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魔王降臨

「あああああ!!!! 母さん嫌だぁぁあああ!!!!」


スノウは目の前でヌゥが刺されるのを見て、錯乱した様に叫び散らした。

スノウの核が乱れるのを、ゼクサスも見逃さなかった。

ゼクサスはスノウの愛を打ち破って、その意識を取り戻した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ゼクサス…」


ゼクサスはヴェーゼルを見ると、彼に掴みかかった。


「裏切り者ぉぉおおお!!!!!」

「っ………っ………」


ヴェーゼルは泣きそうになりながら、ゼクサスと目を合わせた。

ゼクサスもまた目を真っ赤にして、涙を流した。


「うぅ……っく……君も……やっぱり私を裏切るんだ………」

「違うよゼクサス……俺は……君を守りたいだけなんだ…」

「それが裏切るっていうんだよっ!! 私は大嫌いなんだっ!! そういう心がっ……感情があっ……! お前も知ってるだろう?!?! すごく痛くて苦しいんだよ! 辛いんだよ! 私の身体は愛を受け入れないんだよ!! 私は憎悪だからっっ!! 憎悪と愛は………一緒には生きていけないんだよ……!!」


ヴェーゼルもまた、涙を流した。

そのままゼクサスを、強く抱きしめた。


「やめろ…やめてヴェーゼル……うぅ……」

「俺は君と…一緒に生きていたいよ……ゼクサス……」

「やめてぇ……苦しませないでぇ………痛いよ……痛いんだ……うぅ………」


ヴェーゼルの愛は、確かにゼクサスに届いていた。

ゼクサスはそれが欲しくてたまらないけれど、受け入れようと試みるたびに、自分が消されそうな苦しみを感じた。


【ゼクサス】

「!!」


ゼクサスに声をかけるのは、優しい女の声だった。

その脳裏で、白髪の女はゼクサスに近づくと、言った。


【私の心を貸してあげる。ゼクサス】

(リアナ……)

【私の核には憎悪が全くないの。だから私なら受け入れられるはずよ、あなたのことを】

(リアナ……リアナ……)


ゼクサスはその憎悪を持たない呪人の核に、すがるように近づいていった。


【だからその身体は、スノウに返してあげて】

(わ、わかった…わかった…リアナ……リアナ……)


ああ、私も、愛が欲しい………。

助けて……リアナ………。


ゼクサスはリアナの核に身を委ねた。

リアナの核が、ぽろんとスノウの身体から落ちていった。


「え……?!」


ヴェーゼルはその奇怪な状態に目を見開いた。


まあるくて、光り輝く球体が、スノウの中から転がり落ちたのだ。


「うっ……うう……」


スノウはゆっくりと目を開けた。


「?!」


(いない?! 俺の中に、ゼクサスが……?!)


スノウは自分の中にゼクサスが宿っていないことを瞬時に察した。

そしてふと、自分の隣に落ちている球体……リアナの核を見ると、愕然とした表情を浮かべた。


(だ…駄目だ……この未来は………最悪だ………!!!)


「スノウ?!」


ヴェーゼルは目を覚ました彼がスノウだとわかり、声をかける。


「ヴェーゼル……もう駄目だ……この世界は終わるよ……」


(ああ……俺が来たって、世界を救えなかった……。もっとうまくやっていれば……ああ……また……世界が………消える……)


スノウは悲惨な未来を確信して、涙した。

その様子を見て、ただならぬことが起きたのだと、ヴェーゼルも察した。


すると、その球体はまもなくして光を失い、真っ黒な闇に覆われていった。


リアナはその憎悪の深さに驚愕し、絶望した。


(これは……駄目………。私には、受け止めきれないっ………)


リアナの核はやがて憎悪に完全に支配された。


「あああっ!!!!」


憎悪はリアナの核を基盤にし、激しい闇のオーラをまとい始める。


「何だ?!」

「生まれるんだ…もう間に合わないよ…!」

「生まれるって、何が?!」


愕然とするスノウを、ヴェーゼルは支えていた。


「うう!」


やがてその空間は歪みにゆがんで、バリンっと大きな音を立てて割れたかと思うと、その異空間から元いた世界へと抜け出した。


そこは戦争中の草原。

止まっていた時も動き出し始めた。


「な、何だ…?!」


闇のように淀んでいく空を見上げて、騎士たちも魔族たちも目を見張る。


真っ黒な空に浮かんだその核は、だんだんとその姿を現していく。


その核は、悪魔よりも真っ黒で、天使よりも美しい容姿で、まるで空を覆ってしまいそうなほどの大きな翼を生やした。

頭からは2本の金色の角が生え、真っ赤な瞳をしていて、この時を待ちわびていたかのように、ほくそ笑んでいる。


「うわっ!」

「きゃっ!!」


レインたちも、次々に元の世界に戻された。

殺されなかったレアのシャドウもその場に倒れて気絶していた。

ベーラはすかさず自分の倒したシャドウと、両腕のない女を檻にいれて拘束した。


気絶していたメリとソヴァンも、ショックで目を覚ます。


「痛た……」

「メリさん?! 大丈夫ですか?!」

「何なのよもう!!」

「異空間突破したんじゃねえの?!」

「それにしちゃ空が……え…?」

「おい…どうなってんだ……」


皆は空に浮かぶそのおぞましい生き物の姿を目にすると、愕然とした表情を浮かべた。


「魔王だ……」


スノウは呟いた。

それを聞いて、ヴェーゼルもハっとした。


(この力…間違いない……)


それは世界を破滅へ(いざな)うために生まれた、新たな魔王。


「魔王、ゼクサス」


スノウは呟いた。


「ゼクサス……あれが……?」

「もうゼクサスだった頃の意志はないかもしれない。ただ拡張して行き場をなくした哀れな憎悪が、リアナの核を媒体にしてその姿を具現化したんだ」


それを可能にしたのは、最初から彼が持っていた、紛れもない魔王ゼクロームの血液だ…。


「もう駄目だ…この世界は終わった…。あいつが出てきた未来を俺は見た。もう、終わるしかないんだ…」


スノウは絶望して、空を見上げた。


魔王はその力を最大まで引き上げ、世界を滅ぼすその力を溜め込んでいる。


あの力が放たれた時、この世界は終わりだ…。


やっぱり俺が来たところで、未来は変えられないんだ…。

俺には最初から、そんな力なかったんだ…


ごめん…父さん…母さん…リウム……


スノウは涙を流し、目を閉じた。


「諦めちゃ駄目だよ、スー君」


後ろから聞き慣れた明るい声がして、スノウは目を見開いた。


「?!」


スノウが振り返ると、そこにはにっこりと笑っているヌゥの姿があった。


「母さん?! 生きてるの?!」

「当たり前じゃん! そう簡単に死なないよ俺は!」

「あ……ああ……ぅぅ……」

「ちょっとちょっと! 男の子でしょ〜! すぐ泣かないの!」

「うわあああんんん!!!」


スノウは涙を流してヌゥに抱きついた。

ヌゥはスノウの頭をよしよしと撫でた。


「大きくなりすぎでしょう! 俺とサイズ一緒じゃん!」

「ううう!!! 母さん!! 母さああん!!!」


スノウは顔をくしゃくしゃにして泣きわめいた。


「ちょっと、母さんて何なの? あんた男でしょ? ていうか歳同じくらいでしょ?」


ミラはわけわからんという表情で、顔をしかめた。


「誰だよこいつ…」

「はあ? こいつぅ?!」

「ミラだよ。天才呪術師のね!」


ミラはつーんと腕を組んで、ふと空を見上げた。


「げっ! あれがリアナ?!」


魔王の姿にたじろぎながら、それでも確かにその中にあるリアナの核を、ミラは瞬時に感じ取った。


「うう……」


すると、アグが目を覚まし始めた。


「アグ?!」

「はぁ……うまくいった」

「もう気絶から目を覚ましたの?!」


アグは首をならしながら起き上がった。


「時を送ったんだよ。自分のな」

「は?」

「父さん!!」


スノウはアグに駆け寄ると、彼に抱きついた。


「スノウ…」

「父さん! いつの間に俺の力をとったの?!」

「いつの間にって、ベルにお前の話を聞いたらすぐにだよ。赤子のスノウはいくらでも抱っこできるからな〜」

「うう…」


アグはその大きく育った子供の頭をぽんぽんと叩いた。


「アグ、魔王だってさ」

「はぁ……みたいだな」

「ちょっと! 他人事じゃないよ! 世界の命運がかかってるんだよ!」

「わかってるよ…」


すると、ヌゥたちを見つけたベーラたちも、こちらに駆け寄ってきた。


「お前らも無事だったんだな!」

「無事に決まってるじゃーん!」

「お前は死にかけてなかったか」

「は! いやでもほら、ちゃんと戻ってきたし!」

「ちょっとどうなってんの? アルテマって奴ならちゃんと倒したわよ?!」

「え?! 倒したのメリだったの?!」

「何よそれ! 私じゃ倒せるわけないって言いたいの?!」

「いや、そんなことは言ってないけど」

「僕も! 僕も手伝いましたから!」

「ふん! あんたなんていなくても倒せたわよ!」

「強がるメリさんも可愛いなあ!」

「お前ら、状況を考えろ」


ベーラは腕を組んで、きゃっきゃとうるさい彼らを叱った。

皆はハっとして、静まり返った。

すると、スノウが喋りだした。


「あいつは魔王です…。今、この世界を滅ぼすためのエネルギーを溜めています。溜め終わるまでもう10分もないかと…」

「え?! 世界を滅ぼすってまじか?! てかお前その姿、ゼクサスじゃねえの?!」

「……」

「彼はスー君ですよレインさん」

「はああ?!」


ベルが言うと、皆も目を丸くした。


「いや、スノウはお前が抱いてる赤ちゃんだろ」


レインはベルの抱いている赤ん坊を指さした。

こんな状況だがスヤスヤと寝ていた。


「こいつは未来から来たスノウです。今は詳しく説明してる暇はありません。ゼクサスはあれです」


アグは魔王のゼクサスを指さした。

魔王のエネルギーは先ほどに比べて格段に大きくなってきている。


「…まあ確かに、ありゃラスボスだ」

「あの力が放たれる前に倒さないと、世界が滅びるということだな」

「そうです」

「はああ? やっとこっちに戻れたってのに、勘弁してよ! ていうかどうやって倒すのよ!」


皆が考え込んでいると、ヌゥの鞘にしまわれたラグナスが、ふっと鞘から抜け出すと、ヌゥの手の中に入った。


「これだよ! 伝説の武器! これには魔王を倒す力があるって! ね!」

「ね!って、他のはどうしたんだよ」

「あれ? えっと……どこ行ったんだ?」


すると、デスサイズ、ケリオン、そしてログニスが空からふっと降りてきた。


「え?!」


デスサイズは、メリの元へとやって来た。


「メリが選ばれた!」

「わ、私……?!」


メリはデスサイズを両手できゅっと握りしめた。


(てか、んも……)


「ほえ!」


ケリオンは、ベルの元へ。


「わ、私ですか…?!」

「ベル、スノウを」

「は、はい…」


ベルはアグに赤子のスノウを渡すと、ケリオンを握りしめた。


(ああ、精霊さんの声が聞こえるようです……)


そしてログニスは、ヴェーゼルの元へ向かった。

ヴェーゼルは目を見張りながら、ログニスを握った。


「……」

「ヴェーゼル!」


ヌゥは満面の笑みでヴェーゼルに駆け寄ると、彼の手を引いた。


「おいおい。ヴェーゼルって敵じゃなかったか?」

「もう味方だから! 良い奴だから! ヴェーゼルは」

「んだよ、わけわかんねえなあもう…」


スノウはベルを見ていた。

ベルもハっとして、スノウを見つめ返した。


「リウム……」

「スー君ごめんなさい。私、未来を勝手に見てしまいました」

「ええっ?!」


スノウは顔を赤くした。若かりしベルを目に焼き付ける。


()()未来は、ありましたか? スー君」


スノウは首を振った。


「こんな未来は、俺もまだ見たことがない…」

「うふふ。明るい未来が、待ってると思いますよ」

「え…?」

「あなたのお母さんを見ていると、いつもそう思うんです、私!」

「……」


武器を手にした4人は空高くに浮かぶ魔王ゼクサスを見据えた。


「どうやってあそこまで行こう…」


すると、レインは赤い空飛ぶ獣に姿を変えた。


「そりゃ、俺が乗せてってやるに決まってんだろ!」

「レイン!」

「え?! レインさん?!」

「あわわ!!」


その姿を初めて見るメリとベルは驚いた声を漏らした。


「よし! 行こう皆!」

「んもう! わけわかんないんだから!」

「驚きましたね……」


メリとベルはレインに乗り込んだ。

ヌゥもレインに足をかけると、手を伸ばした。


「行こう、ヴェーゼル」


ヴェーゼルも頷いて、ヌゥの手を握ると、その赤き獣に乗り込んだ。


「時間がないよ! 一撃で仕留めてやる!!」

「振り落とされんなよ! 行くぜ!」


レインは翼を大きくはためかせると、その闇に覆われた空に向かって飛び上がった。
















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