ゼクトとドラゴン
ゼクトがまだ幼い頃、彼は森で倒れている子供のドラゴンを見つけた。
白いドラゴンで、酷く傷つき眠りについていた。
ゼクトはドラゴンを抱きかかえて、家に連れて帰り、看病した。
家にはいつも誰もいなかった。母親は病気で死に、父親は仕事が忙しく、ほとんど家にいない。
「大丈夫かな…酷いケガだ…」
人間ではなくドラゴンだ。医者にみてもらうこともできない。
ゼクトはキズの手当をすませ、あとは様子を見るしかなかった。
「キュウウン」
ドラゴンが目を覚ました。その場でじっとしたまま、か細い声で鳴いている。
「おい、大丈夫か? 痛いのか?」
「キュウン、キュキュウ…」
「お腹が空いたのか? 何か食べるか?」
ゼクトは家にあった食用の肉を与えた。ドラゴンは美味しそうにそれを食べていた。
「おいしいか? いっぱい食べろよ」
「キュキュウ!」
ドラゴンは嬉しそうで、ゼクトに懐いていた。
それからゼクトはドラゴンを育てた。イースという名前をつけてかわいがった。イースもゼクトを親のように、あるいは親友のように、慕っていた。
そしてある日、驚くことが起きた。
ゼクトはいつものように、自分の部屋でイースを抱きかかえて眠っていた。朝が来て目を覚ますと、イースは人間の姿になっていた。
(な、なんだあ?!?!)
自分と同じくらいの子供だ。白髪の髪が肩につくくらい伸びていた。美しい顔立ちで、どことなくドラゴンのイースを思わせる雰囲気が漂っている。
そしてイースは、裸であった。
「う、うわあ!!!!!」
ゼクトは大きな声で叫んだ。
「おい、どうした?!」
部屋の外から父親の声がした。
「な、なんでもない! 夢だった!」
「朝からうるさい声出すなよ! 俺はもう仕事に行くからな!」
「うん! いってらっしゃい…」
イースもゼクトの声で目を覚ました。大きく伸びをして、ゼクトを見ると、ニコッと笑った。
「キュウウウン」
「ど、どうなってんだ…」
イースは、男でも女でもなかった。ドラゴンには性別がないのだろうか。
「とりあえず…服を着てくれ…」
「キュウウン?」
それから、イースは人間の姿のままだった。
まあでも、イースはイースだ。
これからも俺が面倒を見るしかない。
ゼクトは、人間として、イースを育てた。
何年もの歳月が過ぎ、イースは人間のようなふるまいができるようになった。言葉も会話できるほどには話せるようになった。
そしてある日、ゼクトの家の隣にリバティが引っ越してきた。
紅色の長い髪で美人なのて非常に目立っていたが、あまりに無愛想なので友達がいなかった。
学校に通っていたゼクトは、そんな彼女を見かねて、家に遊びに行った。
「よ!」
「誰だお前」
「なんで覚えてねーんだよ! 同じクラスのゼクトだよ」
「何しに来た」
「遊びに来たんだよ! お前友達いねーだろ。俺がなってやるよ」
「断る」
リバティが言うのも聞かずに、ゼクトはズカズカと彼女の部屋に入った。そこにはたくさんの植物が育てられていた。ゲージにはヘビにサソリ、クモや魚など、様々な動物が飼われている。
「なんだこの部屋、すっげー!」
ゼクトが植物に近づくと、
「触るな!」
とおおきな声でリバティが叫んだ。
「みんな毒を持っている」
「え?! は?! まじか! 危ねえ!」
ゼクトは触ろうとした手を引っ込めた。
「なんでこんな危ないの育ててんの?」
「毒薬を作りたいから」
リバティがそう言うと、ゼクトは大笑いした。
「ははは! 冗談だろ! そんなもん作ってどうすんだよ」
「どうもしない。作るのが好きなだけだ」
(そうか、この女はあれだな、頭がおかしい)
「わかったら、さっさと帰れ」
リバティはゼクトを家から追い出した。
ゼクトは家に帰った。ドアを開けると、イースがニコニコしてゼクトの帰りを待っていた。まるで犬みたいだ。
「おいイース! 今日やべーもん見たぞ」
「やばい見た? 何見た? ゼクト、驚いた」
「隣に越してきたリバティって女、あいつの部屋がやばいことになってた!」
「リバティ部屋行った。すごい? 何あった?」
イースは目を輝かせて喜んだ。
「おおー!毒すごいね! 毒って何ね!」
「身体に入ったら死んじゃう、恐ろしいやつ!」
「おおー!」
ちなみにイースは人間になったあの頃から身体が大きくならない。
ずっと子供の身体のままであった。
二人はそれからも家族のように暮らしていた。
ある日、二人は森で遊んでいた。
人気の全くない森で、ゼクトがイースを見つけた森だ。
イースはドラゴンに戻れるようになっていた。大きさはゼクトと同じくらいの子供ドラゴンという感じだ。
「いけ!イース!」
「キュウウウン!」
イースはゼクトの投げた石を的にして、炎玉をぶつけて遊んでいた。
「すげえ! 全弾命中だ!」
「キュウウ!」
すると、突然謎の男たちが現れ、イースを取り押さえた。
「ドラゴンだ! こいつは高値で売れるぜ」
「な、何だお前ら! イースに何すんだ!」
ゼクトは男の一人に腹を蹴られ、気を失った。
「キュウウウン!キュウウウン!」
「おいこら!騒ぐんじゃねえ!」
「キュウウウン!」
「黙れっての!」
男は謎の薬をイースにふりかけた。イースは眠ってしまった。
ゼクトが目を覚ました時、イースは奴らに奪われた後だった。
しばらくゼクトは絶望した。
家族のように思っていたイースが、いなくなってしまった。
それから数日が過ぎた。
「おい、どうした」
リバティは家に帰る際、隣の家のゼクトが死んだようにうずくまっているのを見つけ、たまらず声をかけた。
「イースが…変な男たちに盗られた…」
「イースって、ああ、お前が連れてた変なガキか」
「イースは俺の家族だ…うう…」
「泣くな男のくせに。みっともない」
「うう…」
リバティは仕方なく話を聞いた。
イースが実はドラゴンで、幼い頃に見つけて育てたこと。
男たちが、ドラゴンは高値で売れると言って、無理矢理奪っていったこと。
「知ってるぞ。珍しい動物を、捕まえて、裏で高く売りさばいてる連中だ」
「何で知ってんだよ」
「私もそこの常連だからな」
リバティの首から、にゅるんと黄色いヘビが顔を出す。
「うわあ! なんだよ!」
「カピスコブラだよ。毒を持つ動物が売られている。宝のような店さ。確かに最近ドラゴンが売られていたぞ。しかし相当な高値だ。買えはしない」
「恐ろしいけども…仕方ない!よし!そこに案内してくれ!」
「…まあいいだろう」
ゼクトとリバティは、その怪しげな店に向かった。
その店は路地街の地下にあり、普通なら立ち寄らないような場所だ。
店に入ると、一見普通の装備屋を装っている。普通そうなお婆さんが、カウンターに座っていた。
「おや、リバティじゃないか。友達も一緒かい」
「ああ。中に入れてもらえるか」
「もちろん、お得意様だからねえ。ほら、どうぞ」
お婆さんがカウンターの床を外すと、更に地下に続く階段がある。
中に下りていくと、見たこともない動物や、凶暴で捕まえるのが困難であろう動物が、ずらりとゲージに入れられている。
「何だこりゃ…こんなことして捕まんねーのか?」
「裏世界だ。国家精鋭部隊に見つかったらもちろん捕まる」
「だよな…」
一番奥まで進むと、ゲージにいれられた白いドラゴンを見つけた。
「イース!」
ゼクトはイースにかけよった。
イースは眠っていて、動かない。
「イースは俺のドラゴンだ! 返してくれ!」
ゼクトはイースのゲージをガンガンと叩く。
「おい、やめろゼクト。ここがどこだかわかっているのか?」
リバティが止めようとすると、怪し気な商人が鉄砲を持って近づいてきた。
「お客さん…困りますよ。それ以上やるなら殺しますよ」
ゼクトはハッとして、手を止めた。鉄砲の口が、ゼクトの額に当てられる。
「これが欲しいなら、買ってもらわないと、ねぇ」
「い、一体…いくらなんですか…」
商人はゲージの下の値札を指さした。
1000万ギルとかかれている。
とてもゼクトが払える金額ではない。
「だから言っただろ。諦めろゼクト」
「イース…イース…」
「おや、これはリバティさん。あなたのお友達でしたか」
「どうしてもこのドラゴンがほしいと言ってな…」
「高価な商品ですからねえ、まあでもリバティさんのお知り合いなら、頭金があればあとはローンでも結構ですよ」
「それはいくらだ?」
「500万ギルで結構ですよ」
「だそうだ、ゼクト」
500万ギル…。とてもじゃないけど、働いたとしても何年かかるかわからない値段だ。
俺とリバティは仕方なく一旦店を出た。すると、店から出てきた別の客が、俺達に声をかけた。ローブを深くかぶっていて、顔が見えない。
「お金、ほしいんでしょう。話が聞こえてしまって…ふふ…いい儲け話がありますよ」
「…??」
その男か女かもわからない怪しい奴の話はこうだ。
鉱山の素材を根こそぎ採掘し、鉱石を枯らして素材をとれなくしたあと、素材を高値で売りさばくというものだ。
「鉱石を枯らしてって、一体どうやって?」
「ふふ…リバティさんなら、作れるんじゃありませんか? 毒薬を」
「私のことを知っているのか」
「ええ。裏では有名でございますから」
(有名って…リバティほんとこいつ何者なんだ?!)
「でも鉱山が枯れて素材がなくなったら、みんな困るんじゃ…」
「なあに。お金がたまったら解毒薬をまいて元に戻すだけですよ。どうです?」
「鉱石を枯らす毒か…面白そうだな」
「面白そうって…」
「ふふ、決まりですね。薬ができたらここにいらっしゃってください。お手伝いしますよ」
怪しい奴は住所のかかれた紙を渡すと、去っていった。
「おい! なんかめちゃめちゃ怪しいぞ!」
「面白そうだ!早速作成にとりかかる!」
「はあ?! なんでノリノリになってんの?」
「いいから! イースを取り戻すんだろう」
リバティは数日かけて毒を完成させた。
俺達はとんでもないことをしようとしてるんじゃないだろうか。
間違いなく犯罪者になろうとしている。
でも仕方ない。イースを取り戻すためだ。
そのためなら何だってする。
こうして、怪しいそいつのはからいもあり、シプラ鉱山で珍しい素材をたらふくかき集め、知らない男に毒を撒かせることに成功した。まさかシプラ鉱山が崩れ落ちて完全封鎖に陥るとは驚いた。
俺達は素材を売りさばき、頭金を手に入れ、イースをやつらから取り返した。
「キュウウウン!キュウウウン!!」
「イース!!」
しかしあと500万ギルを稼がなければならない。
俺達はテレザ鉱山に再び毒をまきにいくのであった。




