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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
最終章

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少年は言問う

ヴェーゼルの出産は数ヶ月前に終わった。


ヴェーゼルは人の姿になると、ゼクサスと合流した。

その黒い馬がユアンだと察すると、ヴェーゼルは驚いた。


「ただのユニコーンじゃなかったのかよ…」

「せや。あたいはほんまは、ユニコーンやないんやで。地獄への使者、ナイトメアや」


ヴェーゼルは変わり果てたオーラのユアンをじっと見ていた。


(こいつからも、憎悪を感じる……。お前もゼクサスの血を飲んだんだな……)


「乗って、ヴェーゼル」


ゼクサスに腕を引かれ、ヴェーゼルもユアンに乗り込んだ。


3人は世界中を飛び回って、魔族たちを配下に加えていた。

もちろん、反対する魔族は皆殺しにしていったが、ほとんどの魔族が戦争の死を経験したコピーと、そいつが生殖した産んだ子供である。人間たちへの復讐には同意する魔族は多かった。


ある日、ゼクサスは言った。


「行こうか」

「行くってどこにや?」

「地底火山だよ」


ゼクサスが口笛を吹くと、配下になった魔族たちの軍勢がゼクサスの元に集まってきた。

3つ首の番犬ケルベロスに、2本足で立つ人狼やトロールの群れ、襟巻き竜のワームに、鳥人間のハーピーたち、9つ首の大蛇ヒドラは陸の向こうからやってくる。

空には雷鳥サンダーバードが雷雲をひきつれてやってきた。ライオンの身体に鷲の頭と翼を生やしたグリフォンも陸に着地した。

海の中からは、ワニの頭のアリゲイツの群れや、上半身が女性で下半身が多数の犬のスキュラ、巨大海亀のアスピドペロンが顔を出した。


(ほんまようこんなに揃えたな…)


魔族が違う魔族と群をなすなんてことは、2000年前ではあり得なかった。他種族の魔族が協力するなんて、前代未聞なのだ。


(それだけ皆、復讐に目を光らせとるんやな)


『サヨリ…何でなん? 何でこんなことするん…』


自分たちが生きていくためには、殺すしかない。人間なんて。


「っ!」


ユアンは立ち込める暗雲に気づくと、ハっと顔を上げた。


「何や?!」


突然巨大な黒い獣が空の向こうからこちらに飛んでくると、ゼクサスたちに向かって、凄まじい威力の黒い衝撃波を放ってきた。


ゼクサスは精杖ケリオンを前に突き出すと、巨大な聖なる光のバリアで魔族たちを守った。


「どういうつもりだい、カルベラ」


ゼクサスはその空に浮かぶ、どの魔族よりも巨大で禍々しい黒い獣を睨みつけて言った。


「行かせはしないさ……ゼクサス」

「私とやり合おうというのかい」

「ああそうさ。その武器がなけりゃあ君を殺せはしないが、君の仲間は俺が殺そう」


(カルベラやて……こいつがあの時あたいらをコピーした悪魔……?! 何であたいらを裏切るんや?!)


ゼクサスはふっと笑うと、ユアンから飛び降りた。


「ユアン、お前は火山に行け」

「な…」

「呪術の女を殺せ。あの世に行けば服従の紋は君には効かない」

「わかった……ラグナスもとってきたるわ」


ユアンは飛び上がると、火山の場所を見据える。


「させないさ……あの子たちの邪魔は…この俺が」


カルベラはユアンに向かって衝撃波を放った。

ゼクサスはケリオンのバリアでユアンを守り、道を開いた。


「空と海の魔族たち、ユアンを追え!」


ゼクサスの命令により、空飛ぶ魔族と海中の魔族はユアンを追い、地底火山に向かって進みだした。


カルベラは大きな咆哮をあげると、逃げ行く魔族に襲いかかる。


「ゾナ!」

「任せて!」


赤い髪の女は、カルベラの背中から顔を出す。


「ゼクサス! 僕の力はもう君のためには使わない!」


カルベラの能力でゼクサスの影に扮していたケビンは、ゼクサスを異空間へと飛ばした。


「ゼクサス!」


ヴェーゼルは目を見開いて、消えたゼクサスのあとを見た。


(んの野郎……!!)


悪魔だかなんだか知らねえが、ゼクサスの邪魔をするってんなら容赦はしねえ。


ヴェーゼルは大海蛇に姿を変えると、海の中に飛び込んだ。


カルベラはグリフォンを喰らい、海亀アスピドペロンの甲羅を粉々に砕いた。

そのおぞましい悪魔が魔族たちを襲う姿は何よりも恐ろしく、この世の終わりを見るかのような残劇だった。


ヴェーゼルは海神の波動を最大級に放ち、カルベラを襲った。

カルベラも黒い衝撃波を放ち、ヴェーゼルの波動とかち合わせる。


「シーサーペント、ヴェーゼル…君もゼクサスを、守りたいんだな…」

「何で裏切る! お前はゼクサスの仲間だったんじゃねえのか?!」


(こいつは強いさ…あと回し)


カルベラはスキュラを捕えて八つ裂きにした。

サンダーバードに向かって衝撃波を撃つが、ヴェーゼルに邪魔をされた。


(ちぃ……)


ユアン、サンダーバード、そしてアリゲイツの群れは、逃してしまった。


「ゼクサスの邪魔をするな!! この裏切り者!! 俺が殺してやるっ!!」


ヴェーゼルは怒った様子でカルベラに攻撃を続けた。



「ゾナ……何で私を裏切るというんだい」

「ごめんゼクサス……。僕は僕の好きな人を、守りたい。だからこの身が朽ちても、君に歯向かうと決めたんだ」


ゼクサスは異空間にやってきていた。

その何もない部屋で、ゼクサスとゾナは対峙する。


「ここから出る条件はねぇ、そうだな…僕を捕まえることができたら、いいよ…!」

「ふっ…捕まえるだけじゃ飽きたらないだろう。君を殺してここから出よう」


ゼクサスはデスサイズを背中から抜くと、ゾナに襲いかかった。


(来るっっ!!)


ゾナは壁を出してゼクサスの攻撃を防ごうとしたが、ゼクサスは異空間のその壁をデスサイズで切り壊した。


(僕の空間で……っ…こいつぅ……)


ゾナは別の部屋へと姿を隠す。


(忘れるな。僕の仕事はゼクサスの足止めだ! その間に、僕の仲間が君の仲間を駆逐するっ!!)


ゾナはその異空間でゼクサスから逃げ続けた。



カルベラは陸の魔族たちを次々に殺していった。

ハーピーはキィキィと耳をつんざくような声で叫びながら、息絶えていく。


「せっかく連れてきたのに、悪かったさ。俺が間違っていた…。ごめんな」


カルベラはそのように謝りながら、自分のコピーした魔族を跡形もなく消し去っていく。


「冥界へ行け。もう本当は死んでいるんだから、お前らは」


衝撃波でケルベロスの頭が無残に消え去った。

ヴェーゼルの波動を避けると、ワームを丸飲みにした。

人狼やトロールの群れは、その翼で打たれるだけで頭を落とした。衝撃破がゴミを燃やすかのように無慈悲に彼らを灰にする。


(くそっ! 悪魔にあんな力があったのか?! いや…あいつは人間に負けて石にされていたと聞いた……。なのに何で、こんなに強く……?!)


ヴェーゼルはカルベラに攻撃を仕掛けるが、簡単に避けられてしまう。


(陸に行かれちゃ太刀打ちできねえ!)


最後に残ったヒドラもあっという間に噛み殺された。

真っ黒の奴の身体は魔族たちの血でびっしょりと濡れている。

白い歯は赤く染まり、飲みきれないほどの血流が、奴の口を伝って垂れていた。


カルベラはシーサーペントに目を向けた。


「憎悪か?! 憎悪がお前をそこまで……っ!!」

「違うのさ…。ヴェーゼル。俺には守りたいものがあるんだ…」


ヴェーゼルはハっとして、その悪魔を見ていた。


(こいつ……魔王様の直系なのにっ……)


「俺はシェムの子を守りたいんだ」

「ノアは……ノアはゼクサスだぞ?! ゼクサスを裏切るならお前……ノアを殺すのと一緒だっ!」

「ゼクサスはノアじゃない。ノアの身体を奪った憎悪の塊だ」

「っっ……!!」


(じゃあ誰を……? 誰を守りたいっていうんだ……)


「ヴェーゼル、君が邪魔をするなら、君のことも殺さないといけないか」

「俺はお前とは違う! ゼクサスを裏切ったりなんかしねえ!! 絶対にっっ!!」


『君は私の友人だから』

『……!』


俺は知ってる……ゼクサスは、寂しいんだ…。


だから1人で戦おうとはしないんだ。

仲間を欲しがってるんだ。


カルベラ、お前に裏切られて、あの子は……ゼクサスは、きっと苦しんでるよ。


「これ以上あの子を、苦しませないでくれよ!」


ヴェーゼルがそう言ったので、カルベラは驚いた。


「っ!!」


大海蛇の体内に宿りしその核は、ヴェーゼルの想いに強く反応していた。


(俺の中に……誰かいる……?!)


ヴェーゼルもまた、初めて核が自分に呼びかけているのを感じて目を見張った。


『君には特別に少年の核をあげる。君は親友だからね』


(こ、これは……ゼクサスのくれた……少年の…核……)


ヴェーゼルがふと目を開くと、自分の脳裏の中にいた。

ヴェーゼルはその場所で、人間の姿をしていた。

そこにはゼクサスと同じ姿のこげ茶髪の少年が、座ってこちらを見ている。


【ヴェーゼルは、ゼクサスのことが大切なんだね】

(お…お前は……)

【俺、知ってるよ。その気持ちが、何ていう名前なのか】

(や、やめろ……。違う…。そんなわけない…。俺にとってゼクサスは……)


少年はにっこりと笑った。

屈託のない優しい笑顔だった。


【ヴェーゼル、ゼクサスのために死ねる?】

(あ、当たり前だろ……俺は……ゼクサスの親友なんだから……)

【そうなんだね】


少年は俺の核だ…。きっと本当は俺のことなんて、全てわかっているんだ。


だったら俺も、君の心を読むことができるのか…?


ヴェーゼルは少年に手を伸ばした。

少年は笑って、ヴェーゼルに手を差し伸ばした。


彼に手を触れると、ヴェーゼルはその心に抱えきれないほどの慈愛を感じた。


「っ!!!」


(やめろ……。俺は知りたくないんだ……。俺はそんなものは、知りたくないっ……)

【どうして?】

(だって……それは……ゼクサスが……あの子が1番嫌いな……)


ヴェーゼルは涙を流した。


嘘だ……そんなの………

俺は嫌なんだ……やめてくれ……


【愛は理屈じゃないよ、ヴェーゼル】


ヴェーゼルはハっとすると、人間の姿になっていて、涙を流していた。

その涙を見てカルベラも動じずにはいられなかったが、彼に襲いかかった。


(一体誰だ…?! ヴェーゼルの中には、誰が……)


カルベラはヴェーゼルに向かって衝撃波を放った。

しかし、ヴェーゼルの核が彼の体を乗っ取ると、衝撃波はヴェーゼルの目の前で()()()()


「き、君は…」

「カルベラ、ごめんね。でも俺はね……」


ヴェーゼルの核は、ヴェーゼルの身体を使ってカルベラに話しかける。

その時、異空間から還ったゼクサスは、黒槍ログニスでカルベラの身体を貫いた。


「世界を守りたいから…」


(………っ……何で……君が………)


カルベラは人間に姿を変えると、そのまま地面に落ちた。















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