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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
最終章

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283/341

地底火山到着

次の日の昼、甲板にレイン、ベーラ、メリ、ソヴァンは集まっていた。

地底火山と思わしき山の頭が、遠くに見えてきたというのだ。


「おっはよ〜!」


ヌゥが船室からドアをあけて入ってくると、皆は彼を見て驚いた。


「か、髪切ったのか?!」

「うん! すっきりした〜!」


肩を超えて長く伸びていたヌゥの黒髪は、すっかり短くなった。

襟足も短く、肩にもつかない。トップの髪は無造作にたっていた。


「随分男らしくなったじゃないか」とベーラは言う。

「ありがと〜! アグに切ってもらったんだ! やっぱり器用だよねアグは! さささ〜っと終わっちゃって」


ヘラヘラと笑っているヌゥを、メリは驚いたように見ている。


(やりやがったわね……)


印象はかなり変わったが、ものすごく似合っていた。


(なかなかにかっこいいじゃないのよっ!)


「メリさん?」

「へ?!」


ソヴァンに声をかけられてハっとした。


「今、ヌゥに見とれてませんでした?」

「ええ?! そ、そんなわけないじゃないのよ!」

「うーん」


(不覚! 不覚にもほどがあったわ!)


「赤ん坊は?」

「ベルちゃんが発育チェックも兼ねて沐浴してくれてる」

「ふうん。アグは?」

「ハルクさんと研究所にいるよ」


ベーラは双眼鏡をヌゥに渡す。もちろん呪術で出したものだ。


「見てみろ」

「うん? あ、もしかしてあれ?!」


地底火山というから海底にでもあるのかと思っていたが、山の一部は海面から突き出ている。


「エクロザの言った場所ともどんぴしゃだ」

「ほぉー! もう今日中には着きそうだね」

「そのようだ。アグたちにも知らせよう」

「じゃあ俺研究所覗いてくるわ」

「私もスー君抱きに行こうかな」

「ベーラって赤ちゃんとか好きなんだね! ほんと意外だよね〜」

「お前も失礼だな」

「うん? お前もって?」


レインはヌゥの頭をガシッと掴んで引っ張っていく。


「痛っ! やめてよ! せっかくセットしてもらったのに!」

「うるせえな。お前も行くぞ! 旦那のとこによ!」

「えっ?! 旦那って…」

「結婚するって聞いたけど!」

「っ!」


ヌゥは顔を赤くしてレインを見上げた。


「落ち着いたら皆で結婚式しようぜ!」

「け、結婚式ぃ?!」


レインは笑いながら彼と研究所へ向かった。

ベーラもベルのところへ行った。


ソヴァンとメリは、去っていく彼らを見ていた。


「行っちゃいましたね」

「あいつ、何でわざわざ男らしくすんのよ! 意味不明!」

「何で怒ってるんですか?」

「怒ってないわよ! ああ、そうだ」


メリはポケットからアグのくれた婚約指輪を取り出した。

そのままえいっと、甲板から海に投げ捨てた。


「メ、メリさん?!」


メリはどや顔でソヴァンを見ていた。

ソヴァンは驚きすぎて、あんぐりとするだけだった。


「うん! すっきりした〜!!」


わざわざヌゥと同じ台詞を吐き捨てて、メリはぐーんとバンザイをして、船室へ向かう。


「メリさん、それって…」


メリは振り向いて彼を見たあと、何も言わずにまた船室へ歩いていった。


「ま、待ってください!」


ソヴァンは早足で彼女を追いかけて行った。




「おいお前ら、火山見えてんぞ」


研究所に入ったレインは言ったが、アグとハルクは夢中で実験をしている。


「おい! 聞けよ!」

「え?」

「なんですか?」


(まじで聞こえてなかったんかよ)


「火山見えたって! 今日中に着くってさ!」

「ついにここまで来ましたか」

「長かったな〜! ほんっとに」


アグはヌゥに小手と靴を渡した。


「ほら」

「おお! 俺の武器っ!! いつの間にかなくしてたんだ」

「カルベラさんが汚かったから捨てたって言ってた」

「洗濯してくれりゃいいのに…」


ヌゥは新調されたその小手と靴を装備した。


「あ〜! 身体なまってるよ絶対! ちょっと外で動かしてこようかな!」

「呪術も使って威力格上げしてるから。この前の5倍は電気溜められるし、小手のボタンと連動して、手の平と靴底から風圧出せる。短い時間なら浮かべるかも。まあやってみ」

「まじ?! やばいねそれ!」


ヌゥはテンション上がってまた1人甲板に出ていった。


「あれ? ヌゥどうしたの?」


メリとソヴァンとすれ違った。


「アグのくれた武器試してくるの〜!」

「ふーん。随分嬉しそうね」

「気をつけてねヌゥ」

「うん! じゃあね!」


メリたちは彼を見送ると、研究所に行った。

レインとハルクが話している傍ら、メリはアグに言った。


「話があるから、ちょっと来て」

「え? 何?」

「いいから! ソヴァンも来て!」

「ぼ、僕もですか?」


メリは2人を廊下に連れてくると、アグに向かって言った。


「私、ソヴァンと結婚するから!」

「え?!」

「へっ?!」


アグは驚いたが、それよりもソヴァンの方が驚いていた。

メリはソヴァンを睨みつけたあと、アグの方をまた見ると続ける。


「あんたたちより可愛い赤ちゃん産むし」

「メ、メリさん?!」

「……」


アグはしばらく沈黙したあと、言った。


「良かった……」

「何がよ!」

「メリが幸せになれて良かった……」


アグは目を潤ませて笑った。


「ソヴァン…ありがとう……」

「アグさん……」

「メリ……幸せになれよ……」

「い、言われなくたって!」


メリもまた、目を潤ませたが、涙は流さなかった。


私はなるよ、アグ、それにヌゥ。

あんたたちより、絶対幸せになるから。

私、自信あるから。


ソヴァン、待たせてごめんね。

私もう、迷わない。


アグ、私たち、お互いいい相手に出会えたね。


メリはすかっとした表情を浮かべていた。

それを見てアグも、ソヴァンも、彼女の幸せを誰よりも願っていた。


「ていうか、何で髪切っちゃったの?」

「何でって? 長くて邪魔だって言ってたし、あいつ今男だし」

「男だけど、女の子に見えた方がいいとかないの」

「何それ。ないけど」

「……」

「?」


アグは不思議そうにしているのを見て、メリはもはや呆れてわらうだけだった。


「でもあれはちょっとかっこよすぎない?」

「そう?」

「将来は美容院開いた方がいいんじゃない」

「あー、考えとくわ」


『一緒にお店を出そうよ』


メリもアグも笑っていた。


そんな冗談も言えるようになったのが、すごく嬉しい。

私は前に進んだんだ。


すると、アグは言った。


「ヌゥの様子、見てくるわ」

「好きねえあんたも」

「うん」


アグは笑ってそう言うと、2人の元を去った。


「メリさん…」


ソヴァンはメリの服の裾を掴むと、顔を真っ赤にしている。


「あ……」


メリもとんでもないことを言ってしまったと、ハっとした。


(わ、私これ、逆プロポーズ?!)


「ご、ごめん! 結婚なんて考えてなかった?!」

「メリさん……」


ソヴァンはぼろぼろと涙を流した。


「え? 何で? 何で泣くのよ?!」

「すみません……」


ソヴァンは力が抜けて、その場に膝をつけた。


「う……嬉しくて……僕……ひっく……生きてて良かった……」

「そ、そんなに?!」


(力抜けるわ! 私の方がっ…!)


なんであんたが泣くの…!


「普通逆でしょう!」

「すみません……」

「もう! 今度あんた計画立ててちゃんとプロポーズしてよね!」

「了解です……ぐすっ……」

「指輪はダイヤモンドのでっかいやつにしてよね!」

「…っ、はい……」


メリはハァっとため息をついて、彼の頭を撫でた。


「好きです…メリさん…」

「……私も好き…」


ソヴァンは目をこすりながら、まだ泣いている。


(セイバス…僕のこと好きになってくれる人、いたよ……)


メリさん、絶対幸せにするから。

僕を選んだこと、後悔させない。

絶対。


ソヴァンは涙を拭って、ゆっくりと呼吸をした。



「シャラシャラ〜」


スノウはベーラのガラガラが随分お気に入りのようだ。

スノウが産まれて1週間と2日、ベルの診察を無事終えて、発育に問題はなさそうだった。


「元気に育っていて何よりです!」

「シャラシャラ〜」


ベーラにあやされ、スノウはご機嫌であった。


「ベーラさん、いい母親になりそうですよね〜」

「!」


ベルに深い意味はない。

ベーラがジーマに片想いしているのを知っているのは、レインとメリだけだ。

もしかしたらヌゥもリオネピアの件で気づいたのかもしれないが、特に彼と話をしたことはない。


そしてレインに告白されたことも、誰にも話していない。


「もう無理だろ。34だぞ」

「全然大丈夫ですよ! 40歳で産む人だっていますよ」

「そうなのか…?」

「はい! もちろん体力は必要になりますが、不可能ではありません」

「……」


正直、赤ちゃんがこんなに可愛いと思わなかった。

仲間の子供ってだけでこれだけ可愛いんだ。

自分の子なんて産んだら、一体どれほど可愛いと言うんだろう。


ベーラはスノウを抱っこした。

スノウは心なしか嬉しそうだ。


「スノウはいい子だね」

「うふふ。大人しい方だと思います。人が多いせいもあるかもしれません」

「そうなのか?」

「まあ個人差はありますけど…、人がたくさんいると安心する赤ちゃんは多いですから」

「そうなんだな」

「私は、人がたくさんいると、お母さんが安心するからだと思うんですけどね。ヌゥさんが穏やかな気持ちでいると、スー君も安心するんじゃないかなと思うんです」

「なるほどな…」


母をよく見ているんだな。赤ちゃんは。


「そろそろ火山が近づいてきたでしょうか」

「見に行くか」


ベーラはスノウを抱いて、ベルと一緒に甲板に向かった。



「うっひゃあ! 見て! 飛んでる! 飛んでるんだけどぉ!」


ヌゥは風圧を駆使して空に浮かんでいる。

アグも腕を組んでその様子を眺めていた。


(思ったより長く飛べるな…。俺が試しても数秒しか持たなかったのに。やっぱこいつの身体能力がものすごくいいんだろうな。ここまて使いこなせるとは思ってなかった…)


「ねえちょっと! 見てる?」

「ああ、見てるよ」


ヌゥはひたすら浮遊の練習を続け、というか遊んでいた。


「うわっ! 何だそれ」

「ああレイン! いいでしょう! この武器!」

「何だよそれ! 俺にもやらせろって」

「いいよ〜! レインには無理だと思うけど」

「はぁー?! いいから貸せっての」


レインは小手と靴を借りて装備を試みる。


「靴ちっちゃ!」


サイズがあっていなかったので、アグは小手と靴を彼のサイズまで大きくした。


「お前チートか! 便利か!」

「これはベルの術です」


レインはよっしゃと意気込んでボタンを押すが、バランスを取るのが相当難しいようだ。


「何だこれ! は?! どうやってとんでんの?」

「レインへったくそー!」

「いやいや! 無理無理! むっず!」


レインは数秒しか浮いていられない。ちょっと力めばすぐに回転、というか転倒する。


(うん、俺もあんな感じになった…)


「レインには無理だって。ほら、返して」

「くっそー! むかつくわ! いいよ俺はこんなのなくたって飛べるから!」

「え? どういうこと? やってよ!」

「今は無理。敵がいてここぞって時じゃないと何故か使えねえんだよ!」

「うん?」


ベーラとベルも甲板にやって来る。


「スー君!」


ヌゥはベーラからスノウを受け取った。


「異常はないですよヌゥさん、それにアグさん」

「ほんと! 良かったあ〜!」


ヌゥはデレデレとスノウを見ながら喜んでいた。

アグもほっと胸をなでおろした。


「もう着くな」


気づけば火山が数百メートルに迫っていた。


「船、止めてくる」


その火山を目の前にして、船は止まった。
































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