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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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花はやがて土に還る

…足の感覚がない。

凍っているんだ…。


冷たい……

アイラ、まるであなたの心みたいね……




「姉さん! 見て! 咲いたよ!」


アイラは花壇に咲いた花を見て、ニッコリと微笑んだ。


「え? もう?」


種を植えて水をやったばかりなのに、みるみるうちに花が咲いた。

真っ白で可愛らしい、眠り華と呼ばれる花だ。

その花粉をかぐと、安らかな夢を見ることができ、半日ほどぐっすりと眠りにつくのだという。

安眠薬としても使われ、それを夢の花と呼ぶ者もいた。


アイラの生み出す土は、特別だった。

その土は、植物を急速的に育てる能力を持っていた。

種を植え、水をやり、太陽の光さえ注げば、そこには花が咲く。

もちろん水をやり続けないと枯れてしまうけれど。


「綺麗だなあ……」


アイラは優しい目で花を眺めながら呟いた。


「本当ね……」


心の優しいアイラ。

私なんかよりも奥ゆかしく、可愛らしい。


大好きで、大切な、もう一人の私。




でも、貴方は、村のみんなを殺した。

例え貴方を生きたまま捕まえても、貴方は死刑になるだろう。


だったら、私の手で。



氷はベーラの足を凍らせ、お腹まで上がってきた。


「アイラ…」

「なんですか姉さん。命乞いですか?」


アイラは凍っていくベーラを見ながら、笑っていた。


「私たち、逆だったら良かったね」

「……!」


アイラはベーラの顔を殴った。


「姉さんに、そんなこと言われたくありません!!!」


姉さんは同じだったから

心と身体が同じだったから


私の気持ちなんて、わかるわけがない

わかる…わけが……


ベーラは辛そうな表情で言った。


「気づいてあげられなかった。助けてあげられなかった。あなたが辛かったのに、私は何も、してあげられなかった」


ああ、私だって、姉さんのこと、大好きだったのに

ずっと一緒にいて、本当の私を受け入れてくれた


でも、私は貴方に冷たくすることしか、出来なかった


自分が女だったらなんて、何回も思った


姉さんは私の代わりに、危険な仕事について…


姉さんも、女の子だったのに……


アイラになって、姉さんのふりをした

女の子の服を着て、堂々と、初めて村を歩いた


最初は嬉しかった

でも、姉さんがいなくなって、さみしかった

姉さんを身代わりにしたんだと思うと、辛かった


ねえ、もし私たち、逆だったら

私が女で、姉さんが男だったら…

姉さんは私と同じように悩んで辛い思いをしたのかな…

私のことを嫌いになったかな

村のみんなを殺したりしたのかな……


姉さんだったら、そんなことはしないかな……


ごめんね姉さん


でももう、遅い

貴方を殺さなければ、服従の紋で私が死ぬ


貴方はもう、私の敵だ


「もう、遅いんですよ、姉さん……」


貴方がいなかったら、こんな気持ちには、ならなかったのかなあ……


「ごめんね、アイラ……」


最後にそう言うと、ベーラは完全に氷漬けになった。


さようなら、姉さん

もう一人のベーラ

もう一人のアイラ


アイラは凍りついた彼女をじっと見ていた。


「そういえば、なんだか暑い……」


アイラが天井を見上げると、小さな太陽が部屋中を照らしている。太陽はゆっくりと、大きくなっていった。


「え…?」


アイラの出した氷柱は溶けて、土を湿らせた。


すると、ベーラが何度も放っていた土の残骸から、みるみると真っ白な花が咲き始めた。


「これはっ……」


眠り華………


部屋中に撒かれた土から、その花が咲き、あっという間に満開となった。

花が咲く拍子にお互いで揺らし合い、大量の眠り華の花粉が部屋中に舞った。


貴方の土には、この花の種が眠っていたのね……


アイラは極限の睡魔に襲われた。

うつろな目で、雪のように真っ白な満開の花を、眺めていた。


「美しい………」


アイラはその場に倒れた。


これは、私の………ベーラの土……

姉さん……いつの間に……私と同じ力を………


「花壇を作ろう!」


あの頃は、楽しかったなあ……


姉さんも私も、二人共笑って………


そんな懐かしい景色が、見えたような気がして

暖かくて、楽しくて、幸せな、二人の姿……


アイラは眠りについた。

安らかな、夢を見ていた。


湿り気がなくなった土は、フカフカのベッドみたい。

あったかいなあ……


そして太陽は、段々と、大きくなっていく。

その力は、強大で、この部屋の全てを燃やし尽くすほどの熱を帯びた。


氷柱は完全に溶けて蒸発した。

眠り華は燃えて土となった。


そしてアイラもまた、土に消えた。


ベーラをまとった氷も溶かされ、ベーラが生還するとともに、その太陽は消えた。


貴方はアイラになりたかった…

私も、ベーラになりたくて、必死に努力したよ…


貴方のような、優しい土を…私も作れるようになったよ……


「安らかに眠ってくれ…アイラ」


天候を操る呪術と創造の術を混合させ、太陽を生み出したベーラは、全ての体力を失って、その場に倒れた。





ヌゥは山羊の頭をしたそいつと戦っていた。


「何者なんだ! お前は!」

「ワタシハ、ナキア。コノ、ロウゴクヲ マモルモノ」

「ナキア……」


ナキアと名乗ったそいつは、槍とは思えない素早さで攻撃を仕掛ける。

その槍、ヌゥの剣の何倍もの太さと大きさで、例え受けたとしても力で敵わず押し返される。


でもこいつを倒せば、ハルクさんを助けられる…。

レインと約束したんだ。絶対助けるって…!


それに、アグが待ってる……!

急がないと……

こいつに時間はかけられない…!


(読め…敵の動きを……)


ヌゥは集中して、ナキアの動きを見た。


焦るな……力はこいつのほうが上だけど、速さは俺の方が勝ってる。

隙を見つける……いや……そんな暇はない…! 隙を、作るんだ……!


ナキアが繰り出す突きをかわしながら、次の敵の動きを予測する。


ヌゥは敵が突き刺してきた槍の上に飛び乗った。

ナキアはヌゥを払い落とそうと槍を右に振った。

ヌゥは更に飛びあがる。

ナキアはヌゥの着陸の瞬間を狙って、突きの構えをとった。


(クウチュウデ、ミウゴキハ トレマイ。モラッタ!)


(かかった!)


ナキアが突きを繰り出すその瞬間、ヌゥは長剣を投げてナキアの右腕に刺した。


ナキアは奇声をあげて苦しんだ。


その瞬間を逃さずに、ヌゥは着地した足で地面を強く踏み切ると、ナキアの懐に素早く潜り込んで、顔を殴りあげた。飛び上がったナキアに追い打ちをかけるように、彼の脳天に回し蹴りを食らわせた。


ナキアはそのまま吹っ飛んで、気絶して倒れた。

ヌゥは彼に近寄って、鍵をすべて奪った。


「被り物じゃなくて本物じゃん、この顔……! 気持ち悪っ!」


ヌゥは急いで大量のカギを順番に確かめていき、ハルクの牢屋のカギを開けた。


「ハルクさん!」


ヌゥは彼に近寄って、口を縛ったロープを外した。


「ハァ…ハァ……ヌゥさん……ありがとう………」


繋がれていた鎖のカギも、部屋を開けたものと同じだったのですんなり空いた。


「すごいケガ……」


ハルクの身体には、拷問の痕のような傷がたくさんあった。

顔はたくさん殴られたのか、痣だらけだ。


「ハァ……薬の…レシピを……聞かれました……。後半の部分は、私しか知りません……。ふふ……レポートには、敢えて書きませんでしたから……」


ハルクは禁術解呪の薬とそのレシピ、材料一式と共に、ウォールベルトの奴らに拉致されたのだという。

ある晩、突然がたいのいいシャドウが現れ、ハルクを襲い、ここに連れてこられた。


しかし、薬のレシピは不完全なものだとわかり、その続きを話すように毎日拷問されたという。


「こんなにひどい目にあって……何で、話さなかったの?」

「話しませんよ……。あの薬は、私たちの切り札……。私も部隊のメンバーの端くれですから……仲間を守るのは当然です」

「ハルクさん……」

「…他の皆さんも、一緒ですか…?」

「うん…薬を取り返しに来たんだけど…あいつらに侵入がバレて、皆シャドウと戦ってる…」

「奴らは薬を下の階の倉庫に隠していました…」

「わかった…! 取り返しに行こう! 走れる?」

「大丈夫です!」


ヌゥはハルクと一緒に、階段を駆け下りた。


(アグ……ハルクさんは……裏切り者じゃなかったよ……。アグが必死で作った薬を、ちゃんと守ってくれていたよ…!)


ヌゥたちが倉庫を見つけて中に入ると、薬が大切に保管されているのを見つけた。


「これです! 間違いありません! 近くにレシピも!」

「よし! 全部取り返した!」


すると、倉庫のドアが開いて、誰かが入ってきた。

ドアを閉める音がして、そいつは言った。


「渡しませんよ……」


聞き慣れた声だった。


ヌゥとハルクは後ろを振り返った。


「やっぱり……君なのか………」


ヌゥは呟いた。


彼の目の先に立っているのは、ベルだった。






























































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