強くなりたい
「着いたわね…」
シエナたちは、上空からサバンナを見下ろした。
予想を上回る最悪の光景だ。
巨大化した獣たちが、サバンナの動物を追いかけ回し、食い漁っていた。
その獣たちの数は全部で8匹と数えるほどだが、あの時の巨大サソリに並ぶ大きさで、ここからだと逃げまわるシマウマたちが蟻に見える。
俺たちもあそこに行ったら、蟻の一匹になるな…。
上空から巨大獣の様子を伺う。
それぞれ距離をおいて、各自の陣地で暴れている。
麒麟、象、虎…それにあれは、蛙か…? サイ、蛇、カマキリ…? 最後の一匹は静かだな…ん?…なんだあれ……黒い身体に巨大な翼…まさかドラゴンか…??
巨大化した動物たちは、肉食草食関係なく、彼らからしたらごみのように小さいサバンナの動物たちを、食べまくっていた。
「何なのよあれ! むっちゃくちゃじゃない!」
「とりあえず暴れてるやつらから倒してくぞ」
「よしきた! アンジェリーナ! 着陸じゃあ!」
アンジェリーナは下降体制に入った。
サバンナの草原に三人はおりたつ。
「この鳥はもう返すか?」
「そうじゃな! アンジェリーナを危険な目には合わせられん!」
「グワワ!グーワッ!ワワワ!」
「どうした? アンジェリーナ」
アンジェリーナは帰ろうとせず、何かを訴えている。
レインはライオンに変化した。
「なんだよクソ鳥」
「クソはお前ダ!このちっコいライオンが! 俺モ手伝ってヤルよ! こノ数はヤばそうダからナ! そしテ感謝して俺ニひれ伏セ! ボケナス!」
「お前、戦えんのかよ」
「バカにすんなヨ! 俺はアンジェリーナ様ダぞ! めんたマかっぽジってよ〜く見てロ!」
アンジェリーナは高く飛び立つと、1番背の高い麒麟に向かっていった。麒麟は首を振り回して、アンジェリーナを狙ったが、軽々とかわされた。アンジェリーナは麒麟の首をくちばしで挟むと、麒麟を持ち上げ、投げ飛ばした。
「すごいじゃないあの鳥!」
「驚いたぜ…やるじゃねえかアンジェリーナ!」
シエナとレインは興奮していた。
「うおーー!!!!! 我が同士!! 何という力だ!! 素晴らしいぞ! わしも負けてられん!! 行くぞぉおおお!!!」
アシードは更に興奮していた。
そして麒麟まで走っていき、高くジャンプすると、大剣カトリーナで首を切り落とした。
「あれをぶった切るとはな…イカれたおっさんだ……ほんとに…」
「この調子なら全員倒せそうね!」
レインとシエナも巨大生物たちに向かっていった。
その頃、ゼクトとリバティは、再度テレザ鉱山を枯らし、更に他の鉱山も2つほど枯らしてまわり、残りの500万ギルをかせぎ終えた。
「やったぞイースぅぅぅ!!!!」
「ゼクトォーー!!!」
ゼクトは人間化したイースを抱きしめた。
イースも、彼を抱きしめる。
リバティは大きな安堵のため息をついた。
その頃になるとイースは、顔がゼクトの身体よりも大きいほど、巨大なドラゴンになっていた。ドラゴンは幼少期を終えると急激に大きくなるのだという。
その大きさはアンジェリーナを上回っていた。
「やったなイース! もうずっとずっと、一緒だからな!!」
「キュルーー!! ずっと一緒いる!ゼクト!」
両手を繋いで回りながらはしゃぐ二人を見ながら、リバティは言った。
「それじゃお前たちともお別れだな」
「え?」
「イースを取り返す金は集まったし、お前とつるむ必要はないだろ。解毒薬も作ったし、鉱山の復活はお前たちでやっておけ」
「……」
今まで一緒に過ごしてきたのに、もうお別れなのか。
確かにイースを取り返すために手伝ってもらっただけだけど…
なんか寂しいなあ。
「わかったよ。じゃあ家まで送るから、イースに乗れよ。いいだろ?イース」
「もちろん! リバティ送り届けるね」
イースはドラゴンの姿になると、ゼクトとリバティをのせ、飛び上がった。
「キュルルンン!」
街がだんだんと小さくなっていく。
ゼクトはパンパンになった大きな袋を見ていた。
何日もかかったけど、思えばあっという間だったな…。
イースもこんなに大きくなって…。
テレザ鉱山では関係ない奴らを殺してしまった…。
はあ…バレたら俺…捕まるのかな…。
でも俺にはイースがいるからな…どこまでだって逃げてやるさ。
そういえばリバティとずっと一緒にいたけど、結局彼女が何者なのかわからなかったな…。
毒オタクの美人ってだけじゃ、なさそうだ。
俺が知る必要のないことかもしれないけれど。
リバティは紅色の髪をなびかせて、遠くの景色を見ていた。
すると突然、イースは向きを変えて、勝手に違う方向に進みだした。
「お、おい! どうしたイース」
「キュルルルル!!! あいつがいる!! あっちにあいつが!」
「あ、あいつ…?」
イースはサバンナのある方角へと向かっていた。
「おい、イースは何をしてる」
「わかんねえ! でもあいつがいるって…一体、誰がいるっていうのか…」
イースはなんだか様子がおかしい。
なんだか怒っているようだ。
「一体…どこに向かってるんだ…」
ゼクトとリバティの声も聞かず、イースはとび続けた。
「うーん…よく寝た……」
ヌゥはアグの膝の上で目を覚ました。
見上げると、アグと目が合った。
「……」
俺は何も言えなかった。
あの番号が書かれた跡はなんだったのか。
何故だか、怖くて聞けない。
いや、もう忘れよう。俺は何も見なかった。
うん。何も知らない。
ヌゥはしばらくアグの顔をじっと見ていた。
俺は気づかないふりして黙々と作業を続ける。
「膝枕って、気持ちいいね。人の体温って、温かいからかな。だから皆やりたがるんだね〜。よくわかったよ!」
「……そりゃ良かったな。重いから、起きたなら早くどけ」
ヌゥはしぶしぶ起き上がった。髪が乱れていても、こいつは気にしない。
そして俺はやっと無線機一台を完成させた。
「すごいすごい! 俺が寝てる間にもう出来たの?」
「まあな。これで何とか連絡はとれそうだ。ジーマさんに渡しに行かないと」
すると、研究所のドアをノックする音がして、ジーマが何やら大きな袋を持ってやってきた。
「お疲れ様。何か作ってるの?」
「ジーマさん、ちょうど良かったです。無線機壊れたって言ってたので、新しいやつを渡そうと思って」
「そっかそっか! ありがとう、助かるよ」
ジーマはアグから無線機を受け取った。
「その袋、何なの?」とヌゥ。
「これね、ほら、アリマでかき集めた武器の山。これは一部だけど…。このまま使えるものもありそうだけど、壊れてるものも多いんだ。素材が全然ないって言ってたし、なにかに使えるかなって思ってね」
その大きな袋からは、たくさんの武器が出てきた。
「すごい数ですね…これだけあれば、当面鉄系の素材がまかなえますね!」
「ならよかった。じゃあ残ってるのもここに運んで来るよ。研究材料として使ってよ。ヌゥ君、運ぶの手伝ってくれる?」
「うん! わかったよ」
ジーマとヌゥは研究所を出て、エントランスに山ほど積まれた武器を運びに行った。
「ヌゥ君、アリマでは苦労をかけちゃったね」
「ううん。ジーマさんたちも大変だったでしょ。毎日探し回ったんだけど、全然会えなかったね」
「そうだね…」
「ジーマさん、メリに襲われたのに、大丈夫だったの? ケガ1つしてないし」
「うん、何とかね。逃げられちゃったけど」
「…ねえ、これを運び終わったら、お願いがあるんだけど」
二人は何往復もして武器を運び終えた。
アグは素材が莫大な量になり、テンションが上がっていた。
これだけあったら、何でも作れそうだな…。
まずはきらした手榴弾のストックを増やして…
なんだこの剣、電気走ってる…!
このメイスの硬度は異常だな…。
見たこともない素材も多い。どこで作られたんだ?
すごい技術だ…。
一人武器開発に没頭し始めたアグの邪魔をしないように、ジーマとヌゥは研究所を出た。二本の長剣を持って。
二人が向かったのは、地下8階にある道場だった。
「驚いたなあ、ヌゥ君が僕に剣術を教えてほしいなんて」
「だってジーマさん、本当は強いんでしょ?」
「いやあ、もう全盛期でもないし、大したことないと思うけど…」
ヌゥは長剣を握りしめた。
俺は呪いの力を借りなくても、強くなりたい…。
ただ、実践経験がほとんどないから、敵が手練だと苦戦する。
「お願い…します…」
ヌゥはその透き通るような水色の瞳でジーマの様子を伺っている。
(いい目だね…)
「それじゃ、始めるよ」
ジーマが言うと、ヌゥは先手を打って前に出て、剣を振り下ろす。
(速いね…。でも甘い…)
しかし、ジーマに剣を受けられ、止められると、そのままジーマの剣技でヌゥは長剣を弾かれ、手から落としてしまった。
(この人……思ってた以上に……)
弾き飛んだ剣はヌゥの後ろに刺さった。
ヌゥは唖然として、その剣を見た。
「拾って」
ジーマは剣先をヌゥに向けると、彼に命令する。
ヌゥはその剣を引き抜いて、また構えた。
「君の動きは速い。だから普通の奴らならその速さだけで倒せるだろうね。でも敵のレベルが高いとそうは行かない。君の動きは読みやすいんだ」
「……」
「剣術は読み合いだよ。相手の動きを予測して、裏をかくんだ。まあ実際にやってみるのが1番早いと思うよ。かかっておいで。僕を殺すつもりで、いいよ」
ヌゥは再びジーマに向かっていった。
(剣術は読み合い…! 確かに俺は自分が次にどう動こうということかしか考えられてなかった…。呪いがかかっているときは、客観的に自分を見れているからよくわかる…この動きが最適だと、勝手に動く身体を見て、納得できる。あの動きが、俺一人の力でも出来たら…呪いになんか頼らなくたって、もっと強くなれるはずだ)
ヌゥはジーマに近づくと、低い姿勢をとり、ジーマの足元を払おうとする。
(僕との身長差を利用したのか…いいね…)
ジーマは飛んでそれを避ける。
そのジャンプを予測したヌゥは、地面に左手を付き、ジーマの顔に向かって右足を蹴り入れた。ジーマは右手でその蹴りを抑えると、瞬時に左手に剣を持ち替えて、ヌゥの身体を支えるその左手を剣で払った。
「痛った!」
「はは…大丈夫。峰だから」
ヌゥは体制を崩したが何とか受け身をとって起き上がるが、そこを狙われ、また剣を弾かれた。
「両利きなんて…ハァ…反則…」
ヌゥは笑っていた。
ジーマは戦いを楽しむ彼を見て、笑みを浮かべる。
(強くなれるよ…君は…。僕を超えてみせて…)
(悔しい…けど、すっごく楽しい……! 明らかに格上じゃん……この人……。まだ完全に読まれてるけど…この人と戦うだけで…俺は…)
また剣を拾い、間髪入れず彼に立ち向かっていく。
(強く…なれる…!!)
ヌゥとジーマの剣が重なり合う音が響いた。




