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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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毒を撒く者たち

ヌゥたちがアリマに到着した翌日のことだ。


ベーラ一行はルベルパールの採掘をするため、テレザ鉱山に向かっていた。アンジェリーナに乗って1時間弱、あっという間に鉱山にたどり着いた。


「すごい速さだな」

「あっという間でしたね」

「がっはっは! アンジェリーナは凄いだろう!」

「グワッワッグーーーッワ!!」


アシードとアンジェリーナは、2人して腰に手を当てると、得意げに胸を張り、高笑いをしていた。


「ここがテレザ鉱山か」


アンジェリーナを入り口に残すと、アグ、ベーラ、アシードの3人は鉱山に入った。しかし入ってすぐに、その異変を感じる。


「うん…?」


鉱山内はただの洞窟のように、平坦な道がずっと続いている。その道の途中にあるはずの鉱石が、一切ないのだ。


(ちょっと待て…前にも見たことがあるぞ、この光景…。まさか…)


「シプラの時と同じです。毒をまかれてます」

「何?! 毒じゃと?! 同士たちよ! すぐに息を止めるのじゃ!!」


アシードは口を閉じ、鼻を摘んでみせた。アグは気まずそうに答える。


「えっと…人間には害はありません。この毒は鉱石を溶かすんです…」

「何じゃ。ならば問題はない! いや、あるかのう…? うん…?」

「……」


アグは苦笑したが、ベーラは完全に彼を無視していた。


「少し待っててくださいね…」


アグはかばんから薬品を取り出すと、シプラ鉱山の時と同様に解毒剤を作り始めた。


「うん? 君は何をやってるんだ?」

「解毒剤を作ってます。念の為に素材を持ってきておいて良かったです」

「ふうむ??」


アグが薬を作っている間、ベーラはアシードにシプラ鉱山の封鎖事件を説明した。


「よし! 出来ました!」


一度作ったことのある薬だ。アグは完全にレシピを覚えている。作成までに時間はかからなかった。


(でもあれだな…解毒剤を充満させるには、入り口を封鎖しないと…)


「ベーラさん」

「何だ」

「解毒剤を撒きたいので、呪術で入り口を閉じることはできますか?」

「無論だ」


するとベーラは、土の柱を何本か、入り口に密着させるようにして生やし始めた。


「グワア??!! グワッグワッ」


入り口が閉ざされると、その向こうでアンジェリーナが驚いたような声を上げているのがかすかに聞こえた。


人工的に開拓されていないテレザ鉱山の中には、シプラ鉱山のようなランプがなく、洞窟内は真っ暗闇になってしまった。


「何も見えぬぞ!」とアシードが言うと、すかさずベーラは手持用のランプを作り出した。


「おお! そこにおったのか!」

「今薬を撒きました! しばらくこのまま待機してください」


アグが言うと、2人は頷いた。明かりを持つベーラの元に、3人は集まった。


「がっはっは! アグは頭がいいんじゃな」

「本来彼はハルクと同じ研究チームだ。禁術を解く薬を開発したのもアグだ」

「何じゃと?!」


入り口が振動するのを感じた。外にいるアンジェリーナが、土の柱を蹴って壊そうとしているのだ。


「やめるんじゃアンジェリーナ!」

「グワッグワア!! グワッ」

「大丈夫じゃ! すぐに開けるから、そこで静かに待っておれ!」

「グーッワァ……」


アンジェリーナはなんとなく寂しそうな声を出すと、攻撃をやめておとなしくなった。


(アンジェリーナは人間の言葉がわかるんだな…)


アグは未知の巨大鳥に感心するばかりであった。


「アグ、鉱石が生えてきたぞ」とベーラ。

「薬が効きましたね。ルベルパールは奥の方です。行きましょう」


ベーラは頷くと、柱を消した。入り口から外の光が差し込んだ。


「グワア〜!」


アンジェリーナは安心した様子だ。入り口から顔を覗き込ませると、アシードの姿を探した。


「アンジェリーナよ。わしたちは奥に進み、鉱石の採掘に向かう! ここでしばらく待機するんじゃ!」

「グワア〜」

「なあに! すぐに戻ってくる! いい子で待つんじゃぞ!」

「グーワ!」


アシードが敬礼すると、同じようにアンジェリーナも敬礼した。


「では進もう! 我が同士!」

「うむ」

「お願いします…!」


そうして3人は鉱山を進み始めた。薬が届かなかったのだろう、奥に行くと鉱石がなくなっていた。そのため、途中途中で呪術で道を封鎖しながら、解毒剤を撒いた。最奥まで進み、ルベルパールの採掘にも成功。また、テレザ鉱山の鉱石たちは見事に蘇った。他にも入手困難な鉱石の採掘を続け、ベーラの造った手押し車に大量の鉱石を詰め込んだ。


その頃、入り口に見知らぬ男がやってきた。歳はアグよりも少しばかり上だろうか。頭に緑色のバンダナを巻き、少し伸びた黒髪を後ろで1つに結んでいた。ぱっちりとした黄色い瞳で、整った顔立ちの男だった。


「な、何だこのでかい鳥…」

「スースー」


巨大な鳥がいて驚いていたが、案の定その鳥は昼寝をしていた。


男は鳥の横を通り過ぎ、鉱山に入っていった。


「なっ、なんだとー?!?!?!」


男は非常に驚いた様子で声を荒げた。


(何で鉱石が元に戻ってんだ?! ついさっき枯らしたばっかりなのに?!)


男は足早に鉱山を進んでいく。


(くっそ〜…! 鉱石が全部元に戻ってやがる! 何でだ?! 一体誰が……!!)


男は鉱山の最奥にたどり着いた。そこでは3人の人間が採掘をしていた。男は大きな鉱石の影に身を潜めた。


(くっそ…どうなってやがる…? あいつらが鉱石を復活させたのか? リバティの薬に対抗できる奴なんていんのか…?)


男は身を乗り出すと、3人の形相を探ろうとした。


「うん?」


男の気配に気づいたベーラが後ろを振り返った。男はハっとして身を屈めた。


(危ない危ない…。あいつらが誰なのかわかんねえ以上、手を出すのは危険だぜ…)


「誰じゃ? 君は」


男の隠れる鉱石を、アシードは覗き込んだ。完全に2人は目が合った。


「うわぁああ!!!!」


(ばっ、バレたぁあああ!!!)


「何だ?」

「アシードさん、どうしたんですか?」


男はすかさずアシードから距離をとった。


「バレちまったら仕方ねえ! お前たちには死んでもらう!」


男はそう言うと、防煙マスクを顔にはめ、煙玉を投げた。


「うわっ!!」

「何じゃ?!」

「!」


煙がモクモクと湧き上がると、狭い鉱山内に一瞬で充満した。視界が完全に閉ざされた。


(なんだいきなり…!)


アグは煙の臭いを嗅ぐと、愕然とした。


(うっ…マズい…この煙は……毒性物質!)


「毒です!! 煙を吸わないで!!」


アグは叫んだが、ベーラとアシードは既に倒れ込んでいた。


(くそ……!!)


「悪く思うなよ! それじゃあな!」


そう言い残し、男が逃げていく足音が聞こえた。アグは口を手の平で覆った。


(くっそ…かなり強い毒だ…。だけど耐えられる…。昨日飲んだ解毒剤がまだ効いてるのか…。そうだ……アシードさんは薬を飲んでいない……!)


アグはふらふらしながら、倒れているアシードに近づき、口に薬を流し込んだ。


(よし…これで死にはしないはずだ…。でも……毒性が…異常に強い…。くそ……意識が朦朧としてきた…。うう…。)


アグもまた意識を失い、その場に倒れた。




男は鉱山から抜けだすと、後ろを振り返った。


「やっべ〜! 3人も殺っちまった! あの毒を吸ったら最後、死ぬのは時間の問題だぜ!」


すると、先程眠っていたはずの巨大な鳥が立ちふさがり、怒ったように声を荒げた。


「グワアっ! グワッワア!!!!」

「な、何だこの鳥! 何で怒ってんだ?!」


まもなく巨大鳥は、男に向かって襲いかかってきた。


「何だよ! おい! やめろ!!」

「グワッグワッグワッ!!!」


巨大鳥はそのくちばしで、男から顔の防煙マスクを奪い取った。


「こら! 何すんだよ!」

「グワアアア!!!」


その後も巨大鳥は男を追いかけた。


「何で追ってくんだよぉおお!!」


男が全力で逃げ回っていると、紅色の波打つ長い髪の女が、巨大な白いドラゴンに乗って空から降りてきた。


「おい! ゼクト! 何やってる!」

「リバティ! 早く! 早く助けて!!!」


女はゼクトと呼んだその男の手を引くと、白いドラゴンに乗せた。


「グワワ!」

「ギャオオオオウウァ」


巨大鳥は飛び上がってドラゴンを追った。ドラゴンはすかさず炎を吐き出した。


「グワッ!」


鳥は多量の炎に視界を奪われた。その隙にドラゴンは2人を乗せたまま、遠くに逃げ出した。


「おい、何があった」

「鉱石が…ハァ…復活してて…中に3人いて…」

「お前、まさか殺したのか?」

「だって…仕方ねえだろ…」

「あれはとっておきだと言っただろう」


リバティと呼ばれた紅髪の女は、呆れた様子でゼクトを睨んだ。細い目をした、きつめの顔立ちの女だった。


「鉱石が復活していたというのは本当か」

「ああ……」

「薬を撒いて数時間、鉱山に来たのはその3人だけか…」

「そのはず……つまり、あいつらが……」

「薬の効果を消したということか」


リバティは上空からテレザ鉱山を見下ろした。


(まさか、あの薬を打ち消すものを作れる奴がいるとはな…。しかしもう、あの毒煙を吸っては生きられまい。あれこそ解毒不可能の最高級の毒薬だ。もって1時間、確実に死に至るだろう)


「これからどうするよ」

「薬はもう手元にないからな。また出直すしかない」

「仕方ねえな。毒煙も充満してるから、洞窟にも近づけねえし」

「全く、貴重な毒の無駄遣いだ」

「悪かったって…でも下手に捕まるよりはいいだろ」

「ふん」


リバティは終始不機嫌な様子だ。ゼクトは気まずそうに大人しくしている他なかった。

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