前夜祭
「どこに行くんだよイース!」
「きゅううん! あいつがいるの!あいつが!」
「あいつって、あのドラゴンか…? ちょっと…速いって…うわぁ!!」
こんなに速く飛べたのかイースのやつ…。
ゼクトは懸命にイースにしがみつく。ちょっとでも手を緩めたら、落ちて…死ぬ!
あっという間に目的の場所につくと、イースは着地した。
ふぅ…着いたのか…。
目の前には、大きな洞窟があった。
こんなところに…
「きゅううん! イース、行く!」
「行くって! ちょっと! 怪しすぎるって!」
イースはゼクトを乗せたまま、洞窟の中を進んでいった。
入り口はイースには少し狭かったが、中に入ると広い空洞となっていて、イースも入ることができた。
バカでかい洞窟だな…あの黒いドラゴンの住処か…?
この異様な空気…俺でもわかるぜ、この中はヤバイ…!
「誰か、来たみたい」
洞窟の奥では、シャロットが黒いドラゴンに寄り添っていた。
「私達の邪魔をするものは、許さない」
ロアも答えた。
ドラゴンの翼がはためく音が洞窟内に響いている。
やがてイースは、ロアとシャロットの前に姿を現した。
「やっと見つけた。イース許さない。家族、仲間、奪った! お前たち!」
白いドラゴンは、怒りに満ちた様子で、こちらを見ている。
「あの時逃げた…ドラゴンね」
「シャロット…ここは危険だ…私に乗りなさい」
黒いドラゴンはシャロットを乗せると、イースを迎え撃つ体制をとった。
「キュウウウンン!!!」
イースは黒いドラゴンに向かって、炎を吐いた。
「うう…」
「やっと起きたか」
「アグ…?」
ヌゥはいつの間にか自分の部屋にいて、目の前にはアグがいた。
俺が牢屋に行っている間、ヌゥが特訓中に気絶したらしい。なかなか目を覚まさないので、ヒズミさんが部屋に運んでくれたようだ。
ヌゥはゆっくり起き上がった。
「はぁ…気絶なんて生まれて初めてした」
「大丈夫か? 明日出発するって、ジーマさん言ってたぞ」
「うん。全然平気」
ヒズミさんから話を聞いて、正直驚いた。ジーマさんがヌゥに稽古をつけてくれたみたいだが、その強さが圧倒的だったということに。初めて会ったとき、頼りなそうな隊長だ〜みたいな、失礼なこと言っちゃったな…。
ヌゥは俺の方をじっと見ている。
もしかして、こいつに、直接、聞いたほうがいいのか…?
なんて聞くんだ…? お前はシャドウなのかって?
「アグ…俺…」
「え…何?」
こいつはいつも笑っているけれど、時折寂しそうな顔で笑う。
「怖い…」
驚いた。こいつの口から、そんな言葉が出るなんて。
拷問をされたってニコニコ笑って、どんなケガをしても辛さを見せようとしないのに。何百人の先住民にだって、どんなに強いシャドウにだって、強気で立ち向かっていたと聞いたし、こいつに怖いものなんてないと思っていた。
「俺の中に、誰かがいるんだ…。声が…聞こえるの…」
「え…?」
「お前は強い…力を解放しろって…」
「なんだそれ……」
ただの幻聴なのか? それとも、呪いのせいなのか?
「アリマで…初めて声が聞こえた。弱い自分が嫌になって…気がついたら、目の前が真っ暗になって…アグの声が聞こえて目が覚めたら、たくさん人が…死んでた…」
あの時、ヌゥは明らかに様子がおかしかった。髪は白くなって、瞳は赤くなって、まるで別人みたいになって、ただ、人を殺す機械のように…動いていた。
「さっきもね、声が聞こえた。お前には力がある…一緒に世界を統べようって……。突然、真っ暗な世界にいたんだ…誰かが近づいてくる…多分、声の主だと思う…」
「それは、誰だったんだ…?」
「わからない。顔が、見えなかった…。気づいたらジーマさんの峰打ちを食らって…気絶しちゃった」
ヌゥは震えていた。
声の主が、こいつに呪いをかけたのか…?
言えない…聞けない…。
こんなに怯えているのに、追い打ちをかけるようなことは…できない。
ヌゥは辛いんだ…怖いんだ…。
親を殺して…殺したくない人を殺して……俺のことも刺して…。
ヒズミさんを刺したことも本当は気づいているのか…。
ヌゥは頭を抱えてうずくまる。
アグはヌゥの肩に手をやって、彼の顔をじっとみながら言った。
「俺が…助けるから…絶対」
「うう…」
「俺がお前を止めるから…お前の呪いも…解いてみせる…」
「…アグ…ありがとう……」
ウォールベルト、あそこに行けば、絶対に何かがわかるはずだ。
考えても仕方がない。何もわからないんだ。
俺が自分で、真実を見つけ出す。
アグは手を離すと、立ち上がった。
「じゃ、晩飯食いに食堂行こうぜ」
「え? もうそんな時間?」
「ずーっと寝てっからだろ。前夜祭やるんだってよ。皆待ってんぞ。ほら、行くぞ」
「わっ、待ってよ!」
ヌゥとアグは食堂に向かった。
ちょうど皆が揃っている。テーブルの上には食べかけのごちそうが山のように並んでいた。おおかた食べ終わったのか、雑談している感じだった。ベーラはただ一人黙々と食べている。
「ヌゥ君、目が覚めたんだ! 大丈夫だった? ごめんね手加減できなくて…」
ジーマは言った。
「大丈夫! もうすっかり元気だから」
(くそ〜ほんとは手加減だらけだったじゃん! てか特訓も全然してもらえなかったな…あー勿体無い!)
「心配したんやで〜わいの連続攻撃にくたびれよったな」
「何言ってんの! 当たったの最後のやつだけだし!」
「絶対当たらんいうとったやろ! 最後のはわいの勝ちやで〜」
「調子いいな〜! 何回勝負したと思ってんのさ」
ヒズミは高らかに笑っていた。
その様子を見て、ジーマも笑っていた。
「二人は随分仲が良くなったんだね」
「確かにな〜。まあ5日間もサバイバル生活共にした仲やからな」
「ヒズミはずっとびびって、隠れてばっかりだったよね。ずーっと手繋がされたんだよ」
「ええやんか。敵に見つかるよりな〜。はよこっち座らんか」
ヒズミはヌゥを手招きした。
「先にご飯買わないと」
「ここにぎょーさんあるやろ。適当につまんどき。ジーマさんのおごりで外から出前とったんやて。なんたって今日は、最後の晩餐やからな〜」
そう言ってヒズミは瓶に入ったお酒をグラスによそって飲んだ。
「こらヒズミ! 一杯だけって言ったでしょ。病み上がりなんだし、明日ウォールベルトに行くんだよ?」
ジーマの叱責も虚しく、ヒズミは既に酔っ払っていて聞く耳を持たない。
「ええやないですか! 最後の晩餐やん!」
「そんな、皆死ぬみたいじゃないですか…」
ベルはデザートの特大パフェをベーラとつついていた。
「1番最初に死ぬとしたら、まあお前だろうな、ヒズミ」
「ベーラさん! なんちゅーこというんですか! てかそのパフェ何個目やねん」
「おいしそー! 俺にもちょうだい!」
ヌゥがベルたちのところに行こうとすると、ヒズミは彼の手を掴んだ。
「待たんかい! お前はこっちや」
「ええ? 何?」
ヒズミはヌゥの前にグラスを置いて、酒をつぎはじめる。
「誰も一緒に飲んでくれへんねん! 相手せーよ。ほら、アグも!」
ヒズミはアグにもグラスを差し出した。
「ありがとうございます…」
何だこの酒…ニオイからして結構強そうだな。俺は自分が酒に強いことがわかったけど、ヌゥ、あいつ酒なんて飲んだことあんのか?
「何これ」
「酒や酒! ヌゥももう成人してんやろ! まあとりあえず飲んでみーて。ほな、カンパーイ」
酒も知らねーのかよ…ほんとに大丈夫か…?
てかヒズミさん…相当酔ってるな…。酔ったらみんなテンション高くなるんだな…。
ヒズミとヌゥとアグは乾杯すると、一斉にお酒を飲んだ。
「うーわっ何これ! まっずい!」
ヌゥは一口飲むと、舌を出して顔をしかめた。
「何言うてんの! うまいやろ! 高いやつやでこれは!」
「ヌゥ君、無理に飲まなくていいんだよ…」
「いらないいらないこんなの! 俺はパフェの方がいい!」
ヌゥはグラスをテーブルに置いて立ち去ろうとするが、ヒズミはまた腕を掴んで彼を離さない。
「あんた子供かいな! 先輩の酒断ったらあかんで!」
「ええー?! 知らないよそんなの」
「見てみ! アグはもう全部飲んだで」
アグはグラスを空にしていた。
うん…飲んだら結構美味かった。苦いのにあとにひく甘さがクセになる。
「ええ! アグすっごいね!」
ヌゥは目を輝かせて驚いた。
すると、ベルがアグの隣に腰掛けた。
「アグさん、お酒強いんですね」
「え? ああ、そうみたい…」
「ふふ…ヒズミさん同じの一杯飲んだら、もうあんなに酔っ払っちゃって…」
ヒズミは嫌がるヌゥに酒を飲ませようと絡んでいた。
まあでもヌゥもなんだかんだ楽しそうだし、ほうっておこう。
「そっか。ベルは未成年だもんね」
「そうなんです…皆さんが飲んでるのみると、どんな味なのか気になっちゃいますけど」
「俺も詳しくないけど…味はお酒によって全然違うね。これは最初は結構苦いよ」
「そうなんですね〜」
そっか、ベルは未成年。ベーラさんは酒が嫌いだし…というか激弱だからな…。酔ったとこもっかい見たい気もするけど…。
「ジーマさんは飲まないんですか?」
「え? うん、僕はいいよ。皆が楽しむところ見てるだけで」
もうなんか、保護者だよな…。
「明日は朝から向かうんですよね?」
「まあ、そのつもりだよ。グザリィータまで行って、まずはヒズミとアグ君で様子を見に行ってもらう。危険な目に合わせて申し訳ないけど…、薬やレシピはアグ君しか実物がわからないと思うし、ヒズミの隠れ身の術を使えばバレないと思うからさ。とりあえずは薬の奪還が第一目標かな」
「わかりました…。その、隠れ身の術は、ヒズミさんに触れたら発動できるって聞いたんですけど…」
アグは2つのリストバンドを取り出した。
「これは何だい?」
「これ、糸で繋がってるんです。マリーナの森で捕まえたクモの糸がまだ残っていて、自在に伸縮できるように改良したんです。これをつけていれば、手を繋がなくても隠れ身の術が使えるかなって。距離も多少取れるし、両手が空いていたほうが行動しやすいですから」
「へぇ〜すごいね! だってよヒズミ」
ヒズミは全く聞いていなかった。ヌゥに激強激マズの酒を作って飲ませて、ヌゥはそれをブッと吐き出した。それを見て大笑いしている。
「…まあ、明日また説明してもらってもいいかな」
「もちろんです。とにかく、何かあったら無線で連絡をいれます。話す余裕がないときは、これ…」
アグは無線に新しく取り付けたランプを見せた。
赤色で激しく点滅している。
「緊急ボタンです。長押しなんで、間違えて押しちゃったってことはないと思います。本当にやばいとき、助けが必要だと思ったら、押します」
ジーマは自分の無線を取り出した。同じようにランプが赤く光っている。
「すごいな! ありがとうアグ君。色々準備してくれていたんだね」
「いえ…このくらいしか出来ませんから」
なんたって、敵の陣地に乗り込むのだ。シャドウが何体いるか予想もつかない。気を抜けば、間違いなく死ぬ。
ヌゥは生まれて初めてお酒というものを飲んで、というか無理矢理飲まされて、頭がぼーっとしてきた。
ふわぁ…なんだか眠いような…ふわふわするような…心地よい気分。
ヌゥは顔が赤くなってきて、ふらふらしていた。
「あっちゃ〜、もうそんな酔ってもたんか? 酒はそんな強くないねんな〜」
ヒズミが笑っていると、ヌゥはヒズミにもたれかかった。
「おーおー、ちょ、まじか…」
ヒズミは彼を支えた。
「ヒズミ……」
ヌゥはうつろな目で呟いた。
周りのみんなは話に夢中になって、誰も二人のことを気にしていなかった。
ヒズミは間違いなく顔が赤くなっていたが、今ならお酒のせいにできそうだ。
(あかんあかん! わいにはユークが……ていうかヌゥは男やん…何でドキドキせなあかんの! おかしいおかしい! わいも結構酔ってるわ!)
心臓の鼓動が大きくなるのがわかる。
(あかんて! ちょっと! 勘弁して!)
ヒズミが顔を上げると、アグと目があった。
「ひっ…いや、ちゃうねん! そういうつもりじゃないねん! 別にあんたからとったりとか、そんなんせえへんで!」
「……?」
何言ってんだ、ヒズミさん。
「せやから…その…ちょっと飲ましたらこうなって…わいは別に男に興味とかないし…女の子と付き合ったことたくさんあるし…」
ヌゥはヒズミにしがみついたまま、離れない。
ふーん、あいつ酒弱かったのか…ヒズミさん大変だな。
さっきから何言ってるかよくわからないけど。
酔っ払いって面白いけど面倒なところあるな。
アグは瓶に入った高級酒を手にとった。
「あ、よかったら私が…」
ベルはアグの手の上から瓶を持った。
「あっ!ごめんなさい!」
「いや、別に…えっと、じゃあお願い」
ベルは顔を赤くして、アグのグラスに酒をついだ。
女の子にお酒ついでもらうのっていいな〜。
なんて思いながら、俺はその高級酒を1本開けた。
「んんん!!」
ヌゥが突然起き上がった。顔は赤くなって、目はうつろだ。明らかに酔っている。
「うわっびっくりさせんといて! なんやの!いきなり!」
「ヒズミ!!」
ヌゥは別の酒瓶を手に取ると、ヒズミの口にそれを突っ込んだ。
「な、なにしゅんねん! うごご…」
「お返し!」
ヌゥはヒズミに酒を飲ませると、満足したようにその場を離れた。
(な、なんやの…おえ…しかもこれ割る前のやつやん……辛っら……)
「ジーマさんも! 全然飲んでないし!!」
「いや、僕はいいから…」
ヌゥはジーマに瓶を近づけようと必死になったが、軽く避けられてしまった。
アグはそんな彼の様子を見ていた。
(おいおい…1番面倒くせーパターンかよ……)
諦めたヌゥはベルのところにやってきた。
「ベルちゃんは?!」
「おい、ベルは駄目だ。未成年だからな。飲ませたら牢屋行きだぞ」
「そうなの?! じゃあだめ! ベルちゃんは、だめ!」
(さすがに牢屋行きは言いすぎたか…)
ベルもびっくりしながら立ち去る彼を見ていた。
ヌゥはベーラのもとに駆け寄っていく。
「じゃあ、次はベーラ!」
「私も未成年だ!」
「嘘だ! ベーラは絶対年上!」
ベーラは無表情ながらに、ちょっと眉毛がピクついたように見えた。
(おい、ベーラさんにはやめろ…まじで…)
ベーラは土の柱でヌゥを襲ったが、素早くそれを避けると、ベーラに瓶の酒を飲ませた。
「あ……」
全員がやっちまった、というような顔でヌゥとベーラを見た。
「やったー! ベーラも飲んだ!」
ヌゥは大きくばんざいして、満面の笑みを浮かべた。
「う、う、……」
ベーラは目に涙をいっぱい浮かべていた。
「ん? ベーラ何で泣いてるの?」
ヌゥは彼女の方をうつろな目で見ていた。
「だって…だって…最後の晩餐なんて…ぐすっ…嫌なんだもん!!!」
今度はそれで泣いてんのか…! とにかく泣き上戸なんだなこの姉さんは…。
「ベーラさん、それはヒズミさんの冗談ですよ…」
「うう!! アグちゃん!!!」
またきたか!
ベーラはアグの服をぎゅっと掴んだ。
シラフだったらがんつけられてる体制だけどな…。
「気をつけていくんだよ! やばかったらすぐに逃げるんだよ! 逃げるのはヒズミの十八番だからね! ヒズミに任せたら大丈夫だからね!」
「なんか嫌やなそれ」
「大丈夫ですよ。無茶はしませんから」
ベーラはフラフラとヌゥにも近づいた。
「ヌゥちゃんも、無理しちゃだめだからね。ぐすっ…絶対全員、生きて帰るんだからね! そしたらいっぱいおいしいもの、ひっぐ…食べさしてあげられるからね!」
「親戚のおばさんかいな」
土の柱がヒズミの顎に当たって、ノックアウトした。
「ベーラさん! それ凶器やからほんまやめて! ほんまに最後の晩餐になるで!」
ヒズミは顎をさすりながら、もう片方の手の平を突き出して、待ったの体制をとった。
「はいはい。じゃあベーラ、もう寝るよ」
ジーマがベーラを後ろから取り押さえた。
ベーラは彼の顔を見上げると、皆に向かって言った。
「安心して…皆! 私は弱くて役立たずだけど、私たちにはジーマがいる! だって彼は昔はね、鬼…」
ジーマはベーラの口を塞いだ。
「やーめーなさい」
「もごもごっ…」
「なんや、二人はお似合いやんな」
ヒズミが茶化しながら言った。
「シエナがいたら発狂するな」
アグは呟いた。
「シエナは子供やんか。ジーマさんからしたら娘と変わらんで。二人はほら、歳も近いやろ〜ええと思うんやけどな〜」
ヒズミは呑気にそう言った。ジーマは笑っていたが、少ししかめた表情にも見えた。
ベーラはいつのまに眠ってしまっていた。
ジーマはベーラを抱えた。
「ベーラを部屋に連れてってくるね」
「寝込み襲ったらあかんで〜ジーマさん」
「ヒズミさん、シエナじゃないんだから…」
「せや、あいつほんまヤバイで。この前ジーマさんと風呂入っとったら中に入ってきてん!」
ヒズミとアグが話しているのを横目に、ジーマは食堂を出た。
「シエナが、可哀想よ」
ベーラは目を開けて呟いた。
「うん…ごめん…」
「彼らの冗談なんて、気にしちゃったの?」
「ううん…。この戦いが終わったら、はっきりさせるよ。シエナにも、みんなにも」
「そう、なら良かった…」
階段を上る途中で、ベーラは呟いた。
「ねぇ、ジーマ」
「何…?」
「余ってるご飯とおかず…冷蔵しておいてね……」
「………うん…」
そう言い残して、ベーラは夢の中におちた。
宴会場はヌゥとヒズミが酔っ払ってバカ騒ぎだ。
ベルとアグはその様子を見て笑っていた。
「皆、無事で帰ってこれますように…」
ベルは呟いた。アグはそんな彼女を、じっと見ていた。
ベルが顔を上げると、目があった。
「あ、そうだ…」
ベルは服の袖から雷杖を取り出した。
「これ、ずっと持ってます。私のお守りです」
「ああ、うん…。そいつがベルを、ちゃんと守ってくれるといいけど…」
「私は大丈夫ですよ。待機しているだけですから…。それより皆さんの方が、心配です…」
ベルはそう言って、雷杖をしまいこんだ。
「アグー!!」
ヌゥがアグの後ろから抱きついた。
「おい、飲み過ぎ、酔いすぎ、絡むな面倒くさいから」
「ひどい言い草!」
「まーたイチャついて! はよ離れ!」
ヒズミはちょっとつまらなそうに、少し離れたところから言った。そして目の前にあった強めの酒をまたグビッと飲んだ。
「ヒズミ、何で怒ってるの?」
「別に怒ってへんよ」
「怒ってるじゃん! わかった! ヒズミもしてほしいんでしょ!」
ヌゥはヒズミのところに駆け寄ると、思いっきり抱きついた。
(うっそ! あかんねんて、ほんまに!)
ヒズミは顔を真っ赤にして、といっても、もう最初から赤いけれど。
「やめえ! 暑い! あっち行かんかい! もう!」
と言いながらも、もうちょっとこのままで、なんて、もはや彼は思ってしまっていた。
「ヒズミ…明日気をつけてね…」
「え…?」
「絶対、死なないでね…」
そう言って、ヌゥは眠ってしまった。
なんやねん…。なんかもう、ようわからん。
ずっと、頭がぼーっとする。
あかん…飲みすぎた…。
そのままヒズミも、まぶたが重くなって、眠りにおちた。
「おいベル、みんな寝ちゃったけど…」
アグが横を振り向くと、ベルも机にうつ伏せて眠りについていた。
(皆、疲れてんだな……)
アグは気持ち良さそうに眠るベルの寝顔を見ていた。
そうしたらなんだか自分も眠くなって、気づいたら彼女の隣で同じように眠りについていた。
「あれ、みんなもう寝ちゃった?」
ジーマが戻ってくると、散らかった食堂と、眠っている皆の姿があった。
「皆…明日はよろしくね……」
ジーマはにっこり笑って、皆を部屋まで運んで寝かせると、食堂の後始末をした。




