レインとハルク
ハルクが俺達の部隊に入ったのは、三年前のことだ。
研究職なんていう新しい役割が部隊に作られた。どうやら禁術について調べることが目的らしい。
正直、そんなの国家の研究チームがあるんだからそこで勝手にやってろって思ってた。なんでわざわざ俺たちのアジトに住み込んでやんなきゃなんねーの。
報酬金は部隊全員で山分け。派遣に行かないハルクはただ毎日研究室にこもっているだけで、いわば俺たちの稼いだ金をもらってるってわけだ。まあ俺もそこまで金にがめついわけでもねーけど、なんか納得いかねえ。
俺がそんな風に思っていたのは、ハルクがクソ無愛想でいけすかねー奴だったからだ。
「皆、新しい仲間を紹介するよ。研究職としてうちで禁術について専門的に調べることになった、ハルク・レジータ君だ」
ジーマは、皆を大広間に呼んで、ハルクって奴を連れてきた。
黒髪で、毛先は少し青っぽいな…眼鏡をかけていて、いかにも研究が好きそーな顔をしてる。ひょろっとして、表情がかたい。緊張してんのかなーなんて思って、俺は声をかけた。
「ふーん。よろしくなハルク。俺はレインだ」
「…気安く呼び捨てにしないでもらえますか?」
な、なんだこいつー?!?!
「他の皆さんも自己紹介は結構です。もう事前に聞いて知っていますから」
「何だよてめえ、偉そうにしやがって。お前立場わかってんの?」
「レインさん。あなたみたいな横暴な方も部隊に入れるんですね。国家の組織ですよ? もっと態度を改めてはいかがですか?」
「はぁー?!」
レインが机をバンと叩いて立ち上がったが、ハルクは微動だにしない。
「まぁまぁ、落ち着いてよレイン。ごめんねハルク君。僕が甘いから彼はいつもこんな感じなんだ」
「なんでジーマが謝んだよ!」
「あなたも隊長ならもっとしっかりしたらどうです? それに人選やり直したほうがいいですよ。ベーラさんとアシードさんはともかく、こんな短気な男に、こんな小さい子供まで率いれて、お遊びチームじゃないんですよ」
「ちょっと! 子供扱いしないでよ!」
シエナも怒って言った。
「そうだよね〜頼りなくってごめんね。でもほら、レインもシエナもとっても強くて優秀だから。ハルク君の研究のために、禁術使いをどんどん捕まえてくるから、ね」
「まあ、お願いします。明らかにデータが足りませんからね…。それじゃ、もういいですか? まずは研究所を片付けたいですし。そうだ、ベーラさん。あとで呪術についてお聞かせいただけますか?」
「わかった。食堂で待ってる」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
そう言って、ハルクは大広間を出ていった。
ドアが閉められるなり、レインは騒ぎ出す。
「な、なんじゃありゃー?!?!」
「がっはっは! いや、実に面白かった!」
「アシード!てめえずっと黙ってると思いきや、何笑ってんだよ」
「いや、レインがここまでコケにされるとは、見ものだったぞ」
アシードは呑気に高笑いをしている。
「何にも面白くねーよ! おいジーマ! なんであんなの連れてきた」
「いや、僕が連れてきたんじゃないよ。国王から直接彼を推薦されてさ、まあでも研究チームもあった方がいいかなって。今後のためにさ。ハルクくん、国家の研究チームでかなり優秀だってきいてたし。色々便利な薬や道具を作ってもらったら、皆の派遣も楽になるかな〜なんて」
「なんでそんなに呑気なんだよ! お前もバカにされてただろーが! へこへこしやがって! ムカつかねーのかよ!」
「いやあ、別に。僕が頼りないのは事実だしね〜」
ジーマはいつも通りニコニコしている。
くそ…なんで俺だけイライラしなきゃなんねーの!
「でも、ジーマさんに失礼ですよ。あれは。私のことも子供扱いしちゃって!」
「な! シエナもむかつくだろ?」
「あんたは確かに横暴すぎるわよ。もう大人なんだから、落ち着きなさいよ」
「なんでてめえまで説教たれてんだ!」
「痛! それ! それが横暴だってのよ!」
シエナはレインに頭をこづかれて、手で抑えた。
ああもう! なーにが研究職だよ。そんなのいらねえってのに。
それから数ヶ月ほどたった。
次はベルっていう医療担当の女までやってきた。まあ専属の医者はいてもいいだろう。この女は大人しそうだし、時には派遣先にも出向いてくれてケガもすぐ治してくれるし、まあ報酬金を山分けしても納得してやる。
ただあのハルクってやつ、何もしてねえじゃねえか!
禁術使いを3人つかまえたってのに、なんの成果も出しやしねえ。
口では偉そうにしやがって、大体本当に仕事してんのか?
レインはハルクの様子を見に行ってやろうと、研究所のドアを開けた。
「え?!」
いきなり激しい爆発が彼を襲った。大したけがにはならなかったが、反動で尻もちをついた。
「熱っつ!! 何だよもう」
「ちょっと、何勝手に入ってきてるんですか」
ハルクはレインを見下ろして睨みつけた。
「あん?! てめえがさぼってねえか見に来てやったんだよ」
「さぼってるのはあなたでしょう。邪魔だから出てってくださいよ」
「んだと?! てめえ、俺にケガさしといて、一言のわびもなしかよ」
「あなたがドアを開けるからでしょう」
「ったく…一体何作ってやがったんだよ」
レインは立ち上がって、灰をはらった。
「手榴弾ですよ。まだ試作中なんです」
「なんでそんなもん作ってんだよ」
「この部隊、遠距離攻撃の手段がないからって、ジーマさんに頼まれたんですよ。でも難しいですね、爆弾は…。そういえば、知ってますか? 7年前くらいの事件、ガルサイアの城が破壊されましたよね…あの爆弾、本当にすごい威力でした…一体どうやって作ったんだろう…」
「……!!」
レインはハルクに殴りかかった。
「な、何するんですか!」
「うるせえ! お前なんて部隊のメンバーだなんて認めちゃいない! 出てけ! 俺にその面見せんじゃねえ!!」
レインはハルクを殴り続けた。彼の顔は青く腫れていく。
「ああ! 何してるの!!」
通りかかったジーマにレインは抑えられた。
「離せ! こんなやつ! 許さねえ!!」
「落ち着いてレイン! やめなさい!」
ジーマはレインを部屋から引きずり出した。
「何を騒いでいるんだ?」
声を聞きつけたアシードがやってきた。
「ちょうどよかった! アシード! ベルを呼んできて。ハルクが怪我を負った」
「何?! それは大変だ! すぐに連れてくる!」
レインはバタバタ暴れて抵抗している。
「離せ! くそジーマ! あんなやつ部隊に入れやがって…クソ…」
「駄目だって…ちょっと…、大人しくしなさい」
ジーマはレインの首筋に手刀を食らわせた。レインは気を失った。
ジーマはレインを置き、研究所の中のハルクに駆け寄った。
「ハルク君、大丈夫…?」
「うう…」
すぐにベルがやってきた。
「大丈夫ですか?! 私の部屋で手当しますね」
「僕が運ぶよ。行こうハルク君。アシード、レインをいいかな…気絶させただけなんだ」
「ああ、わかった!」
アシードは軽々とレインを担ぐと、彼の部屋に運んだ。
ハルクはベルの部屋に運ばれ、手当をうけた。
「さすがベル、手慣れているね」
「いえ…このくらいは…はい! これで大丈夫です」
「ありがとうございます…研究続けます…」
ハルクは立ち上がって部屋を出た。
ジーマは彼を追いかけた。
「ハルク君…少しいいかな」
ジーマは彼を部屋に連れていき、話をした。
「レインは口は悪いし怒りやすいけど、手を出すような奴じゃない。何があったのかな」
「……」
ハルクは会話の経緯を離した。
ジーマは納得したように頷いた。
「ハルク君、レインはね、もともとガルサイアの王族だったんだ」
「え…? でもあの事件で王族は皆…」
ジーマはレインの過去をハルクに話した。
ハルクは反省したような面持ちだった。
「すみません……軽率なことを言いました…」
「いや、知らなかったんだ、仕方ないよ」
「謝ります」
ハルクは立ち上がって、レインの部屋に向かった。
「あ…ハルク君…」
大丈夫かな、あの二人…。
歳も近いし、いい友達にでもなってくれたらなんて思ったんだけど…やっぱり難しいな…。
ガチャっとレインの部屋の扉があく。
その音でベッドで寝ていたレインも目を覚ました。
「うう…なんだ、てめえか…」
「レイン、すみません…ジーマさんからあなたの話を聞きました。失礼なことを言いました…」
ハルクは俺に頭を下げた。
なんだよ…手を出したのは俺だってのに…。
「いいよもう。俺も悪かったよ…いきなり殴ったりして」
ハルクはレインの部屋の椅子に腰かけた。
「私も少し苛立ってました…研究が全然進まなくて…。皆さんが頑張っているのに、何も結果が出せなくて…」
なんだよ…こいつも気にしてたのか…。
「それじゃ、私は研究に戻りますね」
「あ、ああ…」
ハルクは行ってしまった。
なんか悪いことしちまったな…。あいつがサボってねえこともわかったし…。
レインはため息をついて、またベッドに横になった。




