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報告会議

(もう! ヌゥの奴勝手に勘違いして! 私はジーマさんが心配で様子見にきただけだっての!)


シエナはアグの部屋のドアを睨んだまま立ち尽くした。


(どうでもいいの! アグのことなんて!)


そうは思いながらも、シエナもアグの身体を心配していた。手術は成功したとベルが言っていたから大丈夫なんだろうけど、死んでもおかしくなかった傷だったとベーラが言っていた。


シエナは一度アグの部屋のドアノブに手をかけたけれど、すぐにその手を離した。


(やっぱり関係ないわ。私には)


そう思って、シエナは廊下を歩き出した。すると地下から階段を上がってやって来る仲間の声が聞こえた。ハルクとヒズミだ。


「ああもう! あの殺人鬼を追い出すのに失敗したやないですか! ハルクさんももっと反論してくださいよ! ヌゥがおったらまともに会話もできひんとか言うてましたやん」

「言いましたけど、別に私は脱退に賛成していたわけではないですし」


ヌゥの在住が決まり、ヒズミは半泣きであった。そんな彼をハルクは冷たくあしらっている。


「そんなに嫌だったなら、ヒズミさんが自分で言えば良かったでしょう。途中から黙って聞いてるだけだったじゃないですか」

「いや無理ですよ! レインさんの顔見ました?! わいのことめっちゃくそ睨んでましたからね! あんなん怖すぎて何も言えませんて!」


仲間のレインに怯えるヒズミを見て、ハルクは深いため息をついた。


「ベーラさんが服従してくれたから大丈夫ですよ。あなたが殺されることはありません」

「せやけど、なんか一緒のアジトにおるだけで……ああもう怖くて寝れませんよ!」

「もう決まったことなんで、諦めたほうがいいですよ。私は研究の続きがあるんで、それでは」

「ああ! ハルクさーん!」


ハルクはヒズミを放って、研究所へ向かってしまった。


その一部始終を見たシエナは、白けた様子でヒズミに近寄った。


「ヒズミあんた、何騒いでんの」

「シエナ〜!!」


ヒズミはシエナを見ると、怒った様子で彼女に食ってかかった。


「酷いやないか! 裏切るなんて」

「はあー?! 何の話よ」

「ヌゥって殺人鬼を脱退させた方がええって、シエナも言うてたやんか」


言いがかりをつけるヒズミに、シエナはそのお姫様みたいな顔を鬼みたいに引きつらせた。


「仕方ないでしょ! ジーマさんがどうしてもって言うんだから!」

「ジーマさんがヌゥに何かされたらどないするん!」

「はあ?! されるわけないじゃない! ジーマさんを馬鹿にしてんの?!」

「馬鹿にはしてへんけど…」


(せやけどあの人ヘラヘラして、わいらに仕事ふるだけやん…。ヌゥに襲われたらひとたまりもないんちゃう)


何て言おうものなら、今度はシエナに殺されかねないと、ヒズミは言葉を飲み込んだ。


「とにかく! ジーマさんがヌゥにいてほしいって言うなら私は反対しないわ! この部隊のリーダーはジーマさんよ。ジーマさんの言うことは絶対なの!!」


ぐいぐい言い寄るシエナにヒズミは呆れ顔だ。二周りも離れた男のことをどうしてそんなに好きなのか、ヒズミには彼女の考えは理解できない。


「どんだけジーマさんが好きやねん…」

「そんなの、世界一に決まってるじゃない! 20歳になったら結婚するんだから!」


シエナはまた彼との麗しき未来を妄想すると、目をハートにさせた。


「そうかいな。好きにしたらええわ。でもシエナ、風呂は覗いたらあかんて」

「覗いてないわよ! 堂々と入っていったじゃない」

「もっとあかんって!」


シエナは「うるさいわね!」とヒズミを怒鳴りつけると、ジーマの部屋の方へと向かっていった。


「あんなガキに好かれて付きまとわれるなんて、わいやったら耐えられへんわ」


ヒズミは小さな声でそう言った。


(レインさんが食堂行ったからつい気まずくて上がってきたけど…やっぱり腹減った。外に何か買いに行かなあかんな〜)


ヒズミが廊下をうろついていると、空室だったはずの部屋のドアがガラっと開いた。


「やっと報酬金の袋見つけた! ベーラったら勝手に引き出しにしまうから、探しちゃった! 食堂もお金がいるんだもんね!」


ドアから出てきたのはヌゥであった。ヒズミはその姿を見て「ぎゃっ!」と声を上げた。


「うん?」


ヌゥは声のした先を見た。しかしそこには誰もいない。


「あれ? 何か声がしたのに」


ヌゥの目に映っているのは廊下の壁だけだ。人影は1つもない。


「まあいっか」


ヌゥは気にせず階段を降りて食堂へ向かった。彼の姿がなくなったのを確認すると、ヒズミは隠れ身の術を解いた。


(あっぶ〜〜!!!!)


ヒズミは腰が抜けてそのまま床に座り込んだ。


「もう嫌や……こんな職場……」


ヒズミは頭を抱え、涙ながらにそう呟いた。





午後13時前、地下五階の大広間に誰よりも先にやってきたヒズミは席に座るとうつ伏せた。次にやってきたのはジーマとシエナであった。


「あ、早いね〜ヒズミ。感心感心」

「ちょっとヒズミ。そこ私の席なんだけど!」


部屋の最奥に座るジーマのすぐ近く、向かって左のその席には、いつもシエナが座っている。しかし何故だかヒズミがその席を陣取っている。当然シエナは怒った様子でヒズミに言いがかった。


「席とか決まってないねん。早いもん勝ちや」

「はぁ? だからって何でジーマさんの隣に座るのよ!」

「そら、ここがベスポジやからに決まっとるやろ!」


ヒズミは眉を釣り上げシエナに言う。


「ジーマさんの隣がいいなら反対側に行きなさいよ!」


ジーマの左隣にはいつもレインが座っている。ヒズミはブンブンと首を振った。


「あかん。そっちはレインさんの席やし。それに、そっちサイドはあの殺人鬼が目に入る。お前は他のとこ座れや」

「はあー? ヒズミあんた、ヌゥのこと避けて私の席に座ってんの? どこ座ったって一緒よそんなの! 馬鹿じゃないの!」

「うるさいうるさい! わいはあの子の顔が視界に入るだけで寿命が縮まりそうになるんや!」

「んもう! いいからどきなさいよ! このクソビビリ野郎!!!」


シエナはヒズミを席からどかそうとするが、ヒズミはそこから離れまいと必死で抵抗した。ジーマは会議の準備をしているだけで2人のことは気にもとめていない。


「おい! うるせえぞガキ共!!」


レインが怒鳴りながら会議室のドアを蹴飛ばした。その後ろからもベーラ、ベル、そしてヌゥと、食堂から直接きたのであろう隊員たちがぞろぞろと部屋にやってくる。その後からハルクもやってきて、全員が揃った。皆は着々と自分の席についていく。ヒズミの隣を1つ開けてベル、その横にヌゥ。いつもシエナが座るその隣の空席は、今は派遣で不在のアシードの席であった。逆サイドは前からレイン、ハルク、そしてベーラだ。


未だにシエナとヒズミがもみ合っているのを見てレインは言う。


「何やってんだお前ら」

「ヒズミが私の席に座るんだもん!」

「早いもん勝ちやの。わいはこの席がええんや」

「駄目よ! ジーマさんの隣がいいんだもん!」


ヒズミは断固として席を譲らない。レインは拳で机をドンっと叩いた。


「おいヒズミ! ふざけてんじゃねえよ! 早く自分の席につけ!」


レインはベーラの隣を指さした。それはヌゥの真正面の席であった。冗談じゃないとヒズミは思った。


「わいはここがいいんです! 勘弁してください!!」

「何をわけのわかんねえことを!!」

「ふーん! 今日は席替えなの? だったら俺はヒズミの隣座っちゃおう〜!」


ヒズミが顔を上げると、ヌゥが自分の隣にいた。狂気としか思えない笑顔を自分に向けている。ヒズミは彼と目をばっちり合わせると、凍りついたように固まった。


「俺のこと覚えてるよね! ヌゥだよ。ヌゥ・アルバート!」


ヌゥはヒズミの肩に手をぽんと置くと、自分の顔を指さしながらニッコリと笑って見せた。そしてその瞬間、ヒズミの姿が消えた。


「ありゃ?」


そしてまもなく、ヒズミはベーラの隣の自分の席に現れた。そのまま顔を横に向け、ヌゥを視界から遠ざけた。ヌゥは驚いて目をぱちくりとさせた。


「何今の! 瞬間移動?!」

「そんな忍術あったか?」

「隠れ身の術で移動しただけでしょ! バーカ!」


シエナはそそくさと自分の席に腰掛けた。


(うふふ! やっぱりここじゃなくっちゃ! どのジーマさんもかっこいいけど、この角度、たまらんわ〜〜!)


シエナのハート光線も気にすることなく、ジーマは手をぽんと叩いて話を始めた。


「皆席についたみたいだね。それじゃ、遠征結果の報告をしてもらおう」


ジーマが言うと、各々の前に紙とペンが現れた。ベーラの呪術である。


「わーお」


ヌゥは小さく呟いた。筆記用具は呪術で完備とは無駄がないな〜とヌゥは思った。右隣ではベルが『報告会議』とタイトルを書き、その横に今日の日付を記入していた。それを見たヌゥも真似をして、同じように紙に記入した。


「今回も貴重な情報が多く入ってるよ。それじゃ、ヒズミから」

「はい…。ああ…えっと……わいは2週間、ウォールベルト国に侵入して研究の様子を調べてました…」


ヒズミがブツブツと喋りだす。斜め前のヌゥをちらちらと気にしている様子だ。


「おい、何そわそわしてんだ! いつもみたいにベラベラ話せよ」


レインに怒られ、ヒズミはヌゥと目を合わさないようにしながら何とか報告を終えた。


内容は禁術使い改めシャドウについてのことや、新しく生まれた強いシャドウ・ダハムの誕生などだ。


ヌゥはヒズミの様子など気にすることなく、熱心に報告を記入していく。それを見たシエナはヌゥに小声で話しかけた。


「ちょっとあんた、議事録じゃないんだから。そんなに全部メモらなくてもいいのよ」


シエナはペンを持ってすらいなかった。向かいのレインも同様だ。他の者も重要なことをメモするだけで、ペンをせかせか走らせているのはヌゥだけであった。


「ああ、でも書いておかないと、全部は覚えられないから。俺はそんなに頭よくないからね」

「別に全部覚えなくたっていいのに」


シエナがバカにしたようにヌゥを見ると、ヌゥは笑って答えた。


「後でアグに教えてあげたいから。会議の内容」

「……」


(ほんっとに仲がいいのね!)


シエナはそれだけ思って、彼に話しかけるのをやめた。その様子を聞いていたベルは、ふふっと笑っていた。


続いてシエナの報告が始まった。マリーナの森で禁術使いを捕えた件と、シプラ鉱山が封鎖に陥った経緯を説明した。


「毒を渡した奴は見つかったのか?」

「ううん。毒をまいた男を捕らえて話も聞いてるみたいだけど、進展なし。犯人がウォールベルトとの接点があるかどうかも不明よ」

「シプラ鉱山はここらじゃ1番でかい鉱山だろ。あそこがなくなったら都合が悪い国がほとんどなんじゃねえの。毒をまく目的はなんなんだ」

「わかりませんね…。とにかく、金属関係の素材の物価が上がることが予測されます。次に大きいテレザ鉱山は、ここからは結構遠いですからね…」


続いてハルクが研究についての報告を行った。


「禁術解呪の薬はアグさんと開発中ですが、正直かなりいいスピードで進んでいます。今回必要な素材をシエナさんたちが手に入れてくれたので、かなり強力なものができると思います」

「禁術が解けるの?」

「そうです。まだ実験途中ですが、今の段階で呪術によって変化した動物を元に戻すことには成功しています。禁術には物の大きさを変えるものがあるのがわかっています。この対象には今の薬だけで有効だと考えています」

「うん。間違いないわよ。禁術で巨大化したクモを元のサイズに戻したもの。アグが使ったのはその薬だと思うわ」

「そのようですね。アグさんからまだ話を聞かないうちに、彼があんなことになってしまったので…。薬が効いてよかったです。最終段階としては、術者に薬を飲ませ、禁術を使えなくさせることを考えています」

「それはすごい! アグ君を連れてきた甲斐があったよ!」

「悔しいですが、彼なしでは完成し得なかったと思います」


ハルクの報告は、皆がアグの凄さを認めるものとなった。


(すごい……すごいよアグ…!!)


ヌゥも目を輝かせながら、その話を聞いていた。


そして最後に、レインが遠征結果を話し終えた。この件についてはヌゥもよく知っていたので、ペンを机に置いて話を聞いた。


議題は禁術使いの身体構造についてだ。


「人間じゃない? 禁術使いが?」

「おそらく、呪人に似た何かだと考えて構わないと思う。奴らはシャドウと呼んでいるそうだな」

「そない呼んでましたわ。ほんま、シャドウってなんなんや…」

「とにかく、人間じゃないことは間違いないぜ」

「ロボットみたいに大量生産されるのは厄介だ」


皆は口々に意見を言い合う。ヌゥも話においていかれないようにと真剣に耳を傾けた。


「シャドウを増やされるのは厄介だけど、奴らの国に攻め込むのはまだ難しいというところだろうか…」

「そうは言ったってジーマ、このまま放っておいたら、強いシャドウがどんどん生まれちまうぜ。風を操るだけのシャドウにだって手を焼いたってのに」

「そうなんだよね…」

「やっぱり、早いとこヒルカって研究者をとっ捕まえたほうがいいんじゃねーの?」


レインがジーマに意見していると、一羽の白いハトがジーマの元にやってきた。首には手紙をぶら下げている。


このハトは、国王との連絡手段としてベーラが生み出した呪鳥の伝書鳩だ。名前はポポ。国王からの手紙を、ジーマがどこにいても運んできてくれるのだ。


「どうやら仕事みたいだねぇ」


ジーマは手紙を読み終えた。


「お疲れ様。ポポ」


ベーラはポポにそう声かけた。ハトはポッポーと鳴いて、国王の元へと飛び立っていった。


「また禁術使い…シャドウが現れたってか?」

「そこまではわからないけど…ある国の調査依頼だよ」

「どこですか? ジーマさん」


ジーマは国王の手紙を皆に見えるように広げて見せた。


「無法地帯アリマ?!」

「なっ…あそこですか…?!」


シエナは苦い表情をした。他の皆も顔が強張っている。


「それ、どこなの?」


これまで話を聞いているだけだったヌゥが、口を開いた。隣に座っていたベルが答えた。


「ここから遥か西にある島国なんですが、法律や政府が存在していない国で、治安は最悪のところです。殺人や拉致が絶えない場所で、近づいてはならないとされている場所です」


とにかく危険な場所であることはヌゥにもわかった。


「何でそんなところにわざわざ調査を……」

「その国から、大量の死体が運ばれているみたいなんだ。ウォールベルトに」


皆は不審な表情を浮かべた。


「まずアリマに入国しようってだけでただ者じゃねーのは間違いないな」

「人間のいくところじゃありませんから…シャドウが入国している可能性も高いですね」

「問題は、誰に行ってもらうかだね」


ジーマは皆の顔を見回した。誰もが不安な表情であった。


(そうだよね…あそこに行きたい人なんていないよね。仕方ない、今回は僕が…)


「俺、行くよ!」


すると、ヌゥがすかさず手を挙げた。


「ぬ、ヌゥさん! アリマがどんな国か知らないでしょう?!」


ベルは焦った様子だったが、ヌゥは平然としていた。


「無法地帯でしょ。誰も行きたくないみたいだし、俺が行くよ」


そんなヌゥを見てジーマはクスッと笑った。


「ありがとうヌゥ君。今回は僕も行くことにするよ。危険な場所だからね」

「え? ジーマさんが?」

「はは…ヌゥ君とも仕事してみたいしね」


すると、シエナが立ち上がった。


「じ、ジーマさんが行くなら、私も行きます!!」

「え? あのアリマだよ? いいの?」

「嫌ですけど、ジーマさんが行くなら行きます!」

「そう? じゃあシエナにも来てもらおうかな。いや〜心強いね」

「ま、任せてください!」


シエナは目をキラキラとさせて頷いた。


「ひえ〜愛の力は偉大やな。わいは絶対に嫌や。行ったことはあらへんけど、話聞くだけで恐ろしいわ」

「ヒズミも、来てくれるかな?」

「な、何でですか?! 今わい、絶対に嫌やって言いましたよね?」

「内容が国の調査依頼だし、忍術が必要なことも多そうだしさ。潜入捜査は得意でしょう?」

「得意やないですよ! あなたが無理矢理やらせてるだけでしょう! いやいや、ちょ、ジーマさん…ほんまに勘弁してくださいよ!」


ヒズミは泣きそうになりながら立ち上がって口論したが、ジーマはニコニコ笑ってもう何も言わなかった。

レインはお気の毒にという面持ちで笑っていた。


「ちょ! レインさん! 代わってくださいよ!」

「無理だ、俺は忍者じゃねーから」

「ハルクさん!」

「私は開発・研究チームなので、関係ありません」

「ベーラさん!」

「チームは多くても4人が最適人数だ。ジーマの言う通り、呪術よりも忍術の方が調査依頼に向いているのは明らかだろう」

「べ、ベル〜!」

「頑張ってください! ヒズミさん!」


そしてヒズミは、ベルの隣のヌゥと目があった。


「あ! ヒズミ! よろしくね! 忍術見るの楽しみだな〜」


ヌゥはヒズミに向かって、笑顔で軽く手を振った。


(そうやったぁぁああ!! この殺人鬼も一緒やんかあああ!!! 最悪や! ほんまに最悪や! うわあああああああ)


ヒズミは死んだように机にうつ伏せた。


「それじゃ、アリマ捜査チームは明日の朝出発にしよう。各自で準備しておいてね。僕が不在中の引き継ぎもしておかないとね。悪いけどベーラは僕の部屋に来てくれる?」


ベーラはコクリと頷いた。隊長不在時の引き継ぎは彼女に行うようだ。他の者も当然かといった様子であった。


「それじゃ、今日の会議はここまでにしよう」


ジーマがぽんと手を叩くと、会議は終わりを迎えた。ベーラはジーマについて先に引き継ぎに向かった。


長丁場だった会議が終了し、皆はうーんと身体を伸ばした。


「〜っし! ハブだハブ! 行こうぜハルク」

「まあ、たまにはいいでしょう」

「や〜っと終わった! ねぇベル! 大浴場いかない?」

「いいですね! 行きましょう」


レインとハルクは外の酒場へ、女の子2人は大浴場に向かうようだ。ヌゥは懸命にまとめた今日のレポートを大切に手にとった。紙は3枚にもわたった。


「ヌゥも行くか〜? ハ〜ブ!」


レインはおちょこをクイッとやる素振りをヌゥに見せた。ヌゥは首を横に振った。


「ううん。アグに会議の内容教えに行くから今日はいい」

「あっそ。じゃあまた今度行こうぜ。ヒズミは? ………死んでるか」


ヒズミは未だに机にうつ伏せ意気消沈している。


「ま、アリマじゃしゃあねえな〜。ご武運を祈るぜヒズミ。はははっ!」


レインはヒズミの背中をバシバシ雑に叩くと、ハルクと共に行ってしまった。


大広間にはヌゥとヒズミだけが残っていた。ヌゥもすぐにアグのところに向かいたかったけれど、何となくヒズミのことが心配になってしまった。


(アリマってそんなにやばいところなのかな…)


「ヒズミ、大丈夫?」


ヌゥはヒズミの背中にぽんと手をやった。ヒズミは気絶しているわけではなかった。ヒズミはヌゥの声にハっとして、反射的に彼の手を振り払った。


「触らんといて!!」


ヌゥはびっくりして手をすぐに引っ込めた。持っていたレポートが宙に舞った後、地面に散乱した。


「ご、ごめん……」

「殺人鬼のお前と一緒にアリマ?! 勘弁してや!」


いつもヘラヘラした様子のヌゥが困惑したような顔をしたので、ヒズミは一瞬驚いた。しかしその後すぐにやらかした!と思ったヒズミは、逃げるようにその場を去った。


(やばいやばい! 殺人鬼の手はたいて暴言吐いてもうた!! 絶対怒ってる! 怒ったら……殺されてまうう!!!)


ヒズミはドタドタと音をたてながら、あっという間に階段を駆け上がってしまった。


「………」


ヌゥは黙って落ちたレポートを拾った。その後広間の電気を消して、アグの元へと向かった。



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