、どの武器も一瞬で出てくるんだな…)
ヌゥはメリの撃つ弾を斬った。
見える……。はっきりと……。
メリの攻撃が……。
自分で考えて身体を動かす必要がないと、こんなに相手のことがよく見えるのか……。
ただ、メリは前よりも強くなっている…。
攻撃を受けるのは簡単だけど、攻めきれない…。
二人の攻防はしばらく続く。
メリは戦闘中、数々の武器を作り出した。
剣、斧、銃、槍、鎖……次から次へと、あらゆる種類の武器…。
メリは爆弾を作り出すと、ヌゥに向かって投げた。
「うわっ」
激しい爆風と煙が皆を襲った。
「アグ!」
「よそ見! 駄目だよぉ〜〜!!!」
メリの攻撃が、初めてヌゥに入った。
ヌゥはアグの前に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫か……?」
「平気……アグこそ、大丈夫?」
「俺は大丈夫だ……」
ヌゥは起き上がった。その時、ヌゥの服から禁術解呪の薬をが落ちた。
(これは……)
アグはとっさにそれを拾った。
「見つけたのか……薬…」
「うん……」
ヌゥはアグに背を向けたまま、答えた。
「ハルクさんは……」
「…牢屋に捕まってた。薬の作り方を吐かせようと、ハルクさんを拷問してた。でも、ハルクさんは言わなかったよ…」
俺とハルクさんで、必死になって作った薬…。
ハルクさんはそれを守ってくれた……。
やっぱり、ハルクさんは、裏切り者じゃなかった。
でも、それはつまり……
「使ったよ。アグのくれた、雷杖」
「そっか……」
そうだと思いたくはなかった。
ベルが裏切り者だなんて…。
「でもね、大丈夫だよ、アグ」
「え……?」
「こいつらを殺せば、ベルちゃんのことを助けられる」
ヌゥは長剣を構えた。
「きゃは…何の話をしてるの?」
「お前たちが、ベルちゃんを服従して、酷いことをやらせたんだ」
「なあに? もしかして、リウムの話をしているの? あの出来損ないのひょろひょろ女のこと?」
「ベルちゃんは、出来損ないなんかじゃない!」
ヌゥはメリに斬りかかった。
メリは同じく剣でそれを受けるが、ヌゥは押し返した。
「ちっ」
メリは舌打ちしてヌゥに斬りかかったが、ヌゥは剣でなぎ払い、メリの右腕を、左手で強く握りしめた。
「ぎゃっ」
メリの腕の骨が折れた。そのままヌゥはメリの身体を蹴り飛ばした。
メリはふっ飛ばされて、床に何度も身体を打ち付けた。
「きゃは…ははは…」
メリは腕を折られながらも、狂ったように、笑っていた。
メリは立ち上がると、身体中からトゲを生やし、ヌゥに向かってきた。折れた腕はぶらんぶらんと揺れ、更に変な方向に曲がっていた。その姿は狂気でしかない。
(何なんだ…この女っ……)
アグは彼女を見て、恐怖した。
(俺は知らないっ……こんな女……)
メリはヌゥに襲いかかった。
「きゃは! 射程圏!」
メリは至近距離まで近づくと、トゲをヌゥに向かって連続で放った。
(数が多すぎる! 避けきれないっ!)
ヌゥの体に何本ものトゲが刺さった。
「ヌゥ!!」
アグは叫んだ。
(くそ……なんて強いんだ……この女……気持ち悪いし…イカれてるし……)
「ねぇ、ヌゥ君、本気見せてよ」
メリはイカれた笑みを浮かべながら、言った。
「アリマの時みたいな、本気、見せてよ」
ヌゥはメリを睨みつける。
「あぁ、君をもっともっと、怒らせないといけないか……」
メリはアグのことを見つめた。
ヌゥもそれに気づいた。
「や、やめて!」
メリは左手に剣を持つと、アグに全速で近づいた。
「ヌゥ君、この子が死んだら、ふふふ……あぁ、君は、どんな顔をするんだろう?!?!」
ヌゥも必死でアグのところに向かった。
「やめて! やめてぇぇええ!!!」
アグは迫ってくるメリを見て、その恐怖に絶望し、目を閉じた。
(死、ぬ………)
メリはアグに剣を向け、心臓めがけて突き刺した。
「駄目ええええええ!!!!!!」
ヌゥの悲痛な叫びが部屋中に響いた。
その瞬間、何が起こったのか……俺はわからなかった。
(あれ……俺……生きてる………?)
アグはゆっくり目を開けると、自分の目の前まで迫っていたメリは、一瞬時が止まったように動かなかった。足元には、メリの左腕が落ちていた。
「え……?」
メリの後ろには、白髪で、真っ赤な目をした、ヌゥが立っていた。
メリは振り返ると、その姿を見て薄ら笑った。
「きたね…きたね……んぎゃっ」
メリは一瞬で、反対の手も斬り落とされた。
「ほう……」
ヒルカは遠目から、変わった彼の姿を見ていた。
「ヌゥ……お前…また………」
ヌゥはその赤い瞳で、メリを睨みつけた。




