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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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アパシーの村

シエナたちは、青髪の女性に案内され、古民家の立ち並ぶ小さな村にやってきていた。そこでは先住民たちが平和そうに暮らしていた。


畑を耕す老人たちは穏やかな表情を浮かべ、子供たちは村の中を元気に走り回っている。女性たちは立ち話をしており、畑には多くの野菜や果物が実っている。その光景を目にしたシエナとジーマは、驚きのあまり目を丸くした。


「何ここ…」

「アパシーの住む村です。ここはサバイバルゲームの手が届かない島唯一の場所なのです」

「へぇ。そんなところがあったんだ…」

「アパシーって何なの?」

「ゲームをしない平和主義者の者たちをそう呼ぶんです。話は私の家でしましょう。そのままでは風邪をひいてしまいます」


しばらく歩くと女の家にたどり着いた。立ち並ぶ古民家のうちの1つだ。家の中には誰もおらず、木材の簡素な机や椅子、端にはベッドがあり、その隣に等身大の銀縁の鏡が置かれている。


床にはエスニック柄の技巧の見られる敷物が敷かれている。彼女の着ている民族衣装と同類の柄だ。確か自分たちを襲った先住民も似たような柄の衣服を着ていたはずだ。


隣の部屋をちらりと覗くと、様々なエスニック柄の布が置かれている。大きな裁縫箱の蓋が開いており、何色もの糸が束ねられていた。布だけでなく、ベストやズボン、スカートなど、たくさんの衣服が、その部屋に飾られている。


「お2人は異国の方ですよね? お名前は何ですか? 私はハーレと言います」

「ハーレさん、ここまで案内してくれて、本当にありがとうございます。僕はジーマ・クリータスと言います」

「私はシエナ! シエナ・ヴェルディ」

「ジーマさんにシエナさんですね。待ってください…すぐにお洋服を用意しますから…」


彼女はびしょ濡れのジーマとシエナに、着替えだといって、隣の部屋にあった衣服のいくつかを貸してくれた。後に聞いたところ、これらは彼女の手製のものだという。衣服を作るのが、彼女の仕事なのだそうだ。


「可愛いですよ! すごく似合ってます!」

「え〜、そう? ふーん…まあ悪くないわね〜」


シエナは鏡を見ながら、青髪の彼女が貸してくれた服に着替えて、モデルのようにポーズをとっていた。


青色の半袖のワンピースで、赤い花の刺繍が全体に散りばめられている。腰回りには紐のリボンがつけられており、サイズはシエナにぴったりである。


「ねえジーマさん! どうですか?」

「うん。可愛いよ〜」

「くはぁ!」


シエナは目をハートにしたかと思うと、そのまま場にバタリと倒れ込んだ。


「だっ、大丈夫ですか?!」

「あはは…大丈夫です。いつものことなんで」


驚いた様子のハーレに、ジーマは苦笑しながら答えた。シエナはしばらくの間、幸せに浸っていた。


「着替えまで貸していただいて、本当にありがとうございます」

「いえいえ、大したことはありません…!」


ハーレはジーマを見つめた。ジーマもまた、ハーレの手製である茶色に灰色の刺繍の入ったシャツに、黒と藍染めのズボンを履いている。ジーマは不思議そうに彼女を見つめ返した。ジーマと目が合うと、ハーレは顔を赤らめた。


(この人、超イケメンだわ〜)


「それで、アパシーというのは?」

「え? ああ、その話でしたね…!」


そしてハーレは、この島について話を始めた。


「ここアリマには今、3つの勢力があります。1つはディラムという男の率いる勢力、もう1つはミジータという女の率いる勢力、そして最後に、その2つに属さない、戦いを好まずこの村で暮らしている、私達のような住民の勢力です。私達のことをディラムやミジータたちは、アパシー【殺し合いに無関心な奴ら】と呼んでいます」

「なるほど」


ディラムとミジータはどちらも狂気的な者たちで、この無法地帯で、お互いの勢力を殺し合うサバイバルゲームをして暮らしているとのことだ。ゲームといっても、勝ったからといって何かあるわけではない。ルールも全くない。彼らはただ殺し合うのが楽しくて、それを生き甲斐にしているという、とんでもない奴らなのだ。


それに対してアパシーは、農業をして食物を育てたり、糸を編んで衣服を作ったりして、それを村の外でゲームをする彼らにも渡している。また彼らも、村の外で集められる食材や素材をアパシーに提供している。合理的な物々交換である。


ゲーム参加者は戦闘を経ての殺し合いを好んでおり、無抵抗なアパシーを殺すよりも、食物や衣服の提供を受ける方が価値があると考えている。なので彼らが、アパシーを殺すということはないのだ。


しかし安全なのは、この村にいる間だけだ。村から一歩外に出れば、アパシーとて、ゲーム参加の意思ありとみなされ、即座に殺しのターゲットとなってしまう。


また、異国の者は有無を言わさず嫌っており、島にやってくればすぐさま標的となる。ディラムとミジータ、どちらの勢力が先に異国人を殺すか、競い合っては遊んでいるのだ。


「あれ、でもハーレさん、ここから出るのは危険なのに、どうして村の外に…?」

「はい…。実は最近、アパシーが殺されるようになってしまったのです」


ハーレは続けた。アパシーが殺されるようになったのは、ここ最近の話なのだそうだ。


どうやらゲームを楽しむ先住民たちの前に、武器商人を名乗る異国人たちが現れたらしい。


最初はもちろん、ディラムやミジータたちが各々商人たちを襲ったのだが、その商人たちの強さに誰も敵わなかったそうだ。


商人は、死体と武器を交換したいと話を持ちかけたそうだ。死体の数が多ければ多いほど、強力な武器と交換するという。サバイバルゲームを楽しむ彼らにとって、新たな武器は非常に魅力的なものが多く、死体を手に入れようと躍起になったそうだ。


そんな取引を続けているうちに、もっと強い武器がほしくなった連中が、アパシーを殺し始めたそうだ。アパシーも黙ってはおられず、何とかその商人たちの情報を得ようとしている最中だった。ハーレもまた、異国の船の接近を聞きつけ、危険を承知で様子を見に行ったところ、ジーマたちを見つけたのだという。


「武器商人…ですか」

「私達の目的はそいつらね!」


シエナもいつの間にか起き上がると、ジーマとハーレの間に割り込んだ。


「えっと…あなたたちは一体…?」

「私たちは、特別国家精鋭部隊よ!」


シエナはドヤ顔で言ったが、ハーレは何のことかもわからずに、首を傾げた。


「僕たちはセントラガイト国の者です。ここアリマからとある国に、死体がたくさん運ばれているという噂を聞きつけ、調査を依頼されてきたんです。恐らく、今話を聞いた武器商人たちのことで間違いないかと」

「そうだったんですね…。お願いします、ジーマさん。どうか武器商人たちを追い払ってください。あの人たちが来たせいで、たくさんのアパシーが殺されています…」

「ちょっと! 私もいるんだけど?」


シエナはムキになっていたが、ハーレはジーマしか目に入っていないようだった。


「もちろんです。ですが、ここに来る途中、大砲に襲われて、仲間とはぐれてしまったんです。まずは彼らを探そうと思います。良くしてくださってありがとう、ハーレさん。それじゃあシエナ、行こうか」

「は、はい!」


ハーレは、夜になったら寝床を用意しておくから村に戻るようにと申し出てくれた。彼女に見送られながら、ジーマとシエナはその村の入り口までやってきた。


「この村を出たら、彼らのサバイバルゾーンです。ディラムとミジータ、どちらの勢力もあなたたちを狙うでしょう。中には強力な武器を得た者も潜んでいます。どうかお気をつけてください」

「わかりました。ご心配ありがとうございます」


ジーマが微笑みかけると、ハーレはドキっとした表情をして顔を赤らめていた。それを見たシエナは不服そうに彼女を睨んでいた。


「行くよ、シエナ」

「……」


そうしてジーマとシエナはアパシーの村を後にした。シエナは不機嫌な表情を浮かべている。


「シエナ? どうしたの?」

「別に何でもありません!」

「うん? 何で怒ってるの?」

「怒ってません!」

「…?」


その後シエナの機嫌が治るまで、少々時間を要するのであった。


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