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空の果てより祝福を

ヌゥはその時思った。


ああ、聴覚がまだ残っていて良かった。

だってこんなに素敵な歌とピアノを、聴くことができたんだもんね。


何て歌なの?ってあとでベーラに聞いたら、私が作ったんだよ、とベーラは言った。

どうやら俺たちのために作ってくれた、結婚を祝う歌みたいだ。

まさかベーラからそんなプレゼントをもらえるなんて、俺は思わなかったよ。


俺はすっごく感動してしまって、涙を流しながら2人の演奏を聴いていたよ。


いつ俺の中から音が消えてしまうかもわからないからさ、今のうちにしっかりと耳に焼き付けておこうって思ったよ。


この歌もピアノも、皆の声もね!




「ねえ、ヒズミは成仏しなくていいの」


そこは天国、楽園にふさわしいその島国で、ヒズミは目の前のチェス盤を見て頭を悩ましていた。

彼の前には、赤いショートボブの女が座り、チェスの相手をしている。


「当たり前やんか。わいは待ってんねん。もっかいあの子に会えるのを」

「でもあの子の寿命、1000年くらいあるっていってなかった?」

「せやで。やからこーして暇つぶししとうねん。あんたの相手してな」


すると、ヒズミはニヤっと笑って言った。

 

「チェックメイト!」

「げっ!!」


赤い髪の女は頭を抱えた。


「くっそ〜!!!」

「またわいの勝ちやな〜。詰めが甘いわ〜ほんまに」


ヒズミはチェスを片付けながら言った。


「次はあれや、あれやろ。オセロ」

「いいよ〜! でも僕はアグの1番弟子だからね! オセロだけは絶対負けないから!」

「まだルール覚えたばっかりやねん! 今日は勝つわ! わいはこれでも、学生の頃は首席やったんやで〜」

「ふん! だから何さ! アグより頭いいやつなんていないよ!」

「どうやろな! ゲームやったらわいのが強いかもしれんで」

「むー! ヒズミがアグに勝てるわけないじゃん! ていうか僕にもね! 見てろ、こてんぱんにしてやるから!」


ユークは天国についてまもなくすると、成仏してもうた。

また新しい命となって、どっかで生まれ変わるらしいで。


せやけどわいは、成仏できひんかった。

する気もなかった。

ヌゥを生界に送り届けたあと、あの子が乗るための小舟でまた島まで帰った。


1人で暇しとったら、ちょっと前にこの島にやってきたゾナとかいう女と、わいは出会った。


「ねえ君、暇そうだね! 僕とゲームでもしない?」


話を聞いとるうちに、アグとベルの知り合いやとわかって驚いた。


そいでまあ色々あって、この子はアグのことが好きで、わいもヌゥのことが好きで、お互い失恋同盟やな〜なんて話をして、ちょっと仲良おなった。


ゾナもアグにもう1回会いたいからて、ここで成仏せんとずっと待っとく言うてたわ。


「うわー! あの子がヌゥか!」


わいらは2人の結婚式を遠くから見とった。

どうやって見るんや言うたらなんや難しいんやけど、とにかく見えるねん。


ゾナは花嫁姿のヌゥを見て、頭を抱えて発狂した。どうやらヌゥのことを初めて見たらしい。


というか美しすぎて、わいも発狂したけど!


「ちょおやばいやばい! めちゃ可愛いねんけどぉおお!!」

「うわー! 負けた! これは完全に負けた!! 料理できなくても問題ないよ! こんなに可愛かったら!!」

「なー! めちゃ可愛いやろお〜!! あーあかん! 1000年でも2000年でも待つわ! アグの目を盗んで、もう1回だけぎゅーってしたい〜!!」

「あー! ずるいよそんなの! 僕もアグとまたゲームしたいなあ〜…」

「ゲームやったらわいがしたるやんか」

「アグとするから楽しいんだもん!」

「うわ! せっかく相手したっとうのに、よう言うな!」

「ヒズミが暇そうだからじゃん!」


まあそんな無駄な言い合いをしながら見とったら、披露宴パーティーが始まって、ゾナは更に発狂した。


「お、お、お、男ぉぉおおおおお?!?!?!?!」


突然化粧をとって男になったヌゥを見て、ゾナは激しく驚いていた。


「何や知らんかったんか?」

「し、知ってるわけないじゃん! 何なの?! 僕は男に負けたの?! ていうかヒズミも男じゃん!」

「誰か好きになるのに、男とか女とか関係ないんやで」


ヒズミは悟りを開いたかのようにうんうんと頷いては、何ならゾナをバカにするように見ていた。


「そうかぁ〜……」


ゾナはどすんとそのまま後ろに寝転がって、天国の空を見上げていた。


(まあいいか。アグは幸せそうだし)


「それにしてもいい歌だなぁ〜」

「ほんまやな。ベーラさんがこんなに歌うまいなんて知らんかったわ」


ヒズミもその歌を聞きながら、幸せそうなヌゥの姿を見て、心から祝福した。


(あの場でおめでとうて、言うたりたかったなぁ…)


幸せにしたってよ、アグ。

あんたしか、おらんのやからな、ヌゥを幸せにできるのは。


ヒズミとゾナもその場で、2人の結婚をそっと祝っていた。




「あーあー! いいなぁ〜ヌゥはウェディングドレス着れて〜! しかもすっごく似合ってる〜!」


シエナはうらめしそうに結婚式を見ていた。

ジーマも顎に手をのせて、その様子をにこやかに傍観していた。


「さすがに地獄にウェディングドレスはなかったね」

「ないない! ないですよ! だってなーんにもないんですもん、ここ!」


2人は地獄の下層部にいた。

底なし穴は更に下まで続いている。底がないので無限に落ちていくことができる。


「お前らぁぁァァア! 何サボっとんじゃわれぇ!! 働けこのクソ野郎共!!! 永遠に働け! 働き続けろぉぉオオ!!!」

「出たわ! 閻魔のくそジジイ!」

「逃げよ、シエナ!」


ジーマはシエナの手を引いて、下の階層へとまた飛び降りた。


「もう! 今日くらい勘弁してよね! おめでたい日なんだから!」

「早く撒いて続き見よ〜!」


2人は笑いながら、地獄の主、閻魔大王から逃げていった。


2人がやってきた場所にたどり着いた閻魔は、怒ったように地団駄を踏んでいた。彼が地面を踏みつけるたびに大きな地割れが起こって、火山が激しく噴火した。


「あのクソ共! この俺様を見ても全く恐れもせんし、どうなっとるんじゃ本当に!!」


すると、閻魔の腰にささった黒鬼が姿を現すと、高笑いし始めた。


「ぎゃはははは! また逃したのか! ほんっと間抜けだな〜!! 閻魔は!」

「うるさいっっ!! お前ももっとマシな奴を連れてこんか!! あんなひょろひょろでヘラヘラした奴に取り憑いたのか? おまけにクソうるさいガキまでついてきやがった!」

「まあいいじゃねえか! お前も楽しんでるんだろ、地獄に落ちる人間なんて、早々いねえんだからな!」

「楽しいわけあるかい!! 俺様はここにやってきた奴に永遠の苦痛を与え続けるのが使命なんじゃ! あいつらには終わりのない労働を与える! 地獄にぴったりじゃろう!! ぎゃはははは!!!」


閻魔はその低く淀んだ声で大笑いしながら、黒鬼に言った。


(労働ね〜。俺も飢餓よりそっちの方が良かったな〜…)


地獄に落ちた魂。

二度と成仏は出来ない。

それ故にそこは、無限の牢獄なのだ。


「うわ〜料理美味しそう!!」

「レインにあんな特技があったんだね〜」

「ここは食べ物もないですからね! まあお腹すかないから、いいですけど! ほんとに何にもないんだから!」

「まあ何もいらないけどね、シエナがいてくれればさ」


ジーマがにこやかに笑いながらそう言うと、シエナは目を輝かせて彼に抱きついた。


「私もです!」


そこは永遠に有り続ける、2人の魂の墓場。

2人にとってそこは天国、と言ってもまあいいだろう。




「がっはっは! いやあ、めでたい! 全く今日はめでたいのう!」


冥界にて、アシードは笑って言った。

アンジェリーナとカトリーナは不思議そうにその様子を見つめている。


「結婚テなんダ?」

「さぁ……」


そんなものには縁がなかった2人、その意味をアシードに尋ねた。


「夫婦になるということじゃな!」

「つがイだロ? つがイ」

「恋人とは違うんです?」

「似ているが少し違うのかのう。結婚は周りの人皆に夫婦だと認めてもらうんじゃ。そして同じ姓を名乗って、一生を添い遂げるんじゃ」

「へェ〜! じゃあ俺もご主人様ト結婚しヨうかな!」

「なっ、何言ってるんです?! この私が結婚するんですよ! ご主人様の恋人はこの私なんですから!」

「お前ガ勝手に言ってルだけだロ?!」

「いいえ! 違いますわ! ご主人様も私を恋人だと言っていましたもの!」

「何言ってンだくそ剣が!!」

「鳥さんは黙ってなさい!」


アンジェリーナとカトリーナは睨み合って、いつものようにいがみ合っていた。


「もう死んだくせに結婚もくそもないじゃろう」

「いいえ! この際ご主人様もはっきりと決めてくださいな! 私とアンジェリーナとどちらの方が大切なのか!」

「そうだゼご主人様!」


剣の精霊と不死鳥フェネクスは、上裸のおっさんに言い寄った。


「そうじゃ! なら皆で家族になろう!」

「家族ですか?」

「同士じゃナくって?」

「お前らには名字がなかった! わしと同じ名字をつけてやろう!」

「おおお!!」


2人は目を輝かせた。


「今からカトリーナは、カトリーナ・ヴォルボスじゃ!」

「おおお!!」

「アンジェリーナはアンジェリーナ・ヴォルボスじゃ!」

「おおオ!!」

「3人はこれから家族じゃ! 家族はいつも一緒! 2人とも仲良くするんじゃぞ!」


2人は非常に満足したようで、嬉しそうに笑っていた。


「さて、続きを見るとしよう」


アシードたちはそっと披露宴パーティーをのぞき見て、同士たちの幸せな姿を目に焼き付けた。





















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