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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
最終章

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地底火山をあとにして

「アグ〜!! ハルクさ~ん!!」


ヌゥは地底火山から出ると、甲板で待つアグとハルクに手を振った。

アグも安心したように彼を見ると、手を振り返した。


(無事ってことは、あの馬の魔族は倒したってことか……?)


ベーラは船までの橋を創ると、皆それを渡って甲板に戻った。


「ラグナスは?」とアグが聞くと「これだよ!」と言って、ヌゥはその見ているだけで熱気を感じるその剣を抜いて見せつけた。


「無事にとってこれたんですね」とハルクも言った。


「まあな。それにしても中暑すぎな! すっげえ汗かいた! 風呂入りてえわ」

「無論だな」

「俺も俺も! 暑くてしょーがない!」

「僕もですよ!」

「私も〜!」


火山組は耐火製ローブを脱ぐと、ベーラはそれを消した。

皆汗がたらたらで、特に最下部まで降りた3人は汗がびっしょりだ。


「ベーラさんこれからどうしますか?」とアグ。

「距離はあるが、ここにいても仕方ない。ユリウス大陸を目指して船を進めよう」

「わかりました。皆さんはお風呂に入ってきてください」

「うむ」


アグはベーラに教えてもらった通りに船の方向を定めると、あとは自動運転装置に走行を任せた。


ヌゥたちは5階の大浴場に足を運んだ。

ヌゥとレイン、ソヴァンは男湯ののれんをくぐる。

更衣室で服を脱ぎながら、話をしていた。


「2人と一緒にお風呂入ったことないね!」

「ん? そうだっけか? 女とばっか入ってるからだろ」

「そんなこと言わないでよ〜」

「もう本当に男になってるんだね。不思議だな〜」

「ちょっと! そんなにじろじろ見ないでよ!」


3人は身体を洗って露天風呂に浸かった。


「はぁ〜最高…!」

「だな〜」

「空がきれいですね〜」


3人は青空に浮かぶ雲をぼーっと見上げていた。


「そうだ! 2人に報告があります!」


ソヴァンはにこやかに笑うと言った。


「僕、メリさんと結婚するんで!」

「え?!」

「おお?!」


ヌゥとレインはびっくりしたように彼を見た。


「お前、マジか?!」

「マジに決まってるじゃないですか!」

「すごい! 良かった! 良かったねソヴァン!!」


ヌゥはソヴァンの手を取ると、その屈託のない笑顔を見せた。

ソヴァンもおんなじように、にこやかに笑った。


「あ〜! この戦いが終わったら、どんなプロポーズをしようかなぁ…」

「は? もうしたんじゃねえの?」

「いいえ! 逆プロポーズだったんで!」

「えー何それ! メリの奴、随分積極的だね」

「ふふふ〜」

「幸せそうだな〜」

「すみません、抜け駆けしちゃって!」


とソヴァンが言うと、


「いや、実は……俺もしようと思ってるんだ。2回目だけど…」


とレインが言った。


「え?!」

「うん?!」


ヌゥとソヴァンは固まったように彼を見た。


「だ、誰と?!」


と、何も知らないヌゥは慌てて言った。


「ベーラとだけど…」

「はいぃ?!」

「レインさん、前にふられたって」

「はいいぃぃ?!?!」


ヌゥはわけもわからずに素っ頓狂な声を上げた。

レインはヌゥをそっちのけでソヴァンと話をする。


「知らねえよ。気が変わったんだろ」

「おお……そんな奇跡もあるんですね!」

「奇跡言うな」

「ちょっと! 何なの?! どういうこと?! は?! 何でレインがベーラと?!」


レインは言い寄ってくるヌゥをうざったるそうに一度見はしたが、きっと彼のおかげなんだと思って、笑って言った。


「俺たちも欲しくなったんだよ。スノウみたいな、可愛い子供がさ」

「え……?」

「ぼ、僕もです!」

「……」


2人にそう言われて、ヌゥは目を見開いた。


夫婦になること。

子供を産むこと。

それはまた1つの、わかりやすい愛の形なんだろう。


もちろんそれが全てってわけじゃない。

だけど俺はものすごく嬉しかった。


2人が俺とアグの愛を、認めてくれたことが。


「まあ最初はお前らの結婚式からだな! ベーラとハルクに余興やってもらおうぜ」

「え? 何でその2人なんですか?」

「ああ! ソヴァンは知らねえんか! 部隊最高のユニットだぞ!」

「ど、どういうことですか…?!」

「俺も話でしか聞いたことないんだよ! 楽しみだなあ……」


流れ行く雲を目で追いながら、3人はそんな幸せな未来の話をした。


ねぇ、愛って素敵だね…。

俺はとっても、穏やかな心地だった。


2人の友達の瞳はすごく輝いていて、俺も2人に負けないくらい今幸せなんだよ。


こんな美しい世界をさぁ、壊すなんてこと、俺はさせないよ。


ねえゼクサス…。

君だってこの気持ちを一度でも知ればさ……


憎悪なんて見事に消え去ってしまうと思うけどな……


ヌゥはこの世界の何処かにいるもう1人の自分に、そう問いかけた。




女湯では、メリとベーラも湯船に浸かって、また空を見上げていた。


「あたしベーラさんに言うことありました」

「奇遇だな、私もだよ」


そう言って顔を見合わした。


「ベーラさんからどうぞ」

「お前から言えよ」

「ええ…? じゃあ言いますね。私、ソヴァンに逆プロポーズしちゃいました!」


メリは笑って言った。

ベーラは目を丸くしたが、ふふっと笑った。


「アグはいいのか」

「もう、完全に、諦めがついたんです」


メリははっきりと言い切って、幸せそうな笑みを浮かべた。

その笑顔を見たベーラは安心したようにうんうんと頷いた。


「ソヴァンは私を愛してくれる。私にはその愛が必要だってわかったんです。そして私も同じように、彼を愛したいって」

「そうか。私も嬉しいよ。メリが幸せになれる男と出会えてさ」


メリはスッキリとした表情を浮かべていた。

左手を空に浮かべて、空白の自分の薬指を眺めた。


「でっかいダイヤモンドを要求しました!」

「ふふっ…」


メリはベーラを見ると言った。


「そう言えば、ベーラさんの話って?」

「ああ、何から話そう」

「うん?」


ベーラは頭の後ろに両手をやって足を伸ばすと、言った。


「私もさ、自分が幸せになる未来を見てみたいと思って」

「どういうことですか?」

「私、レインに告白されたんだ」

「え? ええ?!?! いつの間に?!?!」


メリが驚くのを見て、ベーラは笑っていた。


「一度は振ってしまったんだけどな。やっぱりオッケーしようと思ってね」

「ええ?! いや、ちょっと、私何にも聞いてないですよ!! 詳しく説明してくださいベーラさん!!」


メリが声を荒げるのを見て、ベーラはずっと笑っていた。


ね、ジーマ、お前も望んでくれたから。

私が幸せになる未来を。


(もうちゃんと、さよならもしたからな)


そこは、本当は知り得ない地獄の世界。

だけれどそこで、どうやら彼は幸せにしているみたいだ。


あとは任せてくれ。

私が世界を救うよ。

レインと一緒にな。


ベーラはそのあとメリに全てを話した。メリはどうしてか泣いていたが、最後ベーラに、おめでとうと言ってくれた。


「私たちもヌゥたちみたいに、素敵に家族になれたらいいですね」

「そうだな…」


この日から、私は新しい恋をする。

相手は世界一最高の私の相棒だ。


どうかいつか、彼と一緒に、新しい命を、私も作れますように。



「おいベル、皆帰って来たぞ」


アグが呼びかけるが返事はない。


(うん……?)


アグはスノウとベルのいるはずの子供部屋の扉を開けた。


「え……?」


その部屋には、誰もいない。


(何だ? 他の部屋にでも行ったのか…?)


アグは船内を捜し回るが、どこにも2人の姿がない。


(……?!)


「アグ、どうしたの〜?」


ヌゥたちが風呂から上がってやって来る。


「スノウとベルがいない…」

「えー? そんなわけないよ。どこに行くっていうのさ」

「いねえんだよ、どこにも!」


アグの焦る様子を見て、ヌゥたちも顔をしかめる。


「さ、探そうぜ! この階ちょっと見てくるわ!」

「じゃあ僕は上から!」

「あ、待って俺も…!」


皆でドタドタと2人を捜索する。


(ど、どういうこと……?!)


ヌゥは焦りながら、船内を走り回った。


「スー君?! ベルちゃん?!」


彼らの様子に気づいたメリやベーラ、ハルクも総動員で船を探すが、見当たらない。


全員は甲板に集合していた。


「い、いねえぞ…ガチで…」

「呪鳥も飛ばして探させた。船内にはいないと言っている」

「ど、どこに行っちゃったの?!」


すると、突然空が光りだして、スノウを抱いたベルが姿を現した。


「ひゃあ!」

「ベルちゃん!」


ヌゥはスノウ共々ベルをキャッチして、地面に着陸した。


「ベル!」


皆はベルとスノウの元に駆け寄った。


「スー君も無事でよかった」

「大丈夫か?! どこ行ってたんだ?!」


ベルはスノウをしっかりと抱きしめたまま、放心とした様子でヌゥとアグの顔を見ていた。















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