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シャドウの実態

この部屋は……なんだ…?


アグは一番奥の部屋までたどり着いた。

その部屋は、これまでの部屋とは、少し違った。


これまでの部屋は、白い壁と床で、無駄な物はなく、どの部屋もだだっ広かった。

しかしこの部屋は、また違う誰かの家にでも入ったみたいに、誰かがここに住んでいるかのように、ひっそりと、あったかくて、人間らしい、そんな空気の漂う洋室だった。


本棚には書物が並び、机の上はあまり片付いてはおらず、何かを書き留めている途中のような、紙と羽ペン。

フカフカのベッドに、飲みかけの紅茶とティーカップ。


しかし、部屋には誰もいない。


(この部屋には……何かある…)


アグは手当たり次第に本棚に手をかけ、本を読み漁った。


そしてついに、シャドウについて書かれている書物を見つけた。


「………」


アグはおそるおそる、その書物を読み進めた。

シャドウの作成方法が書かれている。


正直、それを読んだところで、俺に作ることは無理だ。

とにかく単語自体わからないものがほとんどだし、複雑すぎる。

これは手術に近いものだろうか。

医療知識のない俺が理解するのはさすがに無理があるか…。


しかし、わかったことはたくさんある。


シャドウは、人間の身体に、呪人の核を入れて造られたものだ。

呪人は、ベーラさんが作り出した馬の乗り手のような、呪術師が造った、人間の姿をした、モノである。

詳しくは知らないが、呪人には核となる部位が存在するらしい。人間でいえば、心臓、あるいは脳のようなものだろうか?

とにかくその核を、人間の身体と合体させるわけだ。


シャドウの強さは、3つの要素が大きく作用する。

1つ目は、核を入れる人間が、生きているか死んでいるか。

2つ目は、呪人がどのくらい強い力を持っているか。つまり、呪人を造りだす呪術師がどれだけ強いかということでもある。

3つ目は、核を入れる人間が、どのくらい強いかである。


核を死体にいれて、シャドウの作成に成功する可能性は、わずか10%。実験データも書かれていたが、ほとんどが失敗に終わっていた。ただ、月日を追うごとに、成功数が増えてきている。初期の実験では成功率は1%にも満たなかったという記載があった。どれほど長い間、研究を続けていたのだろうか…。10%という数字は低く見えるが、10体それぞれに核をいれれば1人のシャドウができると考えれば、量産は不可能な数字ではない。


彼らがアリマで死体を集めていたわけもよくわかる。

シャドウを作るには、たくさんの死体が必要だからだ。


そして、生きている人間に核をいれて、シャドウができる可能性は、更に低い。しかし、その分強力な力を持ったシャドウとなる。メリやダハムがそれに値する。


また、研究によると、人間が子供だと成功率が低いらしい。よって、核を入れるのは大人である方が好ましい。


一度実験に失敗すると、その人間の身体は腐って消えてしまう。

なので生きている人間に核を入れて、失敗した場合、それを死体としてまた実験に再利用することはできない。

死体の場合も同様で、失敗すると腐って消える。


昔はたくさんの死体及び生きた人間を犠牲にしてきたようだ。

しかし、生きた人間に限って、核と適合するかどうかの判断を可能にする実験が行われ、成功に至っているらしい。

生きた人間に核のほんの一部を取り込み、その核に耐性があるかを調べるのだという。


その実験の結果、適合する人間が見つかるかどうかは、非常に稀なことがわかった。それゆえに生きた人間から成るシャドウは、その数が少なく、希少なのである。

しかし適合することがわかれば、シャドウはかなりの高確率で完成するらしい。


シャドウを作る実験はかなり昔から行われていたようだが、シャドウに異様な力、俺達が禁術と呼んでいるその能力が付加されたのは、後の話だ。


核を人間に入れるときに禁術の元となる素材を一緒に入れる。そのシャドウがどのような禁術が使えるかは、こちらで決められないようだ。それは核よりも、元となる人間の耐性、性格、趣味思考などの方が起因する。


禁術の元となる素材のことを、奴らは呪素と呼んでいるらしい。呪素を作るためには、多くの呪術師の身体が必要だった。彼らを拉致し、解剖し、その命を奪って、奴らは呪素を手に入れた。

そしてようやく完成した呪素は、シャドウの強化に欠かせない素材となった。


確か馬車の乗り手が前に言っていなかったっけ?

彼女の一族である呪術師は、ベーラさんをのぞいてあと2人しかいないと。

乗り手はどうしてその数を知っていたんだろう…。

それに呪術師がいなくなってしまったら、そもそもの呪人を作る人間がいなくなるのではないか……?


そのうちの1人、あるいは2人が、積極的にウォールベルトに加担していることは間違いない。


「そこで、何をしている…」


すると、誰かの声がして、アグは後ろを振り返った。




アグ…! どこにいるの……!!

どうか、無事でいて……!


ヌゥは必死で研究所内をしばらく走り回っていた。

途中でシャドウが彼を襲ったが、その剣で素早く倒し、先へ進んだ。

行き止まりになったヌゥは、途中の階段を下りた。


地下は、牢獄のようになっていた。長い廊下があって、檻で仕切られた巨大な個室が幾つもある。そのほとんどは空室である。


「ガルルルルルル!!」

「ギャアアオオオオオゥゥ」


廊下を進んでいくと、獣のうめき声のようなものが聞こえた。

ガチャガチャと、鎖の音がうるさく鳴っている。


「うわっ」


檻の中には、巨大な獣がたくさん閉じ込められていた。

顔なしの魔獣や、アリマでメリが乗って逃げていった白竜。

おぞましい姿の巨大な獣たちが、ヌゥに反応して吠え声をあげた。


こいつらもウォールベルトが作ったの? それとも捕まえた?

こんなのが大陸中に放たれたら……。


獣たちに威嚇されながら、ヌゥは廊下を進み続けた。


すると、奥に人間が鎖で繋がれているのを見つけた。


「は、ハルクさん……」


檻の中にいたのは、ハルクだった。

ハルクはヌゥを見て、ハっとした表情を見せる。

両手両足を鎖で繋がれ、喋れないようにロープを口に噛まされていた。


「くそっ……!」


ヌゥの怪力を持ってしても、檻は開けることがない。


「んん…んん……!!」


ハルクは目で何かを訴えていた。


ヌゥが後ろを振り向くと、身体は人間だが顔は山羊のような生き物が立っていた。赤い瞳を光らせて、ヌゥのことをじっと見ている。手には極太の槍を手にしている。

牢屋のものと思われる鍵の束を、首からぶら下げている。


「シンニュウシャ……シマツスル!」


山羊の顔をしたそいつは、ヌゥに襲いかかってきた。












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