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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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星空と僅かな休息

アグとベルがアンジェリーナに乗ってアリマを目指したのは、三時間ほど前のことだった。


更にその前、ヌゥたちがアリマに漂着して5日目の夜だった。ベーラとアシードが毒から回復し、一行は一旦アジトに帰っていた。アンジェリーナの上で、アグ、ベーラ、レイン、アシードは円になって座っていた。


「私が寝ている間に、ジーマから連絡はなかったか?」

「いや、ねえけど」

「うむ…さすがに5日も連絡がないものだろうか…」

「何かあったのかもしれん!」


4人とも心配そうな表情を浮かべる。


「無線が壊れているのかもしれません…。防水ではないですし、アリマは周りが海ですから」

「もうアジトに戻ってんじゃねえのか?」

「その可能性もあるか…」


4人がアジトに戻ると、ベルが泣きそうになって彼らに駆け寄った。


「み、みなさん! 良かったです…帰ってきてくれて…大変なんです…!」

「なんだ? 何かあったのか?」


ベルは一度深呼吸をすると、話しだした。


「ハルクさんが、失踪しました!」

「何だって?!」


アグは研究所に向かった。


「お、おい!アグ!」


皆もアグのことを追いかける。


(嘘だ…ハルクさんが…)


研究所のカギは空いたままだ。

研究所にあった素材やレシピが、もぬけの殻になっていた。


アグは禁術解呪の薬を閉まっていた箱を開く。


(ない……)


「ハルクはいつからいねえんだ」

「昨日の夜からです…食堂で一緒にご飯を食べたんです。でも特に変わった様子もなくって…。ハルクさんはその後まだ研究を続けるって言って、研究所に戻ったんです。私も一旦部屋に戻ったのですが、彼は毎晩徹夜していたので様子が気になって、研究所を覗いたんです。そしたらハルクさん、大きなカバンに研究所の物をたくさん詰めてて…」

「それで、どうしたんだ?」

「どこに行くんですか?って聞いたんです。そしたら突然薬をかけられて…気づいたら昼頃までずっと眠っていました。起きたらハルクさんもいなくて、研究所もこんな有様に…。でもどうしたらいいかわからなくて、ずっとわたわたしていたら、皆さんが帰ってきてくれて…」

「……」


みんなは沈黙した。


「ベーラ、どう思う…?」とレインが声を発した。

「研究材料一式を持って失踪…信じたくはないが、私達を裏切ろうというのだろうか」

「ハルクにかぎってそんなことっ…」


ベーラの肩に掴みかかるレインだったが、アシードが彼の手をベーラから離した。


「おい、落ち着け若僧」

「私も信じたくはない」


荒ぶるレインにベーラは言う。

レインは研究所の机をドンと叩いた。


「探しに行く!」

「やめろ。どこに行くつもりだ」

「ウォールベルトに決まってんだろ…」

「気持ちもわかるが危険すぎる。それにもう夜だ。明日皆でどうするか決めよう」

「アグ! あれがないとどうなる?」

「禁術解呪の薬は俺が持っている数本しかありません。素材もレシピも奪われてしまった今、同じものを作るにはかなり時間がかかります」


正直、かなりキツイ。禁術解呪の薬は俺とハルクさん二人で完成させたものだ。ハルクさんがいないと、完成させられるかもわからない。そもそも素材を手に入れるのが困難だ。


…繋がっているのか?ウォールベルトと。

俺たちが薬を作れないように、妨害している…?

鉱山に毒を撒いた奴…一瞬顔ははっきり見えなかったがおそらく男…。

偶然なのか、それとも…。


「ウォールベルトと、ハルクさんが…信じられません」とベルも言った。

「くそ! ハルクがそんなことするわけねえんだ…絶対…」


レインはハルクさんを信用している。あの二人は仲が良かったのか…?

俺もハルクさんに限ってそんなことはないと思いたい。

ハルクさんは根っからの研究者。俺と研究についての話をしているハルクさんは本当に楽しそうだった。

やっとのことで完成させた禁術解呪の薬、それを持って失踪だなんて…信じられない。だったら最初からそんな薬作らなければいい。


でも実は俺は、最初から少し疑っていた。

このメンバーの中に、裏切り者がいるかもしれないと。


その理由は、ベーラの服従の紋の命令だった。

攻撃してはいけないという命令の対象を、メンバー全員にしなかった。

俺はともかく、ヌゥにその危険を感じないはずがない。

それに外出許可。ベーラ不在時は、他の誰か一人ではなく、二人と行くという命令。

命令内容を決めたのはジーマさんだときいた。それらの命令内容を聞いたとき、メンバーの誰かを疑っているように、俺は感じた。

ヌゥに仲間を攻撃させない命令をしないのは、ヌゥが裏切り者と対峙した時に戦えるようにするため。


そしてハルクさんの失踪…。


その裏切り者がハルクさんだというのだろうか…。


「アグも、今日のところは休め」とベーラに声をかけられ、ハッとした。

「は、はい…」


皆はそれぞれ部屋に戻っていく。


しかし俺は、休む気にはなれなかった。

無線が通じないジーマさん達のことが心配だった。


「おい! アンジェリーナ!」


アグは小声でアンジェリーナに声をかける。

アンジェリーナに乗れば遥か西のアリマとはいえ、三時間ほどで着くはずだ。今から出れば朝までには、戻ってこれる。


「グワワ?」

「今からアリマに連れていってほしいんだ。お願いしてもいいかな」

「グワ!!」


アンジェリーナは敬礼した。

アグはアシードを毒から救った命の恩人、ということで、アグの命令には素直に従った。


「アグさん!」

「ベル?」


アグがアンジェリーナに乗ろうとすると、ベルが走ってやってきた。


「私も、連れていってください…。ヌゥさんのところに、行くんでしょう?」

「そうだけど…何があるかわからないぞ? 俺はベルのことを守れるほど強くはないし…」

「平気です!」


ベルはアグの後ろに飛び乗った。


「わかった…。それじゃあ行こう! アンジェリーナ!頼む!」

「グーワァァ!!!」


アンジェリーナは夜の空に飛び上がり、アリマに向かって飛んだ。

星がたくさん輝いていて、手を伸ばせば届きそうだ。


「綺麗ですね……」


ベルは空を見て、ふと声が漏れた。


「あ! すみません…こんな大変なときに…」

「いや…。うん、確かに綺麗だ…」


こんなに満天の星空を見るのは、牢を出てから初めてかもしれない。

アンジェリーナから見下ろす街の景色も、それは美しかった。


「ベル、ありがとう。一緒に来てくれて」

「いえいえそんな…私でも何か役に立てることがあったらいいんですけど…」

「…本当は、勝手にこんなことして…って不安だったんだ。でもジーマさんたちから5日も連絡がないってのはちょっと心配で…。でも、ベルがいてくれたら、ケガしてても治してもらえるからな」

「いえ、私はそんな…」

「本当は皆何ともないことを願ってるんだけどさ。ただ無線機が壊れているだけならいいんだけど…」


アグは遠くの空をじっと見つめていた。


「ふふ…ヌゥさんのことが心配なんですか?」

「え? いや、そういうわけじゃ…」

「お二人は、本当にお互いが大切なんですね」


ベルはニコッと笑った。


「友達…なんだ…。初めての…」

「いいなあ…。私もずっと医学の勉強ばかりしてきたので、友達なんて出来たことがありません」

「そうなんだ…ベルは優しいし、誰とでも仲良くなれそうなのに」

「いいえ…。全然です。部隊の皆さんも、仲間ですが、私もまだ入ったばかりで…友達という感じではないですし…」


ベルは少しだけ寂しそうだ。


「なる? 友達」

「え…?」


アグが手を差し出しながらそう言ったので、ベルは驚いていた。


「あ…ごめん…。囚人の俺と…なるわけないか…」


ベルは両手でアグの手を握った。


「なります! 友達!」


アグは少しドキっとした。赤くなった顔を隠そうと、そっぽを向く。

多分夜だから、あんまり見えていないと思うんだけど。


「ありがとうございます!アグさん!」


ベルは笑顔でそう言った。

この屈託のない笑顔、なんだかヌゥに似てるな…。

カンちゃんの言う通り、やっぱり笑顔って大切なんだな。


そのまま、二人はアンジェリーナに乗って夜空を進んだ。出発してから、1時間くらいだっただろうか。


友達になろうなんていったものの…何話したらいいかわからなくなったぞ…。

ああ…考え出すと余計にわからなくなった…。

相手は年下の女の子だぞ…。

こんな風に誰かとゆっくり話すことなんてないから…ああ…沈黙が気まずい……。


「アグさん…夜景、キレイですね」

「え?…うん…そうだな…」


ベルはアグの肩にもたれかかった。


「へ?!」


アグはびっくりしてベルの方を見た。


ね、寝てる…。


ベルの顔がすぐそこにあって、スースーとか細い寝息が聞こえてくる。


昼まで寝てたくせに、また寝んのかよ…。

はぁ…気が抜けた…。

なんか俺も眠くなってきたな…。


アグもベルの頭にそっと寄りかかって、そのまま眠ってしまった。



そのあと二時間くらいの飛行を終え、アリマが見えてきたところで、アンジェリーナはグワグワっと鳴き、二人を起こした。


「うう…もう着いたのか…」


アグは目をこすりながら目を覚ます。同様にベルも目を覚ました。


「うーん、よく寝ました」

「ベル、着いたみたいだぞ」

「ここがアリマなんですね…ん? アグさん、見てください!」


二人は明らかに荒れている様子の海岸に目が行く。


「アンジェリーナ!あの海岸によってくれ!」

「グワワァ!」


辺りは暗いが、海岸には月の光が差し込み、段々見えてきた。

そこには何百人もの人間が倒れている。


「なんだあれは…」


その時、白竜がアグたちの横をすごい速さで飛んでいった。

白竜には、桃色の髪の少女が乗っていた。

一瞬だったが、彼女と目があった。


(……)


「なんですか今のは…竜ですか…?」

「みたいだな…」


アンジェリーナは海岸に向かって降りていく。


そこでは白髪の男が倒れている男たちの首をはねている。


(あれは…ヌゥ…なのか?)


「ヒズミさん!」


ベルが叫んだ。茶髪の男が腹を抑えて苦しんでいるのが見える。


「あの人が、ヒズミさん…?」

「そうです! 私達の仲間です…!」


すると、ヌゥがヒズミに刃を向けて近づいていく。


「あれは…ヌゥさん?!」


アグはアンジェリーナから飛び降りた。


「アグさん!」


ベルは飛び降りたアグをアンジェリーナの上から見下ろした。


「やめろ!」


アグは大声で叫んだ。

















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