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海の魔族、増援

「妖精……?!」


ヴェーゼルは目を見張った。


「裏切り者の魔族の代表格か」


ゼクサスは呟いた。


「カリストのメテオを防ぐだと?!」

「あんな弱そうな奴らにそんな力が?!」


レアたちは騒々しく口を開いた。


「妖精は精霊に近く、その個々の持つ力は絶大なんだよ。まあ全員が戦闘に向いた力を持っているわけではないだろうがね」


ゼクサスは冷ややかな目で呟いて、妖精の群れを見ていた。

ヴェーゼルは安堵して深く息をついていた。


「妖精の増援?!」


エリーは空を飛んで身を潜めていたが、妖精たちはエリーに向かって襲いかかってきた。


「いやっ! 来るな! 来るなぁぁ!!」

「私に宿りし風の力よ…目の前のこの女を切り刻めっ!」


薄緑色の髪の妖精が祈りを捧げると、激しいかまいたちがエリーに襲いかかった。


「サモン!」


エリーは自分の身を守るためにその前に鋼鉄の巨人兵を生み出したが、簡単に切り刻まれてしまった。


(嘘でしょ?!)


「きゃあああああ!!!!!」


エリーは襲いくる風に身体中を斬り刻まれ、頭と胴体がバラバラになって、地に落ちていった。


「エリー?!」


カリストはその妖精の力に目を見張った。


「一度防いだくらいで、いい気になどさせるものか!」


カリストは再び魔法陣を生み出したが、妖精たちは有無を言わさずサーベルを手に持ち、束になって彼にたかると、カリストに斬りかかった。


「ぎゃああああアアア!!!!」


アメリたちは予想もしない援軍に、目を輝かせた。

妖精女王はアメリと目を合わせると、にっこりと笑いかけた。

アメリは言った。


「どうして我々を、助けてくれるんだ……」

「私たちの国を、人間が助けてくれたからよ!」

「……」


妖精女王はぐーんと両腕を伸ばした。


「う〜ん!! ここは戦場、血の匂い!! 私の好きな香りとは真逆ね〜!!! 全く鼻がもげそうだわ!!」


妖精女王は、1番大きな白いドラゴンに話しかけた。


「それにしても、驚いたわ! ドラゴンが人間に手を貸すなんてね」

「きゅううん! だってゼクトはイースの家族だもん!」


イースに乗った黒髪の青年は、イースを撫でながら言った。


「もう駄目かと思ったぜ。妖精さん、ありがとうな!」

「とんでもない! さっさと全員片付けましょう!」


エリーが死んで、魔獣たちも皆消えてしまった。

妖精たちはそのままシャドウ軍団に襲いかかった。


「私に宿りし癒やしの力よ…ここにいるすべての者を救いたまえ…!」


妖精リネットは祈りを捧げると、負傷していた騎士たちもその力を取り戻した。


妖精の増援により、戦況は一気に翻った。



「このままじゃこっちの雑魚共が全員やられちまうぜ」


ヴェーゼルは呟いた。


「大丈夫さ。もうすぐ着くよ」

「着くって…?」


ゼクサスはヴェーゼルを見ると、似合わぬ笑みを浮かべた。


まもなくして、海の向こうから北西海岸からシャドウ軍団に増援が現れた。


「あっ……あれって……」


ヴェーゼルは青ざめた。


シーサーペントの群れが、海岸から戦場に向かってやってくるのだ。他にも海の魔族たちを引き連れている。


(俺の……子供………?!)


ゼクサスはふっと笑って言った。


「役に立ちそうで良かったね、ヴェーゼル」

「何で……何であいつらが…」

「私がお願いしたからだけど…? 海で生きている魔族を連れてきて一緒に戦おうってさ」

「……」


6匹のシーサーペントは、蛇のように陸を進んでいく。

その後ろを追うように、海の魔族の群れも陸に上がっていった。

アリゲイツや海の馬ケルピーの群れや、下半身が何匹もの犬の姿の女スキュラ、槍を持ったポセイドンまでやってくる。


スキュラたちは陸でも生きられる海の魔族だ。しかしシーサーペントだけは、海の中でしか生きられないはずだ。


「何で陸に上がれるんだ……」

「君が産んだからだよヴェーゼル。君は獣人なんだ。子供はどちらでも生活できるのだよ」

「……」


シーサーペントたちは数少なくなったシャドウ軍に合流し、ドラゴン、妖精、人間の連合軍に襲いかかった。


「何だあの魔物の群れはっ…!!」


アメリたちは安堵したのもつかの間、そのおぞましい姿の大軍に目を見張る。


「魔族の生き残り?! あんなにいるなんて……」


妖精女王も顔をしかめたが、怯みはしない。


「シャドウたちに手を貸すなら、同じ魔族だろうと容赦はしない! 皆、行くわよ!」

「はい! キサティ様っ!!」


まもなく魔族同士の戦闘も始まった。


スキュラは足の犬たちを自由自在に長く伸ばすと、空の妖精たちに噛み付いた。

ポセイドンはその槍から雷を打ち出し、ドラゴンに攻撃をする。


アリゲイツの群れはシャドウに混じって騎士たちに襲いかかった。強力な水鉄砲で後衛の弓隊や銃騎士たちを討ち取っていく。


しかしイースたちも負けてはいられない。

燃え盛る火炎を吐いて、シーサーペントを攻撃した。シーサーペントも波動を吐き出し、火炎に対抗する。

しかしそのスキに別のドラゴンがシーサーペントに噛みつき、その大海蛇の首から血を飛ばした。


「ああっ!!」


ヴェーゼルは傷つく我が子を見て明らかに動揺していた。


【ヴェーゼル! これ以上君の子供が苦しむのを見たいのか?!】


スノウはヴェーゼルに声を荒げた。


(やめろ……俺にはそんな感情あるわけないぃ……! 俺は魔族だ!! シーサーペントだっ!! 家族なんて……必要ないんだ……っ!!)

【何言ってんだ! 君が腹を痛めて産んだんだろう!】

(うるさい! どうなったっていいんだ子供なんてっ!!)


そうさ。勝手に宿って、勝手に産まれやがって…

どうなろうが知ったことかよ…

ゼクサスの役に立てるなら、調度いいじゃねえか…


ヴェーゼルの見ている傍ら、シーサーペントの子供たちはその戦争で大きく傷を負っている。


ああ、まだ産まれて数カ月しか経ってないんだよぉぉ…!!

身体だってまだ小さいんだ…力だってまだ弱いんだよっ……!!


【ヴェーゼル! 俺が助けるから!】

「っ!!」


ヴェーゼルの脳内で、スノウが手を差し伸べる。


(また……この手が……)


ヴェーゼルは泣きそうになりながら、スノウに手を伸ばした。


(助けて……スノウ……)


スノウはにっこりと笑って、その手を握りしめた。


ヴェーゼルの意識が、すっと遠のいた。

ああ、また何か夢を見ているんだろうか。

いや、違う。これはスノウの…心だ……。


『やっと…会えた………』


誰かの声が聞こえた。

スノウじゃない……。


何か見える。家……? 部屋の中……?

ぼんやりとしていて、色さえはっきりとわからない。

これはスノウが見た、景色なのか……?


オギャアア、オギャアア


赤ちゃんの産声が聞こえた。


スノウか。スノウが産まれたんだ。


ヴェーゼルはぼーっと、彼の心を覗いている。


スノウは誰かに抱きしめられている。

あたたかい……。

なんて、幸せな心地なんだろう。


『スー君…』


そうか。スノウの母親の声か……。


『おはようスー君…』


優しい声が聞こえる。

その声の主に抱かれて、揺られて、ああ、幸せ……

幸せなんだね……スノウは……


ヴェーゼルは初めて触れる母親の慈愛を感じて、その心は埋もれていった。


【戦争は終わらせるっ!!】


スノウはヴェーゼルの身体を乗っ取った。


【止まれぇ!!!】


スノウはその戦場にいる全ての者たち、そして金色の雲に浮かぶレアやアルテマの時を止めた。


その止まった時の中で、ゼクサスはヴェーゼルを見ていた。ゼクサスの動きだけは止めることができない。


スノウはゼクサスと目を合わせた。


「ヴェーゼルじゃないね」

「ああ、そうだよゼクサス…」


スノウは冷や汗を垂らしながら、自分の姿をした彼に口を開いた。


「この身体の核か」

「スノウ……俺はスノウだよ」


ゼクサスは眉一つ動かさず、彼はスノウと話をする。


「ヴェーゼルにつまらないことを教えないでよ」

「つまらなくないよ。この世で最も美しい、愛という感情だよ」

「はぁ?」


ゼクサスは闇の手をその身体から伸ばすと、ヴェーゼルの中に潜り込ませた。

その真っ黒い手は、スノウの核を鷲掴んだ。


「これ以上好き勝手するなら私のところに戻っておいで。一生その口をきけなくしてやるから」

「願ってもないよゼクサス…! 俺は君の憎悪に飲み込まれたりなんかしないからさ」

「ちっ」


ゼクサスは舌打ちすると、スノウの核を抜き取った。

そのまま自分の体内に押し込んだ。


ヴェーゼルは気を失って、そのまま倒れた。

アルテマもレアも、動かないままだ。


(力を解け…スノウ……)

【撤退させろ…戦争を終わらせろ! そうしたら時を動かしてやるっ!!】

(何をバカな……)


自分の中で口を開くスノウに、ゼクサスは苛立っていた。


(無理矢理にでも力を解いてやるよ…)


ゼクサスは憎悪を込めてスノウに襲いかかった。

スノウの核は黒い闇に覆われていくが、闇の嫌う光を放ってその力に抗った。


(こいつ……)

【無駄だゼクサス…! お前は俺を取り込めやしない!】


その時、空から何かがこちらに向かってくる気配を感じた。


「!」


ハっとしてゼクサスが振り返った時にはもう遅かった。


【間に合った…!!】


スノウは歓喜して、更に力を込めてゼクサスを押し返した。

闇の手はスノウの核から退いていった。


「ゼクサスぅぅううううう!!!!!!!」


ヌゥは声を上げて、その炎の剣を、ゼクサスに向かって大きく振り切った。










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