アジト集結
まもなく、アジトが見えてきた。
シエナは隣で眠っているジーマに声をかける。
「ジーマさん! 着きますよ!」
「ふわぁ…うん…」
ジーマは返事をしながらも、正座しているシエナの膝に頭を置くと、また眠りについた。
この男、寝起きが非常に悪く、深く眠りにつくとなかなか起きやしない。そのためよく遅刻もする。
「じ、ジーマさぁん!!」
シエナは顔を赤らめながら、彼のことを叩く。
「何やってんの?」
1人目を覚ましたアグは、膝枕状態の2人を呆れた目で見ながら言った。
「お前、ジーマさんのこと好きだからって、寝込み襲ったりすんなよ」
「しないわよ! そんなこと!」
「どうだか、この前風呂覗いてただろ」
「覗いてないわよ! 堂々と入ったって言ってるでしょ!」
やべー女だな。ほんとに。
シエナが大声で騒いでいるので、皆も目を覚ましだした。
「うーん。もう着いたの?」
ヌゥは大きく伸びをする。
アンジェリーナは下降して着陸体制に入った。
ヒズミとベルも目を覚ました。
「何を朝からイチャついとんねん」
「いいから、早く起こしてよ! この人起きないんだから! 知ってるでしょ!」
「ジーマさん、もうすぐアジトに着きますよ〜」
ベルがジーマに近づいて声をかけると、彼は寝ぼけて、ベルに頭を乗り換えた。
「ふわ! え、えっと…」
「ちょっと!! 駄目だってば!」
ヒズミはニヤニヤしながら彼らを見ていた。
「ええなあ〜膝枕。わいもベルに膝枕してもらいたいなあ〜」
うん、俺も。なんてアグはちょっと思った。
「膝枕って何?」
ヌゥはキョトンとした様子で皆を見ている。
またこいつは…。もういい。話すの面倒くさい。
「もう! 駄目だってば!」
シエナはジーマの身体を掴んで、思いっきりベルから彼を離そうとした。その拍子に、ジーマはアンジェリーナから墜落した。
「うわああ!! 何だよ!!」
下で皆を待っていたレインが彼をキャッチした。
「ジーマが降ってきたぞ! がっはっは!!」
アシードは笑いながら、ベーラは無表情のまま、彼らを見ていた。
「レイン! ナイスキャッチよ!」
「いや! 何なの?! 怖いんだけど!」
やがてアンジェリーナは着陸し、皆はアジトに集結した。ハルク1人を除いて。
「ほんっとだ! 筋肉ムキムキだ!」
ヌゥは目を輝かせてアシードに近づいた。
「もしかして、君が噂のヌゥ君かのう?」
「ヌゥ・アルバートだよ。おじさんがアシードでしょ?」
「うむ! いかにも我が名はアシード・ヴォルボスじゃ! 仲良くしよう、我が同士!」
「うん! よろしく〜!」
2人はがしっと握手をした。
「アグ、外出するなら私に一言言え」
「す、すみませんベーラさん…」
ベーラの表情は変わらないのだが、何だか物凄く怒っているように感じる…。
(こ、怖え……)
「まあ皆、無事に戻ってこれたからよしとするか…」
一方レインは、ジーマにビンタしていた。
「おい! 起きろ! てめえ! この状況でまだ寝てんじゃねえ!」
「うーん…レインじゃないか…おはよう…」
「しゃきっとしろ! しゃきっと! それでもてめえは隊長かぁぁ?!」
ジーマがゆっくり目を覚ますと、忽然とポポがやってきてジーマに依頼を渡した。
「ったくこんな時に…!」
「シャドウに関わる重要な情報だ。無下にするな」
苛立つレインにベーラは言う。
「とにかく、久しぶりに全員揃ったんだ! さっさと大広間に集まって情報整理すんぞ!」
レインは1番先にアジトに入っていく。
「何だかレイン、怒ってる?」
ヌゥがきくと、ベルが答えた。
「ハルクさんが、研究材料一式を持って失踪したんです…」
「ええ! なんで?」
「ほんまかいな!」
「昨日のことで、私達も理由も何もわからなくて…。そのことについても、話をしましょう!」
ハルクさんが奴らと繋がっているなら、彼は今ウォールベルトにいるはずだ…。禁呪解呪の薬によってシャドウの力が封じられるのを、阻止することが目的だろう…。
ヌゥたちの話だと、今回のアリマの騒動で、やつらは100体近くの死体を奪っていったことになる。それが全部シャドウになったとしたら、本当にこの大陸一帯は奴らに乗っ取られる…。
皆は大広間に集まり、それぞれの情報を話す。
会議は2時間くらい行われた。
「とにかく、ウォールベルトにさっさと乗り込もうぜ! そいで薬取り返して、ハルク見つけて、ヒルカって奴もシャドウも全部倒しちまおうぜ!」
「そんな簡単に行くわけないでしょ!」
ジーマはポポにもらった依頼も気になるようだ。先ほどの手紙を読んでいた。
「そういえば、王様からの依頼はなんだったんですか?」
「うん。場所はウォールベルトを越えて更に南西のサバンナ。動物たちが巨大化あるいは横暴化して、異常な行動を起こしているみたいなんだ。サバンナが国と面しているところには、肉食動物たちに襲われないように、巨大な外壁がしいてあるんだけど、それをも壊される危険があるらしい。そういえば、アグ君たちは禁術解呪の薬が効かない巨大なサソリに襲われたと言っていたね」
「はい。薬が不完全だったのもしれませんが…」
「ウォールベルトとの関連性があるかはわからない。ただこれも非常に急を要する案件だ」
あんなサソリみたいなのがまだいるってのか?
ほんと冗談じゃない…。
「サバンナは、レイン、君の生まれたところだったよね? 詳しかったりするのかな」
「まあ、この大陸でサバンナっつったらそこにしかねーからな。はっきり覚えてはねえけど大体は。つまり、俺に行けってことか?」
「お願いしてもいいかな」
「…わかったよ。隊長命令じゃ、しゃあねえよ」
レインさんは不服そうだった。本当はウォールベルトに行きたかったんだろう。皆も気づいている。
でもレインさんは、ちょっと冷静さに欠けるところがある。今回は特にそうだ。ウォールベルト内に侵入するとしても、勝手な行動をとられては危険だ。そのことをジーマさんも察したのではないだろうか。
ジーマさんは人員の顔を順番に見ていた。
「あとは、アシード」
「よしきた! 任せておけ!」
「それに、シエナ」
「え? 私ですか?!」
「君たちは3人で風使いのシャドウも倒したこともあるよね。いいチームだと思ってる。リーダーはアシードに任せるよ」
「がっはっは! 最強のチームじゃ! 任せておけ!」
アシード以外はあんまり乗り気ではなさそうだった。
「ベル、ヒズミの身体はどのくらいで治るのかな」
「必要な処置は終わっています。刺しキズは急所を外れていましたし…さすがに今日明日は安静にした方がいいかとは思いますが…ヒズミさん次第です」
「わかった…。ヒズミなしでは侵入は難しい。3日後、様子を見てウォールベルトに侵入する」
レインが立ち上がったので、続いてアシード、シエナも席をたった。
「じゃ、俺達はもう行くぜ。アンジェリーナにサバンナ手前の街まで送ってもらって、鳥はそっちに返す。それでいいな」
「うん、それでお願いするよ。ベーラ、君の無線を渡してくれないか?」
「わかった。馬車も乗せていって、サバンナ手前に置いておくか?」
レインはベーラの無線機をさっさと奪い取った。
「いいよ。2人なら乗っけて帰れるからさ」
「いいのか? アシードは重いぞ」
「うむ? 何の話じゃ? ベーラ」
「うるせーな…大丈夫だよ」
レインは無線機を雑に扱いながら、部屋を出ていく。
アシードとシエナも彼のあとをついて部屋を出た。
「レインさん、大丈夫ですかね…?」
ベルがそう言った。皆も閉められたドアの向こうを見ていた。
すると、ヌゥが立ち上がって、何も言わず部屋を出た。
「お、おい!」
あいつ、何する気だよ…。
ドアの向こうでは、シエナとレインが言い争っていた。
「ちょっと! あの態度、何なのよ! ジーマさんに失礼じゃないのよ!」
「うるせーな。黙れクソガキ」
「はあ?! ウォールベルトへの侵入チームから外されたのが、気に食わないってわけ?」
「おいおい若僧たち。喧嘩するんじゃない! 我らは同士だぞ! 仲良くせんか!」
「無理よ! こんな短気なバカライオンとは!」
レインは壁をドンと叩いた。シエナは少しビクッとして口をつぐんだ。
「うるせえんだよ…」
俺は感情的になると駄目だ…。俺が行ったら皆の邪魔になる…。ジーマもそれをわかってて俺を外したんだ。くそ…。自分が嫌になる…。ハルクが裏切り者だなんて信じたくない…。でももしハルクがヒルカたちの仲間だったら…、皆はハルクをどうするんだ…?
「レイン!」
ヌゥはシエナとアシードの横を通り過ぎ、レインの前まで走ってきた。
「なんだよ。お前はウォールベルトに…」
「俺! 助けるから!」
ヌゥはレインと目を見上げて、そう言った。
「俺がハルクさんのこと助けるから。絶対」
「ヌゥ…お前…」
そのあと、ヌゥはいつもみたいにニコッと笑った。
レインの怒りがすぅっとひいていくのがわかった。
「頼んだぜ…そっちのことは」
「うん。レインたちも、気をつけて」
ヌゥは彼らを見送ると、大広間に戻っていった。
皆ハルクを疑ってた。俺も信じたくないなんていいながら、心では疑ってた。それが嫌だった。
ヌゥはハルクを助けると言ってくれた。
あいつは、ハルクを疑ってなんかない…。
…ありがとう。
「悪い……もう大丈夫だ。落ち着いた」
「よし! それじゃあ可愛い可愛いアンジェリーナに乗って、サバンナまでひとっ飛びと行こうじゃないか!」
「そういやアシード、アンジェリーナはオスだぜ」
「何?! あんなに可愛いのにか?!」
「どこが可愛いんだよ! あんなクソ鳥!」
もう! 何よ! 勝手に機嫌直しちゃって! 意味わかんない! バカライオン!
シエナは先に進むレインたちを後ろから睨んでいた。
「おいシエナ!」
「何よ!」
「悪かったな…さっきは」
彼は振り向きもせず、そうつぶやいた。
「別に!」
シエナはそう言って、2人に追いつこうと小走りで近づいた。




