君はイカれた戦争兵器
「お前、死んだんじゃなかったのお?」
メリが言うと、ソヴァンは言った。
「ずっと前にメリさんがくれた棒切れあったでしょう。あれで僕を作ったんですよ!」
「はあ?」
「あの棒はね、持ち主の偽物を作れる武器なんですよ。しかも僕の意思で簡単に操れるんですよ〜!」
ソヴァンがそれに気づいたのは、メリから棒をもらった少しあとだった。
自分の部屋で両手で棒を握りしめると、自分の姿に変化したのだという。
「棒はもう跡形もなくなっちゃって、消えちゃいましたけど」
ソヴァンは残念そうに言った。
「…なんで気づいたときに言わなかったのぉ?」
「いや、将来メリさんと3人で遊ぼうかなあって!」
「…?」
「うん?」
ソヴァンはこのフィールドにやってきた時、アルテマの様子を見て、先に偽物を戦いに向かわせ、自分はメリの出した大量の盾の影に隠れて様子を伺っていたのだという。
「よくあの心臓を撃ち抜けたねぇ! しかも一撃で!」
「ああ、あれね、外から見てると、動きが規則的だったんですよ。次にどこにくるかわかっていれば、どんなに速かろうが、当てられます!」
ソヴァンはメリに銃口を向けてドヤぁという表情を浮かべてにっこりと笑った。
「ふん…あんたもなかなか強いらしい! それじゃあこれから、私と殺し合いして遊ぼうよ!」
メリはそう言うと、剣を作り出してその手に構えた。
「ええ? そんなことしたいんですか? それよりせっかく2人共無事だったんですから、抱きしめ合いましょ〜よ!」
ソヴァンは両手の平を軽く彼女に見せては笑っている。
「あんた、この女のことが好きなんだって? くく…。でも残念だけど、こいつの身体は私が乗っ取った。もう返してやるもんか! あんたそれでもこいつのことを好きだなんて言えるのか!」
そう言ってメリは、自分の身体からたくさんの針を突き出した。
「そんなに抱き合いたいなら、ほら、抱きしめてよ?」
メリは針山のような自分の身体を彼に向けて、意地悪そうに笑った。
しかしソヴァンは躊躇いなく、彼女にぎゅうっと抱きついた。
ソヴァンの身体にグサグサと、その針が突き刺さった。
「え?!」
(こいつ、イカれてんのぉ?!)
ソヴァンは彼女の身体に触れるまで、力を入れた。
針は彼の身体深くまで刺さっていったが、彼は笑っている。
「……」
メリは驚きのあまり何も言えず、彼に抱きしめられたままだった。
「何で…頭おかしいんじゃないのぉ?」
「どうしてですか?」
「本当に抱きしめる奴があるか…」
「だって、抱きしめてよって言ったじゃないですか」
ソヴァンはケホっと血を吐いた。
身体中の針穴から、血が滲んできた。
「わからないの? 私はあんたの好きなメリじゃあないんだよ」
「いえ、あなたもメリさんの一部なんでしょう? だったら僕は、あなたのことも愛してる」
「はぁ?!」
「大好きですよ」
ソヴァンは笑って、彼女の耳元で囁いた。
「!!」
メリは困ったような表情を浮かべて、針を取り下げた。
「げほっ、けほっ……っはぁ……ハァ……」
一気に針を抜かれ、身体から血が飛び散った。
ソヴァンはそのままうずくまった。
「ば、バカじゃないの?! 死にたいの?! そんなに死にたいなら、殺してあげるわよ!!」
メリは剣をソヴァンに向けた。
ソヴァンはそれを見上げていた。
「メリさんに殺されるなら、文句はありません」
「はああ?! だから私は、メリじゃないから!!」
「僕はね、メリさんの全てを愛してるんです。だからあなたのこともね……けほっ…大好きだから……いいですよ、何しても」
「……」
メリは目を見開いて、言葉を失った。
(私のことも、好きなの……?)
そんなこと、言ってもらったことなんてないから、
わからないよ…。
皆私をイカれた呪人だと言って
奴隷のように扱って
この身体の女も私のことなんて嫌いで
出てけ出てけって言われて
私は……
私は……
メリは剣を捨てると、意識をおとした。
「あ、メリさん……」
メリはそのまま床に倒れて気絶した。
ソヴァンは咳き込みながら、彼女の元に歩み寄った。
前にメリさんから、話だけは聞いていた…。
自分の中には戦闘狂の呪人の核が住んでいるんだと。
メリさんはそれを嫌がっていた。
僕に話すことも嫌がっていた。
僕が怖がるんじゃないかとか、自分のことを嫌いになるんじゃないかとか、思っていたんだって。
そんなことは全然ないのに。
やっと会えたと、思ったんだけどなぁ……。
「けほっ…ゲホっ……」
ああ……身体中が痛い……
まあでもいいか、メリさんは無事みたいだし…。
はぁ……疲れた…
ソヴァンもそのままそこに倒れると、目を閉じた。
(……)
メリの呪人の核は、脳内でメリと対峙していた。
メリはその時初めて、その核が呪人だった時の姿を見た。
それは金髪のツインテールをした女だった。
目つきは悪く、その右腕は剣になっていたり、膝下からはトゲが生えていたりと、全身が武器になっている機械のような姿をしていた。
これまでは怖くて、絶対に会わないように心を閉ざしていた。
でも今日初めて、こいつに会おうと思って、私は心を開いて待っていた。
(初めて会ったわね)
【きゃはは! あんたが会いに来なかったからねぇ!】
(戦争兵器として作られた呪人だったんだって?)
【そうだよぉ! あたしの生きる意味なんてそれしかなかったからねぇ!】
(名前は何ていうの)
【名前? そんなのあるわけないでしょ!】
女はイカれたようにケラケラ笑っていた。
(ソヴァンに酷いことしないでよ)
【知らないわよ! あいつが針山に突っ込んできたのよ。あんたのことどんだけ好きなの? 頭おかしいんじゃない?】
(ソヴァンはあんたのことも、好きだって言ってくれたわね)
【……】
ソヴァンが傷つきながら私の身体を抱きしめたのを、私も遠くから見ていた。
ソヴァンは私の中にいるこの子も、愛してくれるとそう言ったんだ。
だから私も……
(アルテマを倒してくれてありがとう)
【……はぁ? 倒したのはあいつだよ】
(あんたがいなかったら無理だった。だから、ありがとう)
【……私は兵器。戦うことが私の生きがいなのよ!】
あたしは数えきれないほど戦って生きてきた。
あたしは兵器だ。あるいは奴隷だ。
だから誰かを倒してお礼なんて、言われたことがない。
すると、メリは言った。
(辛かったのね、あんたも)
【!】
あたしはびっくりした。
そしてシェラの……いや、ブラントの話を、思い出しちゃったよ…。
(私、あんたのことが怖くて、避けてた)
【……】
(でもあんたは一生私の中にいるみたいだし、ソヴァンがあんたを受け入れるなら、私も受け入れようと思ったの)
【……】
(ごめん。今まで一度も、あんたのことを知ろうとしなかった)
あたしは呪人。
あたしとメリ・ラグネルは、どこか心が寄り添う部分があるはずだ。
核は無意識のうちに、宿り主を選ぶんだ。
そうじゃなければ、適合なんてしないはずだからね。
きっとそれは、メリが武器を愛しているからだ。
戦争兵器であるあたしのことも、そんな風に愛してくれるんじゃないかとでも、思っていたんだろうか。
それに…
(あんた、ヌゥ君のことかっこいい〜とか、昔言ってなかった?)
【言ったよ。だってかっこいぃじゃん! 顔が! それに強いし!】
(じゃあソヴァンのことはどう思う?)
【子犬みたいで可愛い! 強いし! だけど頭がおかしい!】
(私もそう思うわ!)
この女は、私と好みが似ているんだ。
(あんた何でアリスちゃん知ってるの?)
【暇つぶしにあんたの記憶で読んだからさ】
ヒズミのことをアリスと呼んで親しんでいた。
アリス好きに悪い奴はいない、とシエナが言っていたっけ。
(あたしたち、友達になれるかな…)
【はぁ? あんた私と友達になりたいっての?】
(なってもいいかなって、思っただけよ!)
友達か…。
シェラもブラントに、友達になろうと言ってくれたんだっけ。
その頃ブラントは、誰がなってやるもんかと思って、悪態ついたと言っていたけれど。
だけどブラントがシェラを選んだように、
あたしもメリを選んだんだろう。
心は寄り添えるはずだ。
【まあ、なってやってもいいよ! きゃはは!】
(ほんと? ありがとう!)
メリは笑った。
(でも身体は返してもらうからね)
【いいよ。あのイカれた男にまとわりつかれるのは、あたしは嫌だからね!】
(結婚するんだから、一生そばにいるのよ!)
【あんたもイカれてるよ! イカれ同士、お似合いだ! 好きにしたらいいんじゃん! きゃははは!】
女もケラケラ笑った。
メリはイカれた呪人とそんな話をして、ちょっとは彼女に心を許した。
たまには脳内で話をしてやってもいいか。
武器の話も好きなモノの話も、気が合いそうだからね。




