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砂漠の街ピエーラ

「ヒルカ、治った?」


ウォールベルトに帰還したメリは、ヒルカの治療を受けていた。ベッドに寝転んだまま、ヒルカを見上げた。


「ああ。もうしばらく休んでいればすぐに元気になる」

「ふぅ…良かったぁ〜…」


普通の人間ならこうはいかない。シャドウであるメリは、傷の治りが早いのだ。


「誰にやられたんだ?」

「ヌゥ君だよ…。ふふ…でもメリがお腹に穴を開けてやった」

「ヌゥ・アルバート、例の殺人鬼か…。しかし、お前が撤退してくるとはな。あいつら、とんでもないやつを仲間に加えたな」


ヒルカは椅子に腰掛けると、腕組みをした。


「そういえば、ダハムはどこに行ったの?」

「目下訓練中だ」

「生真面目なやつね〜」


新たなシャドウであるダハムは、ヒルカに命令されない限りメリのように研究所から出ていくことはない。日々自身の戦闘能力の向上に時間を注いでいる。


それだけではなく、他のシャドウたちの育成にも力をいれている。一部のシャドウたちはダハムの訓練により、メキメキと力をつけているようだ。


「それよりヒルカ、アリスはどこに行っちゃったの?」

「だから、誰だよそいつ」


メリはことあるごとにアリスの名前を出してくる。


「新しいシャドウだよ〜」

「だから、それはダハムだろ?」

「ダハムじゃないよ! あんな筋肉野郎じゃあないの! アリスはもっと美人で可愛くて変な喋り方なのー!!」

「本当に誰だそれ」


シャドウはたくさんいるが、メリはいちいち名前なんてつけていなかった。雑魚の中にそんなに気にいったシャドウがいたのだろうか。


「もういい! メリ、遊びに行ってくる!」

「ああこら! まだ完治してないって…!」


メリはベッドから起き上がった。いつもと変わらぬ身のこなしで、颯爽と研究所を後にする。


「ひ〜みつ〜の国〜のア〜リス〜ちゃん!」


鼻歌を歌いながら、スキップをして立ち去るメリをヒルカは見届けた。


「ったく…」


メリとダハム…同じレアでこうも違うかね。シャドウといえど元は人間…まあ個性があるのは悪いことじゃないか。


「ダハムの様子でも見にいくか」


ヒルカもまた研究所を後にし、訓練場へと向かった。




「それにしても、暑すぎだろ〜!!」

「黙れ。体力を消費するぞ」

「うるせえ! お前らはいいよな! 乗ってるだけでよ!」

「情けないライオンだ」


ベーラとアグは例のごとくレインに跨り、ピエーラを目指していた。出発してから3日目の朝であった。


初日の夜、アグとベーラはラーメン店を3軒はしごした。ベーラに付き合って気合いで3杯のラーメンを食したアグであったが、翌日の胃もたれが酷く、途中で休憩がかさみ、昨日は砂漠の手前の街にたどり着くのがやっとであった。


まあしかし、ベーラの印象はアグの中で変わった。少し変わっている人だというだけで、彼女は後輩思いの優しい姉さんだとよくわかった。


ピエーラは砂漠の真ん中にある。走れど走れど砂漠が広がっている。早朝の涼しい時間を狙った3人だったが、それでも暑い。


「それにしても、なんでこんな暑いとこに住むのかねぇ!」

「ピエーラは砂漠の真ん中のオアシスだ。ここよりは涼しいとは思うぞ」

「本で読んだことがあります。ソータ族という民族がずっと昔から住んでいるそうです」

「ふーん、ソータ族ねえ〜。でも周りがこんな砂漠じゃ、暮らすのも大変そうだけどな〜」

「すっかり人間目線だな。お前も生まれはサバンナだろう」

「うるせえな。あんまり覚えてねーんだよ、昔のことは」

「おい、そろそろ見えてきたぞ」


(あれが砂漠の街ピエーラ……)


レインさんの速さでおよそ3時間、広大な砂漠の真ん中に、街が見えてきた。街の手前にたどり着くと、レインは足を止めた。


「ふぅ…着いたぜ…」

「お疲れ様ですレインさん…」

「あいよ」


アグはレインから降りると、彼に深く礼をした。


「おい、さっさと人間になれ。街の人たちが怖がるからな」

「ベーラ、なんか俺の扱い酷くね?」


レインが人型になると、3人はピエーラの街へ入っていった。入口は簡素なもので、特に見張りもおらず、誰でも簡単に街へ入ることができた。


(本当だ…涼しい…)


街とはいうには小さいか。面積は村くらいだ。土素材の簡易な建物がたくさん並んでいる。


ピエーラはオアシスだと聞いていた。これまでの砂漠地帯に比べれば、格段に涼しい。もちろん暑いけれど、生活は不可能ではないか…。


(大陸にはこんな場所もあるんだな…)


教科書で読んだ場所に実際に来れるのは、ちょっと感動ものだな…。


アグは垂れてくる汗を服の袖で拭った。


だけど、砂漠の手前の街からここまで、レインさんの足でも3時間…。気軽に来れるところじゃないな…。


「おや、こんなところに旅の方かい?」


街に入ると、1人の男が声をかけてきた。上には薄い紫色のベストを1枚羽織り、派手な柄の短パンを履いていた。教科書の絵で見た通りの、ソータ族の民族衣装である。


(おお、本物のソータ族…)


肌はこんがりと焼けて真っ黒だ。他のソータ族も同様である。アグたちが外から来たということは、一目瞭然だ。


ベーラは一歩前に出ると、話を始めた。


「セントラガイトから国の依頼で来ました」

「おお! そうだったのかい。これは失礼。はるばるこんな砂漠の真ん中まできてもらってありがたいね。もしかして、例の巨大サソリかい?」

「いかにも」

「皆さん、サソリのことはご存知なんですね」


ソータ族の男は腕組みをすると、話し出す。


「ああ。俺たちが素材をとりにいく洞窟があるんだが、その入り口に突然巨大な穴が現れたんだ。街の奴らで調べに行ったら、巨大なサソリが陣取っていやがった…。穴に住みついていて、街を襲ってくるってことはないが、洞窟に入れないとなると生活がなあ…」


聞くところ、洞窟で手に入る素材を砂漠の外の街に売って、彼らは生活を保っているようだ。


(巨大サソリ…また禁術か? でもそれなら、禁術解呪の薬で元の大きさに戻るはずだ。今回はレインさんとベーラさんがいるし、なんとかなるはず…)


男は困った表情を浮かべていたが、ベーラは腰に手を当て、堂々たる表情で答えた。


「大丈夫だ。私たちがそのサソリを討伐しに来た」

「そうだったんですかい。そりゃ〜ありがたい。でもたった3人で大丈夫ですかい?」

「無論だ。悪いが、依頼者の町長のところに案内してくれないか?」

「もちろんですぜ。こっちです」


アグたちはソータ族の男に案内され、依頼者である町長のところまでやってきた。隣にはアグと同年代くらいの藍色の髪の美しい女が側近として立っていた。


町長はかなり高齢のようだ。ふさふさの白い眉毛に覆われ、その目は見えない。しかし、肌の色は街の皆同様、例外なく真っ黒である。


杖をつき、フラフラとした足取りで、アグたちに近付こうとしていた。途中フラつき倒れそうになったのを、側近の女が支えた。


(おい、こんなによぼよぼの爺さんが町長で大丈夫か? 今にも倒れそうだけど…)


「じ、じいさん! いいよ、そこで話してくれれば…」


見かねたレインもそう言った。


「すみません。町長はもう高齢で…。話は側近の私が代わりにさせていただきます」

「うむ、よろしく頼む」


ベーラは淡々と話を進めた。アグは黙って話を聞いていた。


話はさきほどの男が言っていたものと大きく変わらず、とにかくサソリを倒してほしいということだ。サソリの出る洞窟には、案内役として住民のルッタという男が同行してくれることとなった。


そうこうしているうちに正午になり、せめてものもてなしということで、出発前にピエーラの名物料理をごちそうしてもらうことになった。


(か、辛い…そして…熱い…)


それはマグマのように真っ赤な色の、グツグツ煮だった鍋料理だった。


(何でこんなに暑いのに、熱いご飯を食べるんだろう…)


ただでさえ汗をかいていたのに、更に吹き出すように汗が出た。


「何でこんなクソ暑い中、クソ熱い飯を食ってんだよ!」

「文句を言うなレイン。ソータの奴らに聞こえるぞ」


(……)


10人前くらいあった巨大な鍋料理を、もちろん全て平らげた3人は、早速洞窟へ向かうことにした。


「ルッタです。よろしくっす」


案内役のソータ族の男、ルッタがやってきた。奇抜な緑髪のショートヘアで、タコのように口が飛び出ている。ルッタは早速人数分のソリを用意した。


「何だこれ」

「ソリ…みたいですね?」


アグたちが不思議そうにそれを見ていたので、ルッタは驚いて言った。


「え? 砂漠の移動はこれっすよ。ほら、皆おいで!」


ルッタが手を叩いて合図すると、側の小屋から、犬に似た4足歩行の動物が8匹やってきた。ルッタは1つのソリに対して2匹ずつ、その動物をつないでいく。


「何だこいつら」

「マックルっすよ」

「犬、ですか…?」

「犬じゃないっすよ。マックルっす。知らないんすか? ソリ滑りには、マックル!」

「知らないです…」 


大きさは中型犬、見た目はコーギーに似ているが、毛並みはボサボサである。マックルたちは皆舌を出して、興奮したように早い呼吸をしている。


「ソリに座ってりゃ、マックルが勝手に連れてってくれるから大丈夫っすよ。子供でも乗れるから初めてでも問題ないっす」


ルッタは簡単に説明をしながら、作業を続けた。


「こいつ、“〜っす”ばっかでうぜえな」

「おい、聞こえるぞ…」


アグたちは1人ずつソリに乗った。アグはしっかりと手綱を握った。


「うおっ!」


マックルはルッタの命令で洞窟に向かって走り出した。その速さは想像以上であった。レインには劣るが、馬車の2倍のスピードはあった。砂煙をたてながら、砂漠を駆け抜けていく。


ルッタは先頭をきりながら、後ろに続くベーラに尋ねた。


「マックル使わないで、どうやってこの街まできたんすか?」

「無論、秘密だ」

「そうっすか…」


ルッタの話によると、砂漠の手前の街にはマックルの貸し出しがあったらしい。しかしアグたちはそれに誰も気がつかなかった。というかレインに乗って行く気満々だったので、見向きもしていなかったのだ。


マックルで進むことおよそ30分。砂漠の真ん中にぽつんと立っているそれは確かに洞窟であった。地下に続いているらしい洞窟の、入り口だけが地上に現れている。周りは一面砂漠だ。


「何もいねーじゃねえか」

「き、気をつけるっす!」


レインが洞窟に近付こうとすると、突然足元の砂が円を描いて下に落ち始めた。

みんなは急いで後ろに避難した。

巨大な穴が出現し、中から話に聞いたサソリがその正体を現した。


(で、でかい……)


人間の5倍くらいあるそのサソリは、艷やかな黒いボディを輝かせ、穴の真ん中に陣取った。


「出やがったな! 巨大サソリ!」


サソリはキュルルルと聞いたこともない大きな音を出し、俺達を威嚇した。


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