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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
最終章

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308/341

親だから

「どうやらアルテマが死んだみてえだ…」


ヴェーゼルは言った。


「アルテマって、そいつが俺たちをここに連れてきたんでしょう?」

「ああそうだ。見ろ、空間が歪んでやがる」


広い海を渡っていた2人だったが、その先の空間はねじれていた。


「ゼクサスのところに行けるかもしれない」

「飛び込んで!」


ヴェーゼルはヌゥを乗せたまま、そのねじれに飛び込んだ。


「うわっ!!」

「っ!!」


ヌゥとヴェーゼルは別の空間に飛ばされた。

そこに水はなく、無意識にヴェーゼルは人型に変化した。


勢いづいた2人は、その部屋に倒れ込んだ。


「痛たた…」


ヌゥは身体を擦りながら立ち上がった。

ヴェーゼルも起き上がり、その部屋を見渡す。


「誰もいねえな…」

「でもさっきの場所じゃない…」


すると間もなくして、2人の前にゼクサスがその姿を現した。


「ゼクサス?!」


ゼクサスは、ヴェーゼルと一緒にいるヌゥを冷ややかな目で睨んでいた。


そのほんの数秒あとに現れたのは、傷だらけになったアグだった。


「アグ?!」


ヌゥは悲壮な表情を浮かべて彼に駆け寄った。

良かった…意識はある…。しかしボロボロだ…。


「くっそ……」


(すんでのところで条件をつけて空間を解除した…あのままいたら、死んでいた…)


どうやら立ち上がることも出来そうにない。

気絶しないだけましのようだが、彼は動けそうにもなかった。


「アグ、大丈夫?!」

「失敗した……俺も……呪われたんだ……。ラディアがいなかったら…リアナもスノウも殺すところだった…」

「え……?」


ヌゥはアグを支えながら、ゼクサスの方を見た。

ゼクサスはほくそ笑みながら呟いた。


「せっかく私を殺すチャンスだったのにね。君の中に住む核の、くだらない愛って奴が、邪魔をしたんだね」


ヌゥはアグの身体をさすった。

致命傷になるケガはないみたいだ…。


しかし、アグの空間束縛はこっちの切り札だと思っていた。これが効かないなんて…。


「目障りで仕方ないよ。さっさと死んでもらおうか」


ゼクサスはヌゥとアグに向かって闇の手を伸ばした。


「ちぃっ!」


ヌゥはアグを抱えると、超加速した勢いでそれを避けた。


(アグを抱えながらじゃさすがに空は飛べないか)


「ゼクサス! やめろ! こいつらは…」

「ヴェーゼル、危ないからこっちに来な」


ゼクサスはヴェーゼルの手を引いて、自分の後ろにやった。


ヌゥはアグをかばうように立ってゼクサスを睨みつけた。

ゼクサスもまた、憎悪を露わにしてヌゥを睨んでいる。


「殺してやる」


ゼクサスは闇の手をヌゥに向かって差し伸ばした。


「やってみろ! 憎悪に俺が殺せるわけない!!」


ヌゥは真っ向からその手を受けた。

闇の手はヌゥの中に入り込んで、その核を握りつぶそうと力を込めた。


ヌゥは自分の胸元に潜り込んだその腕を外から掴んだ。


「無理だって言ってるだろ…」


ゼクサスは顔を引きつらせ、更に力を込めた。


(ゼクサス…お前の弱みは熱愛なんだろう…? 俺の心は今、愛で満ちているんだ…その力は憎悪なんかに負けないはずだ…!!)


ヌゥの核は強い光を放って、ゼクサスを追い出そうとしている。


「くぅっ…」


ゼクサスはその抵抗する強い力に歯を食いしばった。


すると、天に召されていた伝説の武器の1つ、ラグナスが、台座から1人でに抜け出すと、物凄い勢いでゼクサスに向かって襲いかかってきた。


「?!」

「ラグナス! やめて!!」


ヌゥの声も聞かずに、ラグナスはその刃をゼクサスの核に向けて迫ってくる。


「ゼクサスっ!!!」


ヴェーゼルはゼクサスの前に立ちはだかった。

ゼクサスは自分をかばうヴェーゼルに目を見張った。


(また……)


ゼクサスは愕然とした表情を浮かべた。


ゼクサスはこれまでに、何度もその身を守られてきた。


カルベラのコピーも、エクロザのコピーも、ゼクサスをかばって死んでいった。

ゼクサスは、それが自分を想ってのことだと気づいてしまって、それはそれは酷く落胆した。


(あいつらも…愛ってやつに……囚われてる……)


ゼクサスはそれがとても嫌だった。

仲間だと思っていたあいつらだって、私のためにその身を削った。


そんなこと、してほしくなんてないのに。


(ヴェーゼル…)


君も私を、守るというのか?


君は私の持つ憎悪の力に惹かれてやって来たと、そう言ってくれた。

彼とならずっと一緒にいられると思った。

彼もこのおぞましいほどの憎悪に魅せられ、執着しているんだと思っていたから。


(違った……君も……)


自分の目の前に立ちはだかるヴェーゼルを見て、ゼクサスは辛く涙した。


「!!」


ラグナスがヴェーゼルに突き刺さろうという時、バリアがラグナスの剣を防いだ。


「?!」


ヌゥもまた驚いてそれを見ていた。

ハっとしてアグを見ると、彼が力を振り絞って防術を張ったことがわかった。


「アグ!」


(リアナ…スノウ……俺も憎悪に呪われた…。お前らのことも、殺そうとしてしまった……。ごめんな……。でももう大丈夫……絶対に守るから……)


アグはそのまま、気絶してしまった。


「こんの!」


ヌゥはラグナスを捕まえた。ラグナスはしばらくヌゥの手の中で暴れていたが、やがて静まると、ヌゥの鞘の中に自ら戻った。


「この剣ってば…何で勝手に……」


ヴェーゼルは死を悟っていた。しかし、自分が生きていることに目を見張った。そして、愕然として膝を地面につけた。


「ヴェーゼル! 大丈夫?!」


ヌゥはヴェーゼルに声をかけた。


「俺は…何とも…それより……」


ヴェーゼルは恐る恐る後ろを振り返った。

これまでに感じたことのない憎悪だった。


「ゼク…サス……」


ゼクサスは怒っていた。

今までで1番、怒り狂っていた。

その怒りは、ヴェーゼルに向けられていた。


「君も……私を裏切るんだね……」

「ち…違うゼクサス…俺は……俺は君を……」


ゼクサスの目からは、涙が流れていた。


(泣いてる……?! 憎悪が…?!)


ヌゥも様子のおかしいゼクサスを見て、目を大きく見開いた。


「ゼクサス! ヴェーゼルは君を助けようとしたんだ! それなのにどうして怒るの?!」

「私はヴェーゼルにだけは、そんなことして欲しくないんだ…」

「どうして?! ヴェーゼルは君のことが大切なだけだよ?! それがどうして駄目なの?!」

「お前に…お前に何がわかるというんだ!! …っっ!!!」


ゼクサスはその瞬間、異常なまでの傷みを感じてその場に倒れた。


「…っ、……っっ、…っ、た…っ…助け……助けて……っ」

「ゼクサス?!」


ゼクサスは地面に這いつくばり、その胸の奥の傷みを訴えるようにのたうち回った。

ヌゥとヴェーゼルはわけもわからず彼の動向を見ていることしかできない。


【終わりだよゼクサス…】

「っ!!」


ゼクサスは脳裏に響くその声に目を見開いた。

これは…この身体の…少年の声……。


名前は、スノウ…。


こいつだ…こいつの愛が、私を蝕んでいる…。


【見ただろう。この世界には愛が溢れてる。愛があるから、皆生きていけるんだ】

(嫌だ…そんな世界…要らない……。愛なんて……要らない……)

【君が世界から愛を奪うことは許されない】

(嫌だ……なくしてやるんだ……そんなもの……)

【君がそう望む限り、俺は君を殺すしかないんだよ、ゼクサス】


スノウは、台座からログニスを引き寄せた。


(そうだ…この未来……この未来だけだ…ゼクサス、君を倒せるのはね…)


俺はこれまでに、何千…いや、何万もの未来を見てきた。その中でたった1つ、君を倒せる未来を見つけたんだ…。


それは俺がね、君と一緒に死ぬ未来だよ、ゼクサス…。


ログニスは、ラグナスと同じように、ゼクサスに刃を向けて近づいてくる。


「ゼクサス! …っ?!」


ヌゥとヴェーゼルは、スノウに時を止められてしまった。


(う、動けない…?!)


「父さんに母さん…もう邪魔はしないでよ…。この未来が1番いいんだ。2人共、幸せになってよね、俺の分まで…」


(スー君?!)


ヌゥは口を開くスノウの身体を見て、この力が彼によるものだと察した。


「駄目だよ! スー君!」


このままじゃ、スー君の身体ごと、ログニスがっ…!!


スノウは、ヌゥの方をちらっと見て、にっこりと笑った。


「ごめん。ログニスはもう俺にも止められないよ。これでさよならだね、母さん」

「駄目だって! スー君!!!」


その時、ヌゥの身体が動き出した。

ヌゥはハっとして、超加速してゼクサスとログニスの間に入り込む。


「なっ…時を止めてるんだぞ?! あり得ないっ…!!」

「スー君!!」


そんな未来、俺は許さないよ…!


子供を犠牲にして、幸せになる未来なんて、そんなの要らない!


だって俺はスノウの母親だから!


君の幸せが、()()にとって何より1番大切なんだ!!


(ねえ、そうでしょうアグ)


アグはうっすらと目を開けて、ヌゥに全てを託した。


スノウは愕然とした様子で彼らを見ていた。


【気絶…してなかった?! これは……時送り?! 父さんは俺の能力をトレースしていた……?!】


くそ……時は止められないのか…

だけど送るだけなら俺にだって…


ヌゥ、ごめん……

任せていいかな……


守るよ、スノウ。

君だけは…。


「だっ、駄目だよ母さん! 来ないで! 来ないでぇ!!」


だって親が子を守るのは当たり前だよ。

命なんて惜しくないよ。


だって俺は君の、母親だからね。


ヌゥはスノウ抱えては飛び退いた。


「?!」


ログニスは1人でに向きを変えると、またこちらに向かって襲ってくる。


「無理だよ! 止められないんだよ、ログニスは!! 魔王を倒すための武器なんだ! 俺を殺すまで襲ってくるんだよ! もう、そういう未来なんだ!!」

「やってみないとわかんないよ!」


ヌゥはスノウを守るようにログニスの前に立ちはだかると、ログニスをその身体で受け止めた。


「母さんっ!!!」


ヌゥの胸元を、ログニスは一瞬で貫いた。

すると、ログニスはその勢いを止めた。


「母さあああああんっっ!!!! うぁあああああ!!!!!!」


スノウはその身体で泣き叫んで、ヌゥはふらっと目を閉じると、その槍に覆いかぶさるようにして倒れた。
















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