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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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空中戦の果て

「…ロア?」


シャロットは目を覚ますと、ドラゴンたちが大量に草原に倒れていた。

私が…やったの……?


すると、1匹の白い子供のドラゴンが、大きいドラゴンにしがみつき、悲しそうにしている。


「……捕獲…」


シャロットは、最後の力を振り絞り、そのドラゴンを檻にいれた。白いドラゴンはキュウウンと鳴きながら、檻の中で暴れていた。


「シャロット……」


ロアも目を覚ました。


「酷いケガ…大丈夫…? すぐに手当しないと……」

「すまない……君を……守れなくて……」

「いいから……早くここから逃げましょう……誰か来る前に」


ロアは小さくなり、シャロットの手のひらに乗った。

捕獲したその白い子供ドラゴンも連れて、サバンナから退却した。


しばらくすると、ちょうどグザリィータに出払っていた国家精鋭部隊の二人が、サバンナに駆けつけていた。


「酷い有様だね……」


栗色の髪をした若者の男が、大変な火事になっているサバンナを見て呟いた。


「とりあえずこの火事を何とかしてよ」


男は隣の女に顎で命令した。


「うむ…」


灰色の髪の女は、呪術で大雨を降らせた。

二人はサバンナを捜索する。

何とか火事はおさまったが、動物たちのほとんどは死んでいて、生きているものも瀕死の状態だ。


「人間の仕業か…? 自然災害か…?」


男が呟くと、女は死んだドラゴンを見て、言った。


「雷が落ちたようだ…しかし…明らかにドラゴンたちを攻撃しようという意思がある……ドラゴンの誰かの技の可能性もあるが、もしかしたら呪術師の仕業かもしれないな……」

「君たち呪術師は、本当に危険だね…これ以上仕事が増える前に、君のことも先に斬っておいたほうがいいか」


男は黒い刃の刀を抜くと、女に向けた。


「やめておけ。私は国家公認の呪術師だ。仕事がなくなったら、誰も斬れなくなるぞ」

「はは…冗談だよ…」


男は刀を鞘にしまった。


それから何日もかけて、動物たちの保護と治療、サバンナの修復作業が行われた。



シャロットは、少し離れた街までやってきて、宿にとまった。


「ここまでくれば、大丈夫かしら…」


キュウウンとうるさいその白いドラゴンは、防音素材で、中が見えないゲージに閉じ込められていた。

ロアも人間くらいの大きさになり、床に座った。


「シャロット…本当にすまなかった…私のせいなんだ…」

「ドラゴンたちは、どうして貴方を襲ったの…?」

「人間と一緒にいる私のことが、許せなかったのだ…。ドラゴンは自分を神のように思っていて、人間のことを見下している…。ドラゴンが人間と一緒に暮らすなど、言語道断だと思っているんだ」

「そう…。ならどうしてロアは、私と一緒にいてくれるの…?」


ロアは、シャロットの隣に行くと、彼女に寄り添った。


「シャロット………私は……人間になりたい」

「え……?」

「君と同じ、人間になりたい……」


シャロットは驚いた。驚きながらも、嬉しい気持ちがあいまって、ロアのことを抱きしめた。


「どうして……?」

「君のことを……抱きしめたいから……」


ドラゴンの腕は、短かった。

ロアは、ドラゴンなのだ。


「ずっと……出会った時から……君のことが好きだった……」


ロアは、シャロットがもっと幼い頃から、彼女のことを見ていた。

シャロットがまだ呪術師の村で過ごしていたときから。


ある日、シャロットは森で枯れそうな花たちを見つけ、呪術で花に水をあげていた。言葉の通じるはずのない花たちに、優しい歌を歌いながら。


それをみたロアは驚いた。自分より弱い生き物に、優しくできる心が、人間にはあるんだと。

その日から、ロアはこっそりとシャロットを目で追っていた。


またある日は、迷子になって村に迷い込んだ子供の手をひいて、隣町まで送り届けたりもした。

子供はえんえん泣いていたけど、シャロットは子供を元気づけようと、歌を歌った。子供は最終的には泣き止んで、一緒に同じ歌を歌っていた。


ある日、シャロットの母親が病死した。父親を生まれる前に無くしていたシャロットは、その日両親を失った。


それからの彼女の生活は、無惨なものだった。

村を訪れた研究所の研究員に拾われ、何とか生活をとりとめた。

そんな絶望の状態でも、シャロットは屈しなかった。

泣いていた時もあったけれど、また歌を歌って、自分を励ました。


人間のまだこんなに幼い子供に、そんなに強い心があるんだと、ロアは感動した。


ロアは、何とか人間の言葉を覚えようと努力していた。

何とかして、彼女と、話をしてみたかったから…。


ある日、彼女が虎に襲われて、ロアはついにその姿を彼女の前に現してしまった。


自分はこんなに恐ろしい姿だから…

絶対に怖がらせると思って今まで隠れていたけれど…


シャロットは怖がりながらも、思いの外自分を受け入れた。


彼女と言葉を交わしたとき、嬉しかった。

人間の言葉を、覚えたかいがあった。


私は最初から、気づいていた。

この人間に、恋をしているんだと…。


ドラゴンに、性別はない…。

だけど、そんなことは、関係なく。

ただ、この子が、好きなのだと。

そう気づいて。


彼女が獣人化の実験をしていると知って、希望を抱いた。

この実験が成功すれば、自分も彼女と同じ、人間の姿になれる。

こんなおぞましいドラゴンの姿など…もういらない……。

彼女と同じ身体になって、一度でいいから彼女を抱きしめたい。

それだけを夢見ていた…。


「ロア…実験見ていたから、知ってるでしょ…人間になったら、寿命も人間と同じになるの…あなた、今何歳?」

「500歳…くらいか…はっきりとは数えていないもので…」

「ドラゴンの寿命は800歳くらいといっていたわよね…。人間に換算すると50歳…数十年で、もう死んでしまうのよ…」

「構わない……それでも……人間になりたい……」


シャロットはロアを強く抱きしめた。

硬くて真っ黒な、彼の身体を。


「ロア……私も……貴方と同じ気持ちだよ」


嬉しかった。ロアが私と同じ気持ちだったなんて。

そのことが、こんなに幸せだなんて。


二人は、ロアを獣人化させることを決意した。

しかし、研究所は国家精鋭部隊によって既に取り押さえられ、実験用の薬を取りに行くことなど到底不可能であった。


シャロットは、取り壊されていく研究所を、遠くから眺めていた。


「ちょっと、いいですか?」


突然フードを被った怪しい人間に、声をかけられ、シャロットはハっとした。


「な、なんですが…?」

「獣人化研究員のシャロット・アンリさんではないですか?」


まさか…国家精鋭部隊…?! 私を捕まえようと…?!


「落ち着いてください。私は国家精鋭部隊ではありませんよ」


心を読まれているかのように、その男か女かもわからない人間は話を続ける。


「これを、探しているんじゃありませんか?」


そいつは、獣人化の薬を取り出した。


「そ、それをどうして…!」

「ふふふ…それは秘密ですか…どうですか? 私のお話、聞いていただけませんか?」


そいつは、この薬と引き換えに、強く巨大な動物の作成を依頼したいのだと、話を持ちかけてきた。


「そんなの…どうするんですか…?」

「どうもしませんよ。コレクションしたいだけですよ、私の主はね、強くて凶悪な生き物が、大好きなんですよ」

「……そんなにすぐに、つくれるかわからないわ」

「まあ、いいですよ。何年かかっても。薬は先にお渡しします…ただ」

「ただ…」

「約束を、させてもらいますが」


シャロットとロアは、その話をのんだ。

この薬がなければ、最初から作るのにあと何年かかるかわからない。ロアは一刻も早く、人間になりたかった。


二人は、その怪しい人間に目隠しされ、謎の部屋に連れられ、そいつに服従の紋をはめられた。

永久的にされる命令は3つだけ。

依頼した動物の作成に勤しむこと。

自分たちのことを調べないこと。

自分たちに危害をくわえないこと。

これらを破れば、死ぬことになる。


シャロットも呪術師の一人。しかし、その怪しい人間のことは全く誰だかわからなかった。

まあ、薬が手に入ればそれでいい。

彼のことを調べれば、死んでしまう。知る必要もない。


私は、ロアと一緒に生きていければ、もうそれでいい。

彼らがのぞむなら、動物だろうがなんだろうが、つくってあげる。

その動物たちがどうなろうが、何をしようが、知ったことではない。


薬が手に入り、二人は急いで宿に戻った。

ドラゴンに薬を使うのは初めてだったので、試しに捉えておいた白いドラゴンにそれを飲ませた。

白いドラゴンはしばらく苦しんでいたが、最後には見事に獣人化した。

子供だったそのドラゴンは、人間の子供の姿になり、倒れた。


「成功ね…でもロア、本当にいいの? 寿命は縮まるし、ドラゴンは獣人化しても、この子みたいに性別がないのよ」

「私は構わない…ただ、シャロット、君はいいのか?」

「え?」

「私には性別がない。人間になったとしても、君との子供を作ることも、出来ないよ…」

「なんだ、そんなこと…」


シャロットは笑った。


「私は、死ぬまで、貴方と一緒に生きていければ、それでいい」


そしてロアは薬を飲んだ。


(身体が……熱い……!!)


ロアは身体中に激しい痛みを感じた。


「うう……」

「ロア…もう少し…もう少しよ!」


ドラゴンの姿が、少しずつ、人間の姿に変わっていく。

自分の手のひらが人のものになるところを、ロアは見ていた。


(やっと…君と……同じになれる……)


ロアは生まれて初めて涙を流して、その場に倒れた。


シャロットは、彼が眠っている間に手術をした。

完全な人間の姿にするために、そして50歳という、シャロットよりもずっと老いた見た目を、少しでも若く見えるように、彼の姿を美しく変えた。

見た目が変わっても、歳が変わることはないけれど。

でもせめて、目覚めたときにその姿を見て、喜んでもらえるように。


そしてロアは、人間になった。


二人はそれから20年、幸せに暮らした。たくさんの動物たちを犠牲にしながら。




「キュウウウンン!!!」


イースは黒いドラゴンに向かって炎を吐き続ける。黒いドラゴンは身を回転させて炎を避け、イースに向かって黒い光線を吐いた。


「わわわっ! やばいってイース!! ぎゃあああ!!!」


ゼクトはイースに必死でつかまりながら、おぞましい黒いドラゴンはに襲われていた。

イースと黒いドラゴンの攻撃は洞窟内をめちゃくちゃに破壊した。


「ロア! このままじゃこの洞窟が…」

「わかっている…!」


天井が砕け散り、次々に落ちてきた。


「イース! ここでやり合うな! 外に出ろ! 生き埋めになるぞ!」

「キュウウウンン!」


ドラゴンたちは攻撃をし合いながら、洞窟の外に出た。

そのまま空中で、争い始める。


「あそこ!」


シエナが指を指した先には、二匹のドラゴンが空の上で戦っていた。

ドラゴンたちは岩山の周りを飛び回り、激しい攻撃を繰り広げる。


「とにかく行くぞ! 乗れ!」


レインはライオンになった。シエナはレインに跨った。

それを見たリバティは、驚いた。


「お前も…獣人…?!」

「話は後だ! あの白いドラゴンは、お前の仲間なんだろ!」

「仲…間……」

「いいから早く乗るのだ!」


アシードはリバティを抱え、シエナの後ろに乗った。


「ちょ、ちょっと…」


リバティの言葉を聞く耳もなく、レインは走り出した。


「アシードてめえ…帰ったらダイエットしろよ!」

「何を言う。これは筋肉の重さだ」

「レイン! こっちには大きい沼がある! 東から回ったほうが早いわ!」

「ナビゲートが優秀で助かるよ!」


レインは三人を乗せ、岩山へ向かって走った。


ドラゴンは山の周りを飛び回り、攻防をくり返す。

その攻撃で岩山は少しずつ破壊され、近づいたレインたちを落石が襲った。


「ったく! 危ねえなあもう!」


レインは素早く落石を避けて、山を上っていく。

避けきれずに上に降ってきた岩を、シエナは拳で砕いた。


「痛った! ちゃんと避けなさいよポンコツライオン!」

「バカ!重量オーバーだっての! で、とりあえずのぼってっけど、どうすんの!」

「わしがあのドラゴンをきる! アンジェリーナの仇をとらねばならん!」

「どうやってあそこまで行くのよ! あいつら飛んでんのよ!」

「とにかく一番上まで行くのだ!」


リバティは何も喋ることもできず、ただこの状況に飲み込まれていた。

(こいつらは…一体……)


シエナはレインに乗ったまま、黒いドラゴンを見ていた。


(誰か…乗ってる…?? 人間……の…女……?)


シエナにだけは、彼女の表情が見えていた。


(……泣いてる……?)


黒い光線がイースに当たり、体制が崩れた。


「キュウウウンン!!」

「うわああああ!!」


イースは何とか空中で体制を整えた。間髪いれずに黒いドラゴンは襲ってくる。


「イース! 大丈夫か?!」

「大丈夫! イース、絶対あいつを殺す!」


ロアは白いドラゴンに向かって言った。


「お前、あの時の白いドラゴンだろう」

「そう! イースの家族、仲間、お前が殺した! イースまだ子供。でも見てた! お前が皆を殺した! 許さない!」

「お前はもう人間になったのだ。ドラゴンじゃない。だからお前も、その人間と一緒に生きているんだろう」

「ゼクトはイースの家族! ドラゴンの家族はお前に殺された! イースにはゼクトしかいない! だから一緒いる!」

「イース……」


黒いドラゴンにも、誰か乗っている。

彼女もドラゴンと、一緒に生きてきたのか…。


ゼクトが彼女を見ていると、ふと目が合った。

彼女はゼクトに言う。


「お願い。私達の邪魔をしないで。もう、彼には時間がないの」

「時間……?」

「彼はもう、病気で長くは生きられないの…。だから、私達のことは、放っておいて。そうじゃないと、貴方達を殺さなくてはならない」


彼女は悲しそうな表情を浮かべた。


「シャロット……」

「ロア…お願い…無理しないで。貴方の体はもう…」


ロアの年齢はもう70をこえ、高齢となっていた。

歳を取るごとに体はボロボロになっていき、病にも侵されていた。それは人が生きていく上で、必ず通る道だ。老いだけは誰にも、治すことができない。仕方のないことなのだ。


「依頼が……残っている。巨大生物を作り、育て、彼らに提供すると。その邪魔をするというなら、殺さなくてはならない」


ロアは光線を吐き続けた。

イースはダメージを受けて動きが悪くなってはいるが、負けじと応戦する。


その時、岩山のてっぺんから、アシードが飛び下りた。

ちょうどロアが真下に来たタイミングを伺って、カトリーナを大きく振りかぶったまま、飛び降りたのだ。


「ロア!」


シャロットはロアを守ろうと、アシードの前に立ちはだかった。


「むむ…人間の女……?!」


(お願い……私達の邪魔をしないで……彼を傷つけないで……)


アシードは一瞬躊躇し、女を避けようとしたが、振り下ろした剣先を止めることは出来なかった。

剣は黒いドラゴンに突き刺さり、体制が崩れ、シャロットはドラゴンから落下した。


「シャロット!!!!」


ロアは叫んだが、シャロットは岩山の穴の中に吸い込まれるように落ちていった。斬られたロアもまた、岩山の一番下まで落ちていった。アシードは咄嗟に岩山に飛び移った。


「おい! シエナ!」


シエナは咄嗟にレインから飛び降り、シャロットに向かって手を伸ばした。そのまま彼女も、底のみえない深い穴の中に落ちていった。


「嘘だろ……?!」


レインは底なしの深い穴の中を覗き込んだ。


「うわっっ!!なんだ?!」


ロアが地面に落ちた衝撃と、これまで受けていた岩山のダメージがあいまって、山が崩れ始めた。


「レイン! 下りろ!」

「シエナ……シエナがっっ」

「ここにいたら全員助からぬ! 一旦急いで下りるのだ!!」


レインはリバティをのせたまま、崩れる岩に飛び移って地面まで下りた。アシードもまた、その巨体に似つかわない俊敏な動きで、無事に下までたどり着いた。


シエナと敵の女が落ちていった穴は、完全に塞がれてしまった。


「シエナっ…シエナ!!」


レインは崩れ去った岩山を見ながら叫んだ。


「レイン!!!」


中からシエナの声が聞こえた。


「シエナ! シエナ! 無事なのか?!」

「無事よ! 奇跡的にね! ただ完全に出口がない。酸素がなくなったら死ぬわね!」

「わかった! 待ってろ!すぐ助ける!」

「急いで出口をつくるのだ!!」


レインとアシードは急いで岩をどけ始めた。


「キュウン…」


イースは横たわった黒いドラゴンを見ていた。

斬られたところから、止まることなく血が流れ続けた。


「し、死んだのか……」


ゼクトはそのおぞましい黒いドラゴンのキズ口を、青ざめた顔で見ていた。


























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