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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
最終章

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301/341

対峙するその敵

「きゃあ!!」

「っ!」


スノウを抱いたベルとベーラは、1つの部屋に飛ばされた。

そこは非常に広い1つの部屋で、扉もドアも何もない。


「オギャアア!!」

「スー君! 怖かったですね! ああ、よしよし!」

「ほらほら、シャラララ〜」


ベーラはスノウお気に入りのガラガラを創り出すと、耳元で振ってみせた。


「ふぅ〜」

「泣き止みました!!」

「これであやしてろ」


ベルはベーラからガラガラを受け取ると、スノウの耳元で鳴らした。スノウはどことなく嬉しそうにしている。


(何なんですかこのガラガラは…いや、それよりも…)


「どこなんでしょうかここは……」

「さあな」


するとまもなく、1人の男がベーラたちの前に現れる。

兜を被っていて顔が見えない。非常に頑丈そうな鎧を全身に纏っている。体格からして男で間違いなさそうだ。


カシャンカシャンと鎧を鳴らしてこちらに近づいてきた。


「シャドウか」


ベーラはベルたちを守るように立ちはだかると、鎧の男は剣を抜いた。

鎧の男、オーラからしてレアで間違いない。


「ベル、離れてろ」


ベーラに言われ、ベルは壁ギリギリまで後ろに下がった。


(スー君……)


ベルはスノウをきゅっと抱きしめて、自分の背で彼を守るように抱いた。


鎧の男はベーラに向かって走り寄ってきた。ベーラは敵の足元に土の柱を次々に生み出して攻撃を試みる。

敵もうまく避けていたが、柱の1本がヒットした。


「?!」


(柱が上がりきらない?!)


土の柱は男に当たったのだが、跳ね返されるかのようにそれ以上伸びることができない。


(だったらっ……!)


ベーラは天井から、何本もの棘の生えた鉄板を男の頭上から勢いよく落とした。


「!!」


鉄板は男の兜に触れた瞬間、天井に向かって勢いよく跳ね返された。


「どんな攻撃も我には効かぬ! これが我の絶対防御!」


男はそう言うと、剣をベーラに向かって振りかぶった。

ベーラは鉄の盾を生み出してそれを防いだ。


(攻撃を跳ね返す鎧……? あれが奴の禁術なのか…?!)


ベーラは側面から土の柱を出すと、男に向かって放った。

鎧に触れる瞬間に勢いよく跳ね返って、壁にゴーンと柱がぶつかった。


(な、何なんですかあのシャドウは……)


ベルもまた、突然の奇襲と手も足も出ないその状況に、冷や汗を垂らしていた。




(どこだ?! ここは…!)


自身を包んだ光が弱まるのを感じると、ヌゥは目を開いた。


ピシャン


水が垂れて、水面に当たる音がした。


「!」


ヌゥは半径1メートルほどの小さな円の中に立っていた。

そして彼の周りは、全て水だった。


その水は遥か遠くの壁際まで広がっている。

かなり深そうで、底は見えない。

足場は自分の立っているこの円しかない。


そこはとてつもなく広い部屋で、天井も遥か頭上だ。

海のように巨大なプールの真ん中にでもいるような気分だ。


ヌゥはハっとして自分の右手を見た。


(ラグナスがない……)


手に持っていたはずのラグナスは、どこかへ行ってしまった。


(何なんだいきなり……それにゼクサスは…)


すると、ザバァァンンと音を立てて、巨大なシーサーペントがヌゥの目の前に現れた。

真っ白い身体に黄色い瞳の大海蛇は、ヌゥの何十倍もの大きさで、その姿を彼の前に現すと、ヌゥを見下ろした。


シーサーペントは複雑な表情を浮かべていた。


(昔のゼクサスに……ノアに瓜二つだ……)


「お前がヴェーゼルか……?」


ヌゥがシーサーペントに向かってそう声をかけると、そいつは非常に驚いた様子だった。


「お、お前は……」

「俺? 俺はヌゥ・テリー。君はゼクサスの仲間なの…?」

「……ヌゥ」

「…?」


ヴェーゼルはヌゥのその姿にさえ驚いたが、その声を聞いて更に驚嘆した。


「お前はスノウの母親か…?」

「!!」


ヌゥは目を見開いた。


「スー君を、知ってるの……」

「スノウはさっきまで俺の中にいた…。今はゼクサスの元に、戻ってしまったけれど…」

「そうなんだ…」

「俺の…俺の子どもたちは……」

「子供って、戦場に来ていたシーサーペントたちのこと…?」


ヴェーゼルは頷いた。


「時が止まったみたいに、皆固まってたよ…」

「そうか…」


(スノウがうまくやったのか…。しかし時が動くのも時間の問題だろうか…)


「君がヴェーゼルなんだよね?」

「そうだ…」


(ヴェーゼル…ゼクサスの仲間にそんな名前のシーサーペントがいるんだと、ベーラから話だけは聞いていた。こいつは俺の敵だ……だけど…)


ヌゥは大海蛇の彼を見上げた。

彼から何の殺気も感じられない。


「お前は…何なんだ……? ノアなのか……?」

「違うよヴェーゼル。俺はノアのコピーだ。ノアじゃない」

「コピー…」


カルベラの鏡でコピーされたのか。

こいつはノアじゃない…ノアじゃ……。


【何してるのヴェーゼル】

「!!」


ゼクサスの声がヴェーゼルに響いた。その声はヌゥには聞こえていない。

しかしゼクサスの姿はない。


【そいつは私の敵だよ。さっさと殺せ】

(ゼクサス…お前は今何処に…?! ここは何処なんだ?! ううっ!!!)


ヴェーゼルに激痛が走った。


そうだ…俺の中にはゼクサスの血が流れている……

俺は裏切らない…あの子のことは…絶対……


「ヴェーゼル?!」


ヌゥは心配した様子でヴェーゼルを見た。


(殺すんだ…ゼクサスの敵は…皆……)


シーサーペントは、ヌゥに向かって青い波動を吐き出した。


「っ!」


ヌゥは飛び上がると、その波動を避けた。

波動は直進し、遠くの壁にぶち当たると、激しい音を立てて壁に亀裂が入った。




「アルテマにしてやられたか」


ゼクサスは呟いた。

ログニス、ケリオン、デスサイズも、彼の元にはない。


「……」


ゼクサスの前には、茶髪の青年、アグの姿がある。


「ゼクサス……」


アグは対峙する憎悪の塊を睨みつけた。

アグはおぞましいオーラの憎悪にも、臆することはない。


俺はヌゥとベルから別の未来の話を聞いた。

そしてゼクサスは今、スノウの身体にいるのだと。


(初めて会った、こいつに…)


だけど、初めてだって気は全くしない。

俺は覚えている。

その昔、リアナの核を、こいつと取り合った。

俺の中の、ラディアが…。


「君は確か、アグだっけ?」


ゼクサスは言った。


「スノウの身体から出ていけ…」

「そうか。君がこの子の父親か」


ゼクサスは自分の手のひらを見ながら言った。


「出ていけよ…」

「嫌だと言ったら?」

「殺す…!!」


アグは凍術を使った。

氷柱がゼクサスに向かって放たれる。


(こいつ…こいつを倒しさえすれば、俺達の勝ちだっ!!!)


ゼクサスは闇の腕を体内から現すと、氷柱を払った。


「出し惜しみはしねえぞ! ゼクサス!!」


ゼクサスの後ろから、黄色いケビンが姿を現す。

ゼクサスは振り返ってそれを見ると、自分が殺したはずのゾナの術だと気づいて目を見張った。


ゼクサスはケビンから遠ざかろうと、その足を動かすよう試みたが、地面から引っ張られたその力に一瞬動きが止まった。


「?!」


ゼクサスの足を引っ張っているのは、自分の影だった。


(これは…、カルベラの?!)


ケビンはその目を光り輝かせ、そのスキをついてゼクサスを異空間に飛ばした。

アグはそれを見て、驚きと共に一瞬歓喜した。


(やった…)


アグもそのまま、異空間に飛んでいった。




「どういうこと? 何であんたが私をここに連れてくるわけ?!」


メリはアルテマに問うた。


「お前だけじゃない。あの場にいた者は全員連れてきた。皆で神の力を取り合おうぞ。強い者だけが、神の力に近づけよう」

「私だけじゃなくて、皆も…?! 同じように、誰かと対峙しているってこと?」

「そうさ。こちらはゼクサス、ヴェーゼル、私と、レアが3人。お前たちは8人、ああ、赤子をいれれば9人か」

「……」

「お前たちの方が数が多いからな、まあ多少のハンデはくれてやろう」

「神の力を取り合うってどういうことなの?!」


アルテマはひたすらに平然とした様子だ。


「勝った方が、4つの武器の元に行くことができる。それだけだ」

「何で…何であんたの相手が私なのよぅっ!!」


メリは泣きそうになりながらアルテマを指さして叫んだ。


「……」


アルテマは少し白々しい目でメリを見ていた。


「もっと強い奴を相手に選びなさいよ!! 弱い私を選ぶなんてあんたずるいわよ!!」

「……何を言ってるんだお前」

「あんたがバトルオーダー組んでんでしょ! ずるいわよ! 自分の相手を弱くするなんてさあ!」

「……」


(ああ! 私を今はとんでもなく情けないこと言ってる!! でもしょうがないじゃない!! こんなに強そうな奴、会ったこともないんだもん!!!)


「私は弱い奴と闘う気などない。お前は強い。ここにいる誰よりも、戦闘狂だ…。私は力が欲しい…。しかしそれは、強者と戦いたいというこの欲望を叶えるためだ」

「はぁ?!」

「私は神と、戦いたいのだよ!」


アルテマはそう言うと、メリに向かって炎の球を投げつけた。


「お前らはそのお膳立てさ! 楽しませてくれよ!」

「きゃあ!!」


メリは死ぬ物狂いでそれを走って避けた。

魔法のようなその球は、地面に当たると激しく爆発して、煙が視界を遮った。


(無理無理! 見るだけでわかる!! 私の敵う相手じゃないわよ!!)


メリは泣きそうになりながら、巨大な盾を次々にたてて攻撃を防ぎながら身を隠し、そのフィールド内をひたすらに走って逃げた。









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