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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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昏迷

ヌゥとベーラは廊下を走り抜けて、広間に出た。

ドアの1つに入ると、突然ドアが閉まり、鍵をかけられた。

その部屋は異様な冷気に包まれていた。

ガチャガチャとノブをひねるが、ドアは開かない。


「なんだ?! 閉じ込められた?!」

「おい! ヌゥ!」

「どうしたの?」

「ベルがいない…」

「え……?」


広間に待っていたのは、深いローブをかぶったそいつ、ただ一人だった。


「これはこれは……君たちでしたか……」


背は低く、声は高く、男か女かもわからないそいつは、そのローブをめくりあげた。


美しい灰色の髪は腰の辺りまで伸びていた。

そして驚くことに、その顔はベーラと瓜二つなのだ。


「ベーラが……2人………」


ヌゥは唖然とした。


「女の子…なの…?」

「いや…、弟だ。双子のな……」


ベーラは表情こそ変えないが、彼を睨みつけているようだった。


「お久しぶりですね…姉さん……」

「アイラ……」


何年ぶりに会ったのか、もう思い出せない。

たった一人の家族。

もう一人の私、アイラ…。


「私たちの邪魔をするなら、例え姉さんでも、死んでもらうしかありません……」


アイラは天井から鋭い氷柱を作り出すと、ヌゥとベーラに向かってそれを落とした。

氷柱は予想以上の速さで、次々に落ちてくる。


「うわっ!」


氷柱は落ちても落ちてもまた天井から生えてきて、その広範囲攻撃を避けるので精一杯で、アイラの元にたどり着くことすらできない。


ベーラは呪術でヌゥの上に鋼鉄の盾を作り出した。

盾は氷柱に当ってもびくともしない。

盾は伸びていき、奥にある扉まで続き、その道を確保した。


「先に行け!」


ヌゥは頷いて、盾の下を駆け抜けていく。


「行かせませんよ…!」


アイラは扉の前に氷柱を生やして道を塞いだが、ベーラはアイラの足元に土の柱を生やし、アイラを持ち上げた。


「まだこんな土を……」


アイラはバランスを崩して、一瞬呪術を発動できなくなった。


「斬れ!ヌゥ!」


ヌゥは長剣を抜き、氷柱に向かって斬りかかった。その時ベーラの呪術で、ヌゥの剣は炎に包まれ、その力で氷柱を砕いた。


「ちっ!」


ヌゥは奥の扉をあけて、先に進んだ。

アイラは扉の奥に向かって氷柱を放ったが、ベーラの土の柱に邪魔をされて届かなかった。

扉はバタリとしまった。


「まあいい……姉さんよりも私の方が強い…、その力を示せる時がきた…」


アイラは薄ら笑って、ベーラを見ていた。



「ヒズミさん! ヒズミさん!」


くそ……このままじゃ……死んでしまう……。


アグは泣きそうになりながら、彼の出血を手で抑えることしかできなかった。


すると、突然ドアがあいて、桃色の髪の女がその部屋に現れた。


(ここで……またシャドウ……?!)


「アリスちゃん!!」


女はヒズミのことをそう呼んで、駆け寄った。


「大変! アリスちゃんが!!」

「き、君は…」


女はアグのことに目もくれず、ヒズミを抱えた。


「アリスちゃん! ずっと探していたんだよ! こんなところにいたんだね! すぐに治してあげるからね!」


な、なんなんだ……?!


女はそのままヒズミを連れて、どこかへ行ってしまった。


桃色の…ツインテール……

あれが…皆が言っていた……

そして俺の記憶の少女と同じ名前の子…


メリ………


「ううっ!」


アグは頭を抑えた。


くそ…また頭痛が……

なんなんだよ……誰なんだ…お前は……


アグは立ち上がった。傷は痛むが、浅い…大したことはない……。


ここにいてもしょうがない……

ヒズミさんを……薬を……探すんだ……


アグはシャドウが現れたその壁に扮した扉の向こうへ進んだ。



「ふん!」


ダハムは剣と魔法を扱い、ジーマに攻撃を仕掛けた。

しかし、その見えない剣で防がれているのか、全くダメージを与えることができない。


カキン!と、剣がかち合う音がする…。


ようく見れば、確かに透明の刃があるようだ…。

ただこいつの剣さばきが早すぎて、剣先は到底目で負えない。

やつの右手と鍔の位置から予測するしかない。


なんて……戦いづらいんだ……!!


「やりにくいよね……わかるよ」


ジーマはニコっと笑うと、ダハムの剣を弾いた。

ダハムの手から剣が離れ、地面に突き刺さる。

ジーマはその隙をついてダハムの右手を斬り落とした。


「ぐあっっ……貴…様……しかし、無駄なことよ……」


ダハムの斬られた右手はしばらくするとその切り口から生えてきて、元通りに戻った。


(再生能力……?!)


二人は攻防を続けた。


(くそ…こいつ…強いな……もうこの剣に慣れてきている)


(だんだんわかってきた…見えない剣先との戦い方がな…)


ダハムは右手に剣を持ち、左手で光の球を遠距離攻撃と盾代わりに器用に使いながら、ジーマを追い詰めていく。


「その剣だけで、俺の攻撃を全てうけきれるのか?!」


ダハムはジーマのもう一本の刀の存在に気づいていた。


(こいつは……出来ることなら…使いたくないんだよね……)


ジーマはその透明な剣一本で攻撃を防ぎながら、隙を見てダハムに斬りかかる。


【ほら、早く俺を使ってそいつをぶった斬れ! そのために持ってきたんだろう?!?!】


ジーマに誰かが話しかける。それは低く濁ったどす黒い声で、ジーマにしか聞こえていない。


(勝手に話しかけないで……黙って……君を使わなくたって、僕はこいつを倒す…)


【おいおいおい!! そりゃねえぜ! じゃあ、なーんのために連れてきたってのぉ?!?! ジーマてめぇ、俺を何年も何年も物置に閉じ込めやがってよぉ!! 暇だったらなかったぜ?! 腹が減って腹が減って、死にそうなんだよぉ!!! 早くそいつを斬って俺に食わせろやぁ!!!】


(うるさいな……死ぬわけないでしょ……君は刀なんだから……)


【ハァ〜〜さっきから何なのよ! そのなよなよした話し方わぁ!! ヘドが出るぜ?! 俺を斬った頃のお前は、どこに行っちゃったんですかぁ?!?!】


(黙れって言ってるでしょ……集中が途切れるっ…)


ダハムは距離を取ると、光の球を連発で打った。

ジーマはそれを斬り落とす。

ダハムは光の球を盾代わりにして、右手の剣を振りかざす。

ジーマは剣を捉えた。


(さっきから同じ攻撃ばかり…)


すると、ダハムはニヤリと笑った。


(な、なんだ?!)


ダハムはジーマの右手を自分の剣で塞いだまま、光の盾をジーマの眼前に近づけた。


突然その光は、太陽のように眩しく熱い光を放った。


「あぁぁぁあああ!!!!」


ジーマは左手で目をおさえたまま、剣を薙ぎ払い、ダハムから距離をとった。


目が焼けるような激痛が走った。

ジーマはおそるおそる左手を外す。


両目からは大量の血が流れていた。


視界が、狭い………ぼやける……。


右目の感覚がない……。


ジーマが左目を抑えると、視界は真っ暗になった。


(右目を完全に潰された……)


左目はかろうじて見えはする…。しかし、酷い激痛があるし、ぼやけてほとんど何も見えない。


やられた……

狙っていたのか……?

僕の目を…潰そうと……

剣の技量はほぼ互角……だったら剣技にこだわらず、

他の手段で倒したほうが早い……

ダハムは光の球に異常な光源力があることを、ずっと隠していた……


「もう遊びは終わりだ。お前に未来はない」


ダハムはほくそ笑んで、ジーマに襲いかかった。



「リウムぅうううう!!!!!」


メリは奇声を上げてその名を叫びながら、手術室のドアを乱暴に蹴り飛ばして開けると、アリスと名付けたそいつを手術台の上に置いた。


「アリスを助けろ!!! 今すぐ!!!!」

「め、メリ…この人は……」

「いいからぁぁ!!! 早く治せぇぇ!!!!」

「ひっ……!!」


彼女はボロボロになった彼を、必死で治し始めた。


何これ……まだ生きてるの……?!


「臓器がボロボロ……こんなの……!」


メリはおぞましい表情でリウムに顔を近づけた。


「臓器なんて山ほど代えがあるだろぉぉ?!?!?! 移植でもなんでもして、早く治せぇぇええええ!!!!!」

「ひいいっっっ!!!!!」


リウムは死体の中の生きた臓器を取り出し、急いで手術を始めた。


「もし助けられなかったら、お前、死ね」


メリはそう言い残して、その場を去った。

















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