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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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雷杖を1本

「ふぁ〜気持ちいいー!」


ヌゥは大浴場のだだっ広い浴槽に浸かっていた。

ジーマもその横に浸かって、無邪気な彼を横目で見ては微笑んだ。


「結局全然歯がたたなかったな〜」

「そんなことないよ。どんどん吸収していい動きになっていたじゃない」

「そうかな〜。ジーマさん、何でそんなに強いのに隠してるの。そんなに強いなら、もっと偉そうにしてたらいいのに」

「別に隠してないけど…。はは…性格の問題だよね、それも」


あのあと特訓は2時間くらい行われた。剣を弾かれることは減ったが、何度やってもジーマの裏をとれなかった。経験の差というのも大きいのだろうが、ヌゥは生まれて初めて人を尊敬した。


「明日も…相手してくれる?」

「うん、もちろんいいよ。ただし、休養はしっかりとってね」

「わかってる」


ヌゥは大きくのびをすると、浴槽のフチに頭を置いて、天井を見た。


「レインたち、大丈夫かな」

「だいぶ無茶な依頼に行かせちゃったからね。レインは行くのもしぶしぶだったしね、本当はハルクのところに行きたかったんだろうけど」

「俺、ハルクさんとあんまり話したこともないけど。でもレインと約束したから。必ずハルクさんを助けるって」


ジーマは彼を見ていた。


この子は、本当に、優しい子なんだね…。

人を疑うことをしない。


それゆえに、君の呪いは本当に辛いね…。

一体どれほど、悲しい思いをしてきたんだろうか。


「うーん、のぼせてきたからそろそろ出ようかな。ジーマさん、今日はありがとうございました」

「いえいえ。ゆっくり、休んでね、ヌゥ君」

「うん! それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみ」


ヌゥはそう言って、先に大浴場を出ていった。


ウォールベルトへの侵入も近づいてきた…。

薬の奪還が最低目標ではあるけど、あそこには山ほどシャドウがいる。

おそらく、戦闘なしではすまされないだろう。

こちらも、相手の手数を減らしたいのは山々だし。正直、討つなら早いほうがいいっていうのも間違いない。


アリマでヌゥたちが戦ったシャドウ二人も、コンビネーションを駆使してきて、かなり強かったと言っていた。向こうも明らかにレベルをあげてきている。

新しい磁力の禁術…他にも見たことのない技を使ってくるやつがいるかもしれない。


そして、メリという女が言っていた、レアと呼ばれる生きているシャドウ…。彼女は強い。ダハムというシャドウもその強さなのだとしたら、かなり手強いだろう。

生きているということは、彼女たちは人間なのか…? シャドウとはそもそも、何なんだ…。


彼女たちを造ったヒルカという男…。彼だけは必ず、倒さなくてはならない。例え殺すことになっても…。


「ふぅ……やっぱりあの剣も、持っていこう……」


ジーマはそう呟いた。




アグが夢中になって武器を作っていると、コンコンとドアがノックされた。アグが手を止めてドアを見ると、ベルがやって来た。


「アグさん、もう夜が遅いですよ〜」

「誰かと思ったら、ベルか。ほんとだ…もうこんな時間になってた」


ベルはニコッと笑いかけると、アグの隣に座った。


「何作ってるんですか?」

「アリマで回収してきた武器が山ほどあってさ。色々改良したり、分解したりしてるんだ」

「確かにすごい数ですね!」

「ああ、驚いたよ。あ、そうだ…」


アグは短い杖のようなものを取り出した。


「何ですか?」

「ちょっと、外に来て」


アグが杖を振ると、杖の先から雷が放出され、地面にあった大きな岩を砕いた。


「す、すごい! 魔法みたいですね!」

「魔法って、御伽話とかにでてくるやつ?」

「そうですそうです! 私がずっと小さいとき、魔法使いになるのが夢でした」


ベルはちょっと恥ずかしそうに、はにかんだ。その笑顔が可愛くて、少し見とれてしまった。


「これ、2本作ったんだけど、良かったらベルが1本持ってて」

「え? 私にくれるんですか?」


ベルは杖をおそるおそる手にとった。


「理屈はわからないんだけど、使うときは使い手の意思が必要みたい。だからちょっと振ったりしても雷は出ないから、安心して。何か雷を当てたい対象や場所を念じて杖をふると、攻撃できる。雷をまとった剣と、敵を追従する弓の素材を合体させたんだ」

「ありがとうございます。1回やってみてもいいですか?」

「もちろん。あそこの切り株なんかどう?」


アグは岩より更に奥の、大きな切り株を指さした。


「えい!」


ベルが杖を振ると、雷がとびだし、切り株を破壊して跡形もなくした。


「す、すごい威力ですね…」

「思ったより実戦で使えるかもな…。あ、もちろんベルは危ないから手前のグザリィータ国で待機してもらうけど、でも万が一何かあったときのために、護身用で持っていて」

「ありがとうございます! アグさん!」


ベルはまた笑ってそう言った。彼女の笑顔を見るたびに胸が掴まれるような感覚になる。


ヌゥに、ベルともしキスしたら…なんてアホなこと言ったせいかな…。

違う違う、ベルは友達になったばかりだ。


「アグさんが…最初に侵入するんですよね…。本当に、気をつけてくださいね」

「うん…ありがとう。無茶なことはしない」

「どんなケガをしても、私が絶対に助けますから!」


ベルはアグの両手を掴むと、真剣な顔で言った。


ち、近い…。


アグは少し顔を赤くして、目を背けた。


「あ、もちろんケガなんてしないに、こしたことはないですけど!」


ベルはハッとしたようにそう伝えて、手を離した。

ベルの体温の感覚が、手に残っていた。


「もう遅いですから、アグさんももう休みましょう」

「ああ…」


アグは、彼女のことが少し、気になっていた。

アグは部屋に戻ると、ベッドに転がり、もう一本の雷杖を取り出した。

ベルにあげたものと似ているが、よく見るとほんの少し違っている。


「………」


アグはしばらく、その杖をじっと、見つめていた。





一方レインたちは、異常動物たちと目下戦闘中だった。


麒麟を倒した彼らはアンジェリーナに乗り、次に近くにいる象に近づいた。


大きさは麒麟と変わらず、象の足の付け根さえ見上げるほどだ。


「パオオオオオ!!!」


飛ばされそうなくらい大きな鳴き声で象は吠えた。その鼻から放射弾のようなものを発射し、アンジェリーナを狙う。

アンジェリーナはみんなを乗せたまま下降して、連発される放射弾を避けた。放射弾は地面にあたり、爆弾のように辺りを吹き飛ばした。

アンジェリーナは象の顔の横を飛び抜けていく。


「すげえ威力だな」

「あれさえ止めればなんてことないわよ!」


シエナはアンジェリーナから象の目玉に飛び膝蹴りを食らわせた。その勢いで鼻の付け根に手を起きバク転すると、反対側の目玉にも蹴りを食らわせる。


目玉をつぶされた象は何も見えなくなり、ひどい悲鳴をあげた。


「今よ!」

「よし来た!!」


アシードはアンジェリーナから飛び降り、象の胴体に剣を突き刺した。剣は胴体を通り抜け、アシードは地面に着地する。

象は倒れた。


「なんだ、ちょろいな!」

「お前何モしてねエじゃねえカ! 役立たズなライオンだな!」

「うるせーな。俺が出るほどの敵じゃねーんだよ」

「何言ってンだ! こん中ジャお前が1番雑魚ダろ!!」

「は?! そんなわけねえだろ!」


アンジェリーナと彼に乗ったライオンのレインが言い争っていると、蛙が泡を吹いて攻撃してきた。


「うわっ」


アンジェリーナは逆さを向いてその泡を避けた。

レインはその拍子に地面に落とされた。


「こんのクソ鳥が!!」

「さっさと働ケ! 雑魚なりニな!」


アンジェリーナは軽やかに泡を避けながら、落ちたレインにあっかんべえをしていた。


ほんとにムカつく鳥だぜ…。

見てろ…百獣の王は、俺だっての。


レインは大きく吠えると、10倍くらいある蛙に向かって走った。

蛙はレインを見つけ、泡を吹いてくる。レインは泡を避けながら、蛙との距離を縮めた。外した泡は地面にぶつかり、爆発を起こしている。


「並外れた威力だな! ほんとに!」


レインは蛙の足の間に位置づけた。その巨大さから蛙は、泡を真下に飛ばすことはできないようだ。

レインは蛙の腹の肉を噛みちぎった。そして腹をこじあけ、その肉を引き裂いていく。

蛙はその痛みに悶絶して激しく暴れた。

しかしレインは攻撃をやめない。

蛙の心臓にたどり着いたレインは、それをも牙で噛みちぎった。

蛙の周りは血の海になっている。


「クソまず…」


レインは蛙の心臓の欠片を吐き出し、人の形に戻ると右手で口周りの血を拭った。


































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