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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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貴方に恋して

くそっ…届け!!


シエナは手を伸ばし、シャロットの手を掴んだ。


「やった!」


シエナとシャロットは急降下していく。シエナはシャロットの手を引きながら、彼女を抱きかかえた。


底が見えないっ…くそ…

重りを落とすんだ…!


シエナは両手両足の重りをするっと落とした。

しばらくして、ドーンと重りが落ちる音がする。


地面はまだ遠い!

行ける!


シエナは壁を蹴って、落ちる力を弱めた。

向かい合う壁を交互に蹴り飛ばし、落下の速度を弱めた。


「あっ……痛たたた………」


シエナはなんとかシャロットを抱えたまま地面に着陸した。

そのときに足首を両方捻ってしまった。シエナは地面に膝をついて動けなくなった。

穴の底は暗く、光すらない。空洞になっていて、奇跡的に生き埋めにならずにすんだ。


「ハァ…大丈夫……ですか……? ケガは、ないですか?」


シエナはシャロットに声をかける。


「ハァ…ハァ…私…生きてるの…?」

「生きてますよ……あうっ……」


シャロットはシエナに駆け寄った。

シャロットは呪術でランプを作り出し、彼女を見た。

シエナの左足は、変な方向に曲がってしまっていた。


「あなた……足が……」

「ハァ……私は大丈夫だから……」

「あなたは…誰なの……? どうして私を助けるの……?」

「私はシエナ……。国の依頼で、巨大動物たちを倒しに来ました……」

「そう……。彼らは、私が作ったの…」

「…あなたが……。じゃあ、あのドラゴンも…?」

「いいえ。彼は違う。彼は私の大切な人……」


壁の向こうから、レインが呼ぶ声が聞こえた。


「レイン!」


シエナも返事をした。


「シエナ! シエナ! 無事なのか?!」

「無事よ! 奇跡的にね! ただ完全に出口がない。酸素がなくなったら死ぬわね!」


シエナはそれだけ言うと、足を抑えた。


「もう、助からないわ……空洞の大きさから言って、酸素が持っても1時間ほどよ。それまでにここから出るなんて無理だわ」

「ハァ……そうかもね……」


シエナはそう言うと、仰向けに転がった。


「結婚……できなかったなあ……」

「え…?」


シャロットはシエナを見た。彼女は遙か上の真っ暗な天井を眺めている。


「私、婚約者がいるの」

「まだ子供なのに…?」

「あんたもまだ若いじゃないのよ」

「私は…もう40になるわ……手術して若く見せているだけよ」

「ええ?! そんなにおばさんなの?!」

「失礼な子ね……」


シャロットは彼女を見ながら、クスっと笑った。


「おばさんは、結婚してるの?」

「おばさんはやめて。シャロットよ。可愛いお嬢さん」

「お嬢さんはやめて! シエナ! シエナ・ヴェルディ! 六年後はシエナ・クリータス!の、予定だったけど!!」

「ふふ…。ごめんなさい。私は、結婚はしていない。でもそれ以上に、生涯を共にしようと誓い合って、愛している人がいるわ」

「なんで…結婚しないの…?」

「結婚はできないの。彼は、ドラゴンだから……」


シエナは手をついて上半身を起こすと、彼女を見た。


「あの黒い…ドラゴンのこと?」

「そうよ。ロア・リベルト。私のパートナー」


シャロットは遠い目をしていた。

シャロットは彼女に自分の罪を話した。

自分たちが獣人化実験をしていたこと。

そのためにたくさんの動物を殺したこと。

ロアを人の姿にしたこと。

その後更に動物たちの多くを解剖し、巨大生物を作っていたこと。


「彼はもう、死んでしまったのかしら…」

「……わからない」

「…彼はもともと長くなかったの……死ぬのがほんの少し、早まっただけよ……」

「病気……だったの?」

「そうね…彼はもう高齢だから。人間でいったら70歳。いつ死んだって、おかしくない身体なのよ」


この人は40歳……。30歳も、離れてるの?

というか、相手は人間ですらないなんて…。


「あなたの仲間に、獣人がいるわね…」

「レインのこと…?」

「彼も私達の幸せのための、犠牲者の一人ね…本当に、ごめんなさい……」

「……」

「私たちは…動物をたくさん殺しすぎた……。その罰を受けるのも、遅すぎたくらいね…」

「そうね。貴方達のしたことは、犯罪よ……」


この人たちは悪い…。

なのにどうして……彼女を助けたいなんて思ったの。


「泣いていたわよね…シャロットは…」

「え……?」


彼女は、あのドラゴンを愛しているんだ。

相手は人ですらないのに、本気で、愛しているんだ。

やり方は、間違っていたけど。

たくさんの動物たちが、犠牲になってしまったけど。

それは許されないけれど…

でも、そこまでして、結ばれようとしたの。

それほど、愛し合っていたの。


「ここから…出るわよ……」

「え…? 無理よ……。この岩の山を見て……出られるわけない」

「そんなに大好きな人がいるなら、死ぬ時まで隣に寄り添ってあげてほしいの!」

「シエナ……?!」


シエナは足を引きずって岩に近づくと、拳で岩を砕き始めた。


「無理よ…そんな身体じゃ……」

「諦めないでよ。あのドラゴンだって、まだ生きているかもしれないじゃない!」


足が動かせない…。

身体に力が入らない…。

でも、諦めない。


「私も、大好きな人がいるから…!」


シャロットは必死になるシエナの姿をただただ見ていた。


そうよ…彼女を連れて、生きて帰る!


エースの私がいるっていうのに、犯人をみすみす死なせたりなんて、絶対しないわ…。


…ねえ、ジーマさん。

私、あなたのことが大好き。

彼女の愛に負けないくらい、私も貴方を愛してる。


貴方を好きでいる、それだけで、私は強くなれる。

歳がどれだけ離れていたっていいの。

人間じゃなくてドラゴンに恋したっていいの。


だって、


誰かを好きになるって、素敵なことじゃない?

その気持ちって、かけがえのないくらい美しいよね?

誰かに否定されることなんて出来ないよね?


例え貴方が人間じゃなくなっても、私はあなたのことが大好きよ。

だからね、彼女の気持ちも、ちょっと、わかるから。


彼女は罪人よ。

彼女のしたことは許されることじゃないわ。

でもね、彼女が誰かを好きになることは、許されてもいいわよね?

彼女の恋を、一人の女の子として、応援したいの。


シャロットもシエナの隣にくると、呪術でマトックを作り出し、岩を砕き始めた。


「シャロット……」

「私も…ロアに会いたい……最後まで、ロアの隣にいたい……」

「うん! 絶対帰ろう!!」


二人は懸命に岩を壊し続けた。


「くそっ…暗くなってきやがった」


あっという間に日が暮れてきた。

レインとアシードは岩を壊し続けていた。


「なんだ?!」


アシードのカトリーナが、カンっと響きを上げて、弾き返された。

レインも爪でひっかくが、硬すぎてびくともしない。


「硬ってえ!! なんだこれ?!」


様子を見ていたリバティは彼らに近寄った。


「見せてくれ…」


岩の先にあったのは、黒い塊。岩よりも硬く、剣でも斬ることができない。


「鉱石……ロンズデーライトだ。ダイヤモンドよりも硬いとされる鉱石……。この地層一帯に張り巡らされているのか……それにこの厚さ……剣で斬ることなぞ到底不可能だ」

「なんだと?!」

「やってみなきゃわかんねーだろ! アシード! お前の本気見せてやれ!」

「ああ! このわしに任せろ!」


アシードは思いっきり剣を振りかぶり、ロンズデーライトを攻撃した。しかし、剣先が折れてしまった。折れた剣先は空中を飛んで、地面に突き刺さった。


「うおおおおお!!!!!カトリーナぁぁぁぁ!!!!!!」


アシードは泣きながら折れた剣を見つめ叫んだ。


「アシードの剣でも無理だってのか……?」


くそ……シエナが閉じ込められてるってのに……

どうすりゃいいんだ……


レインは鉱石をドンと叩いた。


「くそ……ここまで来て……助けられねえってのか……?!」


シエナ……何で飛び込んだりなんか…!!

こんなとこで死ぬなんて許さねえぞ……!!

ジーマになんて言えばいいんだよ……!


レインは泣いていた。

泣きながら、鉱石を叩き続けた。


「もう嫌なんだ……大切な人を失うのは………」


その姿を見て、リバティは昔のことを思い出した。



「お父さん!! お母さん!!」


医療会の、病院の中だった。

リバティの前を、横たわった両親が通り過ぎていく。


両親は共に、野生動物生態研究会の研究員だった。

ある日研究のため動物の捜索のためにサバンナに行った両親は、毒ヘビに噛まれて重症で帰ってきた。


両親の身体には猛毒がまわり、医療会の皆が手を尽くしても、助からなかった。


「うう…何で……お父さんとお母さんが……」


一人家に残されたリバティは、泣きながら家の壁を何度も叩いた。


その日から、リバティは研究会に入った。知識をつけた彼女は、個人で毒の研究を続けた。


この世の全ての毒を知り尽くす…!!

そして、全ての毒に対して解毒剤を作ってみせる…!!


そんな野望を抱いた彼女は、時には裏世界にも顔を出し、毒をかき集め、研究に明け暮れた。




その時シエナは、酸欠で意識が朦朧としていた。


「シエナ…しっかりして!」


シャロットが呼びかけるが、シエナはその場に倒れてしまった。


「お願い…助けて……この子だけでも…誰か…」


シャロットは自分も苦しくなりながらも、懸命に岩を砕き続けた。

すると、黒く硬い鉱石にぶち当たった。その硬さに、マトックは簡単に折れてしまった。


「何…これ……」


シャロットは絶望して、膝をついた。


外ではレインが鉱石を爪でひっかき続けた。

爪は折れ、そこからは血が流れていた。


「シエナ……くそっ……死ぬんじゃねえ!!」


すると、レインの横にリバティがやってきた。彼女は鉱石に薬をまいた。

鉱石はみるみる溶け始めた。


「リバティ!」


キズだらけで人型に戻ったイースを看病していたゼクトは、彼女が薬をまいたのを見て思わず叫んだ。しかし、リバティは何も言わない。


「そうだ! 思い出したぞ! 君はあの時、わしらに毒をまいて逃げた男だな!!」


アシードはゼクトを見て言った。


「鉱山に毒をまいたのは、お前たちだったのか……」

「そ、それは…その……」


鉱石が溶け、奥からシエナとシャロットの姿が見えた。


「はぁ…はぁ…」


シャロットは酸素を吸い込んで、生気を取り戻した。


「シエナが…酸欠にっ…」


レインは人の姿になって、シエナを抱えると、外に連れ出した。

辺りは更に暗くなって、静けさがましている。


レインは急いでシエナを横たわらせると、彼女の顔を少し持ち上げて軌道を確保し、彼女の口を自分の口で覆って、息を吹き込んだ。


死ぬな……死ぬなよ……シエナ……。


何度目かの人工呼吸のあと、シエナは咳き込んで目を覚ました。


「れ、レイン……」

「……シエナっ!!!」


レインはシエナを強く抱きしめた。

涙が溢れて、止まらなかった。


「何で……泣いてるの……」

「お前が…死ぬんじゃないかと思って………」


ふうん……

レインは、私のために泣いてくれるんだ……

優しいのね……あなたはいつも……


「ロア!!」


シャロットは黒いドラゴンに駆け寄った。


「……シャロット……」

「ロア! ロア!」

「良かった……無事で……。私は…もう…生きられそうにない……」

「待って…まだ…行かないでよ! ロア!」

「人間になって、20年…、幸せな時間だった……君と……会えて…良かった……」

「ロア! 私も…私も幸せだった………!!」

「ありがとう……シャロット……」

「ロア! ロアぁぁぁぁ!!!!!!」


そして、黒いドラゴンは、息を引き取った。

シャロットはその場でしばらく泣き崩れた。


リバティは、アシードに両手を差し出した。


「捕まえるんだろ…。鉱山を枯らす毒を作ったのも、まいたのも、私だ」


アシードは首を振った。


「仲間の命を助けてもらったのだ。わしには君たちを捕まえることなどできない。だから今すぐここから立ち去れ! 次に会ったときは、牢屋に連れて行くがな! がっはっは!」


ゼクトもリバティに駆け寄り、アシードに向かって言った。


「おじさん……ごめん…、騙していて……。おじさんのことを殺そうとしたのは俺だ……」

「うむ。君のしたことは許されることではないぞ。もしわしの仲間が誰か一人でも死んでいたら、お前を死刑囚として牢獄にぶち込むところだ!」

「……じゃあ、あそこにいた皆は生きて……」

「ああ。生きておる! 早くお前も立ち去れ。そのドラゴンの子を連れてな」

「うん……ありがとう! おじさん!」


ゼクトはイースを背負い、リバティと共にその場を去った。


シエナは、ドラゴンに向かって泣き崩れるシャロットの元に、近寄った。


「シャロット……」


シャロットは振り返ると涙を浮かべて言った。


「シエナ…ありがとう……ありがとう………」


あなたのおかげで、彼の最期に立ち会えた。

彼も最期に私に会うのを、待っていてくれたのかな…。


ロア……あなたの分まで、私は罪を償うわ……。

この一生をかけて、償い続けるから……。






































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