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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
最終章

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俺の愛すべき親友

ベルは、自分とスノウが結ばれていく未来を、呆然と心に焼き付けた。

それが仮に過去ではなく未来なんだということが、物凄く不思議な感覚だった。

確かに自分はスノウを愛して、スノウもまた自分を愛した。

結婚の約束もした。

だけど……


(結婚は、出来なかったんだ……)


その未来は、スノウが20歳になると、終わってしまったのだ。


(そうだ…。スー君は、ゼクサスのところに…)


20歳になったスノウは、自らの能力を用いてゼクサスを救いに過去に向かった。

スノウの能力は、自らを時の世界に移動させ、好きな時間軸に飛べる力だったんだ。


私は扉の中には入れない。入れるのは、スー君だけだ。


(さっきのスー君が、20歳のスー君。この時の世界に来たばかりの、スー君だったんだ……)


『何で私を、ここに連れてきたんですか…?』

『うーん、まあ、俺のわがままかな』


スノウはそう言っていた。

その意図を、ベルは悟った。


(私にさよならを言いにきたんだね…スー君……)


ベルは気づいた。


あの扉は、この未来の記憶は、私たちの元の世界の、未来ではないんだと。


スー君はゼクサスの元に行った。

これから私達の未来は、変わるんだ…。


ベルはスノウを抱えて、元の世界への入口を通った。



ベルが帰ってくるのを見て、部隊の皆は一体どこに行っていたんだと彼女に言い寄った。

しかし、ベルは覚えていないの一点張りで、何も言わなかった。


ヌゥは心配そうにベルとスノウを見つめていた。

ベルもまた、ヌゥを見つめていた。


「スー君、返しますね」

「ああ…うん。ありがとう、俺がいない間守ってくれて」

「いえいえ」


ベルは笑ったが、その笑顔はいつもと違っているようにヌゥは感じた。


ベルちゃんは何かあったに違いない。

しかし、俺たちには話したくないということか…。


ヌゥはアグを見つめた。

アグもきっと同じ考えで、目を閉じて首を軽く横に振った。


「まあ、無事なら良かったじゃねえか! すげえ探したんだぜ」

「敵が近くにいるのかもしれないぞ。警戒を怠るな」

「わーってるよ」

「了解です!」


メリはベルに駆け寄ると、心配そうに顔を覗き込んだ。


「ベル、大丈夫?」

「だ、大丈夫です! ああ! そういえば皆さんこそ、どこかケガはありませんか?」


皆は大したケガはないと言って、ベルの治療は必要なかった。


「とにかく、このまま航海するぞ」

「よっしゃ。釣りでもすっかな〜。ハルク、勝負しようぜ」

「またですか…暇ですね」

「うっせえな。魚が食いたい気分なんだよ」

「ふわぁあ。私は疲れたからもうご飯食べて寝よう〜っと」

「私も腹が減ってきた」

「ベーラさんも一緒に食堂行きましょ〜!」

「うむ」

「ああ! 待ってくださいメリさん!」


各々は自由に行動を始めた。


「スノウ、これから風呂いれるだろ。俺がやるからお前も休め」

「え? いいよ、アグも力使ったし疲れてるでしょ」

「そうでもねえ。ほら、自分のついでに行ってくるから」

「うーん、そう? じゃあお願いしようっと」


アグはスノウを抱えて、先に船室に戻った。

ヌゥは1人取り残されたベルを見て言った。


「ベルちゃんお腹空いた? 俺たちも食堂行く?」

「は、はい!」


ヌゥとベルも、あとから船室に入って廊下を歩いていると、突然くらっとベルが倒れ込んだ。


「ベルちゃん?!」


ヌゥはびっくりした様子で彼女を支えた。


「ベルちゃん、大丈夫?!」

「だ、大丈夫です…すみません…。横になればすぐに治ると思うので」

「ほ、ほんと? わかった…じゃあ部屋に行こ」


ヌゥは彼女を抱きかかえると、ベルの部屋に彼女を運んだ。

彼女をベッドに横に寝かせると、そばの椅子に腰掛けた。


「すみません……」

「別にいいよ。それよりほんとに大丈夫なの?」

「はい…。疲れただけなんで……」


一瞬で20年分の時を見た。まるで20年間、別次元で生きてきたかのような感覚だ…。

ただそのことで、疲労がたまったのだ。


「ベルちゃん……何があったの」

「……」

「話したくないなら、無理にとは言わないんだけどさ。でも俺たち親友でしょう? ベルちゃんが辛いのに何もできないなんて、俺は嫌なんだ…」

「ヌゥさん…」


ベルは決意すると、全てを話そうと決めた。


「私、未来のスー君に会ったんです…」


ベルが話すそのとある世界の未来の話を、ヌゥは黙って聞いた。




「お前に言うことあんだよ」

「何ですか?」


レインとハルクは、甲板から釣りをしていた。

空は暗くなってきて、船につけられた灯りだけが2人を照らす。


「俺、ベーラと結婚しようと思ってるんだ」

「そうなんですか。おめでとうございます」


レインは釣り竿を持ったまま、ハルクの方を見る。

ハルクもまた、同じ姿勢で彼を見た。

少しの沈黙が、2人を襲った。


「えええええ?!?! それだけぇぇぇ?!」

「何ですかもう……。お祝いしたじゃないですか…」

「いやいや! そうだけど! もっと他にねえの? 何でそうなったのとかぁぁあ!!」


レインは釣り竿を放ると、ハルクの肩を掴んで彼を揺さぶる。


「何なんですか……ほんとに…」

「お前俺の親友だろう?! もうちょっと俺に興味を持てええ!!!」

「はああ?!?!」


ハルクはうざそうに彼の手を掴むと、自分から離そうとする。


「恋愛話は興味ないんですよ…」

「この! お前! 親友の話でもかぁあ!!」

「いや、だからおめでとうって言ったでしょう…」


レインは不満げに釣り竿を持って、再び釣りを再開する。


(何だよもう…秒で報告終了かよ…)


ハルクははだけた首元を整えると、海を見ながら言った。


「まあでも、友人スピーチくらいはしてあげますよ」

「へ?!」

「結婚披露宴で」


レインは驚いたように彼を見た。


「何ですか」

「いや……ありがとう……ハルク……」


ハルクは何も言わなかった。


なあ、お前はどんな話をしてくれるんだろう。


レインは嬉しくて、口元を緩ませた。


2人の釣りはまだ少し続いて、そのあと食堂のキッチンを借りてお腹いっぱい焼き魚を食べた。




ベルがその全てを話し終えた時、彼女は泣いていた。


スノウがゼクサスのところへ行ってしまった悲しさ、親友の子供のスノウを愛してしまった困惑、その幸せそうな未来から想像もできない結末、その様々な混沌が、ベルの心をかき乱してやまない。


「ベルちゃん…」


ヌゥはベルを、優しく抱きしめた。


「話してくれてありがとう……」


ベルは泣きながら、彼の背中に手を回した。


その感触は、スノウを抱きしめた時に似ていた。


ヌゥさんはスノウの母親。

そして、私の親友。


「ヌゥさん……怒らないんですか…私なんかがスー君を…」

「怒るわけないよ。俺は嬉しいよ」

「え…?」


ヌゥさんの心臓の音が聞こえる。

私は彼に抱きしめてもらって、今彼のあたたかさに触れている。


「俺、スノウが大きくなったら、どんな人を好きになるんだろうって、考えていたんだ」

「ヌゥさん…」

「それがベルちゃんだなんて、俺は嬉しいよ」


そんな言葉をもらえるなんて思わなかった。

多少は嫌悪されると思っていた。

我が子をこんな私にとられるなんて、普通は嫌だと思うから。


ヌゥは彼女の肩に手をやって、彼女と目を合わすと、満面の笑みで言った。


「この世の女の子の中じゃあさ、俺はベルちゃんが1番好き……」

「ヌ、ヌゥさん……」


ベルは顔を赤らめて、彼を見た。


「もちろん親友としてね!」

「あ、当たり前です!」


ベルは苦笑した。


「スー君も見る目があるなあ〜。やっぱり俺の子だなぁ!」

「そ、そんな……私なんか……」

「ああ、でもこのままじゃ、スー君がゼクサスにとられちゃうね」

「え……?」

「大丈夫だよ、ベルちゃん。俺が絶対、スノウを助けるから」

「ヌゥさん…」

「俺は母親だからね! 我が子を守るのは当然だから。その幸せを、守るのもね」


ヌゥはぐーんと大きく伸びをした。


「あ〜! 気合湧いた! 今すぐゼクサスをぶっ飛ばしたい!」

「身体はスー君ですよ」

「ああ、そっか! ったく…どうしたら倒せんのかな。まあでも絶対倒す! 考える!」

「ふふ……」


ヌゥさん、ありがとう……

私にも…何かできるはずだ……。


スー君の未来を、私達の未来を、

世界を、壊させたりはしない。


ベルは涙を拭って、世界一頼もしい彼と一緒に、戦うことを、決意した。















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