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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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80/341

悋気

アシード、レイン、シエナの三人はサバンナ付近の街に来ていた。シエナは街で足の治療を終え、しばらく車椅子に座っていた。

シャロットは街の警備隊におとなしく捕まり、馬車に乗せられセントラガイトまで連行された。


彼らと別れる前、シャロットは何度もシエナにお礼を言った。


「シエナ…ありがとう。私に罪を償う時間をくれて……」

「ううん……」

「別の場所で会えていたら、お友達になりたかったわ」

「わ、私も……」


シャロットは手をさしだし、シエナはそれを握り返した。

シャロットの手をよく見ると、少ししわがれていた。


「ねえ、シエナが好きなのって、あの赤い髪の獣人の彼?」

「え? レインのこと? レインは違うわよ、ただの仲間」

「そうなの…。彼、貴方のことをすごく心配していたし、真っ先に駆けつけて貴方に人工呼吸していたから、彼なのかと思っちゃった」

「え?! じ、人工呼吸?!」

「ふふ…余計なこと言っちゃったかしら」


シエナが顔を赤くしているのを見て、シャロットは笑った。


「それじゃあまたね…シエナ…」


シャロットは手を振ると、馬車に乗って、言ってしまった。


「おい! いつまでそこにいんだ。宿に行くぞ」

「え?! あぁ、わかってるわよ!」


三人は宿を借りた。部屋は2つ、アシードとレインの部屋と、シエナの部屋だ。シエナは二人に手伝ってもらってベッドに上がった。もう今日は安静にしていろと言われ、シャワーも浴びれぬまましぶしぶ横になった。


アシードとレインが自分たちの部屋に戻りしばらくすると、定時連絡の時間になって、無線がなった。


「聞こえる? 21時だけど、そっちはどうなった?」

「おお!ジーマ! 無事に犯人を捕まえたぞ!」


アシードは無線を取ると、高らかに答えた。


「そうか! 良かった!お疲れ様。皆、ケガはない?」

「いや…シエナが両足をやられてな……片方は骨折していてしばらくは安静にとのことだ」

「え?! お前とレインの二人がついてて、何やってんの?!」

「そ、そんなに怒らんでも……安静にしていれば治ると医者も言っていたし」

「はぁ……まあ無事ならよかったよ…」

「全く、大変だったのだぞ! 巨大生物はわんさかいるし、ドラゴンは暴れるし、最後はシエナが岩山に閉じ込められて酸欠になったりしてな…しかしレインが人工呼…」


レインはアシードから無線を取り上げた。


「余計な心配させんじゃねーよ! バカアシード!」

「な、なんじゃ…突然…話をしておったのに」

「うるせえ。もうお前は喋んな! これは俺が預かる」

「預けたり取り上げたりせわしない奴だの…」


レインが無線を手に持って、アシードから離れた。


「ジーマ、俺……レインだけど」

「レインか。お疲れ様。大変だったみたいだね」

「悪かったよ…シエナにケガさせちまってよ…」

「はは…君が謝ることじゃないよ」

「……」


レインは少し沈黙したが、また喋りだした。


「悪いけど、そっちの手伝いには行けないぜ。アシードは剣が折れたし、俺も両手がボロボロだ」


戦闘中のケガじゃあねんだけどさ……。


「うん。みんなゆっくり休んでよ。連日働きっぱなしで疲れてるだろうしね。こっちのことは任せて」

「ああ…頼むよ……」


少し間をおいて、ジーマはボソッと言った。


「シエナは……大丈夫…?」

「あ、ああ…別の部屋で休んでるよ。声聞かせてやれよ。あいつに無線渡してくるから、ちょっと待ってろ」

「うん…ありがとう……」


レインはシエナの部屋のドアをノックした。


「おい! 入っていいか」


れ、レイン?!


「い、いいけど!」


レインがドアを開けると、シエナはベッドに横になっていた。

シエナはちょっと顔を赤らめながら、レインのことを睨みつけた。


「おい、なんだよその目は」

「あ、あんた何やってんのよ…勝手なことしないでよ…!」

「は?! なんの話だよ」

「き、き、…キスは…ファーストキスは、ジーマさんとって決めてたのに!!!」

「は、はぁ〜〜?!?!」


シエナの布団で顔を隠した。

レインは大きいため息をついて、隣の椅子に座った。


「ふざけてんのかてめえ! 俺がやんなきゃな、お前は死んでたかもしんねーんだぞ?!」

「う、うるさい! 黙って! バカバカ! レインのバカ! 私のファーストキスを返せ!!」

「キスじゃねえよ! 人工呼吸だよ! 誰が好き好んでお前なんかと!! クソガキ!!」

「な、なによ! その言い方!! もう嫌い!! レインなんて大っ嫌い!!」


シエナは枕をレインの顔面に向かって投げた。

レインは手でそれをキャッチした。


シエナは彼の指をみた。血は止まっているが、爪が剥がれてボロボロになっている。


「あ、あんた…指が……なんで…」

「うるせえ」


レインは枕を投げ返した。


「ていうか、何しに来たのよ」

「ああ、そうだった。ほらよ!」


レインは無線を投げた。シエナはそれをキャッチした。


「愛しのジーマさんがお前と話したいってよ」

「え? じ、ジーマさん?! あ、そっか…定時連絡の時間だもんね」

「じゃ、俺はもう部屋に戻って寝るよ」

「う、うん……」


レインが部屋を出ようとすると、シエナは言った。


「れ、レイン!」

「あ?!」

「助けてくれて…ありがとう……」

「はぁ……。ノーカウントだよ!人工呼吸はな! バーカ!」


そう言って、レインはドアを閉めた。


シエナは、無線を両手で握りしめた。

ボタンを押しながら、おそるおそる声をかけた。


「じ、ジーマさん……」

「……シエナ? えっと………ケガは、大丈夫……?」


大好きな声が聞こえる。

シエナは黒い無線を大切そうに握って、顔を赤らめながら、話をした。


「大丈夫です! 足折れちゃってましたけど…安静にしていればちゃんと治るって……」

「そっか……ごめんね……そばにいなくて」

「い、いえ! こんなの! 大したことありませんから!」


貴方の声を聞くだけで、痛みが消えていく。そんな気がしてしまう。

この向こうに、ジーマさんがいるなんて……

ああ、会いたいなあ……。


「明日、出発するんですか?」

「そうだよ」

「む、無理しないでくださいね! ジーマさんがいるって言ったって、敵はあのウォールベルトなんですからね!」

「はは…大丈夫だよ」


彼の優しい声を聞くたび、心が温かくなる。

少しの沈黙のあと、シエナは言った。


「ジーマさん……あの……」

「ん? どうしたの?」

「………大好き」


無線の向こう側で、ジーマは赤面していた。


もう今までにだって、何度も伝えたわ。

でも、足りないの。何度でも、言いたくなるの。

こんなに貴方のことが好きなんだって、

口にするたび、幸せな気持ちになるから…。


「……ありがとう」


ジーマはやっとのことで、それだけ言った。


うう…可愛すぎる……。


ジーマは無線を持ちながら、額に手をやった。


今すぐ君のところに行きたい…。


好きだよ…シエナ。


「あ、その…明日も早いですもんね! ジーマさんも、早く休んでくださいね」

「え? あ、うん…ありがとう。シエナも、お大事にね」

「はい! それじゃ、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


シエナは顔を真っ赤にして、その無線を抱きしめた。


はぁ〜〜! 至福の時間だっだわ!!

そうよね! 人工呼吸なんてノーカウントに決まってるじゃない!!

ていうか、あいつ本当はライオンでしょ? 犬に舐められるのと一緒よね! ふふ!

あ〜早くジーマさんに会いたいなあ! 会いたい会いたい!


シエナはニヤニヤしながら、無線を抱いたまま眠りについた。




次の日の朝、ヒズミは目を覚ました。


あれ…わいの部屋やん……。


ヒズミは昨日の夜のことを思い出していた。

ヌゥに酔った勢いで抱きしめられて、そのまま自分も眠ってしまった。

あの感触を、まだ覚えている。


「はぁ……どうなってんねん……」


確かに昨日は酔っていた。でも、酔いが冷めた今でも、昨日のことが頭から離れない。


「あかんあかん! 今日はウォールベルトに侵入するんやで?! 集中せな集中! 死んでまう!!」


ヒズミは部屋のシャワーを浴びて、着替えを済ませると、朝ご飯を食べに食堂に向かった。


食堂にはみんなが揃っていた。


「ヒズミ〜いつまで寝てんのさ」


ヌゥはパンを手に持ちながら、いつものように彼に笑いかけた。


「ぎゃっ!」


ヒズミは変に緊張して、変な声が出た。


「今からビビってるのか? 先が思いやられるよ」


ベーラは言った。朝からかつ丼を頬張っているが、通常運転だ。


「べ、別にビビってへんし! いや、それは嘘か…」

「はははっ! どっちだよ〜」


ヌゥはヒズミをバカにしながら笑った。

彼の笑顔を見ながら、ヒズミはぼーっとしていた。


(あかん…可愛い……)


なんで…? いつから?

いつからこんな気持ち……


「ヒズミさん、これ」

「うおぁ!!! な、なんやの」


アグはヒズミにリストバンドを見せた。


「これ、糸で繋がってるんです。俺とヒズミさんをこれで繋いでも、二人共姿を隠すことはできますか?」

「え? あ、あぁ、出来ると思うけど」


試しにヒズミとアグは腕にそれをつけた。

ヒズミは隠れ身の術を発動させる。


「おお! 消えたね!」


なるほど……これでもう外からは見えなくなってんのか。

でも俺は、ヒズミさんも自分のことも見えるんだな…。

なんかうっすら、色が薄い気がする…。術が発動してる証拠だろうか?

全く、なんて便利な術だ……。


ヒズミは術を解いた。


「うん。いいね。これなら二人共どこにいるのか、全然わからないよ」


ジーマもニコニコしながら答えた。


「じゃ、ヒズミもヌゥも早く朝ご飯食べちゃって。ベーラも、ほどほどに」

「は、はい……」

「うむ」


ジーマとアグはもう食べ終わっていたようだ。

ヒズミはリストバンドをアグに返すと、食事の注文に向かった。


「そういえば、ベルは?」

「アンジェリーナの様子を見に行ってるよ」


ジーマは立ち上がると、食堂を出る前に、みんなに向かって言った。


「それじゃ、9時になったら外に集合して。グザリィータまで飛ぶよ」

「はーい!」


アグは立ち上がった。


「アグ、どこ行くの?」

「荷物、もう一回確認してくる。お前もだらだら食ってんなよ」

「わーかってるよ〜。じゃ、後で」


ヌゥはパンをかじりながら、アグに手を振った。


本当に大丈夫か? 緊張感ってものがねえな…。


「ご馳走様」

「あれ? ベーラももう終わり?」

「うむ。ほどほどにしておこう」


そう言いながら、彼女は空になった丼ぶりを5つ重ねて、返却口に持っていって、食堂を出た。


ヒズミは朝食を持ってくると、ヌゥから少し離れたところに座った。


「なんでそんなとこ座るの? こっち来たら?」

「いいんや! ここで!」

「ふーん……」


食堂に二人きりになってしまって、ヒズミは彼と目をあわせないようにして、朝ご飯をかきこんだ。


「ヒズミ」

「なんや」


ヌゥに話しかけられたが、ヒズミはそっぽを向いたまま返事した。


「アグのこと、守ってね……」

「………」


ヒズミは、心が掴まれたような、またはえぐられたような、そんな気持ちになった。


なんなん…これ……


それは明らかに不快で、やっかむような、嫌な感じだった。


「ヒズミ、聞いてる…?」

「……」

「ねえ」

「……うるさいな。食べるのに集中したいねん。もう話しかけんといて」

「…はーい」


ヌゥはふてくされたような返事をして、砂糖をたくさん入れた甘い珈琲を飲んだ。


俺、昨日ヒズミになんかしたのかな…。

うーん、なーんにも覚えてないや。


ヒズミは彼と目を合わさずに、黙々と食べ続けた。


そして9時になって、皆はアンジェリーナの前に集合した。


「アンジェリーナの身体も、すっかり良くなりました! 問題なく飛べると思います」


ベルは言った。


皆はアンジェリーナに乗り込み、ウォールベルトの手前の国、グザリィータを目指した。


ヒズミはアンジェリーナの後ろの方に座って、なんだか黄昏れている。


ヌゥはアグの隣に座った。


「ねえアグ、ヒズミが変なんだけど」

「は?」

「俺、昨日なんかしたのかな。覚えてないんだけど」

「別に。二人で楽しそうに酒飲んでたみたいだったけど?」

「ふーん」

「ウォールベルトに侵入するから、気がたってるだけじゃねえの?」

「そうかなあ……」


ヌゥは何度もヒズミの背中をちらっと見ては、気にしていた。


「そういえばジーマさん、アシードさんたちの方は大丈夫だったんですか?」


ベルがジーマに聞いた。


「うん。巨大動物もみんな制圧して、無事に犯人を捕まえたみたいだよ」

「さすがですね!」

「ただ、シエナは足を折っちゃったみたい…」

「ええ? 大丈夫なんですか?」

「医者にも見てもらって、安静にしていたら治るみたいだけど……アシードも剣が壊れたみたいで…彼らの助けはもうないと思ったほうがいいよ。ここにいる皆だけでやるから…」


ついに、ウォールベルトに侵入する時がきた。

ヒズミさんは見たことがあるみたいだけど、一体あの国の中はどうなっているんだろう……。


アグは不安な気持ちももちろんあったが、それよりも真実を突き止めたい気持ちの方が強かった。


しばらく飛び続けると、グザリィータに着陸した。

その国から少し進んで、ウォールベルトを覆っている壁の前までたどり着いた。

皆はアンジェリーナから下りて、門番からは見えない位置に陣取った。


「いいかい? まずは中の様子を探るだけだ。禁術解呪の薬と、ハルクの所在を確かめる。無理だと思ったらすぐに撤退して」

「わかってますよジーマさん。わいは無理なんてしませんよ。やばかったらすぐ逃げますからね」

「うん。アグ君も、助けが必要になったら無線のボタンを押すんだよ。僕たちはここで待機しているから。それじゃ二人共、頼んだよ」

「わかりました」


アグとヒズミはリストバンドをつけ、完全に姿を消した。


気をつけてね…アグ…ヒズミ…。


ヌゥは二人の消えたあとをじっと見ていた。


ジーマは無線を手にし、ベーラ、ベル、ヌゥと共にその場に待機した。



















































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