雷杖を1本
「ふぁ〜気持ちいいー!」
ヌゥは大浴場のだだっ広い浴槽に浸かっていた。
ジーマもその横に浸かって、無邪気な彼を横目で見ては微笑んだ。
「結局全然歯がたたなかったな〜」
「そんなことないよ。どんどん吸収していい動きになっていたじゃない」
「そうかな〜。ジーマさん、何でそんなに強いのに隠してるの。そんなに強いなら、もっと偉そうにしてたらいいのに」
「別に隠してないけど…。はは…性格の問題だよね、それも」
あのあと特訓は2時間くらい行われた。剣を弾かれることは減ったが、何度やってもジーマの裏をとれなかった。経験の差というのも大きいのだろうが、ヌゥは生まれて初めて人を尊敬した。
「明日も…相手してくれる?」
「うん、もちろんいいよ。ただし、休養はしっかりとってね」
「わかってる」
ヌゥは大きくのびをすると、浴槽のフチに頭を置いて、天井を見た。
「レインたち、大丈夫かな」
「だいぶ無茶な依頼に行かせちゃったからね。レインは行くのもしぶしぶだったしね、本当はハルクのところに行きたかったんだろうけど」
「俺、ハルクさんとあんまり話したこともないけど。でもレインと約束したから。必ずハルクさんを助けるって」
ジーマは彼を見ていた。
この子は、本当に、優しい子なんだね…。
人を疑うことをしない。
それゆえに、君の呪いは本当に辛いね…。
一体どれほど、悲しい思いをしてきたんだろうか。
「うーん、のぼせてきたからそろそろ出ようかな。ジーマさん、今日はありがとうございました」
「いえいえ。ゆっくり、休んでね、ヌゥ君」
「うん! それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
ヌゥはそう言って、先に大浴場を出ていった。
ウォールベルトへの侵入も近づいてきた…。
薬の奪還が最低目標ではあるけど、あそこには山ほどシャドウがいる。
おそらく、戦闘なしではすまされないだろう。
こちらも、相手の手数を減らしたいのは山々だし。正直、討つなら早いほうがいいっていうのも間違いない。
アリマでヌゥたちが戦ったシャドウ二人も、コンビネーションを駆使してきて、かなり強かったと言っていた。向こうも明らかにレベルをあげてきている。
新しい磁力の禁術…他にも見たことのない技を使ってくるやつがいるかもしれない。
そして、メリという女が言っていた、レアと呼ばれる生きているシャドウ…。彼女は強い。ダハムというシャドウもその強さなのだとしたら、かなり手強いだろう。
生きているということは、彼女たちは人間なのか…? シャドウとはそもそも、何なんだ…。
彼女たちを造ったヒルカという男…。彼だけは必ず、倒さなくてはならない。例え殺すことになっても…。
「ふぅ……やっぱりあの剣も、持っていこう……」
ジーマはそう呟いた。
アグが夢中になって武器を作っていると、コンコンとドアがノックされた。アグが手を止めてドアを見ると、ベルがやって来た。
「アグさん、もう夜が遅いですよ〜」
「誰かと思ったら、ベルか。ほんとだ…もうこんな時間になってた」
ベルはニコッと笑いかけると、アグの隣に座った。
「何作ってるんですか?」
「アリマで回収してきた武器が山ほどあってさ。色々改良したり、分解したりしてるんだ」
「確かにすごい数ですね!」
「ああ、驚いたよ。あ、そうだ…」
アグは短い杖のようなものを取り出した。
「何ですか?」
「ちょっと、外に来て」
アグが杖を振ると、杖の先から雷が放出され、地面にあった大きな岩を砕いた。
「す、すごい! 魔法みたいですね!」
「魔法って、御伽話とかにでてくるやつ?」
「そうですそうです! 私がずっと小さいとき、魔法使いになるのが夢でした」
ベルはちょっと恥ずかしそうに、はにかんだ。その笑顔が可愛くて、少し見とれてしまった。
「これ、2本作ったんだけど、良かったらベルが1本持ってて」
「え? 私にくれるんですか?」
ベルは杖をおそるおそる手にとった。
「理屈はわからないんだけど、使うときは使い手の意思が必要みたい。だからちょっと振ったりしても雷は出ないから、安心して。何か雷を当てたい対象や場所を念じて杖をふると、攻撃できる。雷をまとった剣と、敵を追従する弓の素材を合体させたんだ」
「ありがとうございます。1回やってみてもいいですか?」
「もちろん。あそこの切り株なんかどう?」
アグは岩より更に奥の、大きな切り株を指さした。
「えい!」
ベルが杖を振ると、雷がとびだし、切り株を破壊して跡形もなくした。
「す、すごい威力ですね…」
「思ったより実戦で使えるかもな…。あ、もちろんベルは危ないから手前のグザリィータ国で待機してもらうけど、でも万が一何かあったときのために、護身用で持っていて」
「ありがとうございます! アグさん!」
ベルはまた笑ってそう言った。彼女の笑顔を見るたびに胸が掴まれるような感覚になる。
ヌゥに、ベルともしキスしたら…なんてアホなこと言ったせいかな…。
違う違う、ベルは友達になったばかりだ。
「アグさんが…最初に侵入するんですよね…。本当に、気をつけてくださいね」
「うん…ありがとう。無茶なことはしない」
「どんなケガをしても、私が絶対に助けますから!」
ベルはアグの両手を掴むと、真剣な顔で言った。
ち、近い…。
アグは少し顔を赤くして、目を背けた。
「あ、もちろんケガなんてしないに、こしたことはないですけど!」
ベルはハッとしたようにそう伝えて、手を離した。
ベルの体温の感覚が、手に残っていた。
「もう遅いですから、アグさんももう休みましょう」
「ああ…」
アグは、彼女のことが少し、気になっていた。
アグは部屋に戻ると、ベッドに転がり、もう一本の雷杖を取り出した。
ベルにあげたものと似ているが、よく見るとほんの少し違っている。
「………」
アグはしばらく、その杖をじっと、見つめていた。
一方レインたちは、異常動物たちと目下戦闘中だった。
麒麟を倒した彼らはアンジェリーナに乗り、次に近くにいる象に近づいた。
大きさは麒麟と変わらず、象の足の付け根さえ見上げるほどだ。
「パオオオオオ!!!」
飛ばされそうなくらい大きな鳴き声で象は吠えた。その鼻から放射弾のようなものを発射し、アンジェリーナを狙う。
アンジェリーナはみんなを乗せたまま下降して、連発される放射弾を避けた。放射弾は地面にあたり、爆弾のように辺りを吹き飛ばした。
アンジェリーナは象の顔の横を飛び抜けていく。
「すげえ威力だな」
「あれさえ止めればなんてことないわよ!」
シエナはアンジェリーナから象の目玉に飛び膝蹴りを食らわせた。その勢いで鼻の付け根に手を起きバク転すると、反対側の目玉にも蹴りを食らわせる。
目玉をつぶされた象は何も見えなくなり、ひどい悲鳴をあげた。
「今よ!」
「よし来た!!」
アシードはアンジェリーナから飛び降り、象の胴体に剣を突き刺した。剣は胴体を通り抜け、アシードは地面に着地する。
象は倒れた。
「なんだ、ちょろいな!」
「お前何モしてねエじゃねえカ! 役立たズなライオンだな!」
「うるせーな。俺が出るほどの敵じゃねーんだよ」
「何言ってンだ! こん中ジャお前が1番雑魚ダろ!!」
「は?! そんなわけねえだろ!」
アンジェリーナと彼に乗ったライオンのレインが言い争っていると、蛙が泡を吹いて攻撃してきた。
「うわっ」
アンジェリーナは逆さを向いてその泡を避けた。
レインはその拍子に地面に落とされた。
「こんのクソ鳥が!!」
「さっさと働ケ! 雑魚なりニな!」
アンジェリーナは軽やかに泡を避けながら、落ちたレインにあっかんべえをしていた。
ほんとにムカつく鳥だぜ…。
見てろ…百獣の王は、俺だっての。
レインは大きく吠えると、10倍くらいある蛙に向かって走った。
蛙はレインを見つけ、泡を吹いてくる。レインは泡を避けながら、蛙との距離を縮めた。外した泡は地面にぶつかり、爆発を起こしている。
「並外れた威力だな! ほんとに!」
レインは蛙の足の間に位置づけた。その巨大さから蛙は、泡を真下に飛ばすことはできないようだ。
レインは蛙の腹の肉を噛みちぎった。そして腹をこじあけ、その肉を引き裂いていく。
蛙はその痛みに悶絶して激しく暴れた。
しかしレインは攻撃をやめない。
蛙の心臓にたどり着いたレインは、それをも牙で噛みちぎった。
蛙の周りは血の海になっている。
「クソまず…」
レインは蛙の心臓の欠片を吐き出し、人の形に戻ると右手で口周りの血を拭った。




