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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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仲良くなりたいそんな気持ち

「ハルク、最近調子はどう?」


ジーマは研究所を覗いた。


「ジーマさん…呪術を解く薬の開発を試みているんですが、なかなか…。手榴弾は完成しました。試作品をアシードさんたちに渡したので、実践で試してもらってます。まだまだ威力は弱いですけど、牽制程度には…」

「そうか。全然急がなくていいんだよ。それよりハルク、ちゃんと寝てる?」

「……はい」


嘘だなあ…毎晩のように徹夜してるみたいだし…まともに眠ってないな、この顔は。


「ハルク、今日はもう休みなさい」

「いえ、まだ研究がありますから」

「いいから、これは命令だよ。ほら、早く部屋から出る」


無理矢理ジーマに研究所から追い出されたハルクは、しぶしぶ部屋に戻った。


その頃、レイン、アシード、シエナの三人は、風使いのシャドウと戦っていた。

初めて出会う戦闘スキルのあるシャドウに、三人は苦戦したが、何とか倒すことができた。


「へヘ! 見たか俺の力を!! お前らがどんな禁術を使おうと、俺の前では無力よ!」

「がっはっはっは!わしの力を思い知ったか!」

「何調子乗ってんのよあんたたち…。三人がかりでやっとじゃないのよ…。全く…かまいたちみたいな攻撃ばっかりしてきて…顔に傷がついたらどうすんの?! 嫁入り前なのよ!」

「お前みたいなゴリラを嫁にもらうやつなんているかよ」

「いるわよ! ジーマさんと結婚するの私は!」

「シエナは本当にジーマが好きなのだなあ。こんな可愛い子に好かれて、実に羨ましい! がっはっは!」


レインはハルクからもらった手榴弾をぽんぽんと手のひらでとばした。


「ま、でもこれのおかげだな」

「ハルクの手榴弾に随分助けられたな。わしたちは近距離が得意だが、遠距離攻撃がないとわかるとパターンが読まれやすい。手榴弾を使って、その弱点にもうまく対応できたのではないかな!」

「よ〜し、報酬金もはずむだろうし、今夜はパーっとやっちゃいましょうかアシード!」

「がっはっは! 酔いつぶれるなよ若僧」


本当酒好きの男って嫌よね! ほんっとにたち悪いったらないもの! 私は大人になっても、お酒なんて絶対飲まなーい!


レインたち三人は、馬車に乗り込んで、和気あいあいと帰路にたった。



ジーマは部屋に追いやったハルクの様子を覗いた。


「ハルク…」


小さい声をかけながらドアを開ける。

ハルクはむこうを向いて横になっていた。


「良かった…寝てるね…」


さてと…国王への報告書まとめないと…人数に対して依頼の量が多い…禁術使いたちの討伐に人員さかれるから、他の雑用がたまっていく…。素材と医療器具の発注もしないとな…あぁ〜やること多いな〜。


しかしジーマが部屋を出たあと、ハルクは起き上がり、静かに研究所に向かうのであった。


その頃ベルはベーラに付き添い、部隊の雑用となる仕事を教えてもらっていた。その一つに書類送検だ。国王の元に書類を届けたり、受け取ったりする仕事だ。ちょうど二人はセントラガイト城へと出払っていた。


ジーマも毎日仕事に追われていた。その頃はまだ禁術使い関連の調査以外にも様々な仕事が依頼されていた。


しばらくして、アシードたちが帰ってきた。


「聞け聞け〜! 見事に生け捕りにしてやったぞ〜」

「がっはっは! 今夜は祭りじゃあ〜!」


男どもはテンション変わらず騒いでいる。


「ほんと元気ね!あんたたち。汗かいたからシャワー浴びるわ!」


シエナはさっさと部屋に戻った。


「んだよ。誰もいねえのかよ」

「どれ、ジーマに報告に行くか」


レインとアシードはジーマの部屋をノックするが、返事はない。


「開いておるな」

「おい、ジーマ入るぞ〜」


机にうつ伏せたまま、ジーマは眠っていた。


「んだよ。寝てんのかよ。のんきだな〜俺らが命がけで戦ってきてんのによ」

「そういうな若僧。その間に他の仕事を片づけてくれておるんだ。お前の嫌いな、ちまちました雑用をな。ほらよく見ろ、書類作成も発注も全部終わっておる。ジーマはこう見えても、仕事はできる男だ!」

「ふ〜ん」

「若僧! もっと興味をもたんか!」


二人は特に彼を起こすこともせず、部屋を出た。

すると、ベルとベーラが戻ってきたところであった。


「お!お前らも帰ったのか! これから飲むぞ〜お前らも来いよ」

「そうだ! 今夜は祭りだぞ〜!がーっはっは!!」

「断る」

「お二人でどうぞ、私はまだお酒飲めませんので…」


女二人には即答で断られてしまった。

ほんとに連れねー女どもめ。


「仕方ねえな。ハルクでも誘ってやるか」

「来てくれると嬉しいんだがな〜わしがいくら誘っても、いつも研究研究と断られるのだよ」

「研究バカすぎだよあのひょろひょろは…。まあ以外と酒に飲まれたら面白かったりすんだよ、ああいうやつが」

「ベーラのようにか?」

「ちげーねぇ!」


既に一杯やってきたかのようなテンションで、レインとアシードは研究所にやってきた。


「おい! ハルク!」


ドンドンと扉をノックして名前を呼ぶが、こちらも返事はない。


「なんだよお前も寝てんのか! ったく、また爆発しねえだろうな」


そう言いながらレインがドアを開けると、ハルクが床に倒れていた。


「おいこんなところで寝てんじゃねーぞ」

「待てレイン。様子がおかしいぞ」


ハルクは呼吸をしていない。顔色が青ざめている。


「ハ、ハルク…?」

「待っておれ!べ、ベルを呼んでくるぞ!」


アシードはベルの元へと急いだ。


「なんで…何があったんだよ?! おい! ハルク! 目を覚ませ!」


レインは血の気のひいたハルクを見て、頭が真っ白になる。


「どうしました?!」

「ベル! ハルクが…倒れてて…息が…」

「私がみます! どいてください!」


ベルはハルクの状態を察し、心臓マッサージをし始める。


「ハルクさん! 起きてください!」


ハルクの応答はない。


「レインさん! 少しの間彼に心臓マッサージをしてください!」

「わ、わかった!」


レインはベルの真似をして、心臓マッサージを続けた。


(嘘だろ? ハルク…死ぬな…死ぬな!!)


ベルは自分のカバンから機械を取り出した。大きな機械からは、コードで繋がれたパッドのようなものが2つついている。ベルはその2つを両手にそれぞれ持った。


「ありがとうございます! では一度離れてください!」


ベルに言われた通りにレインは手を離す。


「電気、送ります!」


ベルがパッドをハルクの胸のあたりにはり、スイッチを入れた。

電気ショックだ。

すごい振動と音があった。


「もう一回、送ります!」


更にもう一度、電気ショックを起こすと、ハルクは激しく咳き込み、呼吸を取り戻した。


「呼吸が戻りました。成功です」


ハルクは目を閉じたまま、スースーと呼吸をし始めた。


「助かった…のか…?」

「はい。しばらく様子は見ますが、大丈夫だと思います。心筋梗塞を起こしていました。あと数分遅れていたら、危険でした」

「なんでそんなことに…」

「過労…だと思います…。働きすぎると心筋梗塞に陥ることがあります…。ハルクさん、あんまり寝ていないみたいでしたし…研究のしすぎではないでしょうか…」

「……んだよそれ…」


その後ハルクは回復していった。

ただしジーマの命令で数日強制休養を命じられた。

その間研究所の鍵は取り上げられた。


「ハルク、どうだよ体調は」

「もうすっかり良くなりましたよ。今すぐにでも研究にとりかかりたいのに、ジーマさんに研究所の鍵をとられてしまいました…」

「研究研究って、バカじゃねえの。死んだら終わりじゃねーかよ」


レインはハルクの部屋に様子を見に来ていた。


「私には、それしかありませんから…」


ハルクはうつむいた表情で、話し始めた。


「前の研究所でも、そうだったんです。研究所にはたくさんの研究者がいましたが、私はいつも一人で研究をしていました。みんな、私のことが嫌いでした。私は人と接するのが苦手で、でもそんな風に思われるのも嫌で、人に冷たくあたっていました」

「まあ、初日のあれは驚いたよ。というか、いらついたね」

「すみません…。私はあなたみたいなタイプが一番苦手でした。だから遠ざけたくて、余計に」

「おいおい。本人を前によく言うな」


レインは呆れ半分、笑い半分で答えた。 

幼い頃レインのように明るく短気な男にいじめられていたことがあり、軽くトラウマなのだという。


「ここでもずっと一人で、まあ研究チームは私しかいないので当たり前なんですけど…。毎日同じ場所に住んで、皆さんはすごく仲が良くて、かといって間に入るのなんて無理で…。だったらせめて、研究で成果を出して、ここに自分がいる意味だけでも認めてもらいたくて…そうしたら毎日、研究漬けになって…」


レインはため息をもらした。


「なるほどね、それで頭おかしくなって過労で死にかけたってか。ほんっとバカじゃねえの! バーカバーカ!」

「あ、あなたにバカとは言われたくないですよ」

「うるせー。もうあれだ、今日はあれ、飲みに行くしかねーな」

「行きませんよ私は…」

「つべこべ言うんじゃねえよ! 大人の語り合いは酒と共にって決まってんだよ」

「なんですかそれは…」

「いいから! 行くぞ!」


レインは強引にハルクを城下町について連れて行った。二人はレインの行きつけのパブに入った。

がやがやと賑わっているパブの店内に、ハルクは恐縮していた。

レインとハルクはカウンターに腰掛ける。混雑していて、席はかなりぎゅうぎゅうである。


「私、こういうところは苦手で…」

「いいから、何飲むの?」

「いいですって…」

「なんだよもう! 親父!いつもの!こいつも飲むから、2つね!」

「あいよ!」


レインとハルクの元に真っ赤な液体がグラスに入って届いた。


「はーい! カンパ〜イ」

「……」


こつんとグラスを合わせる。

レインはおいしそうにそれをがぶがぶ飲んだ。

ハルクも一口飲んだが、そのアルコールの濃度が強すぎて衝撃を受けた。

(何ですかこの強い酒は…この人はほんとにもう…)


「そういや、この前は、助かったよ、手榴弾」

「え?」

「お前の作った手榴弾だよ。あれがあったから、禁術使いを倒せた。ありがとな」

「……」


『このくらいできて当たり前だろ』

『あんなに態度でかいくせに、この程度の研究成果かよ』


前の研究所では、認められることなんてなかった。

どんなに頑張っても、私を認めようとする者はいない。


初めて、お礼を言われた。

私が一番苦手だった、この人に…。


「でもやっぱ、研究職がたった一人ってのは大変すぎなんじゃねえの。せめてもう一人くらいいてくれたらな。ジーマに相談してみるか」

「そうですね…確かに仕事上、人手が必要なんですよ…一人だと効率も悪くて…。でもあなたみたいな人が来てしまったら、困りますけどねえ」

「なんだと?! お前な、俺のこと嫌いすぎねえ?」


レインは笑って言った。

冗談が、言えるようになった。

苦手だったのに…怖かったのに、あなたのことが、とっても。

でも、今は違う。

あんなに辛い過去を持って、笑っているあなたは、強い。

私なんかじゃ、手が届かないほど。


「……まあ、前ほどでは、ないですよ」


ハルクはその強いお酒を飲んだ。

誰かと二人でお酒を飲むなんて、初めてだなあ…。


「あっ、そ! ま、俺もかな。研究職ってなんだよ、そんなのいらねーって思ってたけど、今は思ってない。毎日仕事に励んでるハルクはすげーと思うし、これからもどんどん武器とか作ってくれんだろ。禁術を解く薬ができたら、そんな強い力はねえしな! まあでも、研究のしすぎはもうやめろよ」


この人は、私のことを認めてくれる…。

それが嬉しいなんて、思ってしまっている。

なんだろう、この気持ちは。

今までになったことがなくて、わからない。


でも、なんだか、あったかくて。


ていうか、身体が…熱い…。


ハルクはレインにもたれかかった。

その拍子にハルクの眼鏡が落ちた。

顔が真っ赤になって、目がうつろになっている。


「お、おい…なんだよ、もう酔っちまったのか…? まだ来たばっかりだってのに」

「レイン…」


ハルクは目を閉じた。


「ありがとう…」


レインは寄りかかっているハルクを横目で見ながら、驚いた。

酔ってんな、間違いなく。


「私、あなたと仲良くなりたい…です…」


ハルクはそう呟くと、眠ってしまった。


レインはしばらくそのまま、酒を飲んだ。

























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